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第31章 『呪い』と戦う主人公

打開策があるからこそ焦る

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『にしても、まさかお前が"大天使"・オーファンの子孫だとはな』



 ハデスはパクパクと俺の作ってきたバームクーヘンを食べながら呑気にそう言う。


 大天使・オーファン____俺の裏設定だ。俺の先祖は元々"天国にいちばん近い島"・ファーマメント王国の亜人だったという。龍神が"亡者の思いの集まり"ならば、大天使は"愛者の思いの集まり"で出来た生き物。


 よもやギャルゲーの主人公が実は王族だったなんて誰が思う?いや、少女漫画とかではわりとある設定か?でも知ってたからと言って自分がそうだとは思わないだろう?


 俺も思わない。そんな高貴な血筋だとは自分でも納得出来ていないのだ。



『謙虚だねえ、流石大天使』


『セオドアはお菓子作りもできる』


『だから異常なまでに心が綺麗なのだ』


『この人間の菓子は美味い』


 大天使だというのをべた褒めしてくれるのかお菓子だけを褒めてくれているのかわからない。仲良しだな、神と精霊というのは…………………ッ!



 「セオ!」



 かくん、と膝が揺れた。
 倒れると思ったところをラフェエル皇帝様がすかさず抱き留めてくれた。

 ふぉおおおお!イケメンの顔が!近い!アミィールの男版!だけど俺の愛している人はアミィールだけだから!


 そう思いつつも顔を赤らめるセオドアに、ラフェエルは優しく額を触った。


 「……………熱があるな。今日はここまでだ」


 「そんなっ、まだ50本ですよ!?」


『約束を忘れたのかい、ボク?』

『……………約束を破るのは褒められない』


 「…………ッ」


 セオドアは顔をしかめる。
 自分のか弱さにここまで腹が立つことは無かった。高々少し血を流しただけだぞ?それなのになんて醜態だ。


 1日も早く『呪い』を解かなければ、アミィールも子供達もどうなるかわからないのに…………!


 ぎり、と歯ぎしりし睨みつけるセオドアに、ラフェエルは冷たく言う。


 「いくら睨もうとダメだ。体調が悪いものに成せることなどなにもないことを知れ、セオ」



 「____はい」




 セオドアは悔しい気持ちを抑えて、ラフェエルに抱えられながら空を飛ぶ。ハデスとケルベロスは『またね』なんて言って笑顔で俺達を見送った。



 *  *  *





 「ッ、はあ……………」


 クラクラする頭を抱えながら、廊下を歩く。ラフェエル皇帝は俺を寝室まで送ってくれる、と言っていたが丁重に断った。熱だったら移すし、熱じゃないとしても大帝国の皇帝を付き添い人として使うのは忍びないから。


 歩きながら、自分の手首を見る。
 未だに乾いていない血、一応ハンカチで抑えているがタラタラと流れている。この血を見ると、『勿体ない』と思ってしまう。



 このハンカチの吸っている分を柱にかければ、1本くらいは解けるだろう。


 「_____くそ」



 セオドアはダン、と廊下の壁を殴る。
 俺は何をしているんだ…………!時間が無い、ないのに…………!


 アミィールはいつどうなるかわからない身体。
 セラフィールはアドラオテルと半分の魔力、『呪い』な上『大天使』の力を強く宿しているから大丈夫だけど、不安定な身体。
 アドラオテルは1人で代償も呪いも大天使の力も押さえ込んでいるという。空の妖精神・スカイの言い方からして…………長く、無いかもしれない身体。



 そんな不安定な身体の愛する者達を放っておけるわけが無いだろう?   



 俺は、一刻もこの『呪い』をどうにかしなければならないのだ。





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