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14 ゴルトベルガー商会の力
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若者達とともに村の広場へと向かった。近くに乗り合い馬車の乗り場がある。だが、エルンストはそちらには行かなかった。
広場から離れて暗い街道に出ると馬車が一台待っていた。
「アロイスじゃないか」
御者台にはアロイスが座っていた。
「さあ、早く乗ってください。一気に伯爵領まで行きます」
「頼む」
キャビンは布製の幌におおわれていた。走り出すと冷たい風が隙間から入ってきた。
冷たさに身をすくめると、隣に座ったエルンストが自分の着ていたマントをグスタフの肩にもかけた。それだけでなく身体を寄せて来た。
「少しは温かくなります」
エルンストの身体の熱を感じ、グスタフは身悶えしそうだった。女物の服でよかった。男物のトラウザーズだったら、もろに股間の異常がわかってしまう。
起伏の多い山道にさしかかると揺れがひどくなった。エルンストはグスタフの肩に手を回し、しっかりと身体を支えた。
「大丈夫だ。まだ傷が痛むのだろう」
「グスタフ様と一緒なら、傷の痛みなど忘れます」
健気なエルンスト。グスタフは泣きたくなるほど嬉しかった。このままずっとこうしていられたら。
伯爵領との境界の手前で馬車から降りた。まだ夜明け前である。
アロイスは二人の姿が見えなくなるまで見送ると、元来た道を帰って行った。
数マイル歩いたところでまた馬車が待っていた。今度は二頭立ての立派な箱型のキャビンをそなえたものだった。馬車から中年の男が下りて来た。
「エルマ―さんとグレーテルさんですか」
そうだとエルンストが答えると、男はドアを開けた。
「ゴルトベルガー商会のハンスです。どうぞ」
ハンスは二人を先に乗せて、自分は御者の横に座った。すぐに馬車は動き出した。
アロイスの馬車と違い、揺れは少ない。恐らく揺れないような仕掛けがキャビンにあるのだろう。道はこれまでと同様、平坦ではないのだから。
伯爵領との境界で一度止まっただけで中が改められることなく、馬車は走り続けた。
グスタフは安堵した。
「ゴルトベルガーというのは、大した力があるのだな」
「本当に」
「恐ろしいな」
グスタフは自分の命を狙うアデリナも恐ろしいが、自分を王位につけるために動くゴルトベルガーも恐ろしいと思った。もし、グスタフが王になったら、彼らは一体どういう見返りを要求してくるのだろうか。
エルンストも同じことに気付いたようだった。
「確かに子爵に肩入れする外務大臣と似たようなものですね」
兄のゲオルグは外務大臣の娘と婚約している。外務大臣はゲオルグの意向を受けて国境の警備を厳しくしている。ゲオルグがいずれ国王になった時のことを考えてのことだろう。かたやグスタフはゴルトベルガーの顔すら知らない。ノーラの奉公先だという繋がりしかないのだ。それなのに、なぜ農書や肥料程度でグスタフを支援するのか。心強いとはいえ、薄気味の悪い話であった。
それでも今は彼らを信用して馬車に乗り続けるしかない。
昼過ぎに伯爵領の中で二番目に大きな村で休憩をとった。新年の休みで休業しているゴルトベルガー商会の系列の商店の二階でハンスとともに三人で昼食をとった。
いつもは商店主一家が食事をとる部屋は城の食堂とは違い、狭いが温かみがあった。暖炉に燃える火のおかげで温まった部屋でエルンストと肉入りのスープや柔かいパンを食べていると、このままずっとここにいたいと思えてくる。不可能だとはわかっていても。
食事中に外に出て行ったハンスが鳩の入った籠を持って戻って来た。
「公爵夫人がコルネリウス様の件を知ったようです。都からレームブルックと国境に向けて公爵家に仕える騎士の小隊を走らせています。兄殺しのグスタフを討てと」
グスタフもエルンストも驚いた。コルネリウスの死をハンスはまるで既知のことであるかのように語っている。しかも公爵家の騎士団をアデリナが指揮している。父以外の命令には従わぬはずなのに。
「ハンス殿、なぜ、さようなことをご存知なのですか」
「エルンストさん、殿は不要です。ハンスで結構です。すべてノーラや主から、鳩で知らされています。今度は私から鳩で手紙を送る番です」
「鳩だって!」
グスタフもエルンストも驚いた。籠の中の小さな鳩にそんなことが出来るとは知らなかった。
ハンスは食卓で紙に小さな文字で何かを書き付けた。無論、暗号文である。それをくるくると巻いて小さな円筒形の容器に入れると、鳩の足に取り付けた。
籠から鳩を出し窓から放すと都の方角へと飛んで行った。
「都からここまで来て、また都とは」
「同じ鳩ではありませんよ。都から来た鳩は今、別の部屋で休んでいます。この鳩は都へ飛ぶように訓練された鳩です。商会の系列の商店では連絡用の鳩を置いて、緊急の時に使っているのです」
「便利だが、鳩が鷲に襲われたらまずいな」
「ええ。それに代わる方法の開発を国王陛下が主導してくださるとありがたいのですが」
ハンスはグスタフの置かれた立場も知っているようだった。だが、グスタフには答えようがない。まだ彼は何者でもないのだ。
広場から離れて暗い街道に出ると馬車が一台待っていた。
「アロイスじゃないか」
御者台にはアロイスが座っていた。
「さあ、早く乗ってください。一気に伯爵領まで行きます」
「頼む」
キャビンは布製の幌におおわれていた。走り出すと冷たい風が隙間から入ってきた。
冷たさに身をすくめると、隣に座ったエルンストが自分の着ていたマントをグスタフの肩にもかけた。それだけでなく身体を寄せて来た。
「少しは温かくなります」
エルンストの身体の熱を感じ、グスタフは身悶えしそうだった。女物の服でよかった。男物のトラウザーズだったら、もろに股間の異常がわかってしまう。
起伏の多い山道にさしかかると揺れがひどくなった。エルンストはグスタフの肩に手を回し、しっかりと身体を支えた。
「大丈夫だ。まだ傷が痛むのだろう」
「グスタフ様と一緒なら、傷の痛みなど忘れます」
健気なエルンスト。グスタフは泣きたくなるほど嬉しかった。このままずっとこうしていられたら。
伯爵領との境界の手前で馬車から降りた。まだ夜明け前である。
アロイスは二人の姿が見えなくなるまで見送ると、元来た道を帰って行った。
数マイル歩いたところでまた馬車が待っていた。今度は二頭立ての立派な箱型のキャビンをそなえたものだった。馬車から中年の男が下りて来た。
「エルマ―さんとグレーテルさんですか」
そうだとエルンストが答えると、男はドアを開けた。
「ゴルトベルガー商会のハンスです。どうぞ」
ハンスは二人を先に乗せて、自分は御者の横に座った。すぐに馬車は動き出した。
アロイスの馬車と違い、揺れは少ない。恐らく揺れないような仕掛けがキャビンにあるのだろう。道はこれまでと同様、平坦ではないのだから。
伯爵領との境界で一度止まっただけで中が改められることなく、馬車は走り続けた。
グスタフは安堵した。
「ゴルトベルガーというのは、大した力があるのだな」
「本当に」
「恐ろしいな」
グスタフは自分の命を狙うアデリナも恐ろしいが、自分を王位につけるために動くゴルトベルガーも恐ろしいと思った。もし、グスタフが王になったら、彼らは一体どういう見返りを要求してくるのだろうか。
エルンストも同じことに気付いたようだった。
「確かに子爵に肩入れする外務大臣と似たようなものですね」
兄のゲオルグは外務大臣の娘と婚約している。外務大臣はゲオルグの意向を受けて国境の警備を厳しくしている。ゲオルグがいずれ国王になった時のことを考えてのことだろう。かたやグスタフはゴルトベルガーの顔すら知らない。ノーラの奉公先だという繋がりしかないのだ。それなのに、なぜ農書や肥料程度でグスタフを支援するのか。心強いとはいえ、薄気味の悪い話であった。
それでも今は彼らを信用して馬車に乗り続けるしかない。
昼過ぎに伯爵領の中で二番目に大きな村で休憩をとった。新年の休みで休業しているゴルトベルガー商会の系列の商店の二階でハンスとともに三人で昼食をとった。
いつもは商店主一家が食事をとる部屋は城の食堂とは違い、狭いが温かみがあった。暖炉に燃える火のおかげで温まった部屋でエルンストと肉入りのスープや柔かいパンを食べていると、このままずっとここにいたいと思えてくる。不可能だとはわかっていても。
食事中に外に出て行ったハンスが鳩の入った籠を持って戻って来た。
「公爵夫人がコルネリウス様の件を知ったようです。都からレームブルックと国境に向けて公爵家に仕える騎士の小隊を走らせています。兄殺しのグスタフを討てと」
グスタフもエルンストも驚いた。コルネリウスの死をハンスはまるで既知のことであるかのように語っている。しかも公爵家の騎士団をアデリナが指揮している。父以外の命令には従わぬはずなのに。
「ハンス殿、なぜ、さようなことをご存知なのですか」
「エルンストさん、殿は不要です。ハンスで結構です。すべてノーラや主から、鳩で知らされています。今度は私から鳩で手紙を送る番です」
「鳩だって!」
グスタフもエルンストも驚いた。籠の中の小さな鳩にそんなことが出来るとは知らなかった。
ハンスは食卓で紙に小さな文字で何かを書き付けた。無論、暗号文である。それをくるくると巻いて小さな円筒形の容器に入れると、鳩の足に取り付けた。
籠から鳩を出し窓から放すと都の方角へと飛んで行った。
「都からここまで来て、また都とは」
「同じ鳩ではありませんよ。都から来た鳩は今、別の部屋で休んでいます。この鳩は都へ飛ぶように訓練された鳩です。商会の系列の商店では連絡用の鳩を置いて、緊急の時に使っているのです」
「便利だが、鳩が鷲に襲われたらまずいな」
「ええ。それに代わる方法の開発を国王陛下が主導してくださるとありがたいのですが」
ハンスはグスタフの置かれた立場も知っているようだった。だが、グスタフには答えようがない。まだ彼は何者でもないのだ。
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