カオスの遺子

浜口耕平

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第一部 エルマの町

第五十九話 永遠の悪夢 アレス編

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  ロードと同様にアレスも自我を持ちながら夢を見ていた。
 アレスは気が付くと七年前のあの姿になっており、家の鏡の前ではしゃいでいた。
 「おお! スゲー若返ってる! やべえやべえちょっと外に出てみるか!!」
 どうやらここはあの九尾の男エニグマが襲来する前の村で、家族はもちろん他の村人たちも生きていた。
 アレンたち家族が生きていることは嬉しかったが、それ以上に最悪なことはアレスを異端児扱いしている村人たちも生きていることだった。
 それゆえ、若返ったアレスは意気揚々と村を歩き回っていると、いつものことだった騒がしい罵声を浴びせられた。
 「ああ、、 そうだったコイツらも当然生き返っているよな~」 
 アレスは罵声を浴びせられるのは久々だったので以前のような嫌悪感と不快感はあまり感じていなかった。
 「おい聞いてるか化け物! 何笑ってるんだよ気持ち悪いぞ」
 「いやなんてことはないさ。ただ少し懐かしく思ってな、それに、お前たちの世界がケツの穴より小さいなんてな」
 「何だと! 人じゃない癖に偉そうな口叩くな! みんなやっちまえー!!」
 リーダー格の少年が周りにいた子供たちに命令させると一斉にアレスに襲いかかっていった。
 「フフ、いいぜ久しぶりの喧嘩だ最後まで付き合ってやるよ」
 アレスもノリノリで乱闘に参加していった。
 しばらくして決着がつくと、アレスにボコボコにされた子供たちが一目散に逃げていった。
 「ちぇ、つまんねえの。あーあ、飽きたから一旦家に帰るか」
 そうしてアレスは家へと帰っていった。
 「ただいま~母さんなんか食べ物ない?」
 しかし、誰の返事もない。
 「あれえいないのか…?」と辺りを見渡していると、二階からアレンが下りてきた。
 「兄さん帰ったんだ」
 「おう。なあアレン母さんを見なかったか? ちょっと腹が減ってな」
 「母さんなら仕事で町に行ってるよ。それに兄さんのものか知らないけど、変な武器が家の前に捨ててあったんだよね」
 「武器?」
 「そうあれだよ」
 アレンが指さした方を見ると、そこには神器マルスが壁に立てられていた。
 それを見たアレスはマルスに近づいて行った。
 「おいマルス、何でお前が俺の家にいるんだよ?」
 「知らねえよそんなの。気づいたらお前の家の前に捨てられていて、お前が俺を売っちまったと思って悲しんでいたら、あそこのチビに拾われて中に入れられたんだ」
 二人はアレンに聞こえないように小さな声で話していた。
 「兄さんは一体誰と話しているの?」
 コソコソ武器に話しかけているアレスを気味悪がった顔でアレンは見つめている。
 「いやなんでもないよ。そうだ俺ちょっと用事があるんだった」と誤魔化そうと慌てた口調で言った後、アレスはマルスを抱えて家を飛び出していった。
 「変なの~。まさか本当に魔物に取りつかれたんじゃ、、」
 残ったアレンは奇怪な行動をする兄によからぬ妄想をしていた。
 
 「はあ、はあ、 ここまでくればいいだろ」
 アレスは町から離れた場所へとやって来ると腰を下ろした。
 「何で逃げたんだ? あんな事したら余計怪しまれるだろ」
 「しょうがないだろ。テンパっちゃって俺も上手く頭が回らなかったんだよ!」
 「そうかい。だが、ここは一体どこだ? お前の故郷だそうだが、故郷は滅んだんだろ?」
 「ああそうだ」とアレスは遠くにある村の方向を見て悲しげな声で言った。
 「俺の故郷は確かに滅んだ。 、、だが、これは一体どういうことだ。夢にしては現実的過ぎるし、現実としては俺の理想を思い浮かべた世界に近いかもしれない」
 「なら夢だということか… だとしたら一体どうやってここから抜け出すつもりだ?」
 「知るかよそんなの」
 アレスは草木に両手を首の後ろに回して寝転がった。
 ここは夢かもしれないが、大切な家族がいるこの世界はアレスにとってこの上なく幸福に満ちた場所であった。
 そのため、これが夢だとしても覚めなかったとしてもまんざらでもなさそうだった。
 「何言ってんだよアレス! お前は兵士、人々を救う英雄となる器なんだ。だから、さっさと俺と一緒にここを出よう!!」
 マルスは何のアクションも示さないアレスを刺激して立ち上がらせようとしたが、「うるせえ! ここは俺にとっての理想郷なんだ! 自分の理想を崩してまで他人を助けるなんて笑わせるぜ」と鼻で笑った。
 (アレス… お前は、いやすべての人もそうだが、自身の理想が手に入ったらそれを維持しようと固執する、他の犠牲なんてないかのようにな…)
 マルスはアレスを決して責めるような真似はしなかった。
 人である以上、自分の平穏を投げ出してまで他人を助けるようなこと、ましてや世界を救おうとすることができる人間なんているのだろうか? それこそ英雄の偉業と言うべきではないのか? とマルスは寝転がったアレスの背中を見ながら自問自答していた。
 マルスが悩んでいるとアレスが何か思いついたかのように突然跳ね起きた。
 「どうした? やっぱり俺と一緒にここから出ようと考え着いたのか?」
 マルスは期待を込めた声でアレスに呼びかけたが、アレスの口から出た言葉は思いもよらない言葉だった。
 「ここが夢の世界だったらさ、何やってもいいんだよな? だったら俺を今までさんざんいびってきた奴ら全員に仕返ししてやらなきゃな」
 「そ、それはどうなんだろうな」
 「よしそうと決まったら出発だ!」
 そう言うと、マルスを持って村へと走っていった。
 走っているアレスの口は笑っていた、マルスは何だか嫌な予感がしてきた。
 嫌な予感は的中した。
 アレスは目についた子供たちを男女関係なく片っ端から殴りかかっていった。
 「う、うう~ 化け物が、、」
 子供たちはアレスに動けなくなるまで殴られて肌が赤黒く変色していた。
 「やめろ! これ以上やると死んでしまうぞ!!」
 マルスは大声で呼び止めたが、アレスの心には届かない。
 既に復讐の鬼と化したアレスは、目を血走り、不気味な笑みを浮かべて動くなった体を痛みつけている。
 「いい加減にしろ!」とマルスはアレスの頭をとっての部分で殴った。
 「あ、あれ俺こんなところで何を…?」
 アレスは殴られたことで正気に戻ったが、先ほどまでの記憶が曖昧になっていた。
 「覚えていないのか? そんなことよりお前どうするんだ? この子供死んでるぞ」
 「え? 嘘だろ… 俺が殺したのか……?」
 状況を上手く呑み込めないアレスは頭を抱えてこれからどうしようか考えていた。
 「やばいやばい本当にヤバい! これじゃあ俺は本当に化け物だ…」
 アレスは自分が殺した遺体を前に自分がしたことの恐ろしさに震えていた。
 「もうここにお前の居場所はないぞ! 今はとりあえずこの村から出よう」
 「そ、そうだな」
 そうしてマルスに促されるまま村を去った。

 数年後、村を去ったアレスたちは町を転々として日銭を稼ぎながら生活していた。
 帰る家を失ったアレスは田舎の家族を思いながら現実に変える方法を探っていた。
 そして今日も日銭を稼いだあと他の町へ歩いて向かっていた。
 「本当にこのまま現実に帰っていいのか? 家族に一目会わずに帰るつもりなのか?」
 「ああ、殺人をした俺を受け入れたらみんなに迷惑がかかる。俺がいない方が平和に過ごせて行けるはずさ」
 「そうか今回は俺と違って自分自身で故郷を壊したんだな」
 マルスの言葉を聞いてアレスは足を止めて彼の方を見た。
 「何言ってんだお前?」
 「言った通りさ、お前の故郷は俺じゃなくてお前自身が壊したんだ」
 「いやいや本当に何言ってるのか分からないぞ」
 「フフ本当に分からないのか? じゃあこれならどうだ?」
 すると、マルスが光りだして姿を変えた、その姿はアレスの不俱戴天の敵エニグマだった。
 アレスはその姿を見てすぐさま両手を構えて魔法を唱えた。
 「オメガブラスト!!」
 エニグマは片手を突き出して、アレスのオメガブラストを打ち消した。
 そして、九尾の尾でアレスの腹を貫くと無造作に地面に放り投げた。
 腹を貫かれたアレスはこれ以上血を出さないように必死に抑えているが、血の流れは止まらない。
 そんな中、エニグマがアレスに近づいてきて近くに座った。
 「いきなりひどいなお前、これまで一緒に生活してきた仲だろ?」
 「ふ、ふざけんじゃねえ! お前は俺の家族を!故郷を! すべて壊しやがったお前が!」
 「あははは! この世界でお前の故郷を壊したのはお前だろ?」
 「それに、いいことを教えてやる。お前の目を盗んでこの前お前の故郷の村に行ってきたんだよ」
 「お前! 殺したんじゃないんだろうな!!?」
 アレスはエニグマを睨み付けた。
 「おいおいそんなに睨むなよ。確かにお前の家族は死んでいたな。だが殺したのは俺じゃない村の人々だ」
 「嘘だ! お前の言うことなんか信じられるか!!」
 信じたくなかった。絶対に信じたなかった。
 「嘘じゃないよ。お前が去ったあの日、殺された子の家族は仲間を連れて押し入って全員殺したそうだ。だが、お前の家族を殺した奴らは何のお咎めもなしだったそうだぞ」
 「う、うう…」
 アレスはそれを聞いて涙を流した。
 あの時一緒に連れ帰っていれば、あの時俺が殺さなければ、あの時俺も残るべきだったなどと深い後悔と自責の念にかられ涙が溢れてきた。
 「おうおう可哀そうに。安心しろ、お前の仇は俺が討っておいてあげたぞ」
 エニグマはそう言うと顔を泣いているアレスに近づけた。
 「さあこの世界にお前の復讐相手はいなくなったぞ。このままこの世界に残って一生を終えるか、現実に戻って俺と敵わない復讐ごっこをするか、お前はどっちを選ぶ?」
 「どうだ復讐なんてつまらないだろ? 終わった後にすべてが解決するわけでもないし、もうやめとけよ」
 「いいや俺は必ずお前を殺す。たとえすべてが悪夢に終わったとしても、俺が途中で死んだとしても俺はこの旅を続ける!!」
 アレスがそう言うった時、エニグマの体にヒビが入って体が崩れ始めた。
 「それがお前の意思と言うなら仕方ない、個人の意思は尊ばれるべきものだ。たとえそれが復讐であろうとも」
 「友を失う覚悟があるなら突き進むがいい。因縁の地でまた会おう」
 エニグマの体は崩れ去った。
 その時、世界は眩い光に包まれアレスも眩しさのあまり目を閉じ、少しすると現実に戻っていた。
 「友を失う覚悟か……」
 アレスはエニグマの最後の言葉を思い出して何が言いたいのかと疑問に感じていた。
 「いや、今はそんなことより他のみんなを起こさないと!」
 こうして悪夢から覚めたアレスは隣にいるロードを手始めに起こしに行った。
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