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神殿、祈りの間
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翌日のこと。
アシュトとリーナは、神殿の中にいた。
神殿は、大都市にあるディーテ神教会が管理する建造物だ。
教えを説く神父がおり、結婚式などを執り行う教会とは違い、神子が住まい、よりディーテ神に近づくことができるとされる神聖な場所で、エンブルグ皇国には神殿が、このカーザスと、皇都の2つ存在する。
「それで、今日はどのようなご用件でこちらへ?」
いかにも、怪しい者でも見ているような目で、アシュトとリーナを見回す、神官。
「ええ。少し、祈りの間をお借りしたいのです。」
「はぁ、まぁ、祈りの間は神子様が使用している時間以外は一般の方へ解放しています。
入るのは構いませんが。」
「ありがとうございます。」
実際、神官やシスターなどは、教会が育てた職員であって、特別な神力などを持ち合わせているわけではない。
特別なのは、神の啓示を受けた《神子》である。
ただ、その神子も神力などはなく、祈りを捧げるごとにその国にディーテの加護をもたらすで、あろう、と。
そんな不確かなもので縛られている身分にすぎない。
幼い頃に、一度だけでも神からの言葉を賜った人物とか。
そんなもので神子になるのならば、直接加護を賜ったアシュトやリーナのほうが余程身分が高いのでは、と何となく思うのであった。
「じゃ、行きますか。」
「そうね、アシュト。」
果たして、祈りの間で声を聞くことはできるだろうか。
思わず、加護を受けた砡を握りしめ、息をのむ。
祈りの間に一歩入ると、やはりあの大魔境の神殿に似通った、澄んだ空気に包まれていることがわかる。
(あぁ。何故だか分からないけど・・・きっと、大丈夫)
アシュトは直感的に、ディーテ神に会えると、確信した。
それはリーナも同じようで。
「中に他者はいません、わね。」
くるりと一周見回す。
静かな広間は、二人と、ディーテ神像だけ。
窓の無いその部屋は、ディーテ神像の周囲だけ灯りを点してある。
小さな緋色の砡の欠片が使われていた。
『・・・ディーテ様、どうか、私どもの声に、お心を傾けてくださいませ。』
跪いたリーナとアシュトは神からの賜った神の言葉を使い、呼び掛ける。
『ヒースヴェルト様のために、お願いでございます。』
ぎゅっ、と握っている砡に力を込めると。
『む。声がすると思えば、そなた等か。
我が子がどうした?』
すとん、と目の前に降り注ぐ、神々しい粒子。でも、姿は見えない。
大魔境の神殿ほどの力はないようだ。
『!!ディーテ様!!』
(やった、声が届いた!!!)
アッシュは歓喜した。
これで、ヒースヴェルト様のことについて聞ける。
『はい、ヒースヴェルト様は日々楽しくお過ごしです。
健やかに、人の世界を見回っておいでです。が・・・。』
続き、リーナが説明する。
『実は、人の食事を受け付けないことに、心を傷めておいでです。
我らと口にするものが異なり、その、寂しい思いを、されていて。
私どもも、それが辛く・・。
何か、お心を救える方法があれば、お教えいただきたく。』
ヒースヴェルトは、長い間《砡》からの神力によりその命を繋いでいたことが原因で、身体が作り替えられてしまった。
人の世界の食べ物を一切受け付けず、ディーテ神から賜った《虹色の砡の欠片》からでしか、その飢えを満たすことができない。
『そうであろうな。
・・・ヒースヴェルトの身体は、もう人と呼べるものではない故。』
『!』
ぞくっとした。
予想はしていたものの、その言葉を聞く覚悟ができていなかった。
『そ、れは』
『余が手を取った。・・・そういうことよ。
天上の民にならざるを得ぬだろうな。
可哀相なことをした。』
あの可愛らしい方が。
唯一神であるディーテ様の手により、新たな神となられるのか。
天上の民、とはそれを指す。
その事実をディーテ神から聞かされ、動揺を隠せずにいると。
『安心するがよい、あれはまだ童。
緩やかに、そうなる。だが、そうよな。
その緩やかな時の流れに、人の楽しみを感じられぬのは、酷よな。』
少し、間をおいて。再び声がした。
『各地に散らばる、神泉が解るか?』
その泉の存在は知っている。神殿の儀式などで使われる特別な泉。
『は、はい!地下深くより湧き出でる、ディーテ様の御造りになられた尊き泉・・・。』
『あれの水底には、余の生んだ砡の欠片が沈んでおってな。長い時を経て、力が滲み出ておる。』
そこまで聞けば、もう解ったも同然。
『神泉の水を利用すれば・・・。』
『ふむ。それだけでは不安よの。ヒースヴェルトは虹の砡の欠片が一番体に合う。
アレが持っておる砡の欠片を神泉の水に浸し、色が移れば使え。人の楽しみを、真似事でも味わえるなら、それもよかろう?』
『ディーテ様、感謝致します!』
深く頭を下げ、二人は感謝の意を示した。
それ以上は、何も聞こえなかった。
神の世界へ還られたのか、アシュトはふと、頭を上げると、祈りの間はいつもの薄暗い空間へと戻っていた。
「リーナ、もう、戻られたみたいだ。
良かったじゃん、ヒー様、人のご飯食べれそうでさ!」
「本当に・・。早速、帰ってから試さないと!まずは神泉の水を賜らないとなりませんわね!」
「あぁ。ホテルに戻ろう。」
アシュトの考えは見事に的中し、神殿で祈ることで、ディーテ神と言葉を交わすことが叶った。
そして、ヒースヴェルトの食事も、可能性を見いだせた。
リーナはアシュトの勘のよさを改めて評価し直したのだった。
アシュトとリーナは、神殿の中にいた。
神殿は、大都市にあるディーテ神教会が管理する建造物だ。
教えを説く神父がおり、結婚式などを執り行う教会とは違い、神子が住まい、よりディーテ神に近づくことができるとされる神聖な場所で、エンブルグ皇国には神殿が、このカーザスと、皇都の2つ存在する。
「それで、今日はどのようなご用件でこちらへ?」
いかにも、怪しい者でも見ているような目で、アシュトとリーナを見回す、神官。
「ええ。少し、祈りの間をお借りしたいのです。」
「はぁ、まぁ、祈りの間は神子様が使用している時間以外は一般の方へ解放しています。
入るのは構いませんが。」
「ありがとうございます。」
実際、神官やシスターなどは、教会が育てた職員であって、特別な神力などを持ち合わせているわけではない。
特別なのは、神の啓示を受けた《神子》である。
ただ、その神子も神力などはなく、祈りを捧げるごとにその国にディーテの加護をもたらすで、あろう、と。
そんな不確かなもので縛られている身分にすぎない。
幼い頃に、一度だけでも神からの言葉を賜った人物とか。
そんなもので神子になるのならば、直接加護を賜ったアシュトやリーナのほうが余程身分が高いのでは、と何となく思うのであった。
「じゃ、行きますか。」
「そうね、アシュト。」
果たして、祈りの間で声を聞くことはできるだろうか。
思わず、加護を受けた砡を握りしめ、息をのむ。
祈りの間に一歩入ると、やはりあの大魔境の神殿に似通った、澄んだ空気に包まれていることがわかる。
(あぁ。何故だか分からないけど・・・きっと、大丈夫)
アシュトは直感的に、ディーテ神に会えると、確信した。
それはリーナも同じようで。
「中に他者はいません、わね。」
くるりと一周見回す。
静かな広間は、二人と、ディーテ神像だけ。
窓の無いその部屋は、ディーテ神像の周囲だけ灯りを点してある。
小さな緋色の砡の欠片が使われていた。
『・・・ディーテ様、どうか、私どもの声に、お心を傾けてくださいませ。』
跪いたリーナとアシュトは神からの賜った神の言葉を使い、呼び掛ける。
『ヒースヴェルト様のために、お願いでございます。』
ぎゅっ、と握っている砡に力を込めると。
『む。声がすると思えば、そなた等か。
我が子がどうした?』
すとん、と目の前に降り注ぐ、神々しい粒子。でも、姿は見えない。
大魔境の神殿ほどの力はないようだ。
『!!ディーテ様!!』
(やった、声が届いた!!!)
アッシュは歓喜した。
これで、ヒースヴェルト様のことについて聞ける。
『はい、ヒースヴェルト様は日々楽しくお過ごしです。
健やかに、人の世界を見回っておいでです。が・・・。』
続き、リーナが説明する。
『実は、人の食事を受け付けないことに、心を傷めておいでです。
我らと口にするものが異なり、その、寂しい思いを、されていて。
私どもも、それが辛く・・。
何か、お心を救える方法があれば、お教えいただきたく。』
ヒースヴェルトは、長い間《砡》からの神力によりその命を繋いでいたことが原因で、身体が作り替えられてしまった。
人の世界の食べ物を一切受け付けず、ディーテ神から賜った《虹色の砡の欠片》からでしか、その飢えを満たすことができない。
『そうであろうな。
・・・ヒースヴェルトの身体は、もう人と呼べるものではない故。』
『!』
ぞくっとした。
予想はしていたものの、その言葉を聞く覚悟ができていなかった。
『そ、れは』
『余が手を取った。・・・そういうことよ。
天上の民にならざるを得ぬだろうな。
可哀相なことをした。』
あの可愛らしい方が。
唯一神であるディーテ様の手により、新たな神となられるのか。
天上の民、とはそれを指す。
その事実をディーテ神から聞かされ、動揺を隠せずにいると。
『安心するがよい、あれはまだ童。
緩やかに、そうなる。だが、そうよな。
その緩やかな時の流れに、人の楽しみを感じられぬのは、酷よな。』
少し、間をおいて。再び声がした。
『各地に散らばる、神泉が解るか?』
その泉の存在は知っている。神殿の儀式などで使われる特別な泉。
『は、はい!地下深くより湧き出でる、ディーテ様の御造りになられた尊き泉・・・。』
『あれの水底には、余の生んだ砡の欠片が沈んでおってな。長い時を経て、力が滲み出ておる。』
そこまで聞けば、もう解ったも同然。
『神泉の水を利用すれば・・・。』
『ふむ。それだけでは不安よの。ヒースヴェルトは虹の砡の欠片が一番体に合う。
アレが持っておる砡の欠片を神泉の水に浸し、色が移れば使え。人の楽しみを、真似事でも味わえるなら、それもよかろう?』
『ディーテ様、感謝致します!』
深く頭を下げ、二人は感謝の意を示した。
それ以上は、何も聞こえなかった。
神の世界へ還られたのか、アシュトはふと、頭を上げると、祈りの間はいつもの薄暗い空間へと戻っていた。
「リーナ、もう、戻られたみたいだ。
良かったじゃん、ヒー様、人のご飯食べれそうでさ!」
「本当に・・。早速、帰ってから試さないと!まずは神泉の水を賜らないとなりませんわね!」
「あぁ。ホテルに戻ろう。」
アシュトの考えは見事に的中し、神殿で祈ることで、ディーテ神と言葉を交わすことが叶った。
そして、ヒースヴェルトの食事も、可能性を見いだせた。
リーナはアシュトの勘のよさを改めて評価し直したのだった。
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