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親の仕事を
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その日のお昼に差し掛かる少し前。
レイモンドが転移装置を使い、戻ってきた。
ラドリーがヒースヴェルトの部屋に集まっている皆を大広間に呼んだ。
先ほど門の前に来ていた家族、庭師の親子の処遇を話し合うため。
「……ヒースヴェルト殿。この度はうちの使用人が大変な失礼をしたらしいね。…公爵家当主として謝罪させてほしい。」
すまなそうに、頭を下げるレイモンド。ヒースヴェルトは、小さく頷いた。公爵家の当主が、軽々しく頭を下げるものではないことを、ヒースヴェルトは知らなかったが、この謝罪は受け入れるべきものだと、幼いながらに感じ取り、頷いたのだ。
「それで、この庭師の親子だがね。解雇も視野に入れて話をしようと思っているが、君の意見も聞いてみたいのだが、いいかな?」
レイモンドにそう言われ、フォレンの服の裾を指で小さく握った。
「かいこ…も?んーっ、しやって、なぁに?」
相変わらず、難しい言い回しは苦手なようだ。
「中庭のお世話をする仕事を、辞めて貰うということですよ。今後、他の者に庭を任せることになるでしょう。」
フォレンが言い直すと、イルナルドの後ろに立っていた子供二人の顔色が真っ青になった。
まさか、自分達の間違った行動で、なんの落ち度の無い父親の職を失うことになるかもしれない。二人にとっては、絶望にも等しかった。
「んんー……まず、二人は、おとうさん、のお仕事場に、何故居たの?」
人間は、通常大人が仕事を行い、子供は学校や家で過ごすのが一般的だとトリシャから教わっていたから、何故父親の職場に子供がいたのか不思議だったのだ。
「そ、それは、俺も大人になったら、この公爵邸の庭を管理する仕事に就きたくて、親父の仕事を見ていたんだ。」
「わ、私も……。」
震えながら言っているのは、息子と娘。ジャックとセーニャという兄妹。おそらく、兄の方はヒースヴェルトよりは年上だろう。
「あぁ!跡継ぎ、なりたいの、ね!
ぼくもね、ママの…ぁ、母上、の仕事を見せて貰うこと、あるよ。でもね、難しくて、でもとても美しくてね。一つでも見逃せないの。
…二人は、おとうさんの、何を見ていたの?」
そうヒースヴェルトに問われ、二人は息を飲んだ。
自分達は、庭師の仕事を見せて貰っていた筈で、公爵邸の中庭で遊んでいい立場ではなかった。
更に、いるわけもない不審者を捕らえるなど、庭師の仕事ではないのだから。
跡継ぎになると豪語しながら、結局は公爵邸の庭で遊べることが楽しくて、優越感と欲に囚われていただけであった。
「跡を継ぎたいなら、それ相応の行動、あるよ。…君たちは、ぼくより大きいのに、変なの。」
そして、イルナルドに視線をうつす。
沈んだ表情のイルナルド。長年、公爵邸の庭を任されてきただけに、今回の事件は本当に最悪であった。
「庭師の、おじさん。ぼく、中庭の薔薇の植え込みのところが、一番好きなの。
すごーく、綺麗です。だから、これからも守るのは、大事なこと、です!」
「っ!それは……」
イルナルドの目に光が灯る。
「ほぅ、ヒースヴェルト殿は、今回のことを、許されるおつもりかな?」
レイモンドはほんの少し目を見開いて微笑んだ。フォレンは、ヒースヴェルトが彼らを咎めないことを、はじめから分かっていたようだったが。
「ぁい!お勉強は、大事ィ、です。次からは、もーっと、集中して、学ぶ、がいいです。
フォレンのおとうさまっ、これが、ぼくの、ィ、いけん、です。いいですか?」
「勿論。イルナルドに辞められるとこちらも庭の維持が大変だからね。ヒースヴェルト殿の言うとおりにしよう。お咎めは、無しだ。しかし、慢心するな。よいな?ヒースヴェルト殿に感謝をしなさい。」
「「「はい!!!」」」
イルナルドは、うっすらと涙を浮かべて、何度も頭を下げていた。
そして。
「あ、あの…ヒースヴェルト、様。本当に、すみませんでした。おれ…わ、わたしは、親父から大切なお客様である貴方様のことを、ちゃんと聞いていたのに…。」
「ん。いい、です。しっかり、お勉強、してね。」
「はっ、はい!」
深く深く、礼をした。彼らは邸の徒従に連れられて出ていった。また、明日から中庭の仕事を再開するだろう。
「さぁ、話し合いも終わったことだし、食堂に行こうか。先に行っているよ。」
レイモンドは先に腰を上げると、大広間から出ていく。広間に、五人だけになって。
「ヒー様、大丈夫ですか?」
フォレンが優しく声をかける。深く、長い溜め息は、僅かに震えていて。
「………こわかっ………。」
あの男の子を目の前にしたとき、ヒースヴェルトの身体が僅かに強張ったのを、フォレンもリーナも分かっていた。
彼の過去が、リンクしていたのだと分かって心配していたが、何とか泣かずに頑張って乗り切った。
「えぇ。しっかり、意見も言えました。よく泣かずに我慢なされましたね。」
「うまく、できた…?」
ドキドキと、不安そうに意見を募る。
「ヒー様がよく仰ってたじゃないですか。たくさん勉強することは、いいことだと。ディーテ様の言葉を代わりに伝えたんです。よかったに決まってます!!」
リーナはそう力説した。
「…ヒースヴェルト様の言葉が間違うことはありません。こんな私にも、暖かい言葉と光をくださったお優しいお美しい御方…尊い………。」
ルシオについては、何を言っても肯定してくれるし。
「はぁーっ、緊張、した~!!ごはん、行こうね!」
そして、食堂でゆっくりと食事をすることができた。
それから少しして、ヒースヴェルトは再び、中庭を散策するようになったとか。
レイモンドが転移装置を使い、戻ってきた。
ラドリーがヒースヴェルトの部屋に集まっている皆を大広間に呼んだ。
先ほど門の前に来ていた家族、庭師の親子の処遇を話し合うため。
「……ヒースヴェルト殿。この度はうちの使用人が大変な失礼をしたらしいね。…公爵家当主として謝罪させてほしい。」
すまなそうに、頭を下げるレイモンド。ヒースヴェルトは、小さく頷いた。公爵家の当主が、軽々しく頭を下げるものではないことを、ヒースヴェルトは知らなかったが、この謝罪は受け入れるべきものだと、幼いながらに感じ取り、頷いたのだ。
「それで、この庭師の親子だがね。解雇も視野に入れて話をしようと思っているが、君の意見も聞いてみたいのだが、いいかな?」
レイモンドにそう言われ、フォレンの服の裾を指で小さく握った。
「かいこ…も?んーっ、しやって、なぁに?」
相変わらず、難しい言い回しは苦手なようだ。
「中庭のお世話をする仕事を、辞めて貰うということですよ。今後、他の者に庭を任せることになるでしょう。」
フォレンが言い直すと、イルナルドの後ろに立っていた子供二人の顔色が真っ青になった。
まさか、自分達の間違った行動で、なんの落ち度の無い父親の職を失うことになるかもしれない。二人にとっては、絶望にも等しかった。
「んんー……まず、二人は、おとうさん、のお仕事場に、何故居たの?」
人間は、通常大人が仕事を行い、子供は学校や家で過ごすのが一般的だとトリシャから教わっていたから、何故父親の職場に子供がいたのか不思議だったのだ。
「そ、それは、俺も大人になったら、この公爵邸の庭を管理する仕事に就きたくて、親父の仕事を見ていたんだ。」
「わ、私も……。」
震えながら言っているのは、息子と娘。ジャックとセーニャという兄妹。おそらく、兄の方はヒースヴェルトよりは年上だろう。
「あぁ!跡継ぎ、なりたいの、ね!
ぼくもね、ママの…ぁ、母上、の仕事を見せて貰うこと、あるよ。でもね、難しくて、でもとても美しくてね。一つでも見逃せないの。
…二人は、おとうさんの、何を見ていたの?」
そうヒースヴェルトに問われ、二人は息を飲んだ。
自分達は、庭師の仕事を見せて貰っていた筈で、公爵邸の中庭で遊んでいい立場ではなかった。
更に、いるわけもない不審者を捕らえるなど、庭師の仕事ではないのだから。
跡継ぎになると豪語しながら、結局は公爵邸の庭で遊べることが楽しくて、優越感と欲に囚われていただけであった。
「跡を継ぎたいなら、それ相応の行動、あるよ。…君たちは、ぼくより大きいのに、変なの。」
そして、イルナルドに視線をうつす。
沈んだ表情のイルナルド。長年、公爵邸の庭を任されてきただけに、今回の事件は本当に最悪であった。
「庭師の、おじさん。ぼく、中庭の薔薇の植え込みのところが、一番好きなの。
すごーく、綺麗です。だから、これからも守るのは、大事なこと、です!」
「っ!それは……」
イルナルドの目に光が灯る。
「ほぅ、ヒースヴェルト殿は、今回のことを、許されるおつもりかな?」
レイモンドはほんの少し目を見開いて微笑んだ。フォレンは、ヒースヴェルトが彼らを咎めないことを、はじめから分かっていたようだったが。
「ぁい!お勉強は、大事ィ、です。次からは、もーっと、集中して、学ぶ、がいいです。
フォレンのおとうさまっ、これが、ぼくの、ィ、いけん、です。いいですか?」
「勿論。イルナルドに辞められるとこちらも庭の維持が大変だからね。ヒースヴェルト殿の言うとおりにしよう。お咎めは、無しだ。しかし、慢心するな。よいな?ヒースヴェルト殿に感謝をしなさい。」
「「「はい!!!」」」
イルナルドは、うっすらと涙を浮かべて、何度も頭を下げていた。
そして。
「あ、あの…ヒースヴェルト、様。本当に、すみませんでした。おれ…わ、わたしは、親父から大切なお客様である貴方様のことを、ちゃんと聞いていたのに…。」
「ん。いい、です。しっかり、お勉強、してね。」
「はっ、はい!」
深く深く、礼をした。彼らは邸の徒従に連れられて出ていった。また、明日から中庭の仕事を再開するだろう。
「さぁ、話し合いも終わったことだし、食堂に行こうか。先に行っているよ。」
レイモンドは先に腰を上げると、大広間から出ていく。広間に、五人だけになって。
「ヒー様、大丈夫ですか?」
フォレンが優しく声をかける。深く、長い溜め息は、僅かに震えていて。
「………こわかっ………。」
あの男の子を目の前にしたとき、ヒースヴェルトの身体が僅かに強張ったのを、フォレンもリーナも分かっていた。
彼の過去が、リンクしていたのだと分かって心配していたが、何とか泣かずに頑張って乗り切った。
「えぇ。しっかり、意見も言えました。よく泣かずに我慢なされましたね。」
「うまく、できた…?」
ドキドキと、不安そうに意見を募る。
「ヒー様がよく仰ってたじゃないですか。たくさん勉強することは、いいことだと。ディーテ様の言葉を代わりに伝えたんです。よかったに決まってます!!」
リーナはそう力説した。
「…ヒースヴェルト様の言葉が間違うことはありません。こんな私にも、暖かい言葉と光をくださったお優しいお美しい御方…尊い………。」
ルシオについては、何を言っても肯定してくれるし。
「はぁーっ、緊張、した~!!ごはん、行こうね!」
そして、食堂でゆっくりと食事をすることができた。
それから少しして、ヒースヴェルトは再び、中庭を散策するようになったとか。
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