スノー・ランド~イエティと呼ばれた少年と精霊を宿した姫~

フミナベ

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クリス

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マミューラは本当は自給自足しながら、ゆっくりと山で暮らしたかったのだが、クリスを拾って育てていくうちに自分では知識や他人とのコミュニケーションなどは教えきれないと思い、仕方なく、6歳のクリスを城へ連れて通うことにした。


【スノー城】

ボタン雪が降り、国中、雪によって辺り一面が真っ白になっている。

城の入口には、国の姫である王家の中でも才能がある者にしか現れないと言われている碧眼と軽めのボブカットした青髪の6歳の少女アイリスがソワソワしながら30分も前からクリスとマミューラが訪れるを待っていた。

「ねぇ、サリア。私の髪、乱れてない?」
アイリスは、左手に手鏡を持って何度も確認しながら待機しているメイド長のサリアに尋ねる。

「大丈夫ですよ、アイリス様。乱れていません。」

「ねぇ、何処か変なところない?」

「フフフ…。大丈夫ですよ。アイリス様は、いつ見ても可愛いです。それよりも、マミューラ様方が訪れるまで、まだお時間がありますので暖炉がある暖かいお部屋でお待ちしていて下さい。マミューラ様方が訪れた際、直ぐ様、私共がアイリス様にご報告を致しますので。」

「それは駄目よ。だって、そ、その、私が誰よりも先にクリスにあ、会いたい…から…。」
恥ずかしくなったアイリスは、声が小さくなる。

「フフフ…。わかりました。ですが、ここは少し肌寒いので椅子と毛布をご用意をさせて頂きますね。」

「うん、ありがとうサリア。」

それから、15分後にマミューラとクリスが到着した。


「おはよう!クリス。それに、おはようございますマミューラさん。」
アイリスは、嬉しそうに微笑みながら挨拶した。

「おはよう、アイリス。」

「おはようございます、姫様。」

「「おはようございます、マミューラ様、クリス様。お待ちしておりました。」」
左右の壁に沿う様に並んでいたサリア達メイドは、一斉に頭を下げた。

「ああ、おはよう。」

「おはようございます、皆さん。」


「ねぇ、クリス。こっちよ。今日は、一緒に歴史の勉強をしましょう。」

「うん。わかったよ、アイリス。」
アイリスは、嬉しそうにクリスの手を取って自分の部屋へと走った。

「フフフ…。」
マミューラとサリア、メイド達は、そんな二人の後ろ姿を見て微笑んだ。


アイリスの部屋はとても広いが、この国の姫でも年頃相応な部屋でぬいぐるみや花の絵柄のカーテンなどで可愛く飾られていた。

アイリスは普段使用している自分の机は使わず、クリスのために用意した部屋の中央に置いた長方形の机を使い、クリスの隣に正座して座った。

すぐに専属の教師が訪れ、講習が始まった。

クリスは真面目に教師の話を聞きながらノートを書き写している。

アイリスもノートに書き写していたが、時々、チラチラとクリスの真剣な横顔を見て頬を赤らめていた。

そして、講習が終わったクリスとアイリスは大広間へと向かった。



【大広間】

大広間にはドアの壁際にメイド二人が立っており、中央にある大きなテーブルにはマミューラとバロシュ国王、妃のサリーダがコーヒーを飲んでいた。

「クリス、今日はどうだったかい?」

「うん、今日は僕が好きなあの絵本の勉強だったよ、お婆ちゃん。」

「それは、良かったね。」

「うん!」

「じゃあ、そろそろ暗くなる前に帰ろうかクリス。ん?」
クリスの勉強が終わったので、マミューラは帰ろうとしたが外は吹雪になっていた。

「あ、あの、お父様。外は吹雪になっています。クリスとマミューラさんがお帰りになるのは、とても危険です。今日は泊まって頂いて貰ってわ?」

「うむ、そうだな。マミューラ、クリスよ。今日は泊まっていきなさい。今、外は吹雪だからな。」
バロシュ国王は、頷いて肯定した。

「感謝します。それでは、お言葉に甘えさせて頂きます 。」
マミューラはアイリスを見て笑みを浮かべてウィンクすると、アイリスも胸元で手を合わせて嬉しそうに笑顔を浮かべてお辞儀をした。


「やったわ!そうと決まれば、クリス、私の部屋で遊びましょう!」

「あ、うん。」

「アイリス、嬉しいのはわかるが。遊ぶよりも先に食事だ。その後から遊びなさい。」

「は、はい、わかりましたお母様。」

「サリア、食事の準備はどうなっているの?」

「はい、食事の準備はできていますので、いつでも召し上がれます。」

「そうか、少々、早いが食事にしようと思うが構わないか?」

「ええ、私は構いませんよ。あなた。」

「私達も問題ありません。ねぇ、クリス。」

「うん。」
マミューラは、クリスに視線を向けると頷いた。

「なら、お父様。せっかくなので、二階の部屋で食事をしませんか?」

「それは、良い提案だアイリス。」
普段、お客が来た時は大広間で食事をするのだが、今回はマミューラ、クリスとは親しい間柄でもあり、全員で5人という少人数だったので、2階のプライベート・ルームで食事をすることにした。

プライベート・ルームは室内だが、多くの植物が生えており、まるで庭にいるかの様な部屋だった。

「わぁ~凄い!庭みたい。ん?あれ?見たことがない植物ばかりだ。」
クリスは見慣れない植物に興味津々で目を輝かせながら駆け寄り、触ったり色んな角度から見て観察する。

「フフフ…。凄いでしょう、クリス。この部屋の植物は、他国の植物が多いの。でも、他国の植物は寒さに弱いものばかりだから部屋の中じゃないと枯れたり育たないの。」

「へぇ~、そうなんだ。他国には色んな植物があるんだね。」

「ええ、そうよ。はい、クリス。これ、食べてみて。驚くほど、美味しいわよ。」
アイリスは、手前に植えられているこの国にはないリンゴの木からリンゴを千切ってクリスに渡した。

「ありがとう、アイリス。ん?瑞々(みずみず)しくってシャキシャキしてて甘い!?とても美味しいよ、これ!」

「フフフ…。でしょう!私も、始めて食べた時、驚いたもの!でも、食事前だから、あまり食べちゃ駄目だからね。」

「わかっているよ、アイリス。はい、お婆ちゃん。これ、凄く美味しいよ。」

「ありがとう、クリス。うん、やはり、リンゴは採りたてが一番美味しいね。」

「お婆ちゃん、食べたことあったんだ。」

「まぁね。若い頃、私は国王様と妃様の護衛で色んな国々を訪れていてね。リンゴなど見たことのない美味しい物や変わった味がする食べ物。初めて会ったのに優しく接してくれた人達。やはり、印象に残ったのは見たことない物や景色など体験したねぇ。でも、良いことばかりじゃなかったんだけどね。」
マミューラは、思い出す様に遠くを見ている眼差しで話す。

「そうなんだ。僕も色んな国に行きたいなぁ。」

「じゃ、じゃあ、クリス。わ、私の…そ、その、せ、専属の…護衛役に…なれば良いじゃない…。」
恥ずかしくなったアイリスは顔を真っ赤に染め、モジモジしながら左右の人差し指をくっつけたり離したりして小声で話す。

「ハハハ…。それは、良いね。一生懸命、頑張ってみるけど。多分、無理だよ。僕より優秀な人は大勢いると思うし、それに、僕は争い事が嫌いだし苦手だからね。アイリスも、護衛役は僕よりも格好いい人や話しやすい同じ女の子の方が良いだろ?」

「私は他の人よりも、クリスになって貰いたいの!あっ!?そ、その…あの…今のは…その…あのね…。」
途中で自分が言った言葉の意味を理解したアイリスは、顔を真っ赤に染めて狼狽える。

「わかったよ、頑張ってみるよ。」

「う、うん…。」

「フフフ…。良かったわね、アイリス。」

「お、お母様っ!」

「「フフフ…。」」
マミューラ達は、微笑んだ。


「そういうことになったから、お婆ちゃんお願い。」

「はぁ、わかったよクリス。でも、とてもキツイから覚悟するんだよ。私はね、一切、手を抜かないで全てを叩き込むつもりだからね。やめるなら今のうちにやめた方が良い。あと、もし1度でも逃げたら2度と教えないからね。覚悟しとくんだよ。だけど、もし訓練に耐えきったその暁には、この国で最強の騎士になっていることを約束する。」
マミューラは一度ため息をして、いつもは優しい眼差しでクリスを見守る様に見ていたが、今回は鋭い眼光でクリスを品を見定めるかの様に見つめる。

「う、うん。お願いします。」
マミューラの鋭い眼差しを目の当たりにしたクリスは体が震え、マミューラの気迫に押し負けそうになったが、拳を強く握り締めてマミューラの鋭い眼光から目を離さず真っ直ぐに見つめて返事をした。

「フッ、良い心意気と返事だね。なら、明日から訓練を始めようかね。」
(やはり、クリスも男の子なんだね。)
マミューラは、鋭い眼光からいつもの見守る様な優しい眼差しでクリスを見て微笑んだ。

「うん!ありがとう、お婆ちゃん!お願いします。」
クリスの瞳には力強さが宿っていた。


次の日から、マミューラの猛特訓が始まった。

クリスが勉強しに城に来た時、クリスが頭に包帯が巻かれており、あちらこちらに絆創膏が貼られていたのでアイリスは動揺した。

「え!?ク、クリス、あなた大丈夫なの?ボロボロじゃない。その怪我は、どうしたの?」

「アハハ…。これは、木の枝から枝に跳び移る練習で何度も地面に落ちたからね。」
クリスは、頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。

「……。」
アイリスは、ボロボロの姿で苦笑いを浮かべるクリスの姿を見て心に痛みが走った。


そして、別の日には…。

クリスは身体中に絆創膏が貼っており、所々、腫れていた。
「クリス、あなた身体中傷だらけじゃない。」

「アハハ…。今日は、お婆ちゃんと手合わせをしたんだ。本当に強かったよ。」

「あのね、クリス。私の願いを叶えようとして無理はしないで。別に、私は…。」
申し訳なさそうにアイリスは話す。

「アイリス、これは僕自身の夢でもあるんだ。今は、お婆ちゃんに全く勝てそうにないけど、いつか勝って見せるよ。」

「フフフ…。わかったわ、期待しているわ。だけど、無理だけはしないでお願いだから。」

「わかったよ。」

「約束よ。」
アイリスは右手の小指を伸ばして、クリスと指切りをした。

2人は、笑顔を浮かべていた。



【スノー・ランド、アクア学院】

クリスは10歳になっており、毎日、山からアクア学院に通っていた。

クリスの学力は学院で1位だったが、1つ悩んでいることがあった。

それは、人は6歳~7歳ぐらいから自然と魔法が使える様になるのだが、クリスだけが未だに魔法が使えなかったのだ。

そのため、クラスメイトの男子達からは馬鹿にされて落ちこぼれや無能と言われる様になったのだ。


それでもクリスは不貞腐ることはなく、毎日、朝早くから学院に登校して校舎の裏側で一人で魔法の練習を欠かさずにしている。

「まずは、簡単な初級の魔法から練習した方が良いかな。アクア。」
クリスは、両手を前に出して水魔法アクアを唱えるが何も変化はなかった。

「今度は、イメージしやすい様に片手を水に浸けたまま、アクア!」
クリスは水が入ったバケツに左手を浸けて、右手に魔力を込めて再びアクアを唱えたが今度も何も変化はなかった。

「う~ん、可笑しいな。魔力がないとか小さいとかなら魔法が使えないのはわかるけど、僕は魔力はあるのに何で魔法が使えないのだろう?」
クリスは、右手に魔力を込めて考え込んでいたら校舎の角から人影が見えた。

校舎の角から現れたのはアイリスだった。
アイリスは、青髪を背中まで伸ばしていた。

アイリスは、クリスと同じクラスだった。

「おはよう、クリス。今日も朝早くから練習していたのね。」

「おはようございます、アイリス様。」

「もう!クリス。誰もいない時は、敬語は使わないって約束したでしょう?」
アイリスは、頬を膨らませながら右手の人差し指でクリスの頬を突っつく。

「あ、ごめんよ、アイリス。学院にいると、ついね…。」

「わかれば、良し!ねぇ、お水を持ってきたから休憩しない?」
アイリスは、前屈みになって持ってきた小さな水筒を右手で顔の近くまで持ち上げて傾けて微笑んだ。



クリスとアイリスは、近くにあったベンチに腰かけた。

「はい、お水。」
アイリスは、水筒のコップになっている蓋を開けてコップに水を入れてクリスに渡した。

「ありがとう、アイリス。」
水が入っているコップを受け取ったクリスは水を飲む。
隣に座っているアイリスは、クリスの飲んでいる姿を見て頬を赤らめた。

アイリスにとってクリスは、数少ない心から信用でき対等に接してくれる人物だけでなく、人から馬鹿にされても不貞腐ることはなく、ひたすら努力する純粋なクリスの性格や真っ直ぐな姿勢が好きだった。

「あのね、クリス。この前した約束を覚えている?」

「もちろん。今日、学院が終わったら二人で山へ行って氷華の花を採取する。であっているよね?」

「ええ!」

「でも、護衛に騎士団の人達を呼ばなくて良かったの?」

「良いのよ。この国には魔物はいないし、クリスが居れば遭難はしないわ。それに…せっかく二人で…デ…デートできるのだから…。」

「ん?ごめん、最後だけ聞き取れなかったよ。」

「べ、別に良いわ、大したことじゃないから。それより、クリス。わ、私も喉が乾いたわ。コップを、か、貸して欲しいのだけど…。」
アイリスは、慌てて誤魔化す様に話を反らす。

「あ、ずっとコップを持っていてごめん。返すよ、はい。」

「う、ううん、気にしないで。あ、ありがとう、クリス。」
コップを受け取ったアイリスだったが、コップに水を入れている最中に間接キスになると気付き、頬を赤く染めてクリスが口を付けたコップの縁を凝視する。

「ん?どうしたの?アイリス。飲まないの?」

「な、何でもないわ。」
アイリスは顔を真っ赤に染めて力強く目を瞑ったまま、クリスが口を付けたコップの縁に唇を合わせて水を飲んだ。

「アイリス、顔が真っ赤だけど風邪でも引いた?今日は、もう早く帰って大人しく寝ていた方が良いよ。氷華の花は、僕が一人で集めておくから安心して。」

「え!?わ、私は大丈夫よ!」

「いや、アイリス。鏡を見たらわかるよ。本当に顔が真っ赤だから。」


「いや、その…これは…そのね…。」

「ん?じゃあ、もし苦しくなったら気にせずに教えてアイリス」

「う、うん。でも、本当に私は大丈夫だから。気遣ってくれてありがとう、クリス。と、ところで、今日はどうだったの?魔法は使えたの?」

「ううん、今日も駄目だったよ。でも、きっと努力すれば使える様になると思うから練習は欠かさないで続けるつもり。」

「そうね。でも、不思議よね?魔力がないとか、魔力が小さいとかなら魔法が使えないのはわかるのだけど。クリスの内に秘めている魔力は、信じられないけれど精霊を宿していない王族以上の魔力があるわ。それなのに、魔法が使えないなんて普通ではありえないことだもの。それほどの魔力があれば、普通は大魔法も使えるはずなのだけど…。」

「だよね?僕もそう思っていたんだ。じゃあ、イメージが駄目だったのかな?でも、一番イメージが簡単な水魔法のアクアを練習しているんだけどな。」

「「う~ん…。」」
クリスとアイリスは、口元に手を当てて頭を傾げて悩んだ。

二人で悩んでいたら、学院中にチャイムが鳴り響いた。


「あ、もうこんな時間だ。一緒に考えてくれて、ありがとうアイリス。授業が始まるから、急いで教室に戻ろう。」
「あ、う、うん…。」
クリスは、アイリスの手を取って繋いだまま走る。
アイリスは、顔を赤く染めて俯いたまま一緒に教室に向かった。


クリスとアイリスは、教室に入って挨拶する。
「「おはよう。」」
「「おはようございます、アイリス様、クリス君。」」
クラスメイトの男子達は、挨拶してアイリスに集まった。


「アイリス様、ところで、今日は氷華の花を採取する予定ですよね?」

「え?ええ、そうだけど…。何故、知っているの?」

「こいつの父親は料理人で、料理屋ランバン亭を経営していましてアイリス様と無能がお食事している時の会話を偶然にも聞こえたそうです。」

「おい、コラ!秘密だと親父が言っていただろ!」

「あ、すまん。つい…。」

「つい、じゃねぇよ!」

「お前達、喧嘩なら他所でしていろ。アイリス様、それでですね。もしアイリス様が宜しければ、俺達もアイリス様と同行しても宜しいでしょうか?人数が多ければ多いほど、採取の効率が上がりますし!俺達、アクア・ショットを使えるのでボディーガードもできますよ!」

「え?ええ…。そうね…。それは、頼もしいわね…。」
(はぁ、楽しみにしていたのに、本当はクリスと二人きりで行きたかったのだけど…。でも、断る理由もないから仕方ないわね…。はぁ…。)
アイリスは苦笑いを浮かべながら諦めて了承し、チラッとクリスを見て深いため息をした。


そして、学院が終わり、山の麓にアイリスとクリスとクラスメイトの男子6人、それに騎士団3人が集まっていた。

アイリスはクリスとデートするために騎士団達を呼ぶ予定はなかったが、クラスメイトの男子達が同行することになったので安全のために同行を頼むことにした。


「あの、何故、騎士団の方々が?この国には魔物がいなから大丈夫だと思いますが?」

「そ、そうだぜ!」

「私が頼んだの。遭難や怪我などしないためにもね。」

「山の奥深くまで行っても大丈夫ですよ!俺達はアクア・ショットが使えます。例え、野生の動物が襲って来ても倒せます!」
男子達は、この機にアイリスとの距離を詰めようと思っていたので、騎士団達がいるとアイリスに接しにくくなると思いどうにかしたかった。

「おっ!その年でアクア・ショットを使えるのか。大したものだ。将来が楽しみだな。もしかしたら、俺達みたいに騎士団になれるかもしれないぞ!」

「でしょう?僕達は才能あるのですけど。そこにいる人だけ、もう10歳にもなるのにアクア・ショットどころか初級魔法のアクアすら使えないままなのですよ。だから、無能のクリスって言われています。笑えるでしょう?」
1人の男子がクリスを見下しながら説明すると、他の男子達も便乗して笑った。

馬鹿にされたクリスは全く気にしてはいなかったが、アイリスは不機嫌になり顔をしからめる。

「おい!小僧!今、クリスを無能だと馬鹿にしたな!」
騎士団達はクリスと付き合いが長く、騎士団の1人がクリスを馬鹿にされたことに激怒して馬鹿にした男子生徒の胸ぐらを掴んだ。

「ヒィッ。」

「おい!やめろ!落ち着け!相手は子供だ。子供相手にムキになるなよ。」

「だってよ、コイツらクリスのことを馬鹿にした挙げ句、笑いやがったんだぞ!」

「気持ちはわかるが、まずは落ち着け。」

「ちっ、威圧して、すまなかったな。」

「仲間が失礼した。」

「いえ…。僕は…その、気にして…。」

「だが、君も人を見下し貶すことは良くないぞ。魔法の技術を磨く前に、その性格を直さないと人としてどうかと思うぞ。一緒に笑った君達も同じだ。」

「「はい…。」」
反省した男子達は、小さな声で返事をした。

「で、これからどうする?行くなら早く行かないと。夏だからといって日が落ちるのは遅いけど、それでも、日が落ちたら暗くなって遭難する可能性が高くなるから危険だし。」

「はぁ、もちろん、行くわよ。」
マイペースなクリスにアイリスは呆れてため息を吐き、騎士団達はお互いに顔を合わせて苦笑いを浮かべた。

騎士団を先頭にクリス達は、山の中へと足を踏み入れる。


クリス達は、山を登り始めて一時間ぐらい経っていた。
「まだ、歩くのかよ?」

「それに、今のところ1本も見つかってないし。」
我慢の限界になった男子達は愚痴る。

「氷華の花は、日当たりが良く気温が低い場所を好むんだ。だから、標高が高い所に繁殖するから、あと1時間ぐらい登らないといけないかな。」

「はぁ?ふざけんなよ!クリス。そんなこと聞いたこともないぞ!その根拠を言え!」

「わかったよ。だけど、このことは秘密にして欲しい。」

「わかったから言え。いや、教えてくれないか?」
男子が上目線で言葉を発した瞬間、アイリスと騎士団達に睨みつけられたので慌てて言い直した。

「皆も知っている【アリス姫とイエティ】の童話に書いてあるんだ。正確に言えば、書いてはいないけど推理ができる。まず、イエティは氷華の花を繁殖させていたこと。次にイエティが住んでいた洞窟は、騎士団さん達が捜索したけど中々見つけ出すことができなかったということは、標高が高く辺鄙な場所と考えられるよね?そこで、僕は自分の推理があっているかを確かめるために、幼い時に山頂まで登ったら氷華の花が咲いてあったんだ。まぁ、イエティの洞窟や氷華の花畑は見つからなかったけどね。」

「クリス、あなたは何故、知っているのに公にしなかったの?」

「それはね、アイリス。公にすれば、ただでさえ氷華の花は綺麗な花で有名で他国に人気がある花だろ?昔は密猟者が大勢いたみたいだけど、見つけにくく高値で売れるけど全く儲けないことでいなくなったんだ。だけど、今回は咲いている場所がわかれば密猟者が増えるたら、あっという間に花はなくなるよ。薬として必要な僕達は薬が作れなくなって死者が増えてしまう。だから、このことは秘密にしておかなくちゃだめなんだ。そういうことで、皆さん秘密にして頂けませんか?お願いします。」
クリスは、丁寧に頭を下げた。

「わかったわ、クリス。」

「俺達もわかった。」

「だな。」

「おい、話を聞いてわかっているとは思うが、お前達も誰にも言わずに秘密にしろよ。」

「「は、はい!もちろんです!」」
1人の騎士団に睨まれた男子達は、ピンっと背筋を伸ばして一斉に返事をした。


それから、暫く進むとクリスは嫌な気配を感じた。
 「……。皆さん、少し止まって下さい。」

「どうしたの?クリス。そんな険しい顔をして。」

「アイリス、僕達以外にも誰かいるみたいだ。人の気配がする。しかも、2~3人じゃなくて、大勢の…。」

「「はぁ?」」
男子達は呆けた声をあげたが、アイリスと騎士団達はお互いに頷き合って辺りを警戒しながら見渡したが、周囲は雪が積もっており辺り一面は真っ白で自分達の足跡しかなかった。

「そう言ってもな、クリス。周囲には俺達の足跡しかないぞ。ただの思い過ごしじゃないのか?」

「そうだぜ。もし居たとしても、そいつらは何処にいるんだよ?」
男子達は、呆れた表情で話す。

クリスは上を見渡して一番高い木に向かってジャンプし、途中で木の幹を蹴って更に高く跳び手を使わずに木の枝に跳び移った。

クリスは、そこから更にジャンプして上にある枝に跳び移っていく。

「「なっ!?」」
クリスのジャンプ力とその技術を目の当たりにした男子達は、驚愕の声をあげて呆然と立ち尽くす。

「クリス、何か見える?」

「うん、西側の沖に見たことのない船が止まっている。おそらく、他国の密猟者か海賊かな?しかも、1隻じゃなく4隻も。」

「帆は、どんなマークだ?確認できるか?クリス。」

「マークっていうより、【風魔】って書いています。ドクロじゃないから、やっぱり、密猟者なのかな?」

「いや、海賊でも密猟者でもない。盗賊だ。しかも、よりによって風の国の首都ユートピア国の盗賊団【風魔】だ。ヤバイな、最悪だ。」

「【風魔】って、そんなに強いのですか?」

「ああ、他の盗賊とは次元が違うほど強い。なぜなら、【風魔】は裏で風の国と深く繋がっているとか【風魔】のメンバーは騎士団で構成されているとか噂されている。しかも、ユートピア国は現在王になっている姉の【風の戦姫】と弟の【疾風のソニック】に変わってからは平和を愛し協調性のある国から完全な武力国家に一変した。それからは、ユートピア国を制圧して自国の首都としたり、他にも色々と黒い噂が絶えなくなったんだ。」

「アイリス。」

「ええ、採取は止めて引き返すわよ。そして、皆にこのことを伝えて対処するわよ。」

「「了解!」」
「「は、はい!」」
騎士団と男子達は頷き、誰も反対せずにクリス達は引き返すことにした。


だが、クラスメイトの男子達は気配を消したり小さくすることはできなかったため、引き返す途中に盗賊団【風魔】に見つかってしまった。

「アイリス、囲まれたみたい。」

「ええ、そうみたいね!アクア・ショット!」
アイリスは、一瞬で自身の周りにサッカーボールぐらいの大きさの水弾を無数に召喚して猛スピードで周囲に放った。

周囲の木々は、水弾の水圧によって抉れて大きな音を立てながら倒れていく。

周囲の木の影や枝の上、倒れた木々、岩の影から続々と盗賊達が現れた。

「おいおい、おっかないな。人の気配がしたから来てみれば、まさか、こんなところで目的の精霊ウンディーネを宿した【水の乙女】と遭遇するとはな。俺様達、運が良いのやら悪いのやら。全く、やれやれだぜ。」
アイリスの正面から、盗賊の頭であるバルダスが頭を掻きながら現れた。


「だな、ボス。準備もまだというのに、しかも、出会い頭に魔法をぶっぱなしやがって、お蔭で大事な同胞達が何人も倒されたしよ。どうしてくれるんだ。なぁ、オイ。」
アイリスの背後から副隊長のヤンバレが現れ、倒された同胞を見て深くため息を吐く。

「ま、マジかよ。【風魔】と国が裏で繋がっている噂は本当だったのか。しかも、ボスと呼ばれている、あの男はバルダスって言ったよな?バルダスは、風の国の国王直属護衛軍【四季風神】の第4席だぞ。ボスと呼んだ奴は副隊長のヤンバレだ。奴も他国から横暴で手がつけられない言われるほどの実力者だ。くっ、最悪の奴等に出会ってしまった…。」
騎士団の一人は、冷や汗を流しながら説明して息を呑む。


「当初の予定とは、だいぶ違うが。目的の【水の乙女】の護衛は国王直属護衛軍の【六花】ではなく、ただの騎士団3人とガキが7人か。これは、とてもラッキーな状況だな。それじゃ、さっさと捕まえて帰国するぞ、お前達。」

「「ハッ!」」
盗賊達は返事をし、アイリス達に襲い掛かる。


「ガキ共、俺達が時間を稼ぐから姫様を連れて帰国しろ。そして、国王様達にこのことを説明しろ。良いな?」

「いえ、私も戦うわ。」

「駄目です、姫様。奴等の目的は、あなたです。ここは、一旦、引いて下さい。お願いします。」

「……。わかったわ、あなた達も無理はしないで頂戴。」

「ええ、ある程度の時間を稼いだら私達も引くつもりです。」

「「姫様、お早く。」」

「わかったわ。クリス、行くわよ。って、え?クリス?」
アイリスは、クリスがいた場所に振り返るがクリスの姿が何処にもなかった。


「糞、あいつ、先に逃げたんだ。」
「何て奴だ。」
「俺達も、急いで此処から逃げるぞ!」
「そうだな。アイリス様、俺達と一緒に逃げましょう。」
男子達はクリスを罵倒し、その場から離れようとする。

しかし、男子達の背後から盗賊3人が襲い掛かっていた。

「残念だが、逃がす訳ないだろ!死ね!」
盗賊の1人は、剣振り上げながら笑みを浮かべる。

「「うぁぁ。」」
男子達は、その場で屈んで目を閉じた。

しかし、木の上からクリスが気配を消したまま、飛び降りながら男子達に斬り掛かろうとした盗賊の頭に踵落としを決めた。

「ぐぁ。」
踵落としが決まった盗賊は、白目を向いてその場に倒れた。

「クリス!」
アイリスは、嬉しそうに明るい声で名前を呼んだ。


「「……。」」
盗賊達は、信じられない表情で倒された同胞を見て沈黙し静寂が訪れた。

「プッ、アハハ…。ダッセーな、オイ。子供に倒されるなんてよ。何て様だ。アハハ…。」

「だな。ハハハ…。」
盗賊達は足を止めて、同胞が倒されたにも関わらずに倒された同胞を指をさして笑った。

クリスは、その間に近くにいる盗賊2人に向かって走る。

「ん?調子に乗るなよ、ガキが。たまたま不意討ちが決まって倒せただけだ。俺達を嘗めるな。」

「ほら、さっさと死ね!」
盗賊2人は、同時に剣を上から振り下ろした。

クリスはジャンプして2人の攻撃を避けて背後に回り込み、盗賊の1人の首筋に手刀して気絶させる。

「ちっ、糞が!」
もう1人の盗賊は舌打ちして振り返りながら剣を横に振ったが、クリスは盗賊の剣を握っている右手首を左手で押さえて途中で止めた。

「なっ!?ぐはっ。」
クリスは右拳で、驚愕している盗賊の鳩尾を殴って気絶させた。


「ここは、僕と騎士団の皆さんで食い止めるからアイリス達は先に逃げて。」

「~っ!わ、わかったわ。クリスも無理はしないでね。さぁ、行くわよ。」

「「は、はい!」」
アイリスはクリスに一緒にと言いたかったが、拳を強く握って込み上がる気持ちを圧し殺して言葉にせず、男子達と一緒に走った。

「ヒュー。やるなクリス。まさか、お前さんがそんなに強いとは思ってもみなかったぜ。嬉しい誤算だ。」
盗賊と戦っている騎士団の1人は、口笛を吹いて嬉しそうに口元を緩めた。

「ですが、こちらは4人に対して相手は14人と多勢に無勢です。しかも、相手は、あの【四季風神】4席のバルダスと副隊長のヤンバレがいます。」

「先も言ったが、俺達は最後まで殺り合う必要はない。姫様の逃げる時間を稼げれば、こちらの勝ちだ。だから、無理するなよクリス。特にお前は、ここで死なせる訳にはいかないからな。」

「だな。クリスを死なせたら、俺達が姫様に殺されてしまう。」

「それは、言えてるな。」

「だろ?」

「「ハハハ…。」」
盗賊と相対している騎士団達は、絶望的な状況だったが冗談を言いながら笑った。

騎士団達と盗賊達の実力は拮抗しており、盗賊達は仲間を援護しようとするがクリスが割り込んで阻止する。

「ボス、どうします?このままだと【水の乙女】が逃げてしまいますぜ。」

「ヤンバレ、ここはお前に任せる。俺様は、部下6人を連れて【水の乙女】を追う。だが、侮って油断するなよ。特に、あのガキは強いぞ。」

「わかっているぜ、ボス。俺は油断なんてしないさ。寧ろ、強い奴が居て嬉しくって興奮しているぐらいだぜ!」

「なら、良い。そこの6人は、俺様について来い。」

「「了解!」」
盗賊6人は、バルダスについて行く。

「行かせる訳にはいかない!」
クリスは、慌ててバルダス達に向かって走って追う。

しかし、横から数発の圧縮された空気の弾丸エア・ショットが飛んできたので、クリスはバック・ステップして避けた。

避けられた数発のエア・ショットは、地面の積もった雪や木々に当たり抉った。

「おいおい、勘弁してくれよな。お前を行かせたら俺達がボスに殺される。だから、お前達は大人しくここで…。死んでくれよな!」
ヤンバレは、最後に邪悪な笑みを浮かべると同時に魔力を解放して殺気を放つ。

(この人、危険だ。明らかに他の人とは実力が違う。どうする?騎士団の皆さんの援護をしないといけないし、早くアイリス達を追わないといけない状況なのに…。)
クリスは、チラッと騎士団達を見る。


「クリス、俺達のことは気にするな!姫様のところへ行けるなら先に行け!」

「そうだ!俺達の心配はいらないぞ。」

「少しは、俺達を信用しろ。」

「……。」
クリスは唇を強く噛み締め、逃がしたバルダス達を追った。

「お前達、絶対に逃がすなよ!」
ヤンバレは指示し、騎士団と相対していない残りの仲間4人と一緒にクリスを追った。


「ちっ、あのガキ、ガキの癖に速いな。部下達のスピードに合わせていたら追い付けないぜ。仕方ない、俺がガキの正面を塞いで足を止めるから、お前達はガキを囲め。良いな?」

「「ハッ!」」
ヤンバレは、舌打ちしながらスピードを上げた。


クリスは、わざと速さを抑えて盗賊達が追えれる速さで走っていた。

「そろそろ、頃合いかな?」
目的場所に辿り着いたので、クリスはスピードを落とす。

すると、ヤンバレがジャンプしてクリスの目の前に着地した。

「もう、逃げられねぇぜ!」
ヤンバレは邪悪な笑みを浮かべると同時に、盗賊達も追いついてクリスを囲んだ。

「手間を取らせやがって!1つ聞くが、お前、本当にガキか?相当、足が速いな。その速さだと、俺達から逃げ切れると思ったと思うが、残念だが部下達ならともかく、俺はお前よりも速い。さっきも言ったが逃がさないぜ。」

「僕は、始めから逃げるつもりはありませんよ。ただ、騎士団の皆さんに一対一で戦える様にしたかったのと、特にあなたは他の人達よりも強く、確実に僕を逃がさないために他の4人を連れて来ると思っていました。それに、元々、あなた達を連れてアイリスと合流することだけは避けたかった。だから、少し方角をズラして、ここに誘いたかったのです。」

「場所を変えたかっただって?先ほどの場所と大して何ら変わらないと思うが。」

「さぁ、どうでしょう?僕は早くアイリス達を助けに行かないといけませんので、この取って置きの場所で決着をつけさせて頂きます。」

「まぁ、多少、場所が少し変わろうが大して変わらないぜ。行け!お前達!さぁ、ガキ。この状況をどう対処する?この至近距離での四方向からの同時攻撃は魔法を唱えることもできず、何も対処できないだろ!」
ヤンバレの指示で、盗賊達4人は息を合わせてクリスに迫る。

「「死ね!」」
盗賊達は剣を振り上げて下ろそうとした。

クリスは、高くジャンプして近くの木に跳び移った。

「「なっ!?」」
盗賊達は見上げてクリスを探すが、ここの木々は気候が低いでも枯れずに緑の葉っぱをつけており、クリスを見失った。

「「エア・ショット」」
盗賊達は、圧縮した空気の弾丸を適当に上空へと放つ。

クリスは気配を消したまま音を立てずに木から飛び降りて盗賊の一人の背後に着地し、未だに気付いていない盗賊の首筋に手刀を決めて気絶させた。

クリスは、まだ気付いていない盗賊達に不意打ちをしようとしたがヤンバレに気付かれた。

「お前達、どこを見ている!ガキは後ろだ!エア・カッター。」
クリスに気付いたヤンバレは、警告しながら部下に攻撃が当たらない様に右腕を下から掬い上げる様に腕を振って風の刃を放つ。

放たれた風の刃は、積もっている雪を切り裂きながらクリスに迫る。

クリスは、すぐに左側へジャンプして風の刃を避けると同時に木の幹を蹴って三角跳びをして勢いをつけて、近くにいた盗賊にジャンプ蹴りをする。

「なっ!?ぐぉ。」
ヤンバレの警告で気付いた盗賊は、クリスに振り返ると同時に顔面にクリスのジャンプ蹴りが決まってしまい後ろに転がりながら気絶した。

「あと、3人か…。」

「「調子に乗るな!」」
間近にいた盗賊2人は、剣でクリスに斬り掛かろうとする。

クリスは右足を積もった雪に深く突っ込んで振り上げると雪が舞い上がり、雪が盗賊達の顔面を目掛けて飛び散った。

「「くっ。」」
盗賊達は、振り下ろそうとしていた右手の剣を途中で止めて左腕を上げて顔を隠して雪を防ぐ。

「うっ。」
その隙にクリスは、右側にいる盗賊の鳩尾に右拳で殴って気絶させた。

「糞!ぐはっ。」
左側にいる盗賊は適当に剣を振り回そうとした直後、クリスの右足のハイキックが左首筋に決まり吹き飛んで木の幹に直撃して木に凭れ掛かり気絶した。

「フハハハ…やるな、お前。本当に何者なんだ?国王直属護衛軍【六花】に、お前みたいなガキはいなかったはずだ。だとしたら、お前は一体何なんだ?」


「え?ただの学生ですけど。」

「はぁ?下手な嘘をつくな。ただの学生が、そんなに強い訳がないだろ。ましてや、お前みたいな幼いガキがあり得ないだろ。誰に教わったんだ?」

「国王直属護衛軍【六花】の第1席【女帝】と言われているマミューラお婆ちゃんに毎日欠かさずに訓練して貰っていますが。」

「フハハハ…。あの接近戦の武神とも言われ、恐れられている【女帝】にか。なるほど、なるほどな。だから、お前はそんなに強いのか。そうか、そうか…ククク…。俺はついている。【六花】メンバーと戦う前に、お前は丁度いい獲物だ!」
ヤンバレは右手で自身の顔を覆って笑い、そして、邪悪な笑みを浮かべて魔力と殺気を放つ。

「……。」
クリスは、無言で構えた。

 「いくぞ!エア・カッター。」
ヤンバレは、左右の腕を交互に連続で振って風の刃を複数飛ばす。

クリスは自ら風の刃に向かって走り、体を傾けたり左右に動いて最小限の回避運動で回避してヤンバレとの距離を縮める。

「ハハハ…。エア・カッターを前にして突っ込んで来るとか、お前はイカれているな。だが、俺は好きだぜ!そういう頭のネジが飛んでイカれた奴はよ!エア・クロウ。」
ヤンバレは、笑いながら風魔法エア・クロウを唱えると自身の両手に風が巻き付いて風の鉤爪に変化した。

「さぁ、来るなら来いよ。この風の鉤爪で切り裂いてやるぜ!」
ヤンバレは動かず、クリスを待ち構える。

クリスは、真っ向から接近した。

「死ね!」
ヤンバレは、右手の鉤爪を上から斜め下に振り下ろす。

「大振りになってますよ。」
クリスは、左手でヤンバレの右手首を押さえて途中で受け止めて右肘をヤンバレの鳩尾に入れた。

「ぐっ、くっ。」
ヤンバレは体がくの字に曲がり息が止まったが、必死に左手の鉤爪を横に振って反撃でる。

クリスはヤンバレに反撃される前に、右手でヤンバレの襟首を掴んで引き寄せると同時に左手で押さえているヤンバレの右手首を掴んで一本背負いをしてヤンバレを木の幹に叩きつける様に投げ飛ばして走る。

「ぐはっ。」
木の幹に背中を強く強打したヤンバレは呼吸が止まると同時に目の前に迫ってきたクリスがジャンプキックをしており、クリスのジャンプキックがヤンバレの顔面に決まり、木がへし折れてヤンバレは雪が積もっている地面を転がった。


「糞ガァァ~!」
雪に埋もれたヤンバレは鼻の骨や歯が折れ頭から血を流れており、叫びながら立ち上がった。

ヤンバレが立ち上がった直後、クリスは両手でヤンバレの頭を掴み、両腕を引きながらジャンプして右膝をヤンバレの顔面を打ち抜いた。

「がはっ…。」
ヤンバレは白目を向いて糸が切れた操り人形の如く、その場に崩れた。


クリスはアイリスの所へと向かおうとしたが、反対側から人の気配がしたので視線を向けるとボロボロになった騎士団3人の姿があった。

騎士団の1人は足を怪我しており、左右側から仲間に支えて貰ってクリスに歩み寄って来る。

「あっ!騎士団の皆さんも無事に勝ったのですね、良かったです。それより、大丈夫ですか?」

「ハハハ…。これを見て、大丈夫と言えると思うか?クリス。ギリギリだったさ。雪が積もっていたから、慣れている俺達に軍配が上がっただけだ。雪が積もっていなければ、おそらく負けていた。もう、あんな奴等と戦いたくないぜ。全く、本当によ。」
足を怪我している騎士団の1人は、苦笑いを浮かべて楽しそうに話した。

「だな。それよりも、クリス。今、「も」と言うことは、お前も勝ったのか?」

「はい。」

「いやいや、「はい」って、お前な。軽々しく言うが、相手はあのヤンバレも居たのだぞ。」

「まぁ、何とか。」

「ん?大丈夫か?クリス。お前、右膝から血が出ているぞ。」

「いえ、これは返り血ですので。」

「え!?じゃあ、お前は無傷なのか?」

「はい、ほぼ無傷ですね。」

「はぁ!?ほぼ無傷って、お前。無傷で勝てる相手じゃないだろ!普通にあり得ないぞ!」

「えっと、あの、そんなこと言われましても…。」

「まぁ、落ち着けって。信じられないのは、俺も同じだ。だが、今はそんなことよりも、先に優先することがあるだろ?クリス、すまないが一刻も早く姫様のところへ行って助けてあげてくれ。俺達は、この怪我じゃあ、もう追いつくことはできない。」

「はい、僕もそのつもりです。」

「頼んだぞ!クリス。俺達の分まで。」

「はい、任せて下さい。」
クリスは、アイリスのところへ向かった。
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