13番目の苔王子に嫁いだらめっちゃ幸せになりました

花月

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13番目の苔王子に嫁いだらめっちゃ幸せになりました 【side A】

10 貧乏城にイケメンコック再び&ピンクの仔豚

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 バートンに付いて行き、広い城――というか邸宅を見学して回る。

 一気に見学するのは大変なので、客間などはすっ飛ばして現在主に使っている場所を中心に見る事にした。

「こちらが朝食を摂っていただいた食堂兼広間です。
 その後ろに夕食を摂っていただいた大広間兼パーティ会場にもなるダンスホールがあります」

 どちらも床は綺麗に磨き上げられてはいるが、壁や窓・天井近くの手入れまでは行き届いていない様だ。
 その証拠に埃の溜まりが見えている。

 それにシャンデリア等はもう何年も使われていないのが分かった。

 細かくチェックすると、天井隅の蜘蛛の巣や、埃の集積が見られたり、窓に木々の枝がぶつかっていたり窓ガラスも外側の曇りがあるなど長年の手入れが出来ていない感が半端ない。

 しかし家具自体は品が良く、手入れしながら大事に使われてきたのが分かる。
「――なるほど良く分かったわ」

 わたしは次の場所に向かう事にした。

 1階の長い廊下を抜けた厨房である。
(あら…こっちって昨日オリバーが歩いて行った方ね)

 丁度突き当りが厨房になっていたのだ。
 そこには件のイケメンコックが1人で昼食の準備をしていた。

 少し長い髪を後ろになでつけ纏めている。
 コック服を腕まくりする姿はなかなかに清潔感があり、凛々しい。

(やっぱりイケメンは…明るい時に見てもイケメンなのね)

 厨房の扉をバートンがノックすると、やっとコックは気が付いたようにこちらを振り向いた。

「おお…奥様。どうしました?」

 バートンはわたしが付いている訳を説明した。
「屋敷内の案内です」
「そうですか」

「厨房にコックを入れようという話になりまして」
「おお…本当ですか?そりゃ助かります。いつもデイジーに手伝って貰っているのが悪くて」

 コックは空色の瞳をしていて男性らしく大きく、にかッと笑いながらわたしの方を振り向いた。

 そのまま昼食の時間とメニューについて二人が話し込んでしまい、手持ち無沙汰になったわたしは、厨房の中を観察した。

 広い厨房の一角だけしか使って居ないようだったが、綺麗にしているようだ。
 床なんかピカピカだ。

 昨夜嗅いだ匂いが見覚えのあるカートからしている。
 近づくと口の開いている麻袋があり、そこにはトリュフと茸がゴロゴロと入っていた。

(…昨夜運んでいたのはこれだったのね)

「そう言えば…、昨日言っていたトリュフハンターはどこ?」

 袋の中身を覗きながら、わたしは訊いてみた。

「ああ、コレットですか?
 多分あいつはトムとオリバーと一緒に庭の手入れに回っているっすよ。
 今頃は果樹園ですかね」

 コックはわたしに微笑みながら、教えてくれた。

 ++++++++++++++++++

 バートンに庭を案内してもらうと、苔の森が続く庭園風な場所を抜けて、果樹園方向に歩いた。

「奥様。そんなにすたすた歩いて…お休みにならなくて大丈夫ですか?」

「――ん?平気よ?」

 領地訪問で鍛えた健脚である。
 休まず歩いたからって問題は無いのだ。

 バートンの表情を見て、はっとわたしは覚った。

(あ、バートンは結構お年だった…それにすっかりお茶の時間を過ぎてしまったわ)

 ――うっかりしていたわ。

 何せ優雅な淑女のティ―タイムの習慣がわたしには備わっていない。

 お茶を飲みながら、又はお菓子を頂きながら最低限のマナーを守りつつも、帳簿や新聞や本を読むかお父様と社会情勢の話しあいをするかだった。

 真っ直ぐ前を見ると、道の先には林檎園が広がっている。
 十分ひとりでも行先が分かる距離だ。

「分かったわ。じゃあわたしは先に歩いて果樹園で待っているわ。バートンはゆっくりでいいから、お茶の準備をお願いね」

 わたしは1人で行ってるからね~と言って手を振ると、あっけに取られるバートンを残しスタスタと歩いて行った。

 ++++++++++++++++++

 果樹園の入り口から想像がつかない程の、ちょっとびっくりするほど広い敷地だ。

 手前には林檎が沢山成っていてその奥にも木々はずっと続いている。

 多分違う品種か違う果実の木かもしれない。

「随分立派よね…」

 林檎を見上げながら呟いた途端、木の影から小さい影が素早く走り出て来た。

 その影がわたしの脚元に思い切り体当たりしてこようとしたのに気付き、避けようと後ろに下がると枝を踏み違えて滑ってしまう。

「きゃっ!」
 
 そのまま思わず後ろに倒れて、盛大に尻もちをついてしまった。

 ぶつかってこようとした影が、ブヒッと勢いよく鼻息を鳴らす。

 よく見ると、それは――ピンク色の仔豚だった。
 
 そう言えば、最初にエントランスに居た…気がするわ。

「ちょっと…びっくりしたじゃない。なんでわたしにぶつかって来ようとしたの…」

 思わず呟きながら起き上がろうとすると、ブヒッブヒッと鳴いて更に威嚇をする。

(な…何なの?この仔豚…めっちゃ敵意を感じるんだけど…)

 わたしは青ざめて戦闘態勢を取る仔豚を見つめた。
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