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第5章 主人公の隠された能力

ほんの少しの昔話

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 「だ、ダーインスレイヴ様!」



 「よぉ」


 青紫色の長髪、黒瞳、黒いコート状の着物………どっからどうみても際立つ主要キャラ感に少し怯えるセオドアに、ダーインスレイヴは軽い調子で手を上げた。



 「ラフェエルに殺されかけたのに口を返したんだって?やるじゃないか」


 「う………………何故それを…………」


 「俺はこの城に住み着く幽霊と仲良いんだよ」


 サラリと嘘か本当かわからないことを言う。いや、この人ならありうる。そんな不思議な気を纏っているミステリアスダンディはけたけたと笑いながら続ける。




 「まあ、ラフェエルを敵だと思うのも間違いないけどな。性格も評判も極悪人だからな。

 冷酷非道、唯我独尊、自分勝手…………上げればキリがない。だが、それでも人の上に立てるっつーことは魅力があるからだ」




 「……………ダーインスレイヴ様は何か知っているのですか?」



 「まあな、一緒に旅もした」



 「旅?」




 初耳である。サクリファイス大帝国の皇帝が旅をするなんて………国は回らないだろう。執務だってあんなにあったのに。




 「うーん。まあ、今のラフェエルじゃ想像出来ないよな。…………実際、ラフェエルは"居ることが許されない"ような人間だったから」



 「…………どういうことです?」



 ダーインスレイヴは黙った。
 遠くを見るような、そんな雰囲気。龍神の話を聞いた時のアルティア皇妃を思い出させた。



 「………まあ、この国の闇は深いんだよ。お前もいずれ知る事になる。とにかく今はラフェエルに好かれる方法だろう?」



 「あ…………」


 そうである。気になることは多々あるが、優先順位がある。取り敢えず皇帝様に好かれる………いや、認められることをしなければ。



 「グレードダウンしすぎだろう。でも好かれるように、かあ。………無理なんじゃないか?」


 「……………う」



 「………………アイツは、アルティアとアミィールを心の底から大事にしている。アミィールは唯一の子供だしな。アルティアとの子供、というのもあって簡単に認められないんだよ。

 お前も考えてみろ、"死ぬ運命から脱却してやっと得られた幸せの形を殆ど知らない馬の骨に奪われる"気持ちをよ」




 「………………」



 言葉の意味はわからないけれど、確かにアミィール様を大切に思っているからこそ、俺を認めないというのはあるかもしれない。


 だからといって、アミィール様と一緒にいられないのは嫌だ。一緒に居られても、認められないのは…………嫌だ。



 俺はこんなに我儘だったか?



 「いいじゃないか、我儘。人の原動力なんて、たいていそういうもんだ。その為に動いてみろよ。

 居るだろう?お前には味方が」 


 「味方?」




 聞き返すと、ダーインスレイヴは大きな溜息をついた。そして、面倒くさそうに近づいてきた。



 「ちょっとごめんな」


 「わっ」




 突然抱えられた。アミィール様より身長があるから新鮮………って、俺はなんで抱えられることになれているんだ………それより。



 「なんですか!?」


 「黙ってろ。…………転移魔法」




 ダーインスレイヴがそう言うと、その場から2人は消えた。







 *  *  *





 「ふぁ~」



 サクリファイス大帝国の1番高い屋根の上、皇妃であるアルティアは大きな欠伸をした。



 今日も平和である。敵襲があるわけでもなく、フランという名のじゃじゃ馬娘_もう娘ではないか_も来ないし。公務はあるけど、今日は気分ではない。




 ____今の私は、こんな感じ。
 つまんないつまんない言いながらだらだらーと余生を過ごしている。手塩にかけて育てた娘も婚約者を捕まえて独り立ち1歩手前だし、母親の役目なんてもうほとんど済んでいる。


 皇妃という責任とか作法とかうんぬんかんぬん私は知らん。世界が滅ぶ~とか龍神の復活~とかなら動くけど、人間同士の争いに首突っ込むのも馬鹿らしい。私は人間じゃないしね。特別人間大好き~なんて感情は前世を通して持ったことも無い。クソ喰らえ。



 「……………ッ」




 胸が、痛くなる。
 ……………いつものことだ。発作。持病みたいなもの。私が自由と引き換えに支払った代償。


 この苦しさにももう慣れたのだから、私って凄いのかも_____!



 不意に、転移魔法の気配がした。
 やば、ポーカーフェイスしとかないとね。またラフェエルが騒ぎを起こすし。


 アルティアが大きく深呼吸をした直後、ダーインスレイヴと………娘婿(仮)のセオドアが現れた。


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