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企みと、別邸の事情
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「それで、大神殿側からの返事はあったのか?」
「いえ。何も…。無視を決め込んでいるのではないかと…。」
レイノヴァント家の当主の部屋で、ユディとレイノヴァント伯爵が会話していた。
「アルクスといえば平民や、跡継ぎにもなれぬ貴族崩れの集まりだというじゃないか。
それの首領か何だか知らぬが…書状を渡したきり、問い合わせても一向に連絡を取らぬとは!大神殿の運営をアルクスが取り仕切っているだと!?
聖神子という神に認められた者が我が家門の、セレイナの息子だというならば取り返すのが当然のこと。会って説得せねば…!」
ダン、と机を叩き怒りをぶつける。
ラーシュのことをあれ程まで嫌っていた伯爵が、セレイナの息子が王家の象徴の色を持つ少年で、ディーテ神に認められたという、あの言霊鳥が映し出した少年だったと知ったとたん、態度を翻したのだ。
「旦那様、今お嬢様を説得し、大神殿への招待をレイノヴァント家代表として旦那様に行っていただけるよう手配しております、どうか気を御沈めください!」
「そもそも、何の権利があって王家に連なる一族に対し出向けとは!」
ヒースヴェルトがセレイナを大魔境の屋敷に招待したのは、単純にディーテ神が不在であるからに他ならない。
ギネルの魂の浄化で天上界と下界の狭間にしばらく籠る必要があるため、こちら側に来られないのだ。
つまり、何かあった際に梯子が架かるこの場所以外では、ディーテ神の助けがない。
天使の数が少ないヒースヴェルトには、安易に外を出歩くと、危険が伴う可能性があるからだ。
そのような理由は、当然のことながらセレイナ側には説明できず、「ご招待します」という形を取らざるを得なかったのだが。
「セレイナは今どうしている?別邸でおとなしくしているか?」
「は、はい。ヒラム様と出会ってから上の空で…。ですが、そのお陰で本家からの旦那様の書状を送ることができましたし、セレイナ様の手紙については届ける前に全て回収させていただいています。」
やはり、ユディの策略であった。セレイナの手紙は全部で三通認められたが、それは全てユディが預かり、揉み消していた。
一通目は招待への返事、二通目はヒースヴェルトの日常が知りたい、お土産を持っていくから好きなものを教えて欲しいという内容。
三通目は、招待状が届くのが待ち遠しくて、何度もこうして手紙を書いている。早く会いたい、というもの。
全てユディが処分したため、それらは一通も届かなかったが、セレイナはそんなことは知らず、返事を待っているのだ。
まるで恋い焦がれる少女のように。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして、セレイナの別邸。
ヒースヴェルトへの手紙がどのようにして届けられたか、だが…。
「絶対、おかしいわ!ユディ様はやっぱり伯爵様の手の者だったに違いない。じゃなきゃ、セレイナ様が愛された唯一の方を、あんな風に罵れるわけないもの!」
「そうよねっ!教会から帰ってきたときのユディ様を見た?あんなにベッタリとセレイナ様に付き添って。下心が丸見えなのよー!」
「いやらしいわ。」
ユディが馬車に乗り込み、伯爵家に急いで行くのをこっそりと見送る、三人のメイドたち。
名前はルビィ、ジャネット、イリア。
「私たち、ラーシュ様とのお屋敷勤めからセレイナ様についてきた組だけど、セレイナ様がラーシュ様以外の方とどうにかなるわけ、ないじゃない!?」
「そうよねっ!ユディ様もいい加減あきらめてどっかの令嬢と結婚すればいいのにー!」
「気持ち悪いわ。」
三人は、セレイナが王都でラーシュと新婚生活をしていた頃、屋敷に雇われていた。セレイナのことを大切に思っており、一人伯爵領へ連れ返されるセレイナを心配して、セレイナの赤ちゃんのことは気になっていたものの、ついていったのだ。
その思いに感動し、別邸を構えた後はそちらでお世話をさせてもらうことになったが、いつしかユディという男が執事のようにあれこれと邪魔をしてくるようになった。
伯爵直属ということもあり、強く言えなかったのだが、最近は歯止めがきかなくなり、まるで自分の恋人であるかのように振る舞う始末。
ラーシュとの仲睦まじかったセレイナを知っている三人は、それが許せなかったのだ。
「ねぇ、ジャネット、イリア。」
「なぁに、ルビィ。」
「なにかしら。」
ユディの馬車が見えなくなったのを確認して、ルビィは意を決して二人に提案する。
「急いでセレイナ様にもう一度手紙を書いて貰いましょう。そして、ユディ様ではなく、私たちがアルクスの支部に届けるのよ!!」
「そうね!!それは名案だわ!」
「やりましょう。」
三人のメイドたちは大急ぎでセレイナの部屋を訪ね、招待へのお礼をもう一度書いて欲しいと頼み込んだのだった。
そして、その手紙こそがヒースヴェルトの元へと届き、伯爵の企てもバレて、招待状は言霊鳥に宿すという形になったのだった。
「いえ。何も…。無視を決め込んでいるのではないかと…。」
レイノヴァント家の当主の部屋で、ユディとレイノヴァント伯爵が会話していた。
「アルクスといえば平民や、跡継ぎにもなれぬ貴族崩れの集まりだというじゃないか。
それの首領か何だか知らぬが…書状を渡したきり、問い合わせても一向に連絡を取らぬとは!大神殿の運営をアルクスが取り仕切っているだと!?
聖神子という神に認められた者が我が家門の、セレイナの息子だというならば取り返すのが当然のこと。会って説得せねば…!」
ダン、と机を叩き怒りをぶつける。
ラーシュのことをあれ程まで嫌っていた伯爵が、セレイナの息子が王家の象徴の色を持つ少年で、ディーテ神に認められたという、あの言霊鳥が映し出した少年だったと知ったとたん、態度を翻したのだ。
「旦那様、今お嬢様を説得し、大神殿への招待をレイノヴァント家代表として旦那様に行っていただけるよう手配しております、どうか気を御沈めください!」
「そもそも、何の権利があって王家に連なる一族に対し出向けとは!」
ヒースヴェルトがセレイナを大魔境の屋敷に招待したのは、単純にディーテ神が不在であるからに他ならない。
ギネルの魂の浄化で天上界と下界の狭間にしばらく籠る必要があるため、こちら側に来られないのだ。
つまり、何かあった際に梯子が架かるこの場所以外では、ディーテ神の助けがない。
天使の数が少ないヒースヴェルトには、安易に外を出歩くと、危険が伴う可能性があるからだ。
そのような理由は、当然のことながらセレイナ側には説明できず、「ご招待します」という形を取らざるを得なかったのだが。
「セレイナは今どうしている?別邸でおとなしくしているか?」
「は、はい。ヒラム様と出会ってから上の空で…。ですが、そのお陰で本家からの旦那様の書状を送ることができましたし、セレイナ様の手紙については届ける前に全て回収させていただいています。」
やはり、ユディの策略であった。セレイナの手紙は全部で三通認められたが、それは全てユディが預かり、揉み消していた。
一通目は招待への返事、二通目はヒースヴェルトの日常が知りたい、お土産を持っていくから好きなものを教えて欲しいという内容。
三通目は、招待状が届くのが待ち遠しくて、何度もこうして手紙を書いている。早く会いたい、というもの。
全てユディが処分したため、それらは一通も届かなかったが、セレイナはそんなことは知らず、返事を待っているのだ。
まるで恋い焦がれる少女のように。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして、セレイナの別邸。
ヒースヴェルトへの手紙がどのようにして届けられたか、だが…。
「絶対、おかしいわ!ユディ様はやっぱり伯爵様の手の者だったに違いない。じゃなきゃ、セレイナ様が愛された唯一の方を、あんな風に罵れるわけないもの!」
「そうよねっ!教会から帰ってきたときのユディ様を見た?あんなにベッタリとセレイナ様に付き添って。下心が丸見えなのよー!」
「いやらしいわ。」
ユディが馬車に乗り込み、伯爵家に急いで行くのをこっそりと見送る、三人のメイドたち。
名前はルビィ、ジャネット、イリア。
「私たち、ラーシュ様とのお屋敷勤めからセレイナ様についてきた組だけど、セレイナ様がラーシュ様以外の方とどうにかなるわけ、ないじゃない!?」
「そうよねっ!ユディ様もいい加減あきらめてどっかの令嬢と結婚すればいいのにー!」
「気持ち悪いわ。」
三人は、セレイナが王都でラーシュと新婚生活をしていた頃、屋敷に雇われていた。セレイナのことを大切に思っており、一人伯爵領へ連れ返されるセレイナを心配して、セレイナの赤ちゃんのことは気になっていたものの、ついていったのだ。
その思いに感動し、別邸を構えた後はそちらでお世話をさせてもらうことになったが、いつしかユディという男が執事のようにあれこれと邪魔をしてくるようになった。
伯爵直属ということもあり、強く言えなかったのだが、最近は歯止めがきかなくなり、まるで自分の恋人であるかのように振る舞う始末。
ラーシュとの仲睦まじかったセレイナを知っている三人は、それが許せなかったのだ。
「ねぇ、ジャネット、イリア。」
「なぁに、ルビィ。」
「なにかしら。」
ユディの馬車が見えなくなったのを確認して、ルビィは意を決して二人に提案する。
「急いでセレイナ様にもう一度手紙を書いて貰いましょう。そして、ユディ様ではなく、私たちがアルクスの支部に届けるのよ!!」
「そうね!!それは名案だわ!」
「やりましょう。」
三人のメイドたちは大急ぎでセレイナの部屋を訪ね、招待へのお礼をもう一度書いて欲しいと頼み込んだのだった。
そして、その手紙こそがヒースヴェルトの元へと届き、伯爵の企てもバレて、招待状は言霊鳥に宿すという形になったのだった。
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