25 / 55
ゴッド・エンチャントと勇者の正体
しおりを挟む
【パルシアの森・中央】
「ハッ!」
勇者は、剣で受け止めていたガディザムの右拳を弾いて腹に蹴りを入れた。
だが、ガディザムはビクともしていなかった。
「ガハハハ…オレノ、コブシヲウケトメルトハ、ヤルデハナイカ!ダガ、イマノガ、ゼンリョクカ?」
ガディザムは、歯応えのある獲物を見つけたような獰猛な笑みを浮かべてた。
「いや、心配するな全力じゃない。そう焦るなよ」
勇者は、メルサ達の方に視線を向け思い出した。
【過去・パルシアの森・バルビスタ国側】
少し前…。
勇者から自分達の判断に任せると言われて動揺した奈々子とツカサの2人は少しだけ考え、そして、2人は動揺していた表情から決心した表情に変わり、お互いの顔を見て頷いた。
「「ついていきます!」」
今までとは違い見違えるほど、その瞳には力強さが宿っていた。
そんな、2人を見て微笑むメルサと、口もとに笑みを浮かべる勇者。
「わかった。心配しなくてもいい、2人は今日は戦闘に参加させるつもりはない。今回は、傷ついた騎士団達の手当てなどの支援だけだ。勿論、メルサにも支援を手伝って貰う」
「わかったわ」
「「わかりました」」
3人は頷き、お互いの顔を見て笑った。
【パルシアの森・中央】
思い出した勇者は笑みを浮かべて提案する。
「そうだな、お前が全力を出すというのなら、全力を見せてやる。どうだ?」
「ガハハハ…。オモシロイゾ、ニンゲン。デハ、イクゾ。スキル、カイリキ」
ガディザムは勇者の挑発に乗り、ユニーク・スキル筋肉増強魔法怪力を使用した。
ガディザムの魔力と筋肉が増大していき、ガディザムの身長は2mから3mになり、魔力と威圧感が増した。
「ドウダ、オドロイタカ!」
「ああ、期待していたが、とても残念だ。しかし、約束は約束だ。エンチャント・ディバイダー。筋肉ダルマ、意識を集中しろよ」
勇者のユニーク・スキル、【ゴッド・エンチャント】を発動した。
勇者の剣が黄色の魔力を纏った。
【ゴッド・エンチャント】とは、好きな属性や効果を付与するという能力。
今回は、区切るという能力を付与した。
「ナンダ?ソレダケカ?ナメルナ!」
巨体なのに似合わないほどの速さでガディザムは、勇者に接近して右拳で殴ろうとする。
だが、勇者が先にガディザムの首を目掛け剣を横に凪ぎはらう。
一瞬、寒気がしたガディザムは、片腕に魔力を集中させガードしたが腕ごと首と一緒に切断された。
「バカ…ナ…」
ガディザムは、最後に首のない自分の体を下から見上げて息絶えた。
マールイ、ルーニングを含め、周りの騎士団達や盗賊達は未だに目の前の光景を信じられず、皆は時間が止まったかのように固まっていた。
勇者は、すぐにケルンの助太刀に向かった。
「糞、どうすれば…。ん?何だ?急に周りが静かになったな」
急に周りが静かになり、ケルンは気になったので見渡した。
「よそ見する余裕があるのか?」
「くっ、しまった…」
致命的なミスを犯したケルンに、魔剣の剣先が喉に迫る。
「副団長ともあろう者が、何を初歩的なミスを犯しているんだ」
「わっ!?」
勇者は、ケルンの後ろから兜の鉢(頭部)を鷲掴みして後ろに引っ張り回避させた。
「痛っ」
ケルンは、勇者の背後に倒れた。
「何をする!」
「フン、良いところで邪魔が入ったか…。新手か?」
ケルンは怒り、グランベルクは興味が反れた表情で勇者を見る。
「「何をする!」は、ないだろう。命の恩人に対して。あと、死ぬ奴に名乗っても意味がないが、冥土の土産に教えてやる。【時の勇者】と言えばわかるか?それで、お前は誰だ?」
勇者はケルンに呆れて溜め息をし、興味がない面持ちでグランベルクを一瞥した。
「俺様は、異世界の魔王【魔剣王】のグランベルクだ。貴様こそ、あの世で脆弱な先代の魔王を倒したことを誇り自慢すると良い」
「ん?魔王?ということは、お前らが魔王候補だったのか?なら、ここにいるということは、この世界で魔王になれなかったゴミか」
勇者は、肩を竦めて残念そうな表情を浮かべた。
「ククク…。やすい挑発だな。あの時は、魔剣が不調で偶然に負けただけだ。しかし、お前がこの世界の勇者か。面白い、相手にとって不足はない!だが、俺様を殺すだと?笑わせてく…」
「いや、お前はもう死ぬ。それに、敗因を武器のせいにしている時点で雑魚決定だと認識しろよ三流魔王」
グランベルクが話している最中に、勇者はディバイダーの能力を付与している剣を目に映らないほどの速さで振り抜く。
「言わせておけば!何だと…!?」
グランベルクは反応ができなかったが、グランベルクの鎧が針に変化し勇者の剣を防ごうとする。
しかし、勇者の剣は針ごとグランベルクの首を切り落とした。
勇者は、そのまま近くにいる盗賊達を倒しながら最後の標的であるルーニングに向かう。
ルーニングは、近づいてくる勇者を視認した。
「この人間風情が調子に乗り過ぎじゃ!ライトニング・ボルト」
仲間の魔王候補2人が殺され、ルーニングが激怒していた。
ルーニングは、指先を勇者に向けて雷魔法ライトニング・ボルトを唱え、指先から稲妻が迸り勇者を襲う。
「エンチャント・シール」
勇者は、今度は剣に封印の能力を付与して向かってくる稲妻を封印して無効化し、速度を落とさずに盗賊達を斬り捨てながらルーニングに近づく。
「な、何だ?見たこともない技じゃ。一体、何をしたのじゃ?!」
「わざわざ敵に、答えてやる奴がいると思うか?じいさん」
「ホホホ…。それも、そうじゃのぅ。ワシとしたことが少し取り乱しておったわい。だが、これは、どうじゃアース・ショット、アイス・ミサイル、ファイア・アロー」
ルーニングは、土、氷、炎の3属性を同時に10本ずつ召喚して勇者に向けて放った。
「アハハハ…。結構、楽しいことしてくれるな。流石、魔王候補だけのことはある。そうでなくては困る。アハハハ…」
勇者は笑いながら飛んでくる魔法攻撃に怯まず剣を振って、次々に魔法を封印して無効化していく。
「そうだな、そろそろこっちも攻撃をさせて貰おうか、エンチャント・ウィンド」
勇者は剣に風属性を付与し、剣の刀身に風が渦を巻き纏った。
「風刃波」
勇者は剣に魔力を込めて5回振り抜き、剣の軌道に合わせて風の刃5本を飛ばした。
風の刃は木を薙ぎ倒しながら進み、5本中の2本の風の刃は逃げようとした盗賊達に当り、盗賊達は切り刻まれ肉塊となり、残り3本はルーニングを襲う。
「あやつの能力は一体何じゃ、訳がわからん。それに、お前さんの雰囲気はあの憎たらしい小僧に似ておる…。その前に、エア・カッター」
ルーニングは風魔法エア・カッターを唱えて風の刃を3本放ち、正面から魔法攻撃の真っ向勝負に出た。
風の刃同士の対決だったが、エア・カッターは風刃波と衝突してルーニングの風の刃は完全に力負けして3本とも消滅し、勇者の風の刃が迫る。
「な、なんじゃと!?そんな馬鹿な!ぐっ…あ…」
魔法対決に負けたルーニングは驚愕し、一瞬だったが反応が遅れたところに勇者の3本の風の刃がルーニングを襲い、2本の刃は胴体に残りの1本の風の刃は首に当たり、ルーニングは空中でバラバラの肉塊になった。
「つまらんな、身体強化するまでもなかったか…」
勇者は興味なさげにルーニングの死体を見下ろし、懐から一枚のカード取り出して捨てた。
勇者以外の者達は、呆然として立ち尽くしていた。
気が付けば、魔王候補達及び盗賊達は全滅したと感じるほど勇者の戦いは一切無駄なく鮮やかだった。
「かっ、勝ったの…?」
「う、うん…そうみたい…だよ…ツカサちゃん」
静寂の中、ツカサの疑問に奈々子は答えた。
2人の決して大きくない声が響く。
そして、騎士団達は我に返り体を震わせていた。
「勝ったんだ…俺達…」
「ああ…」
「「かっ、勝ったぞ~!ウォォォ~!」」
騎士団達は、武器を掲げながら叫んだ。
「す、凄い!凄過ぎます!勇者様の圧勝ですよ!」
「うん!本当に凄いね!」
「当然よ!だって、私の夫になる人なんだから!」
ツカサ、奈々子、メルサは勇者の傍へ駆けつけ、メルサは勇者に抱きついた。
「2人とも、初めての戦場はどうだった?」
「正直に言いますと、人が目の前で簡単に死んだり、血や怪我をするところを見た時は吐き気がしました」
「私もです…」
勇者は奈々子達に振り向いて尋ね、奈々子とツカサは正直に感じたことを話した。
「今は、それでも構わない。それより、すまないが先にマールイとケルンの手当てをしてやってくれ」
「「はい」」
奈々子とツカサは頷き、ツカサが誘導して奈々子がテキパキと手当てを施していく。
「奈々子、マールイさんとケルンさんにヒールして」
「任せて、ツカサちゃん。ヒール」
奈々子はマールイとケルンに駆けつけ、光魔法ヒールを唱えてマールイとケルンの傷を癒す。
ツカサとメルサ以外の周りの皆は、直に奈々子のヒールを目の当たりして驚いていた。
なぜなら、奈々子のヒールは自分達が知っている僧侶やシスターが使うヒールよりも遥かに優れていたのだ。
「あの、勇者さん。お聞きしたいことがあるのですが…」
「ん?何だ?奈々子」
「どうして、私の名前を知っているのですか?」
「ああ、そうだったな」
勇者は、思い出した様に左手でフードを取った。
「えっ!?う、嘘…。だ、だって…行方不明で死んだって、軍人さんから報告を聞きました…」
奈々子は、口元に手を当てて涙が溢れた。
「まぁ、人が消えれば世間ではそうなるだろうな。だが、俺はこの通り生きている。心配させて、すまなかったな菜々子」
勇者は、優しく奈々子の頭に手を置いた。
「りゅ、流星義兄さん!生きていて、本当に良かった…。本当に良かったです…」
奈々子は、メルサを気にして流星に抱きつかずにその場で泣いた。
流星は苦笑いしながら、そんな奈々子の頭を優しく撫でた。
奈々子と流星の出会いはというと、奈々子が大成と合う前、流星も幼い頃に児童施設ひまわりにお世話になったので、ちょくちょく足を運んで顔を出していた。
流星が児童施設を訪れる度に、奈々子は流星から外の世界の話を聞くのが大好きで、いつも流星の手を引っ張て施設の責任者である七海と一緒に話を聞いていた。
奈々子にとって、流星は兄の様な存在だった。
戦いが終わった後、流星達はこれからどうするのかを決めるために話し合いをし、話し合いの結果、マールイやケルン、騎士団達の被害が大きかったのでバルビスタに帰還することにした。
帰還中、途中で魔人の騎士団達と遭遇したが、魔人達は遠くからコチラを見ているだけで何もしてこなかったので、こちらも無視して先に進んだ。
奈々子は歩きながら、今までのことを流星に話した。
「そうか。なら、もしかしたら大成も、こっちの世界に来ているかもしれないな」
「そう、思ったのですが…。今回、召喚されたのは私とツカサちゃんだけみたいです…」
大成のことを思い出した奈々子は、肩を落として落ち込んだ。
「ねぇ、その大成とかいう子って強いの?」
メルサは流星の片腕に抱きつたまま、興味津々な表情で尋ねる。
「ああ、前の世界だと俺の次に強かったな。前の世界では俺は【魔王】とか【死神】とか言われ、大成は【魔王の剣】とか【死神の鎌】とか言われていた。まぁ、要するに俺達は恐れられていたほど強かったわけだ」
メルサ、ツカサは興味津々で目を輝かせながら聞いていた。
奈々子だけは、複雑な気持ちだった。
今日、初めて人の死を間近で見て肌で感じた奈々子。
今まで、頭で想像していたことと現実は全く違うことに気付かされた。
今、思うと…。
殺されそうになったり、人を殺めたりする日常を送っていた場合、精神はどれだけ削れて消耗していくのかと考えると正直ゾッとする。
しかも、大成はそんな日々を小さい頃から耐えてきたのだ。
そんなことを考えたら、凄いと思うよりも可哀想に思えてくる奈々子だった。
「で、その大成って子が見つかったら、当たり前だけど仲間に入れるのよね?」
メルサの考えは皆も同じだったが、この場にいるただ一人だけが違ったことを考えていた。
「いや、一度、お互いの命を懸けた戦いをしてみたいな。大成となら、死闘になるだろうからな」
流星の発言を聞いて、皆が流星の方を見た。
流星の顔は、小さい子供がお気に入りのオモチャで遊んでいるような顔だった。
そんな、流星の顔を見た皆は背筋がゾッとした。
別話
【バルビスタ城】
マールイは、奈々子から治癒して貰った時から流星を目の敵として見ることがなくなり皆は不気味がっていた。
今まで、好意を抱いていた幼馴染みのメルサと婚約した流星が許せなかったマールイが大人しくなったのだ。
城に戻ったマールイは、速急に団員を呼び集めて緊急会議を始めた。
そして、会議は満場一致し、この日、奈々子親衛騎士団が誕生した。
マールイは、メルサから奈々子に乗り換えった瞬間だった。
次の日から、奈々子は【慈愛の女神】と呼ばれ、崇められることになった。
奈々子は、頬を赤く染めて引きつりながら苦笑いした。
ちなみに、奈々子は13歳に対しマールイは30歳、団員達は24~40歳であったため、周囲からは陰口でロリコン隊と呼ばれることになる。
「ハッ!」
勇者は、剣で受け止めていたガディザムの右拳を弾いて腹に蹴りを入れた。
だが、ガディザムはビクともしていなかった。
「ガハハハ…オレノ、コブシヲウケトメルトハ、ヤルデハナイカ!ダガ、イマノガ、ゼンリョクカ?」
ガディザムは、歯応えのある獲物を見つけたような獰猛な笑みを浮かべてた。
「いや、心配するな全力じゃない。そう焦るなよ」
勇者は、メルサ達の方に視線を向け思い出した。
【過去・パルシアの森・バルビスタ国側】
少し前…。
勇者から自分達の判断に任せると言われて動揺した奈々子とツカサの2人は少しだけ考え、そして、2人は動揺していた表情から決心した表情に変わり、お互いの顔を見て頷いた。
「「ついていきます!」」
今までとは違い見違えるほど、その瞳には力強さが宿っていた。
そんな、2人を見て微笑むメルサと、口もとに笑みを浮かべる勇者。
「わかった。心配しなくてもいい、2人は今日は戦闘に参加させるつもりはない。今回は、傷ついた騎士団達の手当てなどの支援だけだ。勿論、メルサにも支援を手伝って貰う」
「わかったわ」
「「わかりました」」
3人は頷き、お互いの顔を見て笑った。
【パルシアの森・中央】
思い出した勇者は笑みを浮かべて提案する。
「そうだな、お前が全力を出すというのなら、全力を見せてやる。どうだ?」
「ガハハハ…。オモシロイゾ、ニンゲン。デハ、イクゾ。スキル、カイリキ」
ガディザムは勇者の挑発に乗り、ユニーク・スキル筋肉増強魔法怪力を使用した。
ガディザムの魔力と筋肉が増大していき、ガディザムの身長は2mから3mになり、魔力と威圧感が増した。
「ドウダ、オドロイタカ!」
「ああ、期待していたが、とても残念だ。しかし、約束は約束だ。エンチャント・ディバイダー。筋肉ダルマ、意識を集中しろよ」
勇者のユニーク・スキル、【ゴッド・エンチャント】を発動した。
勇者の剣が黄色の魔力を纏った。
【ゴッド・エンチャント】とは、好きな属性や効果を付与するという能力。
今回は、区切るという能力を付与した。
「ナンダ?ソレダケカ?ナメルナ!」
巨体なのに似合わないほどの速さでガディザムは、勇者に接近して右拳で殴ろうとする。
だが、勇者が先にガディザムの首を目掛け剣を横に凪ぎはらう。
一瞬、寒気がしたガディザムは、片腕に魔力を集中させガードしたが腕ごと首と一緒に切断された。
「バカ…ナ…」
ガディザムは、最後に首のない自分の体を下から見上げて息絶えた。
マールイ、ルーニングを含め、周りの騎士団達や盗賊達は未だに目の前の光景を信じられず、皆は時間が止まったかのように固まっていた。
勇者は、すぐにケルンの助太刀に向かった。
「糞、どうすれば…。ん?何だ?急に周りが静かになったな」
急に周りが静かになり、ケルンは気になったので見渡した。
「よそ見する余裕があるのか?」
「くっ、しまった…」
致命的なミスを犯したケルンに、魔剣の剣先が喉に迫る。
「副団長ともあろう者が、何を初歩的なミスを犯しているんだ」
「わっ!?」
勇者は、ケルンの後ろから兜の鉢(頭部)を鷲掴みして後ろに引っ張り回避させた。
「痛っ」
ケルンは、勇者の背後に倒れた。
「何をする!」
「フン、良いところで邪魔が入ったか…。新手か?」
ケルンは怒り、グランベルクは興味が反れた表情で勇者を見る。
「「何をする!」は、ないだろう。命の恩人に対して。あと、死ぬ奴に名乗っても意味がないが、冥土の土産に教えてやる。【時の勇者】と言えばわかるか?それで、お前は誰だ?」
勇者はケルンに呆れて溜め息をし、興味がない面持ちでグランベルクを一瞥した。
「俺様は、異世界の魔王【魔剣王】のグランベルクだ。貴様こそ、あの世で脆弱な先代の魔王を倒したことを誇り自慢すると良い」
「ん?魔王?ということは、お前らが魔王候補だったのか?なら、ここにいるということは、この世界で魔王になれなかったゴミか」
勇者は、肩を竦めて残念そうな表情を浮かべた。
「ククク…。やすい挑発だな。あの時は、魔剣が不調で偶然に負けただけだ。しかし、お前がこの世界の勇者か。面白い、相手にとって不足はない!だが、俺様を殺すだと?笑わせてく…」
「いや、お前はもう死ぬ。それに、敗因を武器のせいにしている時点で雑魚決定だと認識しろよ三流魔王」
グランベルクが話している最中に、勇者はディバイダーの能力を付与している剣を目に映らないほどの速さで振り抜く。
「言わせておけば!何だと…!?」
グランベルクは反応ができなかったが、グランベルクの鎧が針に変化し勇者の剣を防ごうとする。
しかし、勇者の剣は針ごとグランベルクの首を切り落とした。
勇者は、そのまま近くにいる盗賊達を倒しながら最後の標的であるルーニングに向かう。
ルーニングは、近づいてくる勇者を視認した。
「この人間風情が調子に乗り過ぎじゃ!ライトニング・ボルト」
仲間の魔王候補2人が殺され、ルーニングが激怒していた。
ルーニングは、指先を勇者に向けて雷魔法ライトニング・ボルトを唱え、指先から稲妻が迸り勇者を襲う。
「エンチャント・シール」
勇者は、今度は剣に封印の能力を付与して向かってくる稲妻を封印して無効化し、速度を落とさずに盗賊達を斬り捨てながらルーニングに近づく。
「な、何だ?見たこともない技じゃ。一体、何をしたのじゃ?!」
「わざわざ敵に、答えてやる奴がいると思うか?じいさん」
「ホホホ…。それも、そうじゃのぅ。ワシとしたことが少し取り乱しておったわい。だが、これは、どうじゃアース・ショット、アイス・ミサイル、ファイア・アロー」
ルーニングは、土、氷、炎の3属性を同時に10本ずつ召喚して勇者に向けて放った。
「アハハハ…。結構、楽しいことしてくれるな。流石、魔王候補だけのことはある。そうでなくては困る。アハハハ…」
勇者は笑いながら飛んでくる魔法攻撃に怯まず剣を振って、次々に魔法を封印して無効化していく。
「そうだな、そろそろこっちも攻撃をさせて貰おうか、エンチャント・ウィンド」
勇者は剣に風属性を付与し、剣の刀身に風が渦を巻き纏った。
「風刃波」
勇者は剣に魔力を込めて5回振り抜き、剣の軌道に合わせて風の刃5本を飛ばした。
風の刃は木を薙ぎ倒しながら進み、5本中の2本の風の刃は逃げようとした盗賊達に当り、盗賊達は切り刻まれ肉塊となり、残り3本はルーニングを襲う。
「あやつの能力は一体何じゃ、訳がわからん。それに、お前さんの雰囲気はあの憎たらしい小僧に似ておる…。その前に、エア・カッター」
ルーニングは風魔法エア・カッターを唱えて風の刃を3本放ち、正面から魔法攻撃の真っ向勝負に出た。
風の刃同士の対決だったが、エア・カッターは風刃波と衝突してルーニングの風の刃は完全に力負けして3本とも消滅し、勇者の風の刃が迫る。
「な、なんじゃと!?そんな馬鹿な!ぐっ…あ…」
魔法対決に負けたルーニングは驚愕し、一瞬だったが反応が遅れたところに勇者の3本の風の刃がルーニングを襲い、2本の刃は胴体に残りの1本の風の刃は首に当たり、ルーニングは空中でバラバラの肉塊になった。
「つまらんな、身体強化するまでもなかったか…」
勇者は興味なさげにルーニングの死体を見下ろし、懐から一枚のカード取り出して捨てた。
勇者以外の者達は、呆然として立ち尽くしていた。
気が付けば、魔王候補達及び盗賊達は全滅したと感じるほど勇者の戦いは一切無駄なく鮮やかだった。
「かっ、勝ったの…?」
「う、うん…そうみたい…だよ…ツカサちゃん」
静寂の中、ツカサの疑問に奈々子は答えた。
2人の決して大きくない声が響く。
そして、騎士団達は我に返り体を震わせていた。
「勝ったんだ…俺達…」
「ああ…」
「「かっ、勝ったぞ~!ウォォォ~!」」
騎士団達は、武器を掲げながら叫んだ。
「す、凄い!凄過ぎます!勇者様の圧勝ですよ!」
「うん!本当に凄いね!」
「当然よ!だって、私の夫になる人なんだから!」
ツカサ、奈々子、メルサは勇者の傍へ駆けつけ、メルサは勇者に抱きついた。
「2人とも、初めての戦場はどうだった?」
「正直に言いますと、人が目の前で簡単に死んだり、血や怪我をするところを見た時は吐き気がしました」
「私もです…」
勇者は奈々子達に振り向いて尋ね、奈々子とツカサは正直に感じたことを話した。
「今は、それでも構わない。それより、すまないが先にマールイとケルンの手当てをしてやってくれ」
「「はい」」
奈々子とツカサは頷き、ツカサが誘導して奈々子がテキパキと手当てを施していく。
「奈々子、マールイさんとケルンさんにヒールして」
「任せて、ツカサちゃん。ヒール」
奈々子はマールイとケルンに駆けつけ、光魔法ヒールを唱えてマールイとケルンの傷を癒す。
ツカサとメルサ以外の周りの皆は、直に奈々子のヒールを目の当たりして驚いていた。
なぜなら、奈々子のヒールは自分達が知っている僧侶やシスターが使うヒールよりも遥かに優れていたのだ。
「あの、勇者さん。お聞きしたいことがあるのですが…」
「ん?何だ?奈々子」
「どうして、私の名前を知っているのですか?」
「ああ、そうだったな」
勇者は、思い出した様に左手でフードを取った。
「えっ!?う、嘘…。だ、だって…行方不明で死んだって、軍人さんから報告を聞きました…」
奈々子は、口元に手を当てて涙が溢れた。
「まぁ、人が消えれば世間ではそうなるだろうな。だが、俺はこの通り生きている。心配させて、すまなかったな菜々子」
勇者は、優しく奈々子の頭に手を置いた。
「りゅ、流星義兄さん!生きていて、本当に良かった…。本当に良かったです…」
奈々子は、メルサを気にして流星に抱きつかずにその場で泣いた。
流星は苦笑いしながら、そんな奈々子の頭を優しく撫でた。
奈々子と流星の出会いはというと、奈々子が大成と合う前、流星も幼い頃に児童施設ひまわりにお世話になったので、ちょくちょく足を運んで顔を出していた。
流星が児童施設を訪れる度に、奈々子は流星から外の世界の話を聞くのが大好きで、いつも流星の手を引っ張て施設の責任者である七海と一緒に話を聞いていた。
奈々子にとって、流星は兄の様な存在だった。
戦いが終わった後、流星達はこれからどうするのかを決めるために話し合いをし、話し合いの結果、マールイやケルン、騎士団達の被害が大きかったのでバルビスタに帰還することにした。
帰還中、途中で魔人の騎士団達と遭遇したが、魔人達は遠くからコチラを見ているだけで何もしてこなかったので、こちらも無視して先に進んだ。
奈々子は歩きながら、今までのことを流星に話した。
「そうか。なら、もしかしたら大成も、こっちの世界に来ているかもしれないな」
「そう、思ったのですが…。今回、召喚されたのは私とツカサちゃんだけみたいです…」
大成のことを思い出した奈々子は、肩を落として落ち込んだ。
「ねぇ、その大成とかいう子って強いの?」
メルサは流星の片腕に抱きつたまま、興味津々な表情で尋ねる。
「ああ、前の世界だと俺の次に強かったな。前の世界では俺は【魔王】とか【死神】とか言われ、大成は【魔王の剣】とか【死神の鎌】とか言われていた。まぁ、要するに俺達は恐れられていたほど強かったわけだ」
メルサ、ツカサは興味津々で目を輝かせながら聞いていた。
奈々子だけは、複雑な気持ちだった。
今日、初めて人の死を間近で見て肌で感じた奈々子。
今まで、頭で想像していたことと現実は全く違うことに気付かされた。
今、思うと…。
殺されそうになったり、人を殺めたりする日常を送っていた場合、精神はどれだけ削れて消耗していくのかと考えると正直ゾッとする。
しかも、大成はそんな日々を小さい頃から耐えてきたのだ。
そんなことを考えたら、凄いと思うよりも可哀想に思えてくる奈々子だった。
「で、その大成って子が見つかったら、当たり前だけど仲間に入れるのよね?」
メルサの考えは皆も同じだったが、この場にいるただ一人だけが違ったことを考えていた。
「いや、一度、お互いの命を懸けた戦いをしてみたいな。大成となら、死闘になるだろうからな」
流星の発言を聞いて、皆が流星の方を見た。
流星の顔は、小さい子供がお気に入りのオモチャで遊んでいるような顔だった。
そんな、流星の顔を見た皆は背筋がゾッとした。
別話
【バルビスタ城】
マールイは、奈々子から治癒して貰った時から流星を目の敵として見ることがなくなり皆は不気味がっていた。
今まで、好意を抱いていた幼馴染みのメルサと婚約した流星が許せなかったマールイが大人しくなったのだ。
城に戻ったマールイは、速急に団員を呼び集めて緊急会議を始めた。
そして、会議は満場一致し、この日、奈々子親衛騎士団が誕生した。
マールイは、メルサから奈々子に乗り換えった瞬間だった。
次の日から、奈々子は【慈愛の女神】と呼ばれ、崇められることになった。
奈々子は、頬を赤く染めて引きつりながら苦笑いした。
ちなみに、奈々子は13歳に対しマールイは30歳、団員達は24~40歳であったため、周囲からは陰口でロリコン隊と呼ばれることになる。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
リストラされた42歳、確率の向こう側へ。~なぜか俺の選択肢がすべて正解になる件~
RIU
ファンタジー
「君には今月いっぱいで席を空けてもらいたい」 42歳、独身、社畜。会社のために尽くしてきた柏木誠は、理不尽な理由でリストラされた。 絶望の中、雨の神社で野良猫を助けた彼は、不思議な光と共に【確率固定】という異能――「無意識に正解を選び続ける豪運」を手に入れる。
試しに買った宝くじは10億円当選。 復讐心に燃える元上司を袖にし、元天才投資家の美女をパートナーに迎えた柏木は、その豪運で現代社会を無双していく。
「俺の選択に間違いはない。なぜなら、確率の方が俺に合わせるからだ」
枯れたおじさんが資産と余裕を手に入れ、美女たちに頼られながら、第2の人生を謳歌する痛快サクセスストーリー!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる