カオスの遺子

浜口耕平

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第二部 自由国ダグラス

第七十五話 混乱

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 翌日、ロードは自室で目を覚ますと何やら外が騒がしくなっていることに気が付いた。
 「何? 何の騒ぎ?」
 ロードが下に降りていくと、本部の前に数十人の人だかりができており、怒号が飛び交っていた。
 「来るなロード、お前は自室にこもってろ」
 男三人は怒れる群衆を相手に戦っていた。
 「危ないからママと一緒に二階に避難しましょうね」
 「何が起こってるの?」
 「後で話すから今は二階に行きましょう」
 そう言ってエルフリーデはロードを連れて二階の自室へと上がっていった。
 
 怒れる群衆は武器は持ってないが、軍への抗議内容が書かれた木版を持って本部に押し寄せていた。
 押し寄せる民衆に対抗してバリケードを使って侵入を阻止しようとしていた。
 「なあ、これって無理やり排除していいのか!?」
 「いいや、ダメだ。それをやったらもっと大勢やって来る。なんとかして、こいつらが入ってこれないようにしろ!!」
 「そんなことどうやればいいんだよ!? このままじゃ俺たちの命も危ないぞ!」
 「いいから言うこと聞けって!」
 「言うこと聞けって言ったってよ…… なんだよ、この国は人間を相手にしないといけないのか…?」
 アレスは必死でバリケードを抑えながら、何で人間相手に自身の身を守らないといけないかと疑問に感じていた。

 一方その頃、ロードはエルフリーデの部屋に入ると、彼女に今起きていること聞いた。
 「そうね、まずはこの国の根本的な話から始めましょう」
 エルフリーデは深く息を吐いてから、ダグラスの内情について話し始めた。
 「このダグラスという国は他の三国と違って、デモや集会を開くことが許されているのよ。他の国はカオスへの信仰へつながると考えてのことだけど、この国はそうは考えなかった。
  だから、時折軍への抗議活動が盛んになることがあるのよ」
 「僕の国では見たことないなぁ~、軍に抗議するなんて。だって兵士たちはみんなを守ってるのに、何が不満なんだろう?」
 ロードはエレイス国では兵士は尊敬されていることが常識だったので、市民が自分たち軍へ抗議するなんて考えられなかった。
 「他の国より自由だから自分たちの町は自分で守りたいという思いが強いのかもしれないわね。だから、混血でもないのに兵士になろうとする者も多いわ。でも…、わかっていると思うけど、混血は他の人たちとは違って強いのよ、軍の重要な戦力も混血で占められているわ。事実、強いんだから当たり前だけど、ある市民たちにとってはそのことが許せないのよ」
 「何が許せないの?」
 「それはね、私たち混血が国防と市民の生活を守る重要な位置についていることが、支配されていると感じている人が多いのよ」
 「支配……?」
 「ロード達みたいに最初から王に支配されている人には分からないでしょうけど、この国の人にとっては重要なことなの。国民からしてみれば、町のいたるところにいる兵士がほとんど混血で占められていて、その上他国からやって来る兵士たちも軒並み混血だから気分が悪いんでしょうね。だから、自分たちで守ろうとする人が多いのよ」
 「でも、兵士はみんな頑張ってるじゃん! 何でそんなことになるの?」
 ロードはエルフリーデが言っている意味がよく分からなかった。
 人のために戦っている兵士たちは、混血であろうともなかろうとも、人々の平和のために戦ってるんだから、それを気に食わないと思う人がこの国に多くいることが理解できなかった。
 「半年ほど前まではそこまで大きな問題にならなかったのだけど、、ある事件が起きてからよくない方向へ進み始めたわ」
 エルフリーデはこれまで饒舌に喋っていた口は歯切れが悪くなっていた。
 「ある事件?」
 「そう、半年前に国軍の二大戦力の一人スヲウが軍の総帥ニールウェルを殺害して逃亡したのよ。それからスヲウは各地で反乱勢力を集めるために戦闘を繰り返しているそうなの。
  でも、この事件で混血を快く思ってなかった人たちの不満が爆発したの、あちこちの町で軍本部に襲撃したり、極端な考えの集会が開かれるようになってさらに、抗議活動は大きくなってしまったの。
  国はこの騒動を治めようと集会や新聞などのメディアの規制をしたりしたけど、逆効果だったわ、国が権利を侵害したと言う人も現れて収拾がつかなくなったのよ」
 「だったら早くそのスヲウを捕まえないと!!」
 それを聞いてエルフリーデは諦めたようか細い笑みを浮かべた。
 「できたらとっくにしてるわよ。スヲウは国で一、二を争うほどの実力者。簡単には捕らえられないのよ」
 諦めたかのように話を投げるエルフリーデを見て、ロードは彼女の手を掴み「僕が捕まえる!!」と意気込んだ。
 すると、エルフリーデの部屋に石が投げ込まれた。
 「きゃあああ!!」と驚いたエルフリーデは咄嗟にロードに覆いかぶさって守った。
 割れたガラス片がエルフリーデの背中や手足にに刺さって血がダラダラと溢れ出ている。
 「ママー!! 大丈夫?」
 怒ったロードは割れた窓から外にいる群衆を見てこう叫んだ。
 「危ないだろー!! ママがケガしちゃったじゃないか!!」
 「失せろ!」、「キメラ野郎!! 俺たちの町から出ていけー!!」、「死ねー!!」とロードの言葉を聞き入れない群衆は再び、ロード達がいる部屋に石を投げ始めた。
 「わわっ」とよけようとしたが、ロードのこめかみに石がクリーンヒットしてロードは気絶した。
 それに怒ったのが、ロイドとディーンだった。
 ディーンはロードの額に光輝く神眼を出すと、ロイドが体を支えて窓の外にいる群衆を見た。
 「何だあれは……?」
 群衆の中の一人がロードの神眼を見ると、持っていた物を手放して神眼を一点に見つめた。
 他の見ていない群衆もロイドの平等の力で同様に手に持っていた物を捨てて、神眼を見つめた。
 すると、神眼を見ていた群衆が地面に落ちた木版などの抗議グッズを持って次々と帰っていった。
 「ロード大丈夫!?」
 傷を負ったエルフリーデは自分の体など気にせずに真っ直ぐロードの方へと駆け寄って、顔を自身の顔に近づけた。
 「ああ可哀そうに… この国に来なかったらこんなことにはならなかったのに……」
 エルフリーデは気を失っているロードの顔をスリスリしていると、ロードは目を覚ました。
 「ママ……」
 「そうママよ! 大丈夫? どこか痛いところはない?」 
 「うぅ… いたた、、 頭がちょっぴり痛いかも」
 すると、エルフリーデは石が当たった個所を優しく撫でてまじないの言葉を唱えた。
 「いたいのいたいの~とんでけ!」
 このまじないの言葉を三唱すると、ロードは元気を取り戻した。
 「治ったよママ、今度はママのケガを治さないと…… 兄さん呼んでくるね!!」
 そうして、ロードはリードを呼びに下へと向かった。
 リードをエルフリーデの部屋に連れてくると、ロードはベッドに横たわっている彼女を治療をさせた。
 「ありがとうリードさん。おかげで全快しました」
 「ねえすごいでしょう? 僕の兄さんの魔法は」
 ロードは全壊したエルフリーデのお腹の上にダイブすると、彼女の顔を笑顔で見つめながら言った。
 「こらロード! ケガ人から離れなさい!!」
 リードがロードを引きはがそうとすると、エルフリーデは、「お構いなく、血が繋がっていないとはいえ、子を持てない私にとってこの子は実の子のように愛らしいのですから」と言ってロードの顔を触った。
 「それより、下はどうなっていたのでしょうか?」
 「ああ、一人うちの馬鹿が棒で殴られたあと、群衆に向かって殴りかかったが、ギャバンが止めたので何ともない。だが、あちこちの窓ガラスが壊されたから修理が必要ではあるが……」
 「そうですか、、 それなら私の魔法で避難するしかないようですね」
 そう言うと、エルフリーデは横に立ててある小さな鏡を手に取った。
 「ここに手をかざしてみてください」
 そう言われてリードが鏡に手をかざすと、体が鏡の中に吸い込まれていった。
 鏡の中は一見普通の大きな屋敷のようではあるが、窓の外を見るとそこはただ真っ白な空間が無限の奥行きを見せていた。
 辺りを見渡してこの場所を把握していると、続いてロードとエルフリーデが他のみんなを連れて中に入ってきた。
 「わー! 鏡の中にこんな家があるなんて。ママ、これは何の魔法なの?」
 「これが私の魔法鏡面世界ミライトライトよ。鏡を通して行き来したり、鏡と鏡の狭間の世界に物を作ったりすることができるのよ」
 「すごいすごーい!」とロードは興奮していたが、アレスは窓の外を見て無限に広がる真っ白な風景を見てエルフリーデに思ったことを聞いた。
 「なあこれって、外に出たらどうなるんだ?」
 「外に出ても大丈夫だけど、左右や上下の間隔がおかしくなるから迷ったら一生さまようことになるわ」
 「うげぇー、マジかよ」
 アレスは迷った時のことを考えて顔を青くした。
 「さあ、ここに住むのだから部屋を案内するわね」
 エルフリーデがそう言うと、屋敷内を案内し始めた。
 厨房、お手洗い、ダイニング、リビングなどなど一通り案内した後、ついに各自の部屋へと案内された。
 「ここがメリナで、あっちがアレス、あそこは――」と次々とエルフリーデが部屋を割り振っていく、部屋の内装はほとんど同じであるから、みんな文句を言わずに彼女の言葉に従った。
 ロード以外の部屋が決まり、それぞれ決められた部屋へと入っていった。
 「僕の部屋はどこ?」
 「それじゃあ、最後にロードの部屋に行きましょうか」
 「うん!」 
 エルフリーデはロードの手を引っ張って彼の部屋へと歩いて行った。
 屋敷が大きいとはいえ、いくら何でもロードの部屋までの距離が遠すぎる。
 「ママ、僕の部屋はまだぁ~?」
 「見えてきたわよ、あそこがロードの部屋よ」
 エルフリーデが廊下の奥を指さすと、そこには一枚のドアが見えており、それを見たロードは走っていき、その扉の戸を開けて中に入った。
 しかし、ロードは部屋の内装を見て驚いた。
 なんとそこには、赤ちゃん用のベッドに上から三匹の魚のおもちゃがぶら下がってゆっくりと回転しており、他にも積み木やぬいぐるみなどがあって、いかにも赤ちゃん部屋のようだった。
 「マ…マ?」
 ドアの方に振り返ると、エルフリーデがドアのロックをして立ちふさがっていた。
 「私の坊や、これからは私が育ててあげましゅからね~」と言ってロードの体を持ち上げると、壁側にある大きなベッドへと運んだ。
 「ああ可愛らしい!! もっと可愛がってあげる!!」
 エルフリーデは今まで我慢してきたことをロードにやろうとベッドにいるロードに襲い掛かった。
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