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第一部 エルマの町
第六十七話 完全支配
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ロードとスクロースは姿を消したディーンを探しに別行動していた。
「いないね~どこに行ったんだろう?」
「そうねぇ見つからないわね~」
二人は家の中を覗いたり、家と家の間の隙間を覗いたりして探そうとしているが、ディーンの姿は見つからない。
「なんかさっきから近くない?」
「気のせいじゃない?」
(そうかな~?)
一緒に探していると、徐々に近寄って来るスクロースにロードは警戒感を覚えて立ち止まると、体に引っ付いている彼女を見つめた。
スクロースは否定しているが、彼女はすっかりロードを自身の子供であるように意識しており、母性本能からなのか、まだまだ幼いロードが危ない目に遭わないように見張っていた。
すると、思い出したかのようにスクロースが口を開いた。
「あ、忘れてたけど、アレスはどうなったの? あの煙の大きさだったら見えていたはずだけど……」
「アレスは僕を助けたあとに… え、えーん! 自分の武器で倒されたんだよ!」
今までアレスのことをすっかり忘れていたロードは、アレスの名を聞いて思い出したか涙が溢れてきた。
「つらかったわね…… 大丈夫よ今は私がついているから」
「うん」
ロードはスクロースの胸に顔を埋めて涙とかで濡れたみっともない顔を見せないようにした。
スクロースは仲間や市民が死んで悲しんでいるロードを哀れだなと思い、これ以上悲しい思いをさせないために、ロードを体を張って守ることを決意した。
「アレスか…… アナタにとってリードのようなお兄さんのようよね」
ロードはこれまでのアレスとの思い出が頭に流れ込んできた。
一緒の部屋で生活して遊んで笑ったりしたり楽しい時間がある反面、不快な時間もあった。
夜遅くに酔っぱらって帰ってきては寝ている自分を起こしたり、社会勉強だとして夜のお店に連れていかれたり… まあ、この時はリードが連れ戻したおかげで店に入らずに済んだが、アレスはこっぴどく叱られた。
その他にも鼻に酒を流し込まれて痛い思いをしたり、勝手に財布のお金を盗んで博打をしたりなどななど…
「あれ? もしかして、あんまり悲しくない?」
ロードは今までのアレスの仕打ちを思い出して、悲しみより怒りの方が強いと分かると出なくなっていた。
「ん? どうしたのロード? 何か思い出しちゃった?」
「ううん、何でもないよ。見つからないし、みんなの所に戻ろう」
そう言うと、ロードはスクロースの手を引っ張ってみんなの所へ帰っていった。
「うおおお金剛城壁!!」
金剛城壁を唱えたナルザスだが、そこに出てきたのは歪な塊であった。
「もう何回やったら分かるのよ! もっとイメージをはっきりさせなさい!!」
「分かってるって!! 何回も言うなよ、俺だって本気でやってるんだから」
何回やっても綺麗な魔法ができないナルザスにメノウは怒っていた。
ナルザスが作った宝石は、汚く澱んでいて、光も上手く反射できてなくて使いものにはならない。
美しさを追求するメノウにとってそれは許されないことだった。
「アンタってホントにダメね。よくそんなので隊長になれたわね」
「じゃあお前こそ俺の魔法を使いこなせるのかよ」
「そんなの簡単よ。ほら」
メノウが指を鳴らすと、生命の樹でできた女性の精巧な木像が彼女の地面から現れてその女性像の手のひらに座った。
ナルザスはたった数十分で自分と同じぐらい精巧に魔法を扱えているメノウを見て、悔しい思いと同時に彼女の魔力コントロールの精度に感服した。
そして、ナルザスはメノウに負けないように再び魔法の特訓を始めた。
一方、メリナは苦戦していた。
「はあ、はあ難しい、、」
「頑張れよメリナ、少なくとも多次元魔装ぐらいは使いこなせるようにならないと戦えないぞ」
メリナは数十秒ほど多次元魔装を使うことはできるが、それを過ぎると魔法が切れてしまい、ディーンとの戦いはおろか魔人たちと戦うこともできない体たらくさに肩をおとした。
(力任せの脳筋魔法だと思ってたけど、繊細な魔力制御が必要だなんて…)
「俺の魔法をただの脳筋魔法だと思ってもらっては困る。体にぴったりな鎧を生成するのは、ずば抜けた集中力がいるんだ」
「分かってますけど、これはちょっと私にはキツイです…」
「甘ったれたこと言うな! ここは戦場だ言い訳は通用しないぞ。俺の体を殺さないためにも頑張ってくれ」
ザクレイは帰るべき体が死んでしまわないように、スクロースの魔法を練習するのも忘れてメリナの指導に当たっていた。
そこにロード達が帰ってくると、スクロースが修練の進捗を聞こうとしたが、状況から大体察せられた。
「お前たち、そこまでだ!! もう我らに残された時間は少ない。上手く扱えるようになった者はロードと共に前線に立ってディーンと戦え! 他の者は死なないように前線に立っている者を援護しろ!」
スクロースがそう指示を出すと、上手く扱えるようになったメノウとザクレイが前に出てきた。
「おいザクレイ、私の体をあんまり傷つけるなよ」
「言わなくても分かってるよ。だが、体を犠牲にして勝てそうなら命を懸けるぞ」
「それは絶対ダメ!! 私の体を殺さないように戦ってくれ」
前かがみになって勢いよく答えるスクロースに若干引いたが、今までの彼女からは聞いたことのない弱気な発言を不思議に思って尋ねたが、顔を俯けて口をごもごもして答えないでいるとロードが、スクロースは戦いが終わった後に僕を――」と言いかた時、スクロースがロードの口を塞いでそれ以上は言わせないように阻止した。
スクロースのあまりの慌てようにみんな唖然として彼女の行動を見ていたが、スクロースはみんなの視線を気にしないで照れながらロードの口を塞いだ。
呆気に取られていたメノウが大体のことを察してニヤニヤしていると、それに気づいたスクロースが、「何よメノウ、そんなに笑って」と言ったが、メノウは、「うんうん、何でもないよ~」と意味を含んだ言い方をした。
そんなメノウを気にしながらも、スクロースは手を離して四人でディーンの捜索に行こうとした時、上空から黒い物体がロード達の前に降りてきた。
砂ぼこりが舞い上がって全員が咳き込んでいると、声がしてきた。
「どうだ心が入れ替わった世界は? 斬新だろ? これからは他人として生きていくんだ、まあ、そうは言ってもお前たちに未来なんてないがな」
煙の中から姿を現したディーンを見て、スクロースが言ってた通りの陣形を組んだ。
突破口を開こうとロードが先陣を切ってディーンに単独で攻撃を仕掛けた。
「たああああ!」
うなりを上げて魔神の腕で攻撃するロードをディーンは両手の剣で受け止めた。
「ぬるい」
剣を払ってロードを遠くへ吹き飛ばすと、ディーンの神眼に大きな魔法陣が展開され音と共に中心の魔力が大きくなっていった。
「混沌の波動」
漆黒の波動がとてつもない速さでロードに向かって行った。
「はやッ」
「ロードォオオ!!」
スクロースが叫んだのも束の間、波動はロードがいたところを通り抜けて地平線の彼方まで続く破壊された足跡が残った。
「そんな、、 私のかわいい子…」
跡形もなくなった場所を見てロードが死んだと思ったスクロースは、膝を落としてロードがいたところをただ茫然と見つめていた。
「許さない!」
怒ったスクロースは、ディーンに向かって魔法を放つが、「全て見えていた、この事も」と言って両手でスクロースを切り刻もうとした。
死を悟ったスクロースは今までのことが走馬灯のように駆け巡って来た。
孤児院で魔法について学習したこと、兵士になって町で元気に遊んでいる子供を持った母親を見て羨ましいと思ったこと、海外へ行って他の混血の仲間と一緒に戦ったこと、隊長になって書類仕事に励んでいたこと。
だが、結局積年の夢だった子供を持つことはとうとう叶わず、死を目前にして後悔の言葉が出てきた。
「ああ、今度生まれ変わったら次は混血じゃない方がいいな… 一緒にいて楽しい仲間たちはできたが、自分の子は持てなかった。もっと自由に生きたかった」
スクロースが死を覚悟して目を閉じた、その時、魔神の腕が横から現れて彼女の体を掴んで剣が当たらない安全なとこに引きずり込んだ。
「ロ、ロード?」
スクロースの目の前には死んだと思っていたロードがいた。
「そうだよ、さっきロイドに引っ張ってもらえなかったら死んでたよ。…でもよかった、スクロースが無事で」
「ありがとう、ありがとうね」
そう言いながらスクロースはロードに抱きついた。
周りにメノウとザクレイがいるのも憚られずにロードに抱きついてほっぺたを顔にスリスリしており、ロードはされるがままでいた。
そんな中、ディーンが四人の前に現れてからロードが生きているのを見て、彼は心底驚いたかのようにこう言った。
「な、何故だ? お前は確かに死んだはずじゃ、俺の神眼でお前の死を見たはずなのに」
ディーンは起こっている現象が信じられずに口を荒げた。
「そんなの知らないよ。でも、お前の神眼も絶対じゃないんだ。僕には効かない、エヘヘ、そんなに強くないかもね~」
ロードはディーンの能力が効かないことに調子づいてからかうような言葉を吐き捨てた。
「いいだろう。なら俺の本気の神眼を見せてやる!」
そう言うと、ディーンは天上にある太陽を見つめた。
「な、なにをするつもりなんだ…」
ザクレイがディーンの行動を注意深く見ていると、太陽が日食のように暗くなると、中央にカオスの紋様が浮かび上がった。
「完全支配」
完成した太陽は漆黒に輝いて地上にいるロード達を不気味に照らした。
全員がその太陽をまじまじと見つめていると、ロード以外の全員に変化が起こった。
「な、動けん! 体が言うことを聞かん」
「うぐぐ、動け!」
などと必死に体を動かそうとするザクレイとメノウではあるが、彼らの思い通りにはいかなかった。
すると、勝手にザクレイとメノウの体が勝手に動いてロードに攻撃を仕掛けた。
「な!?」
驚いたロードだったが、攻撃をよけると二人に何で味方であるはずの自分に攻撃するのか聞いた。
「違うんだロード、勝手に体が動くんだ! どうにかしてよけてくれ!」
「ごめんロード!」
そこにスクロースも加わり、三人でロードに襲い掛かった。
必死にスクロースたちを攻撃しないように攻撃をよけ続けていると、ディーンが笑いながら何が起きているのか話し始めた。
「無駄だクソガキ! そいつらは俺の完全支配によって俺の言うことでしか行動できないんだ。あの素晴らしい太陽がある限り、お前は一人だ! この世界にお前の味方はいない!!」
「そ、そんな…」
それを聞いたロードはガッカリした。
今まで戦ってきた仲間たちが全員的になったこともあるが、自分に味方してくれる仲間がいなくなったことは、ロードの心に深い傷を与え動きを鈍くした。
「よけろおお!!」
ザクレイがそう言いながら、ロードに向かってデュアルショックで攻撃した。
よけないロードに攻撃が当たろうとした、その時――
「やれやれ、何やってんだロード。お前の夢はあのデカブツを倒すことだろ?」
そう言いながら現れたアレスが、ザクレイの攻撃をマルスで弾くと、彼らをまとめて氷で拘束した。
「アレス! 生きてたんだね、僕はてっきり死んだかと……」
「あ、いてッ」
アレスはロードの頭を小突きながら、「勝手に俺を殺すんじゃねえよ」と言った。
「さてと、やりますか。行くぞロード!!」
「うん」
アレスはマルスをディーンに向けて構えた。
「お前も俺の神眼の影響を受けていないな…… かたやロイドをその身に宿し、かたや神器を扱う英雄の末裔、、」
「まったく、、神の子に逆らおうとするなど不敬極まりないが、これも母上の意思なのだろう」
そう言うと、ディーンは剣をロード達に向けた。
「さあ来い! この戦いが母上の意思というなら決着も神眼で見通すのではなく母上に委ねるとしよう」
そうして、ロード、アレス対ディーンの決戦が始まった。
「いないね~どこに行ったんだろう?」
「そうねぇ見つからないわね~」
二人は家の中を覗いたり、家と家の間の隙間を覗いたりして探そうとしているが、ディーンの姿は見つからない。
「なんかさっきから近くない?」
「気のせいじゃない?」
(そうかな~?)
一緒に探していると、徐々に近寄って来るスクロースにロードは警戒感を覚えて立ち止まると、体に引っ付いている彼女を見つめた。
スクロースは否定しているが、彼女はすっかりロードを自身の子供であるように意識しており、母性本能からなのか、まだまだ幼いロードが危ない目に遭わないように見張っていた。
すると、思い出したかのようにスクロースが口を開いた。
「あ、忘れてたけど、アレスはどうなったの? あの煙の大きさだったら見えていたはずだけど……」
「アレスは僕を助けたあとに… え、えーん! 自分の武器で倒されたんだよ!」
今までアレスのことをすっかり忘れていたロードは、アレスの名を聞いて思い出したか涙が溢れてきた。
「つらかったわね…… 大丈夫よ今は私がついているから」
「うん」
ロードはスクロースの胸に顔を埋めて涙とかで濡れたみっともない顔を見せないようにした。
スクロースは仲間や市民が死んで悲しんでいるロードを哀れだなと思い、これ以上悲しい思いをさせないために、ロードを体を張って守ることを決意した。
「アレスか…… アナタにとってリードのようなお兄さんのようよね」
ロードはこれまでのアレスとの思い出が頭に流れ込んできた。
一緒の部屋で生活して遊んで笑ったりしたり楽しい時間がある反面、不快な時間もあった。
夜遅くに酔っぱらって帰ってきては寝ている自分を起こしたり、社会勉強だとして夜のお店に連れていかれたり… まあ、この時はリードが連れ戻したおかげで店に入らずに済んだが、アレスはこっぴどく叱られた。
その他にも鼻に酒を流し込まれて痛い思いをしたり、勝手に財布のお金を盗んで博打をしたりなどななど…
「あれ? もしかして、あんまり悲しくない?」
ロードは今までのアレスの仕打ちを思い出して、悲しみより怒りの方が強いと分かると出なくなっていた。
「ん? どうしたのロード? 何か思い出しちゃった?」
「ううん、何でもないよ。見つからないし、みんなの所に戻ろう」
そう言うと、ロードはスクロースの手を引っ張ってみんなの所へ帰っていった。
「うおおお金剛城壁!!」
金剛城壁を唱えたナルザスだが、そこに出てきたのは歪な塊であった。
「もう何回やったら分かるのよ! もっとイメージをはっきりさせなさい!!」
「分かってるって!! 何回も言うなよ、俺だって本気でやってるんだから」
何回やっても綺麗な魔法ができないナルザスにメノウは怒っていた。
ナルザスが作った宝石は、汚く澱んでいて、光も上手く反射できてなくて使いものにはならない。
美しさを追求するメノウにとってそれは許されないことだった。
「アンタってホントにダメね。よくそんなので隊長になれたわね」
「じゃあお前こそ俺の魔法を使いこなせるのかよ」
「そんなの簡単よ。ほら」
メノウが指を鳴らすと、生命の樹でできた女性の精巧な木像が彼女の地面から現れてその女性像の手のひらに座った。
ナルザスはたった数十分で自分と同じぐらい精巧に魔法を扱えているメノウを見て、悔しい思いと同時に彼女の魔力コントロールの精度に感服した。
そして、ナルザスはメノウに負けないように再び魔法の特訓を始めた。
一方、メリナは苦戦していた。
「はあ、はあ難しい、、」
「頑張れよメリナ、少なくとも多次元魔装ぐらいは使いこなせるようにならないと戦えないぞ」
メリナは数十秒ほど多次元魔装を使うことはできるが、それを過ぎると魔法が切れてしまい、ディーンとの戦いはおろか魔人たちと戦うこともできない体たらくさに肩をおとした。
(力任せの脳筋魔法だと思ってたけど、繊細な魔力制御が必要だなんて…)
「俺の魔法をただの脳筋魔法だと思ってもらっては困る。体にぴったりな鎧を生成するのは、ずば抜けた集中力がいるんだ」
「分かってますけど、これはちょっと私にはキツイです…」
「甘ったれたこと言うな! ここは戦場だ言い訳は通用しないぞ。俺の体を殺さないためにも頑張ってくれ」
ザクレイは帰るべき体が死んでしまわないように、スクロースの魔法を練習するのも忘れてメリナの指導に当たっていた。
そこにロード達が帰ってくると、スクロースが修練の進捗を聞こうとしたが、状況から大体察せられた。
「お前たち、そこまでだ!! もう我らに残された時間は少ない。上手く扱えるようになった者はロードと共に前線に立ってディーンと戦え! 他の者は死なないように前線に立っている者を援護しろ!」
スクロースがそう指示を出すと、上手く扱えるようになったメノウとザクレイが前に出てきた。
「おいザクレイ、私の体をあんまり傷つけるなよ」
「言わなくても分かってるよ。だが、体を犠牲にして勝てそうなら命を懸けるぞ」
「それは絶対ダメ!! 私の体を殺さないように戦ってくれ」
前かがみになって勢いよく答えるスクロースに若干引いたが、今までの彼女からは聞いたことのない弱気な発言を不思議に思って尋ねたが、顔を俯けて口をごもごもして答えないでいるとロードが、スクロースは戦いが終わった後に僕を――」と言いかた時、スクロースがロードの口を塞いでそれ以上は言わせないように阻止した。
スクロースのあまりの慌てようにみんな唖然として彼女の行動を見ていたが、スクロースはみんなの視線を気にしないで照れながらロードの口を塞いだ。
呆気に取られていたメノウが大体のことを察してニヤニヤしていると、それに気づいたスクロースが、「何よメノウ、そんなに笑って」と言ったが、メノウは、「うんうん、何でもないよ~」と意味を含んだ言い方をした。
そんなメノウを気にしながらも、スクロースは手を離して四人でディーンの捜索に行こうとした時、上空から黒い物体がロード達の前に降りてきた。
砂ぼこりが舞い上がって全員が咳き込んでいると、声がしてきた。
「どうだ心が入れ替わった世界は? 斬新だろ? これからは他人として生きていくんだ、まあ、そうは言ってもお前たちに未来なんてないがな」
煙の中から姿を現したディーンを見て、スクロースが言ってた通りの陣形を組んだ。
突破口を開こうとロードが先陣を切ってディーンに単独で攻撃を仕掛けた。
「たああああ!」
うなりを上げて魔神の腕で攻撃するロードをディーンは両手の剣で受け止めた。
「ぬるい」
剣を払ってロードを遠くへ吹き飛ばすと、ディーンの神眼に大きな魔法陣が展開され音と共に中心の魔力が大きくなっていった。
「混沌の波動」
漆黒の波動がとてつもない速さでロードに向かって行った。
「はやッ」
「ロードォオオ!!」
スクロースが叫んだのも束の間、波動はロードがいたところを通り抜けて地平線の彼方まで続く破壊された足跡が残った。
「そんな、、 私のかわいい子…」
跡形もなくなった場所を見てロードが死んだと思ったスクロースは、膝を落としてロードがいたところをただ茫然と見つめていた。
「許さない!」
怒ったスクロースは、ディーンに向かって魔法を放つが、「全て見えていた、この事も」と言って両手でスクロースを切り刻もうとした。
死を悟ったスクロースは今までのことが走馬灯のように駆け巡って来た。
孤児院で魔法について学習したこと、兵士になって町で元気に遊んでいる子供を持った母親を見て羨ましいと思ったこと、海外へ行って他の混血の仲間と一緒に戦ったこと、隊長になって書類仕事に励んでいたこと。
だが、結局積年の夢だった子供を持つことはとうとう叶わず、死を目前にして後悔の言葉が出てきた。
「ああ、今度生まれ変わったら次は混血じゃない方がいいな… 一緒にいて楽しい仲間たちはできたが、自分の子は持てなかった。もっと自由に生きたかった」
スクロースが死を覚悟して目を閉じた、その時、魔神の腕が横から現れて彼女の体を掴んで剣が当たらない安全なとこに引きずり込んだ。
「ロ、ロード?」
スクロースの目の前には死んだと思っていたロードがいた。
「そうだよ、さっきロイドに引っ張ってもらえなかったら死んでたよ。…でもよかった、スクロースが無事で」
「ありがとう、ありがとうね」
そう言いながらスクロースはロードに抱きついた。
周りにメノウとザクレイがいるのも憚られずにロードに抱きついてほっぺたを顔にスリスリしており、ロードはされるがままでいた。
そんな中、ディーンが四人の前に現れてからロードが生きているのを見て、彼は心底驚いたかのようにこう言った。
「な、何故だ? お前は確かに死んだはずじゃ、俺の神眼でお前の死を見たはずなのに」
ディーンは起こっている現象が信じられずに口を荒げた。
「そんなの知らないよ。でも、お前の神眼も絶対じゃないんだ。僕には効かない、エヘヘ、そんなに強くないかもね~」
ロードはディーンの能力が効かないことに調子づいてからかうような言葉を吐き捨てた。
「いいだろう。なら俺の本気の神眼を見せてやる!」
そう言うと、ディーンは天上にある太陽を見つめた。
「な、なにをするつもりなんだ…」
ザクレイがディーンの行動を注意深く見ていると、太陽が日食のように暗くなると、中央にカオスの紋様が浮かび上がった。
「完全支配」
完成した太陽は漆黒に輝いて地上にいるロード達を不気味に照らした。
全員がその太陽をまじまじと見つめていると、ロード以外の全員に変化が起こった。
「な、動けん! 体が言うことを聞かん」
「うぐぐ、動け!」
などと必死に体を動かそうとするザクレイとメノウではあるが、彼らの思い通りにはいかなかった。
すると、勝手にザクレイとメノウの体が勝手に動いてロードに攻撃を仕掛けた。
「な!?」
驚いたロードだったが、攻撃をよけると二人に何で味方であるはずの自分に攻撃するのか聞いた。
「違うんだロード、勝手に体が動くんだ! どうにかしてよけてくれ!」
「ごめんロード!」
そこにスクロースも加わり、三人でロードに襲い掛かった。
必死にスクロースたちを攻撃しないように攻撃をよけ続けていると、ディーンが笑いながら何が起きているのか話し始めた。
「無駄だクソガキ! そいつらは俺の完全支配によって俺の言うことでしか行動できないんだ。あの素晴らしい太陽がある限り、お前は一人だ! この世界にお前の味方はいない!!」
「そ、そんな…」
それを聞いたロードはガッカリした。
今まで戦ってきた仲間たちが全員的になったこともあるが、自分に味方してくれる仲間がいなくなったことは、ロードの心に深い傷を与え動きを鈍くした。
「よけろおお!!」
ザクレイがそう言いながら、ロードに向かってデュアルショックで攻撃した。
よけないロードに攻撃が当たろうとした、その時――
「やれやれ、何やってんだロード。お前の夢はあのデカブツを倒すことだろ?」
そう言いながら現れたアレスが、ザクレイの攻撃をマルスで弾くと、彼らをまとめて氷で拘束した。
「アレス! 生きてたんだね、僕はてっきり死んだかと……」
「あ、いてッ」
アレスはロードの頭を小突きながら、「勝手に俺を殺すんじゃねえよ」と言った。
「さてと、やりますか。行くぞロード!!」
「うん」
アレスはマルスをディーンに向けて構えた。
「お前も俺の神眼の影響を受けていないな…… かたやロイドをその身に宿し、かたや神器を扱う英雄の末裔、、」
「まったく、、神の子に逆らおうとするなど不敬極まりないが、これも母上の意思なのだろう」
そう言うと、ディーンは剣をロード達に向けた。
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