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第10章 新婚旅行は海がいい
最初で最後の新婚旅行は
しおりを挟む「…………………………っく」
そういったクリスティドの言葉。笑顔。それを見て____涙が零れた。
俺は……………浅ましい。浅ましすぎる。乙女ゲームだとか攻略対象キャラとか設定とか。そんなことばかり考えて、『こういう運命なんだ』と諦めたこともある。醜くも嫉妬をしてた。
けれど。
キャラとしてのクリスティドばかりを考えて現実の"クリスティド国王陛下"をちゃんと見ていなかったのだ。
_____話の内容はやっぱりわからない。
けど。
それでも……………アミィール様へ抱いている御心は俺が思っている物よりも尊く、そして優しいものだった。
この人は_____強い。
仮に俺が同じ立場だったら、きっと同じことは言えない。
この人のように友を応援できない。アミィール様の背中が好きだなんて言えない。きっと醜く嫉妬して、友を蹴落とす可能性だってある。
けど、この人は____好きな人の幸せを心の底から願い、それで笑っている。
辛いとか悲しいとかじゃない。本当に嬉しそうに、それを語るんだ。
それが悲しくて____でも、温かい気持ちになる。
これはバットエンドなんかじゃない。これがクリスティド国王陛下が選んだ『幸せの形』なんだ。
この人に俺が出来ることは____ただ、ひとつだ。
セオドアは未だに流れる涙を急いで拭って、真っ赤な目で、鼻水を垂らしながらも真剣な顔で笑いかけるクリスティドに向かって言葉を紡いだ。
「私は_____もう、弱音を吐きません。
必ず…………必ず、アミィール様を私が幸せにしてみせます」
宣誓をするようにハッキリ言い切ったセオドアに、クリスティドは少し驚いた顔をしてから………………やっぱりさわやかに笑って『お願いするよ』と頭を撫でてくれた。
たった2日の新婚旅行。
前世で憧れていたような新婚気分を味わえたかと言われたらそうじゃないかもしれない。
殆ど部屋に居たし、何か特別な波乱があったわけではない。甘い雰囲気ではあったけれど『理想の新婚旅行』ではなかった。
けど。
色んな気持ちを抱いたこと、色んな人に愛されていること、自分が人を愛したこと…………それら全てが奇跡的なことで、とても素晴らしいことだ、自分は恵まれているんだと再確認できた。
改めて俺はアミィール様をお守りしなければ、アミィール様が好きだと実感した。
来てよかった、と思えるほど甘くて温かくて幸せな新婚旅行だった。
* * *
翌日、朝一で俺達はサクリファイス大帝国に帰ってきた…………のだが。
「アミィール様が倒れたって本当ですか!?」
「違うわよ!セオドア様が熱を出したのよ!」
「いや!違うぞ!2人が駆け落ちしたって聞いたぞ!?」
「「……………………………」」
城外で国民達がそのようなことを口々に言って門に群がっている。それを見て閉口するアミィールとセオドア。
何が何だかわからない。口々に言っていることに身に覚えが無さすぎる。
困惑しているセオドアを横目にアミィールは呆れたように窓の外を見ているラフェエルに問うた。
「………………お父様、これはどういうことなのでしょうか?」
「お前らがお忍びで新婚旅行など行ったから使用人たちが騒ぎ立ててな、それが国民に広がって昨日からずっとこうなんだ」
「ふふっ、2日居ないだけでこんなふうになっているのだから凄いわよね~、もう皇帝はあんたら2人でいいんじゃない?」
「そ、そんな!アミィール様はともかく私は…………!」
「大丈夫だって!セオドアくん、男を見せなさい!男なら"この国を乗っ取ってやる~"ぐらい言えなきゃダメよ!」
「お母様!セオ様にそのようなことを吹き込まないで!」
「………………………」
………………やっぱり、新婚旅行は我慢するべきだったのかもしれない…………
国民達の不安な表情を見て、アミィールに腕を抱かれながらセオドアは悟った。
_______サクリファイス大帝国の皇族は全員まるごと国民に愛されているのでした。
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