虹色の子~大魔境で見つけた少年~

an

文字の大きさ
67 / 73

もう一人の覚悟 sideディラン

しおりを挟む




「ビンゴだぜ………。ほんっとーに愛されてんだな、ヒー様は!!」

ザシュ!!

森に散る鮮血と、魔獣の断末魔。振り翳す大剣には、ディーテ神の眷属の砡の欠片、ヒースヴェルトの神力により融合された最強の緋色。

最強の皇族、ディラン・E・マグダウトは途切れることなく襲い掛かる三メートル超えの大魔獣すらも一太刀でなぎ払いながら森を進んで行った。
「転移軸は、ヒー様が転移した時とはズレてんだろうな…。神殿にはちぃーと遠いか…。」
息を切らしながら進むが、その身に一筋の傷も無かった。
皇族を示すエンブルグの紋章が刻まれた、萌木色の纏(まとい)は、浴びた魔獣の血が夥しく、黒く変色していたが。

着て行け、と兄が譲ってくれた、その《纏》も、こんなに汚しては申し訳も立たないと、苦笑いしながら、大魔境から出て、ここに来る前に立ち寄った、皇城での兄との事を思い返す。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「皇太子を決めろ…?」
「俺は継承権の凍結を解いて、放棄する。臣籍も取らん。」
「ちょっと、何言ってるか分かんない、お兄ちゃん。」
十五程年の離れた兄弟。皇城の一室では、そんなやりとりが行われていた。
「何があった?もしかして、うちの国が嫌になっちゃった?あ、また何処かの馬鹿な貴族が嫁にって令嬢押し付けてきた?潰そうか?」
弟が可愛すぎて、自らの息子等と同等に、いや、それ以上に溺愛する皇帝陛下は、弟の発言に相当慌てていた。
「どっちでもない。…むしろ、その逆だ。」
「逆なの?」
「この世界に、グレイシア以外、愛すべき者も守るべき者も。存在しなくなって随分経ったけどさ。」
「ぐ……グレイシアちゃんは、確かに最高に可愛かったね。それに聡明で…お前のお嫁さんには彼女の他は無いと…。」
「でもさ、見つけたんだよ。俺の剣を捧げるに値する…いや。値するなんて烏滸がましい。俺の命を尽くしたい存在……。俺の全部をかけて、守らなくちゃなんねぇ、スッゲー可愛い方がいる。」
ヒースヴェルトのふにゃふにゃな笑顔を思い出して、つい口許が緩む。
弟のそんな緩んだ表情など、あまり見たことがなかった皇帝は驚く。
「ぇ?す、好きな人できたの!?結婚して平民になりたいとか、そう言う楽しい感じの放棄なの!?」
「ちげーよ。次元が違う!!
その方は…いつも親を思い、尊敬して跡を継ごうと頑張っておられる。
なのに、まだ弱くて不安定で…壊れちまいそうに儚い。ガキの癖に、周りを気遣って明るく振る舞って、一人で泣いて、立ち直って。助けてやりたいのに、俺はその方の力には、きっとなれない。このままじゃ、何も。」
「相手、子供なの!?ちょっと、どうしたんだディラン。説明しなさい!」

兄の変な誤解を解きつつ、大魔境の調査の事から説明をしてやった。
話を聞いていくうちに、世界情勢の事や我が国で起こっていた事件も。
さすがに、兄自身も西の国のきな臭い噂や北の国の内紛の火の粉などには、多少気づいていた部分はあったらしく、ディランの話を信じてくれた。

そして、今回大魔境に再度赴き、ヒースヴェルトの側で剣を振るう許可を貰いに行くのだと、告げた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


そして、黒の石を大剣で叩き割り、祈った。ディランも、眷属を賜り、緋色の展開率だけなら、今は振り切れている。十年前の、まだ四歳だったヒースヴェルトのように。
アシュトに緋色の華護りを選ばせたのも、そのため。
(結果は、実証されたわけだ。華護りに込められた砡の欠片に対する展開率が振り切れていれば、軸はズレる。
ヒー様はやはり、華護りの力によって、この魔境に引き寄せられた…。間違いない。)
その証拠に、ヒースヴェルトに巻いてもらった華護りは、大魔境に降りた時には跡形もなく消え去っていた。
「もったいねぇ……。」
(あの方に、せっかく巻いて貰ったのに。)
ヒースヴェルトの元へ帰ったら、もう一度巻いて貰おう、などと考えながら、あの時と同じく魔境の奥へと進んで、ほぼ1日、というところで。
「見つけた…神殿。」
上がった息を整えて、疲れはてた身体を休める。相変わらず、その神殿に施された結界は心地よい。
「…都合よく、出て来てくださるかな。」
ディランは、ディーテ神に会いに来た。ヒースヴェルトの力になるには、どうすればいいのか。それを聞きに。
あれこれ、考えていると。


『…………。』
「え?」

朽ちた神殿の入り口に、既に居られた、金色の光を纏い、佇むその姿に息をのむ。

『ディーテ様…。』
まさか、神殿の入り口で、会えるとは思わず、ディランは慌てて膝をついた。
『そなたは、アレの。…アレの元を離れ、何をしておる?守れと言ったはずだったが…』
守られていない約束に、ディーテは本の少し怒りを表した。ここで出会ってから、初めての事だった。
『申し訳ございません…。』
『いや…。違うな。ふむ……。』
ディーテの金色の光の粒が、ディランの周囲をくるりと舞うと、ディーテは目を細めて呟いた。
『なるほどのぉ…。そなたが。』
(………?今、俺に何を………?)
『すまぬな。そなたの心を覗いた。…本心故に、ここへ来たのか。』
『俺…わ、私は、ヒースヴェルト様の剣になりたい。側で支える許可を。どうか……!』
『翼を目指すのかぇ?それとも、人として神に仕える?』
『翼…ですか?』
初めて聞く単語に戸惑うが、ディランはハッとした。以前、神泉でヒースヴェルトが言った言葉。
(この世界に神も天使もいないことを不思議に思っていらっしゃった。それが、そういうことならば…)
『翼とは、ヒースヴェルト様が以前仰いました。…天使のこと、でしょうか?神の手足となり支え、働くといわれている…?』
殆ど勘だった。ヒースヴェルトの口振りからも、その存在は不透明で、本人ですら当時はよく分からない、と言っていた存在だった。
『是。アレの思いを全て叶えるためだけの存在。アレと共に永遠を生きる、天上人よ。』
『永遠……。』
『永き間、この世界のためだけに、ヒースヴェルトの意思のためだけに働き、傷つき、耐える。それが翼。ヒースヴェルトの翼となる覚悟があるか?』
騎士が主に誓いを立てるとか。永遠の愛を誓う夫婦だとか。そんな限られた時間の関係ではない。永遠に続く時を共に歩まねばならない。この世界が終わるまで。
その壮大な覚悟に、ディランは言葉を失い、ほんの小さく、息を吐くだけで精一杯だった。
『アレはね、自分の翼を選び取ることに悩んでおるよ。
誰かの命を、自分の為だけに全て貰うわけだからね。終わりの見えぬ仕事を与えんとする覚悟が、アレにはまだ無い。』
ヒースヴェルトがある時から時折黙り込み、何かを考えたり。周囲の様子を聞いて回ったり、暗に「お前に今後はあるか?」と訪ねているようで、気にはなっていた。確か、自分は…。
(国は継がない、と、答えた…。)
ならば、可能性がないわけではない?そう、期待をしてしまえば、もう。
『…緋の眷属よ。何がそのように愉しいのかの?』
ディーテは、彼のその表情に、全て理解したようで、微笑みながら訪ねたのだった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

学生時代、私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私が実は本物の聖女で、いじめていた女は災厄を呼ぶ魔女でした。

さら
恋愛
いじめていた女と一緒に異世界召喚された私。 聖女として選ばれたのは彼女で、私は無能扱いされ追放された。 だが、辺境の村で暮らす中で気づく。 私の力は奇跡を起こすものではなく、 壊れた世界を“元に戻す”本物の聖女の力だった。 一方、聖女として祭り上げられた彼女は、 人々の期待に応え続けるうち、 世界を歪め、災厄を呼ぶ魔女へと変わっていく――。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

処理中です...