侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい

花月

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8 口論の行方

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『――セリーヌ=コンラッド嬢は嘘をついている』

 
 ナイジェル様が衝撃的な事を言うと同時に、わたしの心の声を代弁するかのような令嬢等の疑念と不審の声が飛んだ。

「なぜ嘘をつく必要があるのですか!?その根拠を仰って下さい!」
「いくら婚約者を奪われたからと言って…ソフィア様の方が嘘をついていらっしゃるのではないですか?往生際が悪いですわよ」

「それは――流石にここでは言えない…が」
 明らかに令嬢の言葉にひるんだわたしナイジェル様の声が聞こえた。

 それを見逃さなかったように令嬢達の舌鋒が怒涛のように繰り出される。

「証拠が無いのに他人を非難するなんて性格が悪すぎますわ!」
「今だってそんなみっともない。…見て?なんと裸足ですわ、この方…」

 始まってしまった言葉の攻撃は、凄まじい勢いで加速していくのが端から聞いていても分かった。

「そもそも…そんな蛙色のダサいドレスで、麗しい今夜のナイジェル様のお姿と釣り合っていると思っておいでですの!?」
「そうよ!そもそも以前よりご自分で認めてらっしゃったではありませんか!?『釣り合っていないのは自分が一番分かっている』と」

 その言葉を聞いてお父様がびっくりした様にわたしを見つめて尋ねた。

「お前…そんな事を口に出したのか?」
「どうでしょう…余りにもあの御令嬢達が何回も言うので、面倒になって言ったかもしれません」

 爵位であれば我が家の方が上なのだが、わたしがいつも彼女らの陰口を大人しく聞いていた為にいつの間にか彼女らの言われたい放題の対象になっていた。

 令嬢達の嫌味攻撃にウンザリもしていたわたしは、悪口は流したりしていたのものの、自分がナイジェル様に釣り合っていると思った事は一度も無かったのは紛れも無く事実だったので、そう言葉に出してしまったかもしれない。

「なる程…か...」
 お父様は納得した様に呟いた。

「まあまあ…そろそろ止めんと会場中の噂になってしまうな。大事になる前に撤収させよう」
 のっそり巨体を揺らしながら、パウダールームの中へと入って行った。

 まだ令嬢二人とナイジェル様の口喧嘩は続いている。
 確かにこれは延々と続いて収まりそうになかった。
 
 わたしはちょっとため息をつき、少しずつ集まって来るギャラリーをかき分けてその後に続いたのだった。

 +++++

 豪華なパウダルームの一角で最初に見たのは、ふかふかのソファに座ってあの伯爵令嬢の二人に両端から噛みつかれているわたしナイジェル様だった。

 ナイジェル様は椅子に座って裸足に足を組み、更に腕組みをして令嬢達をじっと鋭い瞳で見つめている。
 お父様の後ろから付いて行ったわたしも、お父様の背中からひょいと顔を出してその光景を覗いた。

(ナイジェル様…怒っていらっしゃるわ)
 するとわたしに気付いたナイジェル様は何故かその怒った眼差しのままわたしの方をじっと見た。

「ご令嬢達…怒鳴り声が部屋の外に聞こえておりますよ」

 お父様がそっと声を掛けると、伯爵令嬢らはお父様の巨体に
「ひっ」
「なっ…」
 と一瞬引き攣った声を上げたが、果敢にも
「ここは女性のパウダールームですわ!殿方は出て行ってください!」
 とまた反論を始めた。

(埒が明かないわ)
 とわたしも彼女等に声を掛けた。
「ご令嬢方、部屋の外に他人ひとがいる処で…」

 わたしが後ろから声をかけた途端、彼女らは身体をくねくねとさせた。

「きゃああん!ナイジェル様!」
「今の聞いてらしたの?わたくし恥ずかしいわ」
 
(何を今更…)
 と思うが、いきなり令嬢達の声音も態度もコロっと変わるので非常にやりにくい。
 わたしが声をかけてもきゃあきゃあと黄色い声で返されるばかりだ。

 その様子を端から見ていたナイジェル様は、苦虫を噛み潰したような表情のまま、人差し指をくいくいと動かしてわたしを呼んだ。
「こっち…」

 わたしはナイジェル様の側まで近づき、座っているナイジェル様の前で少し屈んでそっと尋ねた。
「…大丈夫でしたか?」

 ナイジェル様からは憮然とした表情で
「…大丈夫じゃない」
 と返されてしまった。

 よく見るとドレスの首元が歪んで少し引っ張られた様な跡がある。
 襟元に付いていた白い花のコサージュが消えていて、それは無惨にも床に落ちていた。
「ああ…なんて事…」

 わたしがそれをじっと見つめていると、ナイジェル様はわたしを見つめたまま
「…抱き上げてもらいたいからもう少し屈んでくれ。ここは不快だ。早く立去りたい」
 とわたしに向かって二の腕をすっと伸ばした。

「はい…分かりました」
 わたしは慌ててナイジェル様が首に掴まりやすい様に自分の身体を近づけた。

 するとナイジェル様は伸ばした腕をわたしの首の後ろに引っ掛け、グイっと体重をかけながら思い切りナイジェル様手前側に引っ張った。


「ん…ん――!!?」
 いきなり唇に柔らかい感触がして驚いて思わず目を見張った。
 
 なんと――目の前に目を瞑った自分の顔があったのだ。

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