22 / 51
13番目の苔王子に嫁いだらめっちゃ幸せになりました 【side A】
22 夜も仲良し&弟のヤキモチ
しおりを挟む「ジョシュア様…わたしも…」
と言いかけたところで、舞っていた埃で鼻がムズムズしてきた。
「――ックシュンッ!」
慌てて手で押さえたが、この大事な場面で、盛大なクシャミをしてしまった。
「ふぁ…ごめんなさい。ジョシュア様…」
一瞬あっけにとられた表情のジョシュア様だったが、直ぐに破顔一笑した。
「…本当にきみは飽きない女性だ」
と言ってわたしをぎゅっと抱きしめてくれた。
「とても可愛いよ…アリシア」
そしてわたしの顔のすぐそばで囁いた。
「好きだ…結婚してくれ」
わたしは鼓動が激しくドキドキと鳴り、かぁっと頬に熱が帯びるのを感じた。
(これはどう考えても…)
わたしも――ジョシュア様に恋してるみたい。
「はい…あの…よろしくお願いします」
あまりの恥ずかしさにごにょごにょと言っていると、ジョシュア様は優しくわたしを抱えて、ベッドのほうへお姫様抱きで連れて行ってくれた。
「シャルルが言っていた養子の件…本気で考えるなら頑張らないとね」
いたずらっぽく笑うジョシュア様は、びっくりしてしまうくらい艶っぽかった。
「は…はい。ジョシュア様…」
思わず返事したわたしの声が震えてしまう。
ジョシュア様の指がわたしの唇をゆっくりとなぞってから、寝間着の帯のほうに下りるのが見えた。
滑らかな布がしゅる…と音を立てる。
そのままジョシュア様はわたしの腕を優しく持ち上げて、自身の頸の後ろに回させた。
まだたくさんの問題が山積しているけれど、今夜くらいはすべて忘れたい。
ジョシュア様の唇の熱さが、わたしの唇に降って来て――。
低い声がわたしの耳朶を甘くくすぐった。
「…もうきみはヘイストン家に返さない」
わたしは返事の代わりに目を閉じた。
++++++++++++++++++
翌日の朝、わたしはジョシュア様と広間の方に向かった。
朝食の時間としては少し遅くなったが、ジョシュア様がわたしを気遣ってくれて、朝食を部屋に運ばせようかと提案してくださったほどである。
シャルルとデヴィッドはすでに朝食を食べ終えていたが、
――案の定シャルルはとても機嫌が悪かった。
わたしがジョシュア様と『仲良し』したのを直ぐに見抜いたらしい。
(そこの所の嗅覚が、女性並みに凄まじく敏感だと思う。
シャルル曰く、姉さまは鈍すぎると言われるが)
「姉さま、どうして僕らの部屋が一つしか用意されてなかったの」
珍しくシャルルが文句を言いだした。
わたしがデイジーに準備するように伝えたのは、夫婦でも使える広さのベッドの置いてあるお部屋だった。
デヴィッドはいつものように黙っている。
まるで小さい頃のシャルルのようなストレートな言いぐさで、不貞腐れている表情だ。
わたしはそんなシャルルを見ながら「小さい天使の弟シャルル」を思い出して、うふふと含み笑いをしてしまった。
「あら、いいじゃない。
どうせ普段は一人用を二つでお部屋の準備をお願いしているんでしょう?
ガタイのいい男二人が狭いひとり用のベッドにぎゅうぎゅうで眠るんじゃ可哀想と思った姉心よ」
「大きなお世話なんだよ。
いつも僕らの…その、事情を深読みするのは止めてくれ」
「そう、分かったわ。
じゃあどちらで寝てもいい様に、今度は広いお部屋を二つ準備しておくわね。それでいいでしょう?」
「いや。だからもう…普通の部屋でいいんだよ」
喧々諤々の言い合いを聞いていたジョシュア様は、わたし達をとりなす様に
「シャルル君――昨日の養子の件…一応考えてみる事にしたよ」
シャルルの動きがぴたりと止まる。
ジョシュア様をじいっと見ながら
「――それは本当ですか?殿下」
と注意深く聞いてきた。
「そうだよ。きみの姉君と話し合った結果ここの領地の跡取りがきちんと決まったのを前提として、きみの所に養子に出しても良いという事になった」
ジョシュア様とわたしは顔を見合わせて頷き、微笑み合った。
「王都の学園で勉強しながらそちらの邸宅に通って、相性を見て貰えればいいかと思う――ね、アリシア」
「はい。ジョシュア様」
一瞬苦々しい表情をしたシャルルだったが、わたし達の話を聞くと、
「じゃあ、王都に戻ってすぐにこの問題に取り掛かるよ」
そしてうっとりと想像する様に目線を泳がせた。
「お美しいジョシュア様と姉さまの子供…なんて愉しみなんだろう」
善は急げと言わんばかりの、すぐにでも飛び出していきそうな勢いだった。
そうしてその日の昼には、ゴージャスな侯爵家の大きな馬車2台に膨大な書類を積み上げ、ここの特産品とトリュフも詰めて帰っていった。
(ジャドー=エロイーズ特製ランチボックス付きである)
もちろん――シャルルは別れ際にしつこい程のお別れのキスをわたしにしまくって、若干名残惜しそうではいたけれど。
1
あなたにおすすめの小説
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる