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本選二回戦とローケンス

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大成とマキネの闘いが終わり、次々と順調に試合が進んでいった。

初戦の試合結果は、大成、ローケンス、グランベルク、ルーニング、ガディザムは予想通りに勝ち残り、午後から二回戦が始まる予定になっていた。


【選手待機室の廊下】

一回戦が終わった大成は、マキネにどうしたら強くなれるか教えて欲しいとのことで追われていた。

結局、大成はマキネに武器と練習メニューを渡して解放された。


大成は、待機室に向かっていた途中にウルミラに遭遇した。

「あっ、大成さん。一回戦進出、おめでとうございます。お疲れ様でした。次は、いよいよローケンス様との闘いですね」

「そうだね」
大成は頷き、ウルミラは大成の傍に駆けつけて2人は一緒に待機室に向かった。



【選手待機室】

待機室に到着した大成とウルミラは、椅子に座って雑談していたらローケンスが大成の前にやって来た。

「小僧…。いや、大成だったな。昨日は負傷した人達を治癒して貰い。そ、その、何というか…か、感謝する。おかげで皆、大事に至らなかった。だが、今、お前が万全な状態ではないことは知っているが、俺は全力で挑むぞ。覚悟しとけ、良いな!」

「はい。こちらこそ、全力で行かせて頂きますよ。ローケンスさん」

「フハハハ…楽しめそうだ。期待しているぞ!」
ローケンスは大成を指をさして宣戦布告し、大成の返事を聞いて満足そうな笑みを浮かべて部屋を出ていった。


「そろそろ時間ですね」

「もう、そんな時間か。じゃあ、行ってくるよ。ウルミラ」

「はい!頑張って下さい、大成さん。応援してます。ですが、決して無理はしないで下さい」

「わかっているよ、ありがとうウルミラ」

「何事もないように…」
笑顔で大成を見送ったウルミラは、大成の姿が見えなくなったら一時の間、胸元で両手を合わせて握り締めて祈りを捧げた。



【リング】

第二回戦が始まろうとしていた。

「勝たせて頂きますよ。ローケンスさん」

「フハハハ…。では、楽しませて貰おうか。期待しているぞ大成!」
大成とローケンスは、お互いに笑みを浮かべる。

ローケンスは、予選からずっと大剣を使用していたので、大成も大剣を使用することにした。

理由は、ジャンヌとウルミラ曰く、ローケンスは凄腕の剣術家で魔王の右腕とも言われているそうだ。

そんな話を大成は聞いたので、自分の実力を試したくなりジャンヌに頼んで武器倉庫から大剣を借りることにした。

その時のジャンヌとウルミラの反応はというと…。

「人の話を聞いていたの!?大成」

「そうですよ!大成さん」
ジャンヌは呆れ果て、ウルミラはオロオロしながら心配した表情だった。



大成とローケンスは、お互い大剣を両手で握って構える。

本選の一回戦とは違い、会場は静まり返っていた。

「では、はじめ!」
ジャンヌの開始の合図が会場に響いた。

合図と同時に大成とローケンスは、お互いに身体強化して前に向かって走る。


お互い大剣を振るい、大剣同士がぶつかり轟音と共に衝撃波が生まれた。

お互いの力は拮抗しており、どっちらも譲らない。

「フハハハ…。その体格で俺の攻撃と互角か、魔力コントロールだけでなく肉体操作も巧いな。やはり、初めて会った時よりも更に化け物に成長しているな、大成」

「えっ!?」
大成は、驚愕しながらも切り返して真横に凪ぎ払った。

だが、ローケンスは大剣の剣先を下に向けて防ぐ。


「フハハハ…。絶妙な力加減の攻防が出来るとはな。久しぶりに血が熱くたぎるぞ!」
大成が見せた切り返しは、力を抜くタイミングと力加減を間違えれば、そのまま押されて斬られる可能性があった。

「ローケンスさん、今、初めてって言いましたよね。3年前のこと覚えていたのですか?」
大成は大剣を振り下ろすと、ローケンスはバック・ステップして後ろに下がって避けた。


「大成、何故そんな当たり前のことを聞く?お前は、あの美咲を倒したのだぞ。あの時の、お前の武術は達人の領域だった。この俺が見とれるほどにな。そんな奴を忘れるわけがなかろう。アース・クラクッレ」
大成が接近しようとしたら、ローケンスが大剣をリングに突き刺して土魔法アース・クラクッレを唱える。

ローケンスの大剣から大成に向かって一直線に地割れが発生した。


「うぉっ」
大成は、慌てて横に跳び避ける。

「エア・スラッシュ」
ローケンスは、流れる動作で大剣を何回も振って複数の風の刃を飛ばした。

(このままだと、じり貧だな。多少のリスクは覚悟するか)
大成は避けながら、ここが勝負だと判断した。


「エア・スラッシュ、アース・ショット、エア・スラッシュ」
次々にローケンスは魔法を放ち、大成に接近されないように立ち振るまう。

「ひっでぇ、これがヘルレウスのリーダーの闘い方かよ!大成は昨日、参加者の為に魔力を消費したのに正々堂々と闘え!リーダーとしてのプライドはないのか!」
観客の一人の男性が大きな声を出した。

「そうだな。流石にひっでぇよ!」
「そうだ!そうだ!」
「恥ずかしくないのか!」
「ブーブー」
周りも同調していき、会場はブーイングの嵐となる。


「おい、煩いぞ!周りは黙ってろ!ローケンスの何処が酷いんだ?これは魔王を決める大会だ!少しでも優位になる闘い方を選ぶのは極自然だろ!わかったら、黙って見ていろ!それでも、俺が勝つ!」
観客の言動にキレた大成は口調が変わり、今までとは比べ物にならないほどの威圧感を放ちながら大きな声を出して叱った。

ローケンスが怒るかと思っていた観客達は、予想外なことに庇っている大成が激怒したので驚いて一瞬で静まり返る。


「フハハハ…面白い!俺を庇うのか?むっ!?」
「あんたは、間違ってないからな」
「この攻撃の嵐を避けるだと!?」
大成はギリギリでローケンスの魔法を避け、かすり傷を被いながら接近して大剣を振り下ろす。

「くっ」
ローケンスは防ぎ、突きを繰り出して反撃した。

「っ!」
大成は、顔を傾けてギリギリで避けながら大剣を斜め上から振り下ろす。

しかし、ローケンスは横に跳んで避けた。

だが、大成の大剣は地面に衝突したが、その反動を利用して斜め下から斜め上に掬い上げて反撃する。

「なぬっ!うぉっ、フハハハ…。やるではないか!」
予想外なできごとに驚愕したローケンスは、咄嗟に後ろに体を反って大成の大剣を辛うじて避けたが頬を掠めており血が流れていた。

そして、今度はローケンスが斜め下から斜め上に掬い上げる様に大剣を振り上げる。

「くっ…」
大成は上半身を反って、ローケンスの大剣が目の前を通過した。


「やるな!だが、これはどうだ!」
バランスを崩した大成に、ローケンスは大剣を上から振り下ろす。

「くそ、この!」
大成は無理やり体を回転させ、遠心力を利用しながら大剣を横から凪ぎ払った。

お互いの大剣は、激しく衝突して火花と衝撃波が発生する。
「うぉ!」
「ぐっ…」
お互い少し後方に弾き飛ばされたが、大成は直ぐに体勢を整えてローケンスに接近して大剣を上から振り下ろして追い討ちをかける。


「くっ、いいだろう!俺も背水の陣の覚悟で相手してやる!」
ローケンスも、攻撃主体に替えた。

大成はギリギリで避けれる攻撃は避け、無理だったら防ぐという攻撃主体に替えており常に接近戦に持ち込む。
なぜなら、離れたら魔法攻撃の嵐になるからだ。

魔力があまり回復してない大成は、魔法攻撃や迎撃に魔力や魔法を使う余裕がなかったので、試合が始まってから一度も魔法は使わずに残っている魔力は全て身体強化に回すと始めから決めていた。


お互いに掠り傷が増えていき血は飛び散り、血塗れになっていく。
それでも、2人はその場に立ち止まって斬り合う。

お互い肩、腕、太股、頬、腹など徐々に傷が増えていき血が滲む。

恐怖を恐れたら、そこで終わるというギリギリの戦いが続く。


「大成、そろそろ魔力が尽きるのではないのか?俺の名剣とただの剣が何度もぶつかり合っていて折れないのは可笑しい。大成、お前は自分の大剣にも多くの魔力を纏わせているのだろう?しかも、俺に気付かせないほど、当たる直後だけ纏わせる神業は驚きを通り越して寒気がするぞ。だが、これで終わりだ!」
ローケンスは大成を狙わず、大成の大剣を狙って刀身半ばを切り落とした。
大成は、折られた大剣をローケンスに向かって投げつける。


「くっ」
ローケンスは辛うじて大剣で弾いたが、さっきまで目の前にいたはずの大成が居なくなっており完全に見失った。

そして、ローケンスが気付いた時には大成は自分の懐に入っており屈んでいた。

この瞬間、ローケンスは大成の大剣を斬ったのではなく、初めから大成はわざと自分の大剣を切らせたことに気付いた。

接近している状態だと大剣の長い刀身は邪魔になることや大剣の重量も軽量ができ投げやすくするために、大成はローケンスに斬らせた。

そして、大成は大剣を投げつけることでローケンスの視線は大剣に向かうので視界の広さを狭くさせることが目的だった。


「ハッ!」
大成は、そのまま全身のバネを使って右拳でアッパーを繰り出し、右拳がローケンスの顎を下から上に打ち抜いた。

「ぐはっ…」
ローケンスは口から血を吐きながら空中を舞い、そのままリングの上に落ち倒れた。



「ぐはっ…ハァハァ…。と、とても楽しかったぞ、大成…。た、大剣で、お、俺とここまで渡り合える奴は、そうはいない…いや、お、俺に勝ったのは魔王様と【時の勇者】ぐらいだ…。フハハハ…ま、参った…。俺の、完敗だ…。フハハハ…」
負けを認めたローケンスは、大の字になったまま盛大に笑った。


周りは、2人の戦いに見とれており静かになっていた。

「勝者、神崎大成!」
感動したジャンヌは、涙を流しながら勝利宣言をした。

そして…。
「さっきは、すまねぇローケンスさん」
「ローケンス様、小僧、とても良い闘いでした」
「おい、ガキ!ローケンス様に勝ったんだから優勝しろよな!」
「大成!これから、応援してやるぜ」
「俺も」
「私も応援するわ」
静寂だった会場は、観客達の声援で盛り上がった。

ジャンヌとウルミラ、ナイディカ村の人達は感動して涙を溢しており、エターヌとマキネは目を輝かしていた。



観客席からエターヌとマキネの声が響く。

「私のお兄ちゃんは、誰にも負けないよ!」
「私のダーリンは、最強に決まっているんだよ!」
2人は、近くの場所に居り声が重なった。

そして、お互いに振り向き…。

「お兄ちゃんは、私のお兄ちゃんだもん!」
「大成君は、私のダーリンだよ!」
「お兄ちゃんは誰にも渡さないし、誰にもあげない!」
「子供が何を勝手に決めてるの!」
「お姉ちゃんだって、エターヌより少しだけしか変わらないじゃん」
ギャーギャーと、エターヌとマキネの言い争いが会場に響いた。


(次は、死ぬことを応援してやるぜ。というか今、死ね。このリア充野郎!)
会話を聞こえた会場の男達は、意気投合した瞬間でもあったのだった。

今回も、大成はジャンヌとウルミラから冷たい目線で睨まれ、そして、会場の男達からは殺気を向けられた。

何故いつもこうなるのかと疑問に思った大成だったが、結局わからないまま苦笑いを浮かべて、その場に大の字で倒れた。

「疲れた~」
大成は、空を見上げて笑った。
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