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裏切り者
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夜風が煤と血の臭いを運び、屋上の縁に立つ魔族指揮官ゾルグのマントをはためかせる。
彼は眼下の惨状を、無感情な金色の瞳で見下ろしていた。
本来であれば、今頃ギルドは陥落し、内部の人間は皆殺しにされているはずであった。
オーギュスト率いる冒険者たちの抵抗は想定内だ。
だが、あの少女は違う。
ゾルグの視線は、戦場の最前線で血飛沫を上げながら踊る、真紅の異形に釘付けになっていた。
リリス。
報告にあった「裏切り者」か。
四肢を破壊されながらも、敵の血肉を喰らい、即座に再生して戦い続ける姿。
それは魔族であるゾルグから見ても、生理的な嫌悪を催すほどに冒涜的で、かつ脅威的であった。
オークの部隊が紙屑のように蹴散らされている。
恐怖に支配されていた人間どもが、彼女の狂気的な戦ぶりに鼓舞され、盛り返している。
戦線の均衡が崩れ始めていた。
「……同胞の肉を糧とするか。忌まわしい」
ゾルグは低く呟いた。
彼女は単なる戦力ではない。
この戦場の「特異点」だ。
放置すれば、こちらの被害は甚大になり、作戦遂行に支障をきたす。
通常の兵隊では、あの再生能力と茨の攻撃に対処できない。
ならば、質で圧倒するのみ。
「黒牙(こくが)」
ゾルグが短く呼ぶと、背後の影から音もなく数体の人影が滲み出した。
全身を黒い革鎧と魔導布で覆い、顔を隠した精鋭部隊。
個々が魔導級の実力を有する、暗殺と殲滅のスペシャリストたちである。
彼らはメルクリウス直属の処刑人であり、本来はオーギュストや帝国軍の将校を狩るために温存していた札だ。
だが、今は惜しんでいる場合ではない。
ゾルグは眼下のリリスを指差した。
「標的はあの娘だ。最優先で排除せよ」
「御意」
影たちが一斉に頷く。
「再生する暇を与えるな。肉片の一つも残さず消滅させろ。その後、結界の術者を殺せ」
ゾルグの命令は絶対であり、冷徹だ。
「行け」
影たちが霧散した。
気配すら残さず、彼らは戦場の闇へと溶け込んでいく。
ゾルグは腕を組み、再び戦場を見下ろした。
魔導級の連携攻撃。
いかに異能の再生者といえど、耐えられるはずがない。
終わりだ、裏切り者よ。
戦場の最前線。
リリスは茨で貫いたゴブリンを投げ捨て、次なる敵を探した。
呼吸は荒く、全身が熱い。
だが、魔力は充実している。
エヴァの結界は健在であり、背後の冒険者たちも奮戦している。
いける。
守れる。
そう確信した瞬間、リリスの背筋に冷たい戦慄が走った。
それは、これまで対峙してきたオークやゴブリンの発する殺気とは異質の、研ぎ澄まされた刃のような殺意。
音がない。
匂いがない。
だが、確実に「死」が迫っている。
「……っ!」
リリスは本能的に身体を捻った。
ヒュン。
風を切る音と共に、彼女が先ほどまで頭を置いていた空間を、不可視の刃が通過した。
「リリス!」
エヴァの悲鳴が聞こえる。
リリスが体勢を立て直す間もなく、左右と後方、三方向から黒い影が躍り出た。
速い。
アサシンの比ではない。
目で追うのがやっとの速度で、黒塗りの短剣と魔導の鎖鎌がリリスの急所へ殺到する。
「【紅茨】――!」
リリスは叫び、全身から茨を爆発させた。
攻撃ではなく、防御のために。
自分自身を茨の繭で包み込み、迫りくる凶刃を拒絶する。
ガギギギギッ!
火花が散り、茨が削り取られる。
魔導級の魔力が込められた一撃は重く、リリスの防御を紙のように引き裂こうとする。
黒牙の一人が、茨の隙間から冷酷な瞳でリリスを覗き込んだ。
「死ね、不浄!」
彼は眼下の惨状を、無感情な金色の瞳で見下ろしていた。
本来であれば、今頃ギルドは陥落し、内部の人間は皆殺しにされているはずであった。
オーギュスト率いる冒険者たちの抵抗は想定内だ。
だが、あの少女は違う。
ゾルグの視線は、戦場の最前線で血飛沫を上げながら踊る、真紅の異形に釘付けになっていた。
リリス。
報告にあった「裏切り者」か。
四肢を破壊されながらも、敵の血肉を喰らい、即座に再生して戦い続ける姿。
それは魔族であるゾルグから見ても、生理的な嫌悪を催すほどに冒涜的で、かつ脅威的であった。
オークの部隊が紙屑のように蹴散らされている。
恐怖に支配されていた人間どもが、彼女の狂気的な戦ぶりに鼓舞され、盛り返している。
戦線の均衡が崩れ始めていた。
「……同胞の肉を糧とするか。忌まわしい」
ゾルグは低く呟いた。
彼女は単なる戦力ではない。
この戦場の「特異点」だ。
放置すれば、こちらの被害は甚大になり、作戦遂行に支障をきたす。
通常の兵隊では、あの再生能力と茨の攻撃に対処できない。
ならば、質で圧倒するのみ。
「黒牙(こくが)」
ゾルグが短く呼ぶと、背後の影から音もなく数体の人影が滲み出した。
全身を黒い革鎧と魔導布で覆い、顔を隠した精鋭部隊。
個々が魔導級の実力を有する、暗殺と殲滅のスペシャリストたちである。
彼らはメルクリウス直属の処刑人であり、本来はオーギュストや帝国軍の将校を狩るために温存していた札だ。
だが、今は惜しんでいる場合ではない。
ゾルグは眼下のリリスを指差した。
「標的はあの娘だ。最優先で排除せよ」
「御意」
影たちが一斉に頷く。
「再生する暇を与えるな。肉片の一つも残さず消滅させろ。その後、結界の術者を殺せ」
ゾルグの命令は絶対であり、冷徹だ。
「行け」
影たちが霧散した。
気配すら残さず、彼らは戦場の闇へと溶け込んでいく。
ゾルグは腕を組み、再び戦場を見下ろした。
魔導級の連携攻撃。
いかに異能の再生者といえど、耐えられるはずがない。
終わりだ、裏切り者よ。
戦場の最前線。
リリスは茨で貫いたゴブリンを投げ捨て、次なる敵を探した。
呼吸は荒く、全身が熱い。
だが、魔力は充実している。
エヴァの結界は健在であり、背後の冒険者たちも奮戦している。
いける。
守れる。
そう確信した瞬間、リリスの背筋に冷たい戦慄が走った。
それは、これまで対峙してきたオークやゴブリンの発する殺気とは異質の、研ぎ澄まされた刃のような殺意。
音がない。
匂いがない。
だが、確実に「死」が迫っている。
「……っ!」
リリスは本能的に身体を捻った。
ヒュン。
風を切る音と共に、彼女が先ほどまで頭を置いていた空間を、不可視の刃が通過した。
「リリス!」
エヴァの悲鳴が聞こえる。
リリスが体勢を立て直す間もなく、左右と後方、三方向から黒い影が躍り出た。
速い。
アサシンの比ではない。
目で追うのがやっとの速度で、黒塗りの短剣と魔導の鎖鎌がリリスの急所へ殺到する。
「【紅茨】――!」
リリスは叫び、全身から茨を爆発させた。
攻撃ではなく、防御のために。
自分自身を茨の繭で包み込み、迫りくる凶刃を拒絶する。
ガギギギギッ!
火花が散り、茨が削り取られる。
魔導級の魔力が込められた一撃は重く、リリスの防御を紙のように引き裂こうとする。
黒牙の一人が、茨の隙間から冷酷な瞳でリリスを覗き込んだ。
「死ね、不浄!」
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