天才は今日も俯く

湖瑞

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6話

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「では、これより1,3番隊の合同会議を始めます」
碓氷先生の声が響く。
「よろしくお願いします」
…と、言ったものの相手の軍師_赤城が来ていない。
何かあったのだろうか。
音沙汰もなく会議に欠席するのは、よっぽどの大事がない限りありえない。
ボクが不安に駆られていると「すみませーん」と能天気な声が聞こえた。
「いやー…ラーメンが思いの外、熱くて」
…赤城だ。
寝坊したのだろうか。
所々に寝癖が見える。
「冴、遅いー!」「ほんと。待ったんだから~」
と隊員たちに向かい入れられる赤城。
赤城は、笑いながらその輪に入る。
ごくごく自然な会話だろう。
でもボクには一つ、何かが引っかかった。
「よう!3番隊の諸君!
俺は、赤城 冴。
冴って呼んでいいぜ」
ボクの違和感は確信に変わった。
…あぁ、呼称だ。
通常、戦場では情報漏洩を防ぐ為、コードネームを使用する。
学生であるボクらには、そんな大層なものはないので、3番隊では苗字で相手を呼ぶことにした。
「…蒼?
あーおーい!」
「うわぁ!?
あ、赤城!?」
冴でいいって!と赤城は笑うが、ボクは呼べそうにもない。
「あの、凄く申し訳ないんだけど…
ボクのことは『月見里』って呼んでくれないかな…?
ほら、情報漏洩とか…そういうので」
赤城は、明からさまに不機嫌そうな顔をした。
「なんでそんな面倒なことするんだよ。
別に良くね?
名前で呼んだ方がこう…親近感湧くし」
「ごめん。
これだけは譲れないんだ。
君のことは名前で呼ぶし、1番隊の人も名前…渾名とかがあればそれで呼ぶよ。
でも…ボクの名前は…」
珍しいくらい饒舌だった。
赤城の不機嫌さが限界まで辿り着いた時、ボクは一気に萎縮した。
「うっせーな!
そんなに家名の自慢したいかよ!」
「べ、別にそういうわけじゃ…」
違う。
寧ろ、こんな名前要らない。
欲しくなかった。
「はい、ストップ!!
2人とも一旦やめ!!」
ボクらの亀裂を繋いだのは辰巳だった。
「そっちのやり方はよく分かんねーけどさ、俺らには俺らなりのやり方があるんだよ。
そっちの条件が『名前呼び』なら、お前ら相手にはそうする。
でも、こっちは常に『苗字呼び』なんだ。
今更呼び名を変えるのは…なんつーか…こそばゆい気がするし、今まで通りでいいんじゃね?
あ、勿論お前らのことは名前で呼ぶよ。
お前らも俺らのことは苗字で呼んでくれよ!」
笑顔で話す辰巳。
やっぱり彼は情報収集能力が高い。
纏めるのも才能のうちだ。
…ボクには到底できないから。
「月見里もそれで良いよな?」
「うん。
異論はないよ」
そっか、と辰巳が笑うと碓氷先生が微笑んで言った。
「では、皆解散!!」
…赤城は、なぜか釈然としない顔をしていたが。


「…どうしよう…」
「月見里が悩むなんて、珍しくもないけど珍しいな。
なんか食う?」
ボクのつぶやきに榊が反応する。
辰巳が『月見里』と呼んでから数日後。
ボクはすっかり『月見里』となっていた。
「ううん。
ちょっと戦略で悩んでただけ。
榊、心配してくれて有難う」
榊の心配にボクは笑顔で返す。
駄目だ。
集中しないと。
1番隊の長所を最大限に活用して、2番隊と4番隊に勝つ方法は…
「…分かんないな…」
「本当に平気?」
榊が眉をひそめる。
それを見た風見は笑いながら言った。
「月見里は、すぐ色々と抱え込むから…
たまには頼って良いんだよ」
頼る…?
誰を?
ここに軍師は1人しかいない。
軍師は…1人…
「あ…」
いた。
もう1人。
「…ごめん、辰巳。
ちょっと空ける」
「おう、分かった」
辰巳にお礼を言っておかなければ。
私情で抜けることなんて本来なら、あってはならないことだから。
風見が尋ねた。
「どこ行くんだ?」
ボクは立ち止まって答えた。
「赤城_
赤城 冴のところ」


「来てしまった…」
赤城 冴のいる寮の目の前でボクは硬直している。
ノックすべきか…しないべきか…
出てくれたとしても、ちゃんと受け入れてくれるかどうか…
だって、ボクなんかと話す時間があれば練習した方がいいだろうし…
「駄目だ。
ちゃんと話し合わないと」
ボクだけの問題じゃないんだから、と心の中で自分を叱責し、扉を叩いた。
はーい、と明るい声がする。
「こんにちは。
えっと、赤城 冴にお会いしたいのですが…」
「りょーかい!
冴ー!?」
赤城…あいつ、寮母さんにも名前呼びを許可してるのか…
溜息をつきそうな気持ちをどうにか搔き消す。
駄目だ。辰巳だって言っていたじゃないか。
これはあくまで、赤城所属の1番隊の規則。
同じ国にいるのに少し不自然な気もするが、ボクたちとは違う文化を持っている…そう考えることにしよう。
「お客さんって、あお…月見里か!
どうぞどうぞ!狭いところで恐縮ですが…」
「あ、有難うございます…」
ボクは心底ホッとした。
ほら、ちゃんとしている。
腰に刀を下げているし、向かい入れ方も上手い。
赤城は、矢張り『天才軍師』なのだ。
「はいはい皆さん注目!!」
「…え!?」
談話室に向かってすぐ、赤城はその伸びやかな声で隊員に告げた。
「本日のお客人は『天才軍師』こと『月見里 蒼』!!
皆、月見里と語りたいかー?」
おぉ~とどよめく談話室。
「ちが…っ
ボクは天才なんかじゃ…」
…誰も聞いていない。
それどころか、やたらと質問されている。
まるで、教室の自己紹介の時のように。
「皆、静かに!
一気に質問したら、流石の月見里でも困惑するだろ?
ごめんな、月見里」
「え、いや…別に」
_赤城が招いたことだろ。
なんて、よくないことが浮かんだ。
「さてと、じゃあ端から質問言ってけ!」
「え!?」
盛り上がる隊員たち。
赤城の天性のリーダーシップは、流石だと思う。
人を動かす力が彼にはあって。
それはボクにはないわけで。
「ちょっと、赤城…」
「なんだ?」
「ボク…は…」
_作戦を立てに来たんだけど。
…なんて、強気に言えるはずもなく。
「…なんでも、ない」
口を噤んだ。
よくない癖だと分かっている。
でも、これが平和的解決の一環なのだから、仕方がない。
「…よし、じゃあ今日はよろしくな!
月見里!!
朝まで寝かせないから、覚悟しとけよ~」
「えっ…」
その日、ボクは朝まで1番隊の皆の騒がしさと共にいた。
1番隊の雰囲気と特徴を少しばかり理解できた気がする。
…上手い活用方法は赤城の方が知っているだろうが…
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