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第18章 新しい家族と新しい生命
侍女は追い掛ける
しおりを挟む「……………ねえ、エンダー」
長い廊下を歩きながら、アミィールは後ろに控えている専属侍女・エンダーに声をかけた。
____次はどんな馬鹿なことを言うのかしら。
「………なんでしょう」
「___子供は、どれだけ動いたら死んでしまうの?」
_____ほら、やっぱり馬鹿な事を言っている。
エンダーは目を閉じながら思考する。
この女のことだから、大方隠れて『任務』を行おうとしているのだろう。『任務』という使命の為だけに生きているような女だったから。
けれど、____セオドアという男と出会って、少し変わった。
他人の事を考えられるようになった。
機械的な考え方ではなく人間らしい考え方ができるようになってきた。
『任務』を始めた7歳の頃から冷めきっていた心に温もりが生まれたのだ。それは……………私にとって喜ばしいことであった。
人を殺すことでしか自分を現せない哀れな女が、人に愛され、愛し、固まった思考を溶かしていく。
けれどもそれはまだ始まったばかりで、『穢れ』を全て払うには足りない。まだまだ成長してもらわないと面白くない。
だから私はほんの少し背中を押してあげるんだ。
「____少なくとも『任務』を行えば子供は死にます」
「………………そう。やはり、子供というのはか弱いのですね」
「そうです。だから人の親は愛情を持ってお守りし、育てていく。
貴方が自己満足で動いて___その子達の命さえ穢すおつもりですか」
「____ッ」
アミィールの肩が震えている。
だから、心の声を聞いてみた。
『わたくしが役目をしなければ世界の秩序が…………ですが、セオドア様の御子達を殺したくなどない。わたくしの、わたくしの大切な子供達。守りたい。…………嗚呼、子供達とセオドア様だけで生きられる場所が欲しいわ。
サクリファイス大帝国ではなく、ユートピアではなく、たった4人しかいない世界に行ければ____こんなこと、思わないのに』
……………本当に、一周まわってバカ。とことん可愛くない女。セオドア様に同情するわ。あなたの愛する女はこんなにも可愛くないのよ。
思ったのだったら言えばいいのに、なんでも口を噤んで1人で背負おうとするのは美徳ではなく自己満足だとなぜ気づけないのでしょう。
「____アミィール様、御子を守るのも貴方の仕事です。
セオドア様は男、子供は産めない。セオドア様の生きた証を残せるのは妻である貴方だけです。
貴方がそれを理解しなければ…………セオドア様が可哀想でございます」
エンダーの言葉に、アミィールは目だけを向けて睨む。
「……………エンダー、貴方、まさかセオドア様を誘惑しようとしているのではないでしょうね?」
「はい?」
唐突な言葉にエンダーは聞き返す。
アミィールの黄金色の瞳は冷たく、妖しく光っている。それを向けられただけで全身に鳥肌が立った。
これは殺意だ。本気でこの女は私を殺すだろう。私も死にたくない。
「……………何故、そう思うのでしょうか?」
「___セオ様の名前を沢山出しているから。
誘惑するならその前に貴方を消滅させましょう」
「……………」
エンダーは大きく溜息をつく。
これは重症過ぎますでしょう。名前を出しただけでここまで嫉妬出来るのは逆に凄い。
「____わたくしはそこまで男に困っておりません。セオドア様は素敵ですが、リスクが高すぎて狙えませんわ」
「ふん、……………少しでもその気を出してみなさい。いつでも消滅させるわ」
そう言って颯爽と歩いていくアミィール様。
言っていることは無茶苦茶だけれど、この背中を追うのは___嫌いじゃない。
エンダーは、追い掛ける。
この女が変わるまで永遠に付きまとおうと改めて気を引き締めて_____
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