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第二章
2-4
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2-4
「あ、あ、あれ……? あれ? みな、何処へ? ……鬼ごっこは如何した?」
目の前に広がる静寂と倒れ伏す者たちの姿に、シオンは困惑したように首を傾げていた。
どうやら力加減を誤ったらしい。
いや、こんな鬼ごっこは御免被りたい。
そんなシオンの様子に、ようやく思考を取り戻したクローヴィスは、痛むこめかみに手を当てて深く息を吐いた。あまりにも規格外な“息子”の力を目の当たりにしたのだ。混乱して当然だった。
(……とりあえず、気絶している騎士たちをどうにかしないと)
シオンに関しては、考えることをとりあえず一旦保留したらしいクローヴィスの背後で、低く唸るような声が響いた。ハッとして振り返ると、そこにはあの闇魔法の使い手がいた。ふらつきながらも立ち上がり、もがくようにして森の奥へと逃げようとしている。
「待て!!」
クローヴィスが叫び、追いすがろうとしたその時――。
何かが、彼の横を音もなく通り過ぎていった。
空気を裂くように飛翔したそれは、まるで意志を持っているかのように闇魔法の使い手の周囲を舞い、その身体を束ねた。よく見れば、それは見覚えのある“紙”だった。以前、手にしたことのある、あの不思議な札。
札は相手の身体にべたりと張り付き、文字が赤黒く輝きながら絡み合うように縛り上げていく。まるで縄のように。
呆然とその光景を眺めているクローヴィスのもとへ、シオンが軽やかに駆け寄ってくる。
「友が申しておったぞ! 鬼ごっことは、一度終われば、あらためて鬼を決め、また初より興ずるものなり! さすれば、今度はわらわが“鬼”を……」
「その“鬼ごっこ”とやらはもう終わりだ。」
「えええええええっ!? 未だ鬼をやっておらぬのに!! いと不公平なり!!」
地団駄を踏むシオンの姿を横目に、クローヴィスはため息を吐きながら、暴れ続けている闇魔法の使い手へと近づく。そして、無言でその頸を剣の柄で叩き、完全に気絶させた。
不貞腐れるシオンをなんとかなだめたクローヴィスは、気を取り直して倒れている騎士たちの方へ視線を向けた。重苦しい空気がまだ辺りに残る中、ひとまず倒れた騎士たちの様子を見ておいてくれとシオンに頼み、彼は先ほど気絶させた闇魔法の使い手の襟首を掴み、ズルズルと地面を引きずって馬車の脇へと運び込む。
幸いにも、現在地は次の宿泊地からそう遠くない。そこから早馬を出して王城に連絡を入れれば、騎士団の派遣もそう時間は掛からぬはず。今回の襲撃は明らかに計画されたものであり、しかも標的は公爵家。闇魔法の使い手には、王城にて厳しい尋問が行われることになるだろう。
さて──問題は、そこまでの移動手段だ。
一度戦闘に入った際、馬たちは遠くへ逃げてしまっていた。が、今は何事もなかったかのように戻ってきている。戦闘終了の頃合いを見計らって戻るよう訓練されているのだ。馬の教育係の手腕には感心せざるを得ない。いい子たちだ。
あとは騎士たちの意識が戻り次第、再出発できる……と後ろを振り返ったクローヴィスは、思わず眉をひそめた。
気絶していたはずの数名がすでに目を覚まし、混乱した面持ちで辺りを見回している。記憶の混濁が見られる様子だが、思ったよりも早く回復している。訝しみながらシオンの姿を探すと──
いた。
御札を片手に、気絶している騎士たちにぺたぺたと次々貼り付けている。
「……おい、シオン。なにをしている」
クローヴィスが声をかけると、貼られた御札が淡く光を放ち、次の瞬間には騎士が目を覚まして起き上がった。
「や、目覚めたかえ。よきかな、よきかな。」
「はっ!し、シオン様!? あれ……一体何が……」
その様子を見て、クローヴィスは目を細めた。
(……なんなんだその札は。いや、まあ、助かるには助かるんだが……)
深く追及するのは、今回はやめておこう。
「あ、あ、あれ……? あれ? みな、何処へ? ……鬼ごっこは如何した?」
目の前に広がる静寂と倒れ伏す者たちの姿に、シオンは困惑したように首を傾げていた。
どうやら力加減を誤ったらしい。
いや、こんな鬼ごっこは御免被りたい。
そんなシオンの様子に、ようやく思考を取り戻したクローヴィスは、痛むこめかみに手を当てて深く息を吐いた。あまりにも規格外な“息子”の力を目の当たりにしたのだ。混乱して当然だった。
(……とりあえず、気絶している騎士たちをどうにかしないと)
シオンに関しては、考えることをとりあえず一旦保留したらしいクローヴィスの背後で、低く唸るような声が響いた。ハッとして振り返ると、そこにはあの闇魔法の使い手がいた。ふらつきながらも立ち上がり、もがくようにして森の奥へと逃げようとしている。
「待て!!」
クローヴィスが叫び、追いすがろうとしたその時――。
何かが、彼の横を音もなく通り過ぎていった。
空気を裂くように飛翔したそれは、まるで意志を持っているかのように闇魔法の使い手の周囲を舞い、その身体を束ねた。よく見れば、それは見覚えのある“紙”だった。以前、手にしたことのある、あの不思議な札。
札は相手の身体にべたりと張り付き、文字が赤黒く輝きながら絡み合うように縛り上げていく。まるで縄のように。
呆然とその光景を眺めているクローヴィスのもとへ、シオンが軽やかに駆け寄ってくる。
「友が申しておったぞ! 鬼ごっことは、一度終われば、あらためて鬼を決め、また初より興ずるものなり! さすれば、今度はわらわが“鬼”を……」
「その“鬼ごっこ”とやらはもう終わりだ。」
「えええええええっ!? 未だ鬼をやっておらぬのに!! いと不公平なり!!」
地団駄を踏むシオンの姿を横目に、クローヴィスはため息を吐きながら、暴れ続けている闇魔法の使い手へと近づく。そして、無言でその頸を剣の柄で叩き、完全に気絶させた。
不貞腐れるシオンをなんとかなだめたクローヴィスは、気を取り直して倒れている騎士たちの方へ視線を向けた。重苦しい空気がまだ辺りに残る中、ひとまず倒れた騎士たちの様子を見ておいてくれとシオンに頼み、彼は先ほど気絶させた闇魔法の使い手の襟首を掴み、ズルズルと地面を引きずって馬車の脇へと運び込む。
幸いにも、現在地は次の宿泊地からそう遠くない。そこから早馬を出して王城に連絡を入れれば、騎士団の派遣もそう時間は掛からぬはず。今回の襲撃は明らかに計画されたものであり、しかも標的は公爵家。闇魔法の使い手には、王城にて厳しい尋問が行われることになるだろう。
さて──問題は、そこまでの移動手段だ。
一度戦闘に入った際、馬たちは遠くへ逃げてしまっていた。が、今は何事もなかったかのように戻ってきている。戦闘終了の頃合いを見計らって戻るよう訓練されているのだ。馬の教育係の手腕には感心せざるを得ない。いい子たちだ。
あとは騎士たちの意識が戻り次第、再出発できる……と後ろを振り返ったクローヴィスは、思わず眉をひそめた。
気絶していたはずの数名がすでに目を覚まし、混乱した面持ちで辺りを見回している。記憶の混濁が見られる様子だが、思ったよりも早く回復している。訝しみながらシオンの姿を探すと──
いた。
御札を片手に、気絶している騎士たちにぺたぺたと次々貼り付けている。
「……おい、シオン。なにをしている」
クローヴィスが声をかけると、貼られた御札が淡く光を放ち、次の瞬間には騎士が目を覚まして起き上がった。
「や、目覚めたかえ。よきかな、よきかな。」
「はっ!し、シオン様!? あれ……一体何が……」
その様子を見て、クローヴィスは目を細めた。
(……なんなんだその札は。いや、まあ、助かるには助かるんだが……)
深く追及するのは、今回はやめておこう。
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