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Oh, my God!! ~開いている~
しおりを挟む女性陣なら分かってくれたりするのではないだろうか? 電車に座っている時のあの気まずい感覚を。
満員電車の中、彼女は運よく椅子に座れた。ここまでは運が良かった。だが、ここから問題が起きた。
『あ、分かった、隣の人が寝ちゃって肩に寄りかかってきたとかでしょ?』と思っただろうか? 確かにそれもあるあるだろう。だが、であればわざわざ『女性陣なら分かってくれる』なんていう前置きはしない。
それに『隣の人が肩に寄りかかってくる』は気まずい、とはまた少し違うだろう。どっちかというと、寄りかかってきた相手によっては『ラッキー』だし、そうでなければ寄りかかってきたその頭に対し、『目には目を歯には歯を』頭には頭をで、こちらも頭突きを入れてやるかのどっちかだろう。
電車の席に座っている時に女性陣で気まずいこと。まぁ昨今みんなスマホを弄っているからあまり気にしないかもしれないし、スマホ弄っていなくても全く気にしない、という人も居るかもしれないが、ヒントはこの時の女性の目線の高さにある。
「………………」
この目線の高さ。目の前に男性が立つと、大体男性の股間の位置なのである。
『うん、この大きさ、評価C』などと遊んでいる場合ではない。眼前に男性の股間がある。これ中々気まずいのである。分かってくれる女性陣、居ないだろうか?
別に好き好んで見ているわけでもないのだが、ぱっと見男性の股間を凝視しているように見えるこの状況。股間ソムリエの真似事ができる程度には近い距離に居る。……いや、股間ソムリエって何だ? 変態か? 私は。
何だろうな? 男性陣で例えるのであれば、夜たまたま帰る道が一緒になって目の前を女性がずっと歩いているあの感覚が近いのだろうか? 帰る方向がそっちなだけなのだが何となく夜道をつけているように客観的に見えるあの感じ。急に女性が走り出したりしようものなら『違うんですー! 誤解なんですーっ!』と実際に追っかけてしまい、お巡りさんのお世話になりそうなものである。
何も悪いことなどしていないハズなのになんか悪いことをしているように陥るこの感覚。というか何ならこっちは見せつけられている被害者と言えなくもないのだが、向こうも別にただ立っているだけ。基本的に悪いことはしてない。
……違和感を持っただろうか? 何で今、『基本的に』と強調したのか。そう。微妙に悪いことをしていない、とも言い切れないのがこの目の前の男性。
目の前に男性の股間があるだけであれば、言い方はあれだが、よくあることではある。そんなことをいちいち気にしていては女性は電車の椅子になんか座れないし、そんな文句を言うのであれば女性車両に乗れ、という話になるだろう。
気まずいは気まずいが、まぁ言ってしまえばお互い様、な部分もあるだろう。殿方も殿方で相手の目線の高さにあって気まずいのかもしれないし。……いや、まぁ、それが興奮するんです、グフフ、と言われてしまえばちょっと庇いきれないが。
この男性が女性の目線の高さに股間を持ってきて興奮するタイプなのであれば、問答無用の一発アウトを求めたいが、生憎そこの判断はできない。ただただ吊革に掴まって立っているだけでたまたま目線の高さに来てしまっているだけなのであれば、まぁそれは電車という公共機関の乗り物上仕方ない部分だろう。
ただ。ただだ。
「………………」
チャック、全開なのである、目の前の男性。
多分。多分だが、朝にズボンを履いた時から閉め忘れたか、駅などでトイレに行った時に閉め忘れたかだと思うが全開なのである。決して目の前の女性に見せびらかすためにわざと開けているわけではないと信じるが全開なのである。
後者だったら容赦なくパンチしてもいいような気もするが、流石に前者の場合は何の悪意も無いしパンチするのは気が引ける。……え? 男性の股間にパンチすること自体に気が引けろって? 嫌だな、こっちはか弱き乙女だぞ? それくらい多めに見ろ。
つまり、つまりだ。この状況。『たまたま椅子に座ったら目の前に男性が立っていてその男性の股間が目の前にある』だけにとどまらず、『たまたま椅子に座ったら目の前に男性が立っていてその男性の股間が目の前にありそのチャックがたまたま全開である』なのである。たまたまが多すぎて誰かの意志の介入を疑いたくなるレベルである。
チャック全開の男性の股間を凝視している女性。これなんか意味出ないだろうか。これ横から見られた時に私がド変態に見えないだろうか? 何だ? チャック開いてますよ? とでも教えてあげればいいのか? それはそれで『お前どこ見てんだよ』って言われないだろうか? は? どうしろと?
詰んでるわ、と思った彼女ではあったが、幸いなことに最寄り駅はそろそろ近いハズ。それまでの我慢と思えばいいか、と彼女が思っていると、
『この先カーブがあります』というアナウンスが車内に流れる。揺れるから手すりか吊革に掴まれ、とのことだった。
そんなアナウンスより最寄り駅のアナウンスをはよ、と彼女は思ったのだが、
ん? カーブ? えっ、嫌な予感。
その嫌な予感、的中。カーブに差し掛かり電車が揺れる。座っているメンバーにはそれほど影響が出ない話だが、立っているメンバーは露骨に遠心力の影響を受ける。吊革につかまっている目の前の男性も遠心力に従ってぐわんと腰を前に突き出す形となる。
眼前にチャック全開の股間がこれでもかと迫ってくる異常事態発生。
いぃぃぃやぁぁぁっっっ!! と悲鳴を上げたいのを懸命に堪えつつ、脳内ではワーニング! ワーニング! と警報音が鳴る。
彼女は座っている状態。何なら後頭部も窓ギリギリまで下げている。これ以上後ろに引けないのだが、彼女が開けたスペースにガンガン股間が入ってくる。これ以上下がれない顔に向かって股間が迫ってくる恐怖。手などを顔の前にかざして盾にしたいところだが、下手に手をかざした時に股間に触れると、なんかこっちが痴女したみたいな感じにならないだろうか? 絶対こっち被害者なのに。
いや、分かっている。相手が全く悪くない、ということは分かっている。ただ目の前で吊革を掴んで立っているだけなのだから。ただただそのチャックが全開であるというだけ。同情の余地はある。
それは分かった上でそれでも彼女は脳内で叫ぶ。
お前もう絶対わざとだろ! 一番の弱点をこっちに無防備に突き出すってことは相当のリスクは覚悟の上だなっ!? 上等っ! 使用済みか未使用か知らないが二度と使えないようにしてやるっ!!
自慢じゃないが、こちとら彼氏もできたこともないとっても清らかな身。何が悲しくて初彼氏よりも先にどこの誰とも知らない殿方の股間をこんな無遠慮に押し付けられなければならないのか。乙女の貞操の危機である。つまりこれは正当防衛。そう正当防衛。少なくとも過剰防衛ではあるまい。
ということで、目の前の股間に正拳突きをお見舞いして破壊してやろうとしたギリギリ5秒前、
『次は~~』
お待ちかね。最寄り駅に近付いたアナウンスが聞こえた。瞬間、
音を置き去りにした音速を超えた高速の正拳突きをお見舞いしてやろうと高めていた彼女の闘志(もとい殺気)がプシュー、と穴の開いた風船のように萎んでいく。もう駅に着くのであればあとちょっとの我慢である。わざわざ事を荒立てることもあるまい。
電車が停止すると同時に降りますー、と伝えると目の前の男性がそっと道を開けてくれる。意外といい奴なのかもしれないが、チャック全開の股間を押し付けられた恨みは絶対忘れないからな。
電車から降りるとみんなが一斉に乗り換えの路線か、改札かに向けて歩き出す中、彼女は駅のホームで立ち止まり一息つく。
疲れた……。
なんか朝からどっと疲れた。これから仕事って正気だろうか? 冬にも関わらず背中が嫌な汗でびっしょりである。テレワークの普及はよ。
あの男性は今も誰かの目の前でチャック全開の股間を見せつけているのだろうか? 降りる時にすれ違いざまに教えてあげれば次の被害者を防げただろうか?
……いや、そんな加害者みたいな言い方をするのも可哀そうか。多分きっと恐らく、あの男性は閉め忘れてしまっただけなのだろうから。後で気付いて『えっ、いつから開いてたのっ?』と恥ずかしくなってしまうのかもしれない。そういう意味でも教えてあげた方が良かったのかな。いや、そこまでする義理もなー。
大体チャック全開って社会人としてどうよ。ちゃんと確認してから外に出ろって言うんだ。
そう思い、彼女が本当に何気なく自分のチャックを確認してみると、
「………………」
……なるほど。意外と気付かないものである。
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