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第29章 主人公の裏設定
息子は純粋
しおりを挟む「____セオ様、大丈夫ですか?」
「…………ああ」
俺達は今、空を飛んでいる。アルティア皇妃様の聖の幻獣の鳥・ヴァルに跨っているのだ。腕の中のセラフィールはすやすやと眠っている。背中には____大きな、とても大きな白い翼。
この苦しみは俺にもわかった。
俺がフライを初めて使った時、痛すぎて泣いた程だ。この翼をみんなは美しいと言うけれど、この翼を生やすのは____痛いのだ。
「おそら~ぶんぶんぶ~ん!」
アドラオテルはヴァルの上でくるくると踊っている。………それさえも苛立たせた。俺は最低すぎる。自分の無力さを子供にぶつけようとするなんて………!
ぎり、と歯ぎしりをするセオドアを見て、アミィールはアドラオテルに言う。
「…………アド、大人しくしてくださいませ。貴方の姉が苦しんでいるのですよ」
「____悲しんだら、セラの苦しみは無くなるの?」
「___!」
アドラオテルはふざけるのをやめて、ぽつり、そう言った。ぽつり、ぽつりと零すように、アドラオテルは空を見上げながら言う。
「セラは………いつも頭硬いしゆーずーきかないしビビりだし泣くけど、…………父ちゃんや母ちゃんのこと、大好きだ。俺の事もきっと大好きだ。
大好きな人が泣いてて、セラは幸せなの?」
「……それは………」
「____俺、セラが泣かなくていいように、笑ってなきゃいけないんだ。
だって俺、弟だもん。俺が泣いたらセラがお姉ちゃんで居なきゃ行けなくなる。
だからっ!セラが寝ていても、俺はその分騒ぐんだーッ!」
アドラオテルの大きな声に、セオドアとアミィールは涙を流した。
アドラオテルは、たまにこういうことを言うんだ。悪戯好きで巫山戯てばかりで人の話なんて全く聞かない。けれど、ちゃんと『何が大事か』をわかっているんだ。まだ3歳なのに、自分を強く持っている。
それは______誇らしくて、泣かないなんて無理だ。
セオドアはセラフィールを抱きながら、アドラオテルも抱いた。
「………ごめんな、ごめん………ダメな父ちゃん、だな」
「そうだぞ、ダメダメだぞ。母ちゃんも、ダメダメ。だから俺が、俺だけでも、元気で居てあげるから。
思う存分ダメダメになれっ!」
「……ッ、ふふ、そんなことを言われたら、ダメダメになんてなれませんわ。
ねえ、セオ様」
「ははっ、そうだな。………本当に、その通りだ」
セオドアはくしゃり、アドラオテルの頭を撫でてから、向かっている方向を見る。俺の故郷。俺の故郷がセラフィールを苦しめているのなら、それを知るべきだ。
泣くのはその後でいい。カッコ悪くなるのはその後でいい。………今はただ、このかっこいい息子の前で格好つかせてくれよ。
アミィールはセオドアの顔を見て、微かに笑みを浮かべて、ヴァルの毛を引っ張った。ヴァルはそれに合わせて加速していく。
1分、1秒でも早く、早くつかなければ。
セラフィールの、セオドア様の………この謎の翼について、わたくしは知るべきだ。
一家を乗せた幻獣は物凄い速度でヴァリアース上空へ飛んだ。
* * *
「アミィ、ここらへんか?」
「ええ、そうですわ」
セオドアは何度も聞き返す。何故なら…………アミィール様が連れてきてくれた場所はただの雲だから。どこにも国どころか建物がない。辺りを見渡しても、何も無いのだ。
しかし、アミィールとアドラオテルには見えている。
「母ちゃん、ここ、すごいよ、たくさん、たくさん羽根が生えてる人、いるよ」
「ええ。此処がファーマメント王国なのです、………貴方のパパの、古い故郷です」
「………?」
どうやら、見えていないのは俺だけのようだ。でも、本当に何も無い。こんな俺がその王国の血筋を持つ人間なのか…………?
「セオ様____よく見てくださいね。
今、開けます。……………防御解除魔法・改」
「____!」
アミィール様がそう呟くと、空中に波紋が生まれた。そして、ヒビが入って………パリン!と弾けた。
そして____雲の上の大きな国の全貌が、見えた。
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