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中庭の午後 side フォレン
しおりを挟む昼食は、そのまま中庭でとることになり、ジャンニが準備をしてくれる間、ヒースヴェルト様は庭を散策してくる、と歩いて行かれた。
敷地内は防護結界で守られているため、危険はない。目の届く範囲なら、自由にしていただいていた。
中庭は綺麗な花がたくさん咲いて、植え込みも美しく刈り込まれており、とても居心地が良いと、ヒースヴェルト様は特に気に入っておられた。
あの方ののプラチナの御髪はとても目立つので、植え込みの向こう側でも姿が分かる。
ふわふわと、虹色の輝きを振り撒きながら歩いているのが見えていたのだか。
「誰だと聞いているんだ!お前、勝手に公爵邸の庭に入り込みやがったな!!!
言いつけて罰を与えてやる!!!」
突然、ヒースヴェルト様ではない、他の子供の怒鳴り声が聞こえたとたん、その輝く御髪がふっと見えなくなり。
私は焦ってすぐに植え込みの向こうへ走った。
「ぁ・・・・・・ダメだ。」
小さなうめき声と共に、そんな事を溢したように聞こえた。
とさっ。
その場に膝をついてしまった!
手首を、ぎゅっと握って、震えておられた。不安を感じなさると、いつもあの癖が出る。
「・・・ヒースヴェルト、様?」
私は、ヒースヴェルトを見つけるなり血の気が引いた。
「ヒースヴェルト様ッ!大丈夫ですか!?一体、何が?」
そっと彼の頬に触れると、体温を感じないくらいに冷えていて。一瞬、目があったと、思った次には、ひゅ、と小さな音が。
「ふっ・・・ふぇぇえええーん。」
私にしがみつき、震えながらお泣きになる彼をそっと抱えあげ、異変に気付きこちらに来たリーナにヒースヴェルト様を預けた。
「午後の予定は全てキャンセルだ。部屋で休ませよう。」
「分かりました。・・・ヒー様、大丈夫ですよ、お部屋に参りましょう。」
「ぅっ、うぇぇん。り、な。リーナっ。」
リーナにしがみつくように抱えられ、泣きじゃくっている。
物凄く心配だ。しかし、ここに処分しなければならない者がいる。
リーナの姿が見えなくなってから、スッと二人を見る。
「それで?何故あの方が、あのように怯え、泣かれておられたのだ。」
「い、いや。あの。おれらは、何もしてない、です!あいつが、いきなり泣いて・・・。」
恐怖に身体を震わせて、そう答えているのは、ここの庭の管理を任せているイルナルドの子供二人。
確か名前はジャックとセーニャだったか。
「ほぉ。何もしていないのに、突然泣いたのか。もう一度聞く。あの方に、何を言った?」
あの酷い言葉は私の耳にも聞こえていたが、正直に言えば対応も考えてやるが・・・。
「な、何も・・・っ。」
まだ答えぬか。これでは拉致があかない。
「イルナルド!!!」
「はっ、はい!!」
私の呼び声に、すぐさま駆けつけた庭師のイルナルドは、ただならぬ様子にかなり焦っていた。
「若様!うちの子らが何か・・・?」
「お前、私が大事な客人をしばらく城で預かると伝えたよな?」
「は、はい。確かに。白金の長い御髪の、小柄ではありますが十四歳になられる、高貴な方、と・・・。ジャックたちにも、きちんと伝えております。なぁ?ジャック、セーニャ?」
父親に言われていたことを、今になって思い出したようで、セーニャは両手で口を覆い、ガタガタと震え出した。
「植え込みの向こう側でも聞こえるくらいの怒鳴り声がしたから来てみれば・・・。
お前ら庭師の家族は出会った際に、いきなり怒鳴り付けるものなのか?
この庭園は防護結界で守られている。
不審者など入り込まないのはお前もよく知っているだろう。お前の子らは、番犬気取りで客人を追い込むのだな。」
「もっ、申し訳ございません!!」
自分の息子らが何をしでかしたのか理解したイルナルドは蒼白し、土下座して謝罪したが。
「処罰は後で伝える。それまでその子らは自宅に帰らせろ。処分が決まるまでその子達の公爵邸への立ち入りは禁止する。」
「はっ、はい・・・!!」
「もういい。行け。」
イルナルドは子供二人の手を乱暴に引っ張り、帰っていった。
私はヒースヴェルト様の様子が気になって、様子を見に行くことにしたが、あの冷たい頬に触れた感覚を思い出す。
「ジャンニ、すまないがヒースヴェルト様に何か、心の落ち着くような暖かい飲み物を頼む。私が持っていく。」
「分かりました、すぐに用意します!!」
ヒースヴェルト様の給仕として中庭に居た彼女は、急いで厨房へと走って行った。
ここの後片付けはメイドにやってもらうことにして・・・。
ジャンニはホットミルクを作ってきた。甘い香りは蜂蜜を入れているからだろうか。うっすらと金色が混ざった、ヒースヴェルト様がお好きな色。
急いでくれたのだろう、息が若干上がっていた。そういえば、足を負傷したのだったか。無理をさせたかもしれないな。
「急がせたな。感謝する。」
「いえ。あの、ヒースヴェルト様、大丈夫でしょうか。」
「・・・あぁ。様子を見てくる。」
穏やかに過ごしていただきたかったのに、泣かせてしまった。
ヒースヴェルト様の部屋の前まで来ると、中から弱々しい嗚咽が聞こえる。リーナの慰める声も。
やはり、今一番心を許せておられるのは、リーナだろう。安心して任せていられる。
コンコンコン、と控えめにノックをすると、リーナが扉を開けた。
「フォレン様っ。ヒー様が・・・ヒー様の言葉が突然解らなくなってしまって!!」
「・・・は?どういうことだ?」
近くにあったテーブルに、ミルクを置いた盆を静かに置いた。
天蓋つきのベッドの縁に腰かけていたヒースヴェルト様は、虚ろな瞳を向けて、ずっと神語で呟いていた。
ただ、その言葉はいつも聞く神語とは少し違っていて、私の耳には半分も理解できなかった。
『・・●&§※―◆◇して◎※☆・・・…◇ぃた◆$*ptjn◇ー∝&§じ―◆て◇◎※☆…&§―*◇◎※☆……』
加護が消えてしまったのか。それとも、ヒースヴェルト様の方に何か原因があるのか。
『ヒー様、フォレンです。分かりますか?』
そっと、手を握って彼の顔を覗き込む。
『……………。&§―◆………◇◎※☆。』
『ヒースヴェルト様?』
『………。』
ぴた、と神語が止まる。
次の瞬間、彼の灰紫の瞳の色が、美しい金色に変わった。
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