カオスの遺子

浜口耕平

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第一部 エルマの町

第五十七話 作戦崩壊!? 未来を見渡す神眼の力

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 ロード達が修行を終え宿舎に戻ると、ロードがみんなの前でディーンの能力を説明した。
 ディーンの能力の全貌を聞いていると、みんなの顔つきが青くなった。
 ディーンの能力は【神眼】 万物を見通しはるか先の未来を見渡す神の眼 
 それは、神である母カオスより遺子たちに与えられた力の内の一つ、神の子であることの証。
 今日の特訓はそれぞれのチームが目標を設定して行っていた。しかし、ディーンの能力の前では事前の計画は無意味だった。
 「はあ? なんだよそれ、、 てことは俺たちの特訓は意味なかったってことか?」
 アレスは酒瓶を手にして、軽く伸びをして面倒くさそうな顔でロードに聞いた。
 「僕はそんなことないと思うけど、、、」
 ロードは確信がないためか、言葉を澱ませながら答えた。
 「実際俺たちは強くなったが、、 もしディーンがここへ来て戦うことになったら俺たちはすべての攻撃が当たらなくて全滅する。ディーンじゃなかったとしても力の差で全滅する可能性が高いな」
 ザクレイはどの遺子が攻めてきても希望的観測が見えない状況であることを淡々と述べると、ため息をついて、「はあ~まいったなこりゃ~」と呟いた。
 「いやディーンが神眼を持っているなら、ロイドを殺したお前たちのことを一足先に掴んで今頃我々の所へ向かっているだろう」
 スクロースは今の状況を整理して、今向かっている遺子はディーンの可能性が高いと結論付けた。
 「さっすが~よく分かってるなスクロース。それじゃあ早速始めるか」
 スクロースの考えに感心したナルザスは席を立つと、地面にあぐらをかいて座り込んだ。
 「何やってるの?」
 「瞑想だよ、め!い!そ!う! 頭ん中を空っぽにして考えを悟られないようにするんだ!」
 「ハハハバカかよお前! そんなんで空っぽにできるわけないだろ」
 ザクレイはナルザスが突拍子のない行動に笑い転げていた。
 「いい案だと思ったんだけどな~」
 瞑想を否定されたナルザスは再び席に着いた。
 「それじゃあどうするの? スクロースさんの言った通りにディーンがやって来るなら、私たちが何をしたって意味がないんじゃないの?」
 「それは違うわ。『何をしたっても意味がない』じゃなくて『何をやってもためになる』のよ」
 メノウはディーンの能力の前では事前の準備をする意味がないとするメリナに対し、やって見ないとわからないという旨を伝えた。
 「だったら明日も頑張ろうね! 僕眠いからもう寝るね」と言葉を残して二階の部屋へと去っていった。
 「だったら俺も寝に行こうかな…」
 「私も疲れたから寝ようかしら、、」とアレスとメリナは昼の特訓の疲れもあって自室へと帰っていった。
 残った隊長たちも明日があるからと言って軍が手配した宿に帰っていった。
 そうしてリード一人だけになると、リードは魔法で日記帳を取り出した。
 そして次のように書き込んだ。
 「今日はアホの面倒を見ていてとても疲れた。英雄として覚醒するまでのちょっとした時間ぐらい普段は我慢してやってもいが、今は時間がない。
  俺が出て行ってもいいが足がつくのはまずい 今はまだその時ではないんだ。
  それに、ロードもロイドの力をだんだんうまく扱えるようになってきている。いい調子だ。このままいけば、世界は滅びるかもしれないが、それもまた…」
 「何書いてるの~?」
 「!?」
 リードが日記を書いている最中に突然横にロードの顔が現れて、中の内容をのぞき込むように動いたが、リードが顔を掴んで引き離すとロードを睨み付けた。
 日記の中を見たかどうかではなく、中を見ようとしたことがリードの逆鱗に触れた。
 「に、、にいさん、、 なんかこわいよ」
 ロードはリードが怒っているということがすぐに分かって、目を背けようとした。
 「おい、俺は何回も言ってきたよな? 俺の本を勝手に見るなって。何で言うことが聞けないんだ? お前の耳と頭は飾りか?」
 リードはかなりご立腹な様子でドスを聞かせた声で静かにロードを叱っている。
 久々にリードをブチぎれさせたロードは、リードが叱っている間も怖くて目を合わせられずにいた。
 そんなロードの態度に、それまで我慢して泣かせないようにしていたリードだが、ついに我慢の限界を迎えた。
 「何だその態度は!? ちゃんと俺の目を見ろ! さっきからグチグチしやがってふざけるのもたいがいににしろよ!!」
 「えーーん!! ごめんなさーい!」
 ロードもとうとう泣き出してしまった。
 (あーしまった…)とリードは頭を抱えながらロードを泣かしたことを後悔した。
 というのもロードは一旦泣き出すと泣き止むまでかなり時間がかかった。とりわけ、常にロードの親代わりとなっているリードに怒られたら尚更にだ。
 「おーよしよし。頼むから泣き止んでくれよ~」
 リードは体を引き寄せて頭を撫でているが、ロードに泣き止む気配はない。
 「困ったな~」
 泣き止まないでいると二階からパジャマ姿のメリナが下りてきた。
 「ちょっとうるさいわよアンタたち! 今何時だと思ってるの?」
 メリナは少し不機嫌なようで、騒ぎの大元の二人を軽くにらんだ。
 ロードはメリナが下りてきたのを視認するとメリナの胸元に飛びついた。
 「うわぁあーん1 メリナぁ~」
 「ちょっとロード、服が濡れるから顔をこするのはやめてちょうだい」
 しかし、メリナの言うことも届いていないのかロードはメリナの胸元にがっしりとしがみついて決して放そうとしない。
 「もう一体どうしたって言うのよ、、」
 離そうとしないロードを引きはがすのを諦めたメリナは、もう一人の当事者、騒動の原因となったリードに目線を映して何があったのか尋ねた。
 「コイツが俺との約束を破ったんだ。それを俺が叱ってやったらこのざまだ」
 リードはさっきあったことを話した。
 机に肘をつけて顔を支えているリードは、早く静かになってほしいと思っていた。
 「そう。ロード、アナタが悪いんだからリードにちゃんと謝りなさい!」
 「う~うううー!!」
 どうやら逆効果だったようで、ロードの鳴き声はさらに大きくなってメリナは疲れてきた。
 埒が明かないのでメリナはロードを自室に運ぼうと手を握って二階へと向かった。
 部屋にたどり着くとメリナは何があったのか本人に聞くことにした。
 そうして話をしているロードはだんだん落ち着いてきたようで、話すにつれ言葉を詰まらせずに喋れるようになっていた。
 ロードの話を正面から目を見て聞いていたメリナは、ロードの心境を理解して優しくなだめた。
 「そうなの、、リードは少し怒りすぎよね。でも、アナタも悪いのよ後でちゃんと謝っておくのよ」
 「うん」
 自身が言いたかったことをメリナが真剣に聞いてくれたことで気持ちが楽になり。いつの間にか笑顔になっていた。
 「……にしても、何でリードは自分の物をそこまで見られたくないのかしら?」
 「知らなーい、僕も一度だって兄さんの本を見たことないよ」
 「もしかしたら、前言っていた奥さんのことが書かれているんじゃないかしら? だったらアナタに見られたくないのも分かるわ」
 「それはダメー!!」
 「うふふ、そうよねロードはリードしか親代わりがいないもんね」
 「そうだよー兄さんがいなくなったら僕死んじゃうよ~」
 こうして他愛のない話をし終えたあと、ロードは自室に戻っていびきをかいて寝ているアレスを尻目に眠りについた。
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