カオスの遺子

浜口耕平

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第一部 エルマの町

第四十八話 ダンジョン再び

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 ロード達が出発して一先ず宿舎に戻ってから荷物を用意すると町を出立してダンジョンに着いたのは、馬車で一日後だった。
 馬を近くの木に停めて休憩させておいてから、中へと入っていった。
 二回目もあってかロード達は軽い足取りで延々と続く回廊を進んでいた。
 「久しぶりだなこの場所も」
 「この前はニトたちローデイルの兵士もいたわね」
 「そう……だな」
 「確かアナタがここら辺りでアナタたちが転送罠にかかったのよね」
 「そうだったか? 確かここらへんで俺とガロンが喧嘩して……」
 すると、地面に魔法陣が出現し、ロード達は光と共にどこかへ転送されてしまった。
 「デジャブかよ。それよりここはどこだ?」
 辺りを見渡すと、暗い道が両端にある松明に照らされて目の前には天井まで届く大きな扉があった。
 ロード達は手で頑張って押して開こうとするが、開く気配はない
 「お前らどいてろ、俺がぶっ壊してやる」
 そう言うと、ザクレイは多次元魔装ダークアーマーを装備して扉の前に立って壊そうとしたが、魔神の腕によって妨害された。
 「ロード何のつもりだ?」
 「僕じゃないよ! え? なになに『ここは聖なる神代の座かみよのざだ。ここを力で穢そうなんてタルタロスに落ちるぞ』だって」
 「ならお前が開けろよ」
 ザクレイは多次元魔装《ダークアーマー》を解除して命令し、ロイドが魔神の腕で押すとゆっくりと扉が開いていった。
 ロード達が中に入ると、最初に目に飛び込んできたのは大きな太陽が描かれた壁画とその壁画の前に女性の石像だった。
 ロードは女性の像が気になって近づくと、ロイドがロードを持ち上げて近くに寄せた。
 「どうしたロード、気に入ったのか?」
 「違うよアレス。なんだか変な感じがするんだよね。みんなはどう?」
 他の三人は何も感じずにお目当ての神器を探すため辺りを物色していた。
 「う~んどこにあるんだ、案外その石像に隠されているかもな」
 一向に見つからないことからアレスは石像に近づいて触ろうとした。
 「触れるな! 不敬であるぞ!」
 突然の女性の声にビックリして手をアレスは引っ込め、ロード達は声がした方を見た。
 そこには、貧相な格好をした女性がロード達を睨みつけていた。
 「誰の許しを得てここに入った!? ここは聖なる祭壇である人間どもが勝手に来ていい場所じゃない」
 「誰だよお前? いつからそこにいる?」
 ザクレイが女性に尋ねる。
 「私はパイロン、父クラウディウスの命によりこの神殿の守護を千年も前より任せられたもの」
 「クラウディウス!?」
 クラウディウスの名を聞いて全員が臨戦態勢に移った。
 「やめなさいこの場にて争いごとは禁忌です。それよりもなぜお前たち人間がここにいる?」
 「私たちはロイドに言われてここに神器を取りに来たのよ」
 「ロイド? 誰のこと?」
 「カオスの第十遺子のロイドだよ、今は僕の中にいるよ」
 「第十遺子? 遺子は九人、ディーン様までのはず、、 この場で嘘をつくなんてとんだ大罪だ! 覚悟しろ!」
 パイロンは怒って持っていた武器をロード達に向けた。
 「ま、待てよ俺たちは嘘をついてない。ほら見ろあの腕にある紋様を」
 アレスに言われて魔神の腕の甲にある黄色いカオスの紋様を見ると、パイロンは顔色がみるみるうちに悪くなって武器を床に置いてロードの前にすごい勢いで跪いた。
 「すみませんでしたー! 本当に本当に申し訳ございませーん!!」
 あまりにすごい勢いで謝るものだからロードはおろか周りにいるアレスたちも引いていた。
 「『気持ち悪いからやめろ』って言ってるよ」
 「はい止めます!」
 「ねえパイロン、神器ってどこにあるの?」
 「うるさいぞ人間! 私が言うことを聞くのは神の代理人たる遺子の言葉だけだ!」
 「『答えてやれ』って言ってるけど」
 「はい! 神器は私が持っているこちらの物でございます」
 パイロンはジキル&ハイドのようにコロコロと態度が変わっている。
 ロードに差し出された神器は一本の杖だった。
 「これが神器なの? ちょっと重いね」
 「はいそれがこの神殿にある神器カリグラでございます」
 「ふーん、ねえ神器ってそもそも何なの?」
 「神器は世界が創造されたあと、世界へ悪意を持った巨大で醜悪な存在が人間界へ襲撃し、空は黒煙で黒く変色し、地上は炎に覆われていたのを神は哀れに思い原初の遺子様たちを人間界へ遣わし魔法と共に与えられたと聞いております」
 「ん? 何で遺子が僕たち人間のために? 遺子は人間の敵だよねザクレイ?」
 「確かにそうだが、遺子は十人もいるんだ人間にも友好的な奴もいるんじゃないか?」
 ロードの発言にパイロンが少し引きつった顔になったのを見てザクレイは刺激しないようにうまい言葉で濁そうとした。
 「そうなんだ。でも、敵になったら倒さないとね」
 「おい! クソガキ何だその言い方は! 父上たちに失礼だろ!!」
 さすがに、遺子を倒すという発言は看過できなかったのか、パイロンは怒ってロードの胸倉を掴んだ。
 「離してよ! 僕がカオスの遺子と戦うのはみんなのため、世界のためなんだ!」
 ロードはパイロンに怖気ずに自分の意思を声高に叫んだ。
 「何だと!? 今この場で私が罰を与えてやる」
 パイロンは拳を振り上げてロードに殴りかかろうとしたが、パイロンの体をロイドが魔神の腕で掴んだ。
 「叔父上、どういうことですか? このガキはアナタたちカオスの遺子、ひいては神に背いている永遠の罪人ですよ。どうして私を止められるのか?」
 パイロンはロードの中にいるロイドに向かって語りかけると、少ししてロイドから伝えられたことをロードは話した。
 「『人間が己の信念に従い、我々に弓を引くことはすべて運命の絶対者である母上の意思だ。したがって、人間の行動は母上の意思の範囲内だ』だって」
 「そうですか、、 わかりました」
 納得したのを見てロイドはパイロンの体を離した。
 「この神器どっちが使う? ねえ神器ってこれ一つしかないの?」
 「ええこの神殿にはそのカリグラただ一つです。しかし、この場所以外の神殿にもあると思いますが、どこの神殿にあるかは分かりません。それに、この神代の座かみよのざは導きによって誘われなければこれません」
 「そっかー、じゃあどうしようかな。これどうする?」
 「俺が使うよ! ロード俺によこせ!」
 「ちょっと勝手に決めないでよ! 私も使う権利があるんだから話し合いで決めましょうよ!」
 「俺の方が上手く扱えると思うからこれは俺のもんだ」
 「自分勝手なこと言わないでよ! 私の方がその武器が似合うに決まってるわ!」
 メリナとアレスが一本しかない神器を前に言い争いの喧嘩を始めたのをパイロンは、醜い争いだと蔑視していた。
 「おいやめろ、そんなに喧嘩するならこれは俺が国に献上する」
 ザクレイがアレスからカリグラを取り上げると、手に熱いものに触ったような感覚を覚えて話してしまった。
 「何だ? どういうことだ?」
 「ああお前は混血か、それじゃあしょうがないね。神器は人間の武器なんだから」
 ザクレイが何が起こったのかと手を見て不思議に思っていると、パイロンがその理由を教えた。
 落ちた神器をロイドが魔神の腕で拾うとロードに手渡した。
 「それじゃあこの神器は後で二人で話し合って決めようよ! それまでは僕が預かっておくから!」
 「むむむ…… それならしょうがないな」
 「絶対に手に入れてやるわ」
 二人は納得して静かになり、目標を達成したロード達は神代の座かみよのざから出ようとしたところパイロンに呼び止められた。
 「待ちなさい、私が入り口まで送ってあげるわ」
 「本当に? ありがとう!」
 「構わないわ、それじゃあこっちに来て」
 パイロンはロード達をある位置まで誘導すると呪文を唱えて転送陣を作り出した。
 「なあお前はいつまでここにいるんだ?」
 「世界の王が私を迎えに来るまで」
 「世界の王?」
 ロードがパイロンに尋ねる。
 「ええ、いつか現れるすべてを超越したカオスに匹敵するほどの存在、それが世界の王。もし、現れるのなら…」
 パイロンが喋っている最中に転送陣が発動し、ロード達は転送されていった。
 「ああ行ってしまった…… 久しぶりに会話出来て楽しかったわ、ありがとう。世界の王よ、いつになったら私をここから連れ出してくれるのですか?」
 パイロンは約千年ぶりの会話で心の中でロード達との会話を楽しんでいた。
 彼女がこの場から、父から解放されるのはいつになるのだろうか…

 「さっきなんて言おうとしたのかな…」
 「そんなことより早く帰ろうぜ、所有者をちゃんと決めないと」
 「そうよロード、今はそのカリグラの方が大切なんだから」
 「分かった。じゃあ帰ろう僕たちの町へ」
 そうして、ロード達はエルマの町へ帰っていった。
 後日、宿舎に帰ったロード達は、メリナとアレスの話し合いの場の設け話し合いの結果、カリグラはメリナのものとなった。
 カリグラを手にしたメリナはロードみたいにはしゃいで外で魔法の練習をしたくて興奮冷めない様子だったが、アレスは自室のベッドで涙を流してうなだれていて、さすがのロード達もからかうことができなかった。
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