虹色の子~大魔境で見つけた少年~

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泉のお味

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「ママの空気だぁー!しゅごい!おうちと、ものすごく、似てゅねぇ!!わぁあっ!」
金色の霧に包まれた清涼で不思議な空間に、いつも気が引き締まる。

その空気を常に感じ、その中で育ってきた彼は、逆に心地よいと思っているのか、大喜びではしゃぎ、泉の近くへと駆け寄る。
「ディラン、フォレーン!こぇは、いずみ!?ママのいずみ!」
「人々は、神泉と言っていますよ。ディーテ様の砡の力を、色濃く受けた神聖な泉です。」
「食べても、いいのおみずぅ?」
瞳をキラキラさせながら。
(うっ。しかし、下流で意図せず川の水を舐められたとき、苦いと仰っていたしなぁ。)
フォレンが悩んでいると、ディランはヒースヴェルトの側にしゃがみ、視線を合わせた。
「うーん・・・ヒー様、ディーテ様の飴は持ってますか?」
「ぅん、持ってゅよー。いつも一緒よ。」
もぞもぞと、お出掛け用のポシェットから、カラン、と小さな音を鳴らせて、銀の瓶を見せた。
「うん、それなら大丈夫でしょう。何かあればすぐに口にいれてくださいね?」
「ぁい!」
(一応人払いをしておくか・・・)
護衛に、泉付近の人払いを任せ、入ってこないよう見張らせると、ヒースヴェルトはうきうきしながらそっと泉の水に手を差し入れた。
『冷たい!!』
思わず声が出る。
「ヒー様、平気ですか?」
「ぅっ、うん。ちめたくて、キーンてすゆの!きもちーねぇ。こぇが、おみず。」

不思議な人だ。
幼いにしても、四歳まではちゃんと人の村で過ごしたらしいのに、そのときの記憶が曖昧。
忘れていて思い出すこともあれば、本当に知らないものも多い。
とても閉塞的な生活をしていたのだろうか。
色々訪ねるのもいけない気がして、フォレンはいつも詮索するだけに留まっているが。
『ママのお仕事場の泉とは、色が違うんだね。』
「天上界の光景をご覧になったことがあるのですか?」
「ぁっ、ゴメンゃさい。言葉・・・。」
もぎゅ、と口を押さえて謝る。つい、神語を喋っていたのに気づいたのだ。
「今は、人払いをしております。大丈夫ですよ。」
「そう?・・・ママはねぇ、たまーに、お仕事するばしょを、見せてくぇうんよ。金いろのつぶつぶに、うつすんよ。
そこのいずみはね、ママの、あめの色なのよ~。」
「虹の色、なのですね。」
「きれぇ、なんよ。・・・その世界も、ママが作ったんよ。」
「!!」
すくっと、立ち上がり金の霧に手をかざすと、まるで霧が意思があるように、ヒースヴェルトの周りをくるくると舞う。
彼の神力に反応しているようだ。

『ママはね、創造神。全てを創る仕事をするよ。
たくさん、たくさんの世界、数えきれないくらいの星をね、作っているの。
とても、とても美しい仕事。

そしてママの仕事を手伝っている、それぞれの世界の神さまとか、神さまに命を貰っている《天使》って呼ばれる他の人たちのことも、知っているんだよ。
・・・僕みたいな零れ者が、そんな風になれるのか分からないけれど。
僕は、あの世界に住んでいる人たちが羨ましい。』
世界の成り立ちとか。在り方とか。
我々人間がまるで知らない事を、この方は理解している。ディーテ神の側で、それらを自然と学んできたのだ。
それをただの人間である自分が知ってしまったことは、ただ衝撃で。
「ヒースヴェルト様・・・。」
フォレンが言葉に詰まっていると。
『でもねっ、不思議なの。ここは・・ママのほかの神様も、天使さんも、一人もいないの。』
「天使?いない・・・とは?」
天使、という存在の概念がなく、ディランもフォレンも戸惑った。世界は、唯一、創造神であるディーテ神に護られている、ただそれだけ。それが世の理なのだ。
「ぅ~ん。・・・むつかしぃの。ひーたん、ママともっとおべんきょ、しないとなの・・・ごめんゃさい?」
ヒースヴェルトも、あまり詳しくは分からない様子で、困った顔で謝った。
「ぁ、いえ・・・。」
すまなそうににこりと笑いかけて、ヒースヴェルトはまた泉に向き直った。
ちゃぷ、と再び水の冷たさに喜んでいる。
「もぐ。・・・んー!!!ちめたくて、おいしい!!」
「あっはっは!泉の水は美味しいですか!良かった!」
「んとー、んとー~、キューってちめたくて、あまーいけれど、それだけゃないの。
お花とも~ちがぅの。とにかくね、すずしいお味っ!」
ディランに対して味の説明をするが、いつもの砡の飴の味しか覚えていない彼は、例えようが独創的で。

嬉しそうに説明をする姿に、つい笑顔になる。
(これは、清涼感のある味、というイメージなのか?)
十年の間、与えられた砡しか味を知らなかった。同じ砡の力が秘められた物には違いないが、それでも「違う味」を感じたらしい。

そして、ヒースヴェルトはもう一つ、考えが浮かんだ。
(ここなら・・・ママの金の光が溢れてる。ここの光を使えば、僕もおてがみ鳥をママに届けられそう。
夜中なら、町の人もいないよね?夜はみーんな眠るもの。)

なんて、こっそりと企んでいた。



しばらくして、護衛の一人が小走りで駆けてきた。
「フォレン様、大浴場付近で騒ぎがあったようですが・・・。」
「騒ぎ?」
「はい、何でも、大浴場付近で突然落雷があり、それらの被害者が、殆ど犯罪歴のある者で。例えばあの下着泥棒の。」
「・・・オマールか。あいつ、まだそんなくだらないことをやっているのか?何度逮捕されれば懲りるのかね。」
「他にも、隣の領地では指名手配中だった宝石強盗とか。とにかく、被害者を調べたら犯罪者ばかりらしくて。」

困惑気味に報告してくる護衛に、フォレンは苦笑を漏らすしかなかった。

「まぁ、よく取り調べをして処罰するように。」
「あ、はい。伝えます。」
護衛は略式の礼をとり、走って行った。


護衛が走り去って、しばらくして。

「・・・。」
なんとも言えない表情で困惑しているフォレンに、ディランも、笑いを堪えてはいたものの。
「ブフッ。・・・これが、ヒー様のお気に入りの効果か?えげつねぇー・・・。」
ヒー様最高、とくつくつ笑うディランにつられて、堪えられずフォレンも笑ってしまっていた。



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