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背負うもの sideディラン
しおりを挟むディランは、笑っていた。翼となり永遠に時を生きることは、元々が長く生きる種族ならまだしも、多くの者はその終わりのない存在となることに絶望するらしい。
それを乗り越え、それでも神に命を捧げることができて、初めて《翼》として魂に名を貰う。
それなのに、ヒト族のディランは、喜びに震えた。
自分がずっと側に居られるならば、あの子は一人にならなくていい。
その一点に尽きた。
『……ずっと、悩んでいました。ヒースヴェルト様の、管理者としての命はきっと永いんだと、なんとなく分かっていましたので。
私はあの方を助けたい。でも、私はあいつのように…ルシオ様のように長く生きることはできない。百年も経たぬうちに、この命は尽きます。
その間に、彼を支える次の誰かを、育てなければならないと…悩んでいたんですが。
それでも、俺自身が共に生きていけるなら…そんなの、願ってもない褒美です。』
『………ほぅ。面白いことを考える。アレの支えになり得る者を育てる…か。』
『いえ。俺が側で支えるなら…次を考えずとも…。』
ディランはふと、顔を上げた。神は面白いことを思い付いたように、目を細めて笑う。
『ひとつの世界を支えるのに、どれだけの魂が永遠の犠牲になると思う?』
『……え?』
『統べる管理者の能力にもよるがな。世界の規模。人々の精神の管理。魔獣等の害悪との兼ね合い。異常気象等の環境の管理。技術発展の進捗管理…。もっとあるぞ。その全てを、アレはこれから学び、常時把握し廻して行く。そなた一人の手では…足りぬだろうの。』
『翼は、多ければ多いほど…ヒー様の助けになる?』
『是。ただ、アレはたった一人の翼候補にさえ、共にあれと告げられぬほど優しいからの。…そなたから申してみるのも、良いかもしれぬな。』
『!!では……ッ!!?』
『そなたに《仮名》を渡す。アレがの魂の浄化が終わり、余の元へ来るとき、そなたも共に来るが良い。一番目の翼としてな。』
ディランは歓喜に震えた。ディーテ神から、確約を貰ったのだ。ヒースヴェルトの側に居られる。永遠に。
世界で苦しむ人を助けることができる。過去に自分が喪ったものを、他の人が喪わずに幸せに生きてゆけるなら、それは自分が自分であるための理由。
それをするのは、あの虹色の子。
あの子の側で、剣となれるならば、こんなに望んでいることはない。
『ただ……そなたの魂は、澱みも深い。それどころか、傷を負うているな。……それを取り除かねば、天上界には来れぬ。アレと共に、魂を浄化し癒してから来るが良い。』
『あ…。それは、まさか』
思い当たることは、勿論グレイシアの死だ。あの時、この世を呪った。その時の感情が、澱みを生んだのだ。
『神はね。私もそうだが…自分の翼になる者の澱みの受け皿になるんだよ。
アレは、もうそのことに気付いているから、きっとそなたの澱みを受け取ろうとするだろう。そなたが味わった過去の悲しみを、全て浄化してあげようと、するだろうね。…それは、親としてはなかなか……キツいなぁ…。』
常に、凛として威厳の塊であるディーテ神の顔が、ふと表情を変えた。それはまるで子を思う親のよう。
『ディーテ様……私の、澱みを、ヒースヴェルト様が肩代わりするんですか。それなら私は……そんなことを…』
『管理者の勤めである。心配など無用。アレの仕事であるし、アレは耐えることができる。相当辛いだろうがな。…だが、そなたがそれを耐えられぬと言うならば、翼を諦めよ。』
『…ははっ。キツいっすね、ほんと……。』
酷い選択。彼の力になりたいのに、そのために彼に辛い思いをさせる。しかし、諦めるなんて、したくない。
『まぁ、私も初めて子を育ててみて思ったがね。私はただ世界を、星を作るだけの存在であるが……こうして誰かの手を取ることで、少しなら融通することもできると…気付かされた。
ふふっ。神が捨て子に教わるとは、実に愉快。』
ふわり。と金の光がディランを包む。
『……この世界に、ひとつの澱みがある。知っているだろう?世界が整う前に、その地の砡を失い、余の加護が消え失せた場所。』
『ぁ…そこは、世界で死都市、と呼ばれております…。』
『そなたの澱みの半分を、そちらに移そう。余はこの地の澱みを浄化することはできぬが、その在処を、何処にするかは決められる。…そなたの荷の半分を、あちらに寄せる。アレが神となり、そなたを含め今後力をつけて、多くの翼を得てから、あの澱みに挑むが良かろう。』
暖かい金の光がディランの、中を通り抜けた。
その時の、爽快感は言葉にならなかった。
(……軽い……。本当に、俺の中から半分消えたのか…?)
『そなたの仮名は《矛》にしよう。アレに振り掛かる全てを薙ぎ払え。アレがそなたの澱みを浄化したとき、この世界の緋の力はそなたの物となるだろう。そなたを緋天使の候補とする。』
『ぁ…有り、難き幸せッ。』
今にも泣きそうだった。ここへ来て、本当に良かったと。目を伏せて肩を震わせた。
『それまでの間も、アレを守ってやってほしい。長い……長い時間がかかると思うよ。
そなたは自らの周りと、よく話をするといい。そなたの覚悟を、余は歓迎する。』
ディーテ神はそう告げると、淡い光の粒となり空へと登ってしまった。
「……………ッ…ぁりがとう……ございます。」
朽ちた神殿の入り口で、ただ一人涙を流した。
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