奴隷魔族の私に、幸せは訪れない〜救いを求めた少女が、世界の敵になるまで〜

鹿の子

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勝てなかった

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雨脚はいっそう強まり、視界を白く濁らせている。

エヴァの展開する光の半球が、幾度もの衝撃に軋みを上げ、薄氷のように明滅を繰り返していた。

彼女の呼吸は荒く、足元の泥は重く沈み込んでいる。

全神経を防御に注ぎ込むその無防備な背中は、戦場における唯一の希望であり、同時に致命的な急所でもあった。

安全圏で愉悦に浸っていたボルコフが、ふと鼻を鳴らした。

彼は腰にぶら下げていた拳大の石礫を拾い上げると、無造作な動作で、しかし正確な殺意を込めて振りかぶった。

狙いは光の障壁そのものではなく、その維持者、無防備に晒されたエヴァの足元であった。

「お遊びは終わりだ。――砕けろ」

風切り音と共に放たれた石塊が、障壁の切れ目を縫うように低空を走る。

鈍い、骨が砕ける音が雨音を裂いた。

「あ――っ!!」

エヴァの喉から、短い、しかし絶痛に彩られた悲鳴がほとばしる。

彼女の左脛が不自然な方向に折れ曲がり、その体勢が崩れ落ちた。

支えを失った精神と肉体の崩壊に連動し、光のドームがガラス細工のように飛散し、闇に溶けて消滅する。

冷たい雨が、守りを失った二人を無慈悲に打ち据えた。

「エヴァさん!!」

リリスの叫び声が夜気に響く。

彼女の視界に映ったのは、泥に伏し、苦痛に顔を歪めて膝を抱えるエヴァの姿だった。

白い服が泥と鮮血で汚れていく。

思考が真っ白に染まる。

恐怖も、戦力差も、すべてが彼方へ吹き飛んだ。

ただ、目の前の大切な人をこれ以上傷つけさせないという、焦燥と本能だけが残った。

リリスは短剣を逆手に構え直し、泥を蹴って飛び出した。

震える足で、しかし迷いなく、倒れたエヴァと盗賊たちの間へ割って入る。

「近づかないで! 離れて!」

小さな獣のような咆哮。

切っ先を突きつけるその手は、雨と恐怖で激しく震えている。

だが、その瞳だけは、ガラス玉のような冷たい光を宿し、眼前の男たちを睨み据えていた。

「威勢がいいねえ、嬢ちゃん」

先頭にいた盗賊の一人、ガストンが下卑た笑みを浮かべ、無造作に踏み込んできた。

リリスは反射的に短剣を突き出したが、その軌道は単調すぎた。

ガストンは嘲笑いながら、鋼鉄のような手甲でリリスの手首を外側から叩き落とす。

ガシャッ。

短剣が泥の中に落ちる音がした。

「ぐぅっ……!」

手首に走る痺れに呻く暇もなく、リリスの腹部に重い蹴りが突き刺さる。

空気が肺から強制的に吐き出され、彼女の体は枯れ葉のように泥濘の中へと吹き飛ばされた。

「かはっ……あ……」

息ができない。

泥水が鼻と口に流れ込み、激しく咳き込む。

這い上がろうと手をついた瞬間、背中に耐えがたい重圧がかかった。

男の軍靴が、リリスの背中を容赦なく踏みつけていた。

「離せ……! 離して……!」

リリスは泥の中でもがいたが、髪の毛を乱暴に鷲掴みにされ、強引に頭を持ち上げられた。

「見ろよ。お前の大好きな聖女様のザマを」

ガストンの嘲る声と共に、無理やり顔を向けさせられる。

視線の先では、別の男たちが倒れたエヴァを取り囲み、卑猥な笑い声を上げながら、その無抵抗な体を蹴り上げていた。

「やめて……やめてよぉ……!」

リリスの声は、雨音にかき消されそうなほど弱々しかった。

ボルコフがゆっくりと近づいてくる。

彼は泥にまみれたリリスを見下ろし、その頬を革靴のつま先で軽く小突いた。

「俺の目を潰した代償だ。簡単には終わらせねえよ」

彼は合図を送る。

ガストンがリリスの後頭部を掴む手に力を込めた。

「んぐっ!?」

次の瞬間、リリスの顔面は冷たく臭い泥水の中に勢いよく叩きつけられた。
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