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11 セリーヌ嬢のお相手についての考察
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『――本当に僕の子供なんだろうか』
「兄上の言葉で言えば――最後に彼女に会ったのは5カ月以上も前だと言う。その後彼女とは音信不通になったらしいんだ」
ナイジェル様はお父様に説明をした。
「まあ、期間で言えば有り得る話ですが――」
「しかし彼女は『実は先日妊娠している事に気が付いた』と言ってきたらしいのだ」
お父様は顎を撫でながらナイジェル様に尋ねた。
「ふむ…ではやはりセリーヌ嬢が『高貴な方の子供を妊娠しているらしい』という噂は真実なのですね?」
「それも実際には分からない。『妊娠した』というのは彼女の口からでしか聞けていないからだ」
ナイジェル様はそう答えてから足を組み、考え事をする表情をしていた。
「最初は『何を今更…責任転嫁か』とも思ったが、学生時代から彼女の性癖が寝取りであると分かると、僅かだが兄上の言葉に信憑性が増したのは事実だった」
+++++
「だから――実は今夜セリーヌ嬢に真相を質そうと中庭に呼んだんだ」
ナイジェル様はわたしの方を向いて見つめた。
「――本当に兄上の子供がいるのかどうかを遠回しに訊こうとしたが『そんな事を訊くなんて酷い、屈辱だ』と反対に滅茶苦茶罵られたよ。
まぁ、本当に兄上のお子がいるのなら屈辱的な扱いをされたと思われても仕方がないが」
とナイジェル様は苦笑した。
わたしは今夜のパーティーにセリーヌ嬢が着用していたのが、ほっそりとした身体のラインが綺麗に出るドレスだった事を思い出した。
(確かに妊娠して5カ月にしては、全然お腹も目立っていなかったわ…)
ただこれは個人差もあるだろうから一概には言えないだろう。
「反対に――公爵家で責任を取らないなら、これから会場に戻って妊娠を公にすると脅かされた」
『見た目とは全く違う中身だな、彼女は』
とほう…ため息を付くナイジェル様の端整な横顔は憂いを帯びて美しかった。
(確かに…)
今夜のパーティはランディ様と王女エイダ様の婚約発表の場でもあったから、その暴露の脅しはとても効力があったはずだ。
「そして直ぐにソフィアとの婚約を破棄して俺と婚約しろと言ってきてな。俺の事を想っているとかでは無く、ただ自分自身の事だけを考えた発言なのが恐ろしいよ」
+++++
セリーヌ嬢は――何と言うか、不敵に笑っていた。
「セリーヌ嬢…そんな事はできないのは分かっているだろう?」
「あら、公爵様が仰ったとわたくし伺いましたわ」
「…父上がそう言ったとしても、俺は了承していないし、殆ど付き合いの無い俺達では説明に無理がある」
「そうですか。では――仕方がありませんわね…会場に戻ってわたくし全て暴露させていただきますわ」
会場に戻ろうとする彼女の腕を掴んだら、セリーヌ嬢が大きくよろめいた。
妊娠している可能性がある彼女を転ばせる訳にはいかない――俺は彼女を抱き止めた。
そうしたら――。
「ちょうどわたしが来たのですね」
「…そうなんだ」
タイミング的にもベストだったから、もしかしたら中庭にわたしが来るようにわざとセリーヌ嬢が仕組んだのかもしれない。
わたしがその場に来てしまった為に、ナイジェル様は渋々ながらも婚約破棄を切り出さなくてはならなくなったという絶妙のタイミングだったから。
彼女の目論見は成功したのだった。
そう――半分は。
+++++
「…確かに入れ替わったりしなければ、もしかしたらこのまま婚約破棄になったかもしれませんな」
ドレスデン侯爵――お父様は優しく水面の上で手を動かし続けていた。
「私が小耳に挟んだ噂とは、エヴァンス公爵家のご子息の誰かがセリーヌ=コンラッド伯爵令嬢を懐妊させたという話でしかありませんでしたから」
そして
『ご兄弟のどなたが、という話までは伝わっておりませんでした』
と言った。
因みにエヴァンス公爵家には男子が三人いる。
ランディ様、ナイジェル様、ルイ様だ。
ルイ様は確かまだ15歳だった筈だ。
現エヴァンス公爵様は、後妻の方が産んだ子供の――三男であるルイ様を溺愛している。
だから長男のランディ様がめでたくエイダ様と婚約をした今、最終的にとばっちりが次男のナイジェル様に廻ってきたに違いない。
「…そうだったのか。父上がエイダ様に知られない様にと奔走していたが、セリーヌ嬢本人らが吹聴しているならどうしようもないな」
(…あら?でも、レオ殿下は?)
わたしは不思議に思ってナイジェル様に尋ねた。
「でもセリーヌ様とレオ殿下の事は――」
ナイジェル様は一段と暗い表情で俯いた。
「…そこが一番問題だ」
「レオ殿下とは何の事ですかな」
お父様が不思議そうに尋ねた。
(あ、そうだわ。お父様には話していなかった)
ナイジェル様の方を見ると軽く頷いてくれたので、わたしはセリーヌ嬢とレオ殿下が一緒に部屋に消えた件をお父様に話した。
「実はレオ殿下とセリーヌ嬢が…」
流石にそれを聞いたお父様の開いた口が塞がらなかった。
「それは…国内だけでなく国際問題にまで発展しかねませんな」
お父様は唸るように言葉を出した。
そして、その言葉でわたしははっと思い出した。
先月レオ様はすでに隣国の王女様と結婚する事が決まっているのだ。
――もしセリーヌ嬢が本当に懐妊していて。
その子供が小公爵様でなく、レオ様のお子だったら。
王家の血縁がセリーヌ嬢から誕生する事になる。
――下手をすれば、王位継承者の一人が誕生する事になるかもしれないのだ。
「それが本当だとすると…もう手に負えない。うちだけの問題では無くなるんだ」
――その出来事による波紋はもっと大きくなるだろうな。
ナイジェル様は憂鬱そうに呟いた。
「兄上の言葉で言えば――最後に彼女に会ったのは5カ月以上も前だと言う。その後彼女とは音信不通になったらしいんだ」
ナイジェル様はお父様に説明をした。
「まあ、期間で言えば有り得る話ですが――」
「しかし彼女は『実は先日妊娠している事に気が付いた』と言ってきたらしいのだ」
お父様は顎を撫でながらナイジェル様に尋ねた。
「ふむ…ではやはりセリーヌ嬢が『高貴な方の子供を妊娠しているらしい』という噂は真実なのですね?」
「それも実際には分からない。『妊娠した』というのは彼女の口からでしか聞けていないからだ」
ナイジェル様はそう答えてから足を組み、考え事をする表情をしていた。
「最初は『何を今更…責任転嫁か』とも思ったが、学生時代から彼女の性癖が寝取りであると分かると、僅かだが兄上の言葉に信憑性が増したのは事実だった」
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「だから――実は今夜セリーヌ嬢に真相を質そうと中庭に呼んだんだ」
ナイジェル様はわたしの方を向いて見つめた。
「――本当に兄上の子供がいるのかどうかを遠回しに訊こうとしたが『そんな事を訊くなんて酷い、屈辱だ』と反対に滅茶苦茶罵られたよ。
まぁ、本当に兄上のお子がいるのなら屈辱的な扱いをされたと思われても仕方がないが」
とナイジェル様は苦笑した。
わたしは今夜のパーティーにセリーヌ嬢が着用していたのが、ほっそりとした身体のラインが綺麗に出るドレスだった事を思い出した。
(確かに妊娠して5カ月にしては、全然お腹も目立っていなかったわ…)
ただこれは個人差もあるだろうから一概には言えないだろう。
「反対に――公爵家で責任を取らないなら、これから会場に戻って妊娠を公にすると脅かされた」
『見た目とは全く違う中身だな、彼女は』
とほう…ため息を付くナイジェル様の端整な横顔は憂いを帯びて美しかった。
(確かに…)
今夜のパーティはランディ様と王女エイダ様の婚約発表の場でもあったから、その暴露の脅しはとても効力があったはずだ。
「そして直ぐにソフィアとの婚約を破棄して俺と婚約しろと言ってきてな。俺の事を想っているとかでは無く、ただ自分自身の事だけを考えた発言なのが恐ろしいよ」
+++++
セリーヌ嬢は――何と言うか、不敵に笑っていた。
「セリーヌ嬢…そんな事はできないのは分かっているだろう?」
「あら、公爵様が仰ったとわたくし伺いましたわ」
「…父上がそう言ったとしても、俺は了承していないし、殆ど付き合いの無い俺達では説明に無理がある」
「そうですか。では――仕方がありませんわね…会場に戻ってわたくし全て暴露させていただきますわ」
会場に戻ろうとする彼女の腕を掴んだら、セリーヌ嬢が大きくよろめいた。
妊娠している可能性がある彼女を転ばせる訳にはいかない――俺は彼女を抱き止めた。
そうしたら――。
「ちょうどわたしが来たのですね」
「…そうなんだ」
タイミング的にもベストだったから、もしかしたら中庭にわたしが来るようにわざとセリーヌ嬢が仕組んだのかもしれない。
わたしがその場に来てしまった為に、ナイジェル様は渋々ながらも婚約破棄を切り出さなくてはならなくなったという絶妙のタイミングだったから。
彼女の目論見は成功したのだった。
そう――半分は。
+++++
「…確かに入れ替わったりしなければ、もしかしたらこのまま婚約破棄になったかもしれませんな」
ドレスデン侯爵――お父様は優しく水面の上で手を動かし続けていた。
「私が小耳に挟んだ噂とは、エヴァンス公爵家のご子息の誰かがセリーヌ=コンラッド伯爵令嬢を懐妊させたという話でしかありませんでしたから」
そして
『ご兄弟のどなたが、という話までは伝わっておりませんでした』
と言った。
因みにエヴァンス公爵家には男子が三人いる。
ランディ様、ナイジェル様、ルイ様だ。
ルイ様は確かまだ15歳だった筈だ。
現エヴァンス公爵様は、後妻の方が産んだ子供の――三男であるルイ様を溺愛している。
だから長男のランディ様がめでたくエイダ様と婚約をした今、最終的にとばっちりが次男のナイジェル様に廻ってきたに違いない。
「…そうだったのか。父上がエイダ様に知られない様にと奔走していたが、セリーヌ嬢本人らが吹聴しているならどうしようもないな」
(…あら?でも、レオ殿下は?)
わたしは不思議に思ってナイジェル様に尋ねた。
「でもセリーヌ様とレオ殿下の事は――」
ナイジェル様は一段と暗い表情で俯いた。
「…そこが一番問題だ」
「レオ殿下とは何の事ですかな」
お父様が不思議そうに尋ねた。
(あ、そうだわ。お父様には話していなかった)
ナイジェル様の方を見ると軽く頷いてくれたので、わたしはセリーヌ嬢とレオ殿下が一緒に部屋に消えた件をお父様に話した。
「実はレオ殿下とセリーヌ嬢が…」
流石にそれを聞いたお父様の開いた口が塞がらなかった。
「それは…国内だけでなく国際問題にまで発展しかねませんな」
お父様は唸るように言葉を出した。
そして、その言葉でわたしははっと思い出した。
先月レオ様はすでに隣国の王女様と結婚する事が決まっているのだ。
――もしセリーヌ嬢が本当に懐妊していて。
その子供が小公爵様でなく、レオ様のお子だったら。
王家の血縁がセリーヌ嬢から誕生する事になる。
――下手をすれば、王位継承者の一人が誕生する事になるかもしれないのだ。
「それが本当だとすると…もう手に負えない。うちだけの問題では無くなるんだ」
――その出来事による波紋はもっと大きくなるだろうな。
ナイジェル様は憂鬱そうに呟いた。
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