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第8章 幸せな新婚生活
貴方は口を閉ざすから
しおりを挟む「アミィ!」
そう言って、子犬のように無邪気に近づいてくる群青色の髪、緑の瞳の愛おしい人。
嗚呼、愛おしい御方の声だ。
愛おしい御方の声を聞くだけで、どす黒かった思考が溶けていく。
アミィールはほんの少し笑みを浮かべて、近づいてくるセオドアに向けて腕を広げた。
「アミィ!来てくれたんだな!」
「ふふ、…………遅くなってしまいました」
嬉々とする笑みを浮かべて、突進するようにわたくしを抱きしめた。けれど、手つきは優しい。心地よい体温が、わたくしの冷えきった身体に染み渡る。
セオドアはぎゅう、と強く抱き締めて安堵する。…………アミィール様を抱き締めるだけで、雨の偏頭痛なんてどうでも良くなる。ほんと俺、単純だな。
そんな上機嫌なセオドアに、アミィールは優しく、でも意地悪に問う。
「ふふ、はしゃいでますね。………わたくしがいなくて、寂しかったのですか?」
「う………………そ、それは、その…………」
セオドアは言い淀む。すごく寂しかった。けれども、何度も言うが俺は男だ。寂しいって素直に言うのは恥ずかしい。
けれど、隠し事が下手なセオドアはもじもじとする。もう一年も共にしているアミィールには、お見通しである。
_______可愛い御方。こんな穢らわしい女がいなくて寂しいと思ってくれるなんて。
「……………レイ様」
「分かっております、私は席を外しますね」
セオドア様の執事・レイ様は優秀だ。わたくしの言いたいことを汲んでくれた。…………もしかしたら、わたくしが今さっき人を殺してきたことさえも見抜かれているのかも。
けれど、わたくしの愛おしい人は首を傾げている。…………貴方は、貴方だけには知られたくないのです。
アミィールはそこまで考えて、少しだけ離れてセオドアを見る。
「____セオ様、わたくし、お願いがあります」
「?なんだい?」
「わたくしと、寝室に来てくれませんか?」
「____ッ」
その言葉だけでまた赤く染るセオドア様のお顔。はしたないのはわかっている。
………………けれど。
「………………だめ、ですか?」
アミィール様はそう言って、目を潤ませる。美しすぎる妻の可愛いオネダリに、俺はくらり、目眩がした。もうほんと、可愛くて美しくて色っぽいこのお顔は本当に狂気。………………こんな顔をされて拒める男が居るなら、見てみたい。
「う、そ、その…………私はよいが………これから食事があるし、お風呂だって…………後からもできるよ?」
「___今、今すぐに…………会えなかった分、沢山愛して欲しいのです」
「うわっ」
アミィールはそれだけ言って、軽々と得意の姫抱きを俺にした。ほんと、この細い腕にこれだけの力がどこにあるんだ!?
「…………ッ」
有無を言わさず、俺は寝室に連れてこられた。アミィール様は俺を降ろすとしゅるり、と自分の胸元のタイ_今日も男装している_を解き始めた。
その瞳は____熱が篭っているけれど、何処か悲しそうに見えて。
「…………ッ、アミィ」
「きゃっ」
俺は、自分から服を脱ごうとするアミィール様の手を引いて、位置を交換した。
何か、あった。それくらいわかる。けど…………アミィール様のこの顔をしている時は、何も言わないのも知っているから。
だから、その代わりに。
「____俺がするから、アミィは俺に黙って愛されてくれ」
「………………ッ!」
アミィール様の黄金色の瞳が見開かれる。でも、すぐに目を細めて、涙を流しながら微笑んだ。
「…………………お願いします。たくさん、たくさん…………わたくしに、愛をください」
「ああ、貴方のその悲しみまで、___俺に委ねてくれ」
俺はアミィール様の唇を半ば無理やり奪う。優しくは…………出来そうにない。この人の悲しい顔が、恥じらい、幸せな顔に変わるまで。
今の俺には、愛することしかできないから____。
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