カオスの遺子

浜口耕平

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第二部 自由国ダグラス

第八十一話 集会

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 ホールの中へ入ると、そこは老若男女問わず多くの人々が集まっていた。
 受付を終えると、男性スタッフに促されて並んで席に着いた。
 四人は一番前の壇上から結構後ろの席に座り、集会が始まるのを待っていた。
 「意外と人が集まってるんだな、こんなに人が集まっている場所は初めてだ」
 「でも、案外普通の人みたいね。もっと、醜い人達が集まって来てると思ったのにね」
 「だから、めんどくさいんだよ人間ってのは。こういう普通の人のフリしてやべえ考えを持った奴がこの国にはあちこちにいるんだ。魔物以上に厄介だよ」
 危険な考えを持っている人たちが普通の人とあまり変わらないということに、辺りを見渡してから気づいた二人だったが、ギャバンはそんな人間の恐ろしさを語り始めた。
 「魔物みたいに人間に敵対している奴は意外と対処しやすい、殺せばいいだけの話だからな。だが、コイツらみたいに人の皮を被り、危険な主張を繰り返す奴を完全に抑え込むのは難しい、お前たちの国みたいに最初から徹底的に弾圧してたら別だがな」
 「俺たちの国は他の三か国から嫌われているからな、こんな非常事態だってのに駐在する兵士をほとんど引き上げさせたし、援軍もほとんどよこさない。怒ってるんだろうな、生ぬるい対応ばっかりしてるから……」
 ギャバンは自国の対応にも苦言を呈した。
 そんな中、突然拍手と喝采が巻き起こり、壇上に中年の男性が姿を現した。
 そして、次のように話し始めた。
 「今日は夜遅く集まっていただき感謝申し上げる、この集会を開いたノラだ。今日我々がこのような集会を開いたのは、国を裏切るということではないと強く明言しておこう」
 「知っての通りこの国の歴史は、他の三か国と同様千年以上前から始まっている。当時から、ダグラスの国民は自由と平和を愛してきた。それは三か国の奴隷のような国民のようではなく、それぞれの個人が意思を持った国民だということだ。
  しかし、そのような自由もある一点においては完全に我々国民は、国家によって否定されている。それは何か? 端的に言えば、自衛に関することだ」
 すると、ノラは何やら書かれている紙を聴衆に見えるように出した。
 「これを見ていただきたい、これは自衛と魔法に関する法を写してきたものだ。書かれている内容はこうだ、『いかなる国民も兵士、または軍に関するもの以外の者の中位魔法以上の魔法の習得を禁ずる。また、これらの内容が書かれている魔導書を指定書とし、流通、販売に関わる一切のことは、これを認めない』」
 読み終えると、持っていた紙を無造作に放り投げた。
 「何だこの気持ち悪い法律は?『中位魔法以上の魔法を習得するな』だと? ふざけるな!!」
 壇上のノラは、拳を壇に叩きつけて怒りを露にした。
 「これはすなわち、俺たちの命を軍に兵士に預けるというものだ。この法律によって自由を持った者の中で最も尊ばれるであろう生命の自由を踏みにじっている、隷属国家のアホどもには分からないだろうが、他人に命を預けるなんて耐えられない!君たちもそうだろう!!」
 ノラの掛け声と共に、聴衆は湧きだった、そして、ノラが落ち着けとジェスチャーで合図すると再び彼の話を聞くように静かになった。
 「つまり、この法律がある以上、我々のすべての自由は兵士の手にかかっているということだ。そして、ここからが本題だが、各国の兵士における純血の割合を知っているだろうか? ここで各国が発表している兵士の混血の割合を見てみよう。君たちはこれを聞いたらどう思うだろうか?恐怖に感じるだろうか?はたまた素晴らしいことだと思うだろうか? それでは私から言わせていただく、まずは我が国の割合は六対四の割合で混血の数が上回っている、ここでもしかしたら我々純血は抑圧されているだろうと感じる者もいるだろうが、本番はこれからだ。
  エレイスとヤマトは八割を混血によって支配されており、ローデイルに至っては九割を超える。これを抑圧されていないと誰が言えるのだろうか?強いという理由だけで持ち上げられていないだろうか?
  実際、我が国も三百年ほど前までは混血の割合が三か国のように高かった。だが、我々純血はこのままではまずいと考えて行動に出た!その結果、今のような状態まで持ってくることができたのだ」
 「しかし、数だけ見たら我々の行動は大勝利と言えるだろう。だが、実際は我々は惨敗している。軍の本部長や国家長官たちの面々を見てくれ、すべて混血だ。勝利と言うのは純血がこの地位に多数派になることだろう、それまで我々は戦うべきだ。
  君たちは疑問に思っているだろう、何故純血の割合がここまで低いのかを。答えは明白だ、あのキメラどもが我々純血を支配しようとしているのだ!」
 それを聞いた聴衆はコソコソとざわつき始めた。
 「これらの法律も、キメラどもによる武力の支配もすべては純血を支配するためのものだ。この場にいる者は長く洗脳されてきた事実に目が覚めたかもしない、今ここにいる者たちは幸運にも真実にたどり着いた。この場にいない者たちにも真実を教えてやって欲しい、否定するものも現れるだろうが、そのような不道徳者は真実を直視しようとしない、盲目の奴隷なのだ。
  私たち真実を知る者トゥルーライトはこのように純血を正当な地位につかせることを目的としている団体です。どうか私たちに協力してくれるようお願いします、すべては自由のためなのです!」
 演説を終えて一歩引き下がると、今まで以上に拍手と歓声が巻き起こった。
 「やべえ、何だか少し納得したんだが……」
 「馬鹿言ってんじゃないわよ!! あんなのただの自由と権利を縦にした危ない奴よ!!」
 「だけど、言ってることは案外まともではあるぞ」
 「何? アンタもエルフリーデのことをキメラって言うの?」
 「そんなこと一言も言ってないだろ!! 勝手な憶測で俺を決めつけんじゃねえ!!」
 「なら納得しないでよ!! そんなのただの言い訳にしか聞こえないわ!」
 「何だと!!」
 「何よ!!」
 二人が険悪な雰囲気になっていくのを、リードが頭を小突いて止めた。
 「いい加減にしろ二人とも、俺たちは奴らの情報を集めに来たんだ喧嘩しに来たんじゃない。そうだろギャバン?」
 リードはギャバンの方を見て絶句した。
 なんとギャバンは壇上にいるノラを満面の笑みで見つめていた。
 「ギャバン……?」
 リードがギャバンの様子に目を奪われていると、ノラに対する質問タイムが始まった。
 最初は小さな女の子が手を上げて、「混血のみんなは外でがんばっているよ~、私たちを助けるために魔物と戦っているよ」と言った。
 「それは違うよお嬢ちゃん、あの混血ってのはね魔物の血が流れているんだよ。だから、お嬢ちゃんが見てないところで本当は握手したりして仲良く遊んでいるんだよ」
 「それじゃあ混血は魔物の仲間ってこと~?」
 「そうだよ、本当は怖いんだよ。これからは見かけてもあんまり近づかないようにね」
 「わかった~!」
 小さな女の子はノラの言葉に満足して席に座ろうとした時、メリナが大声で待ったと声を上げた。
 「そんなことないわ! エルフリーデたち混血は魔物と一生懸命戦っているのよ! 勝手なこと言わないで!!」
 それを聞いた聴衆はどよめき、ノラは混乱が広がらないようにメリナに質問をした。
 「君は混血の知人か何かなのかな?」
 「ええそうよ!! 私の大切な仲間であり親友よ!!」
 「仲間……? それはつまり君も兵士なのか?」
 「そうよ!!」とメリナが答えると、大きな声でノラはメリナを祝福した。
 「見てください彼女は我らの同士なのです!! 彼女に大きな拍手をして讃えましょう!!」
 ノラの声に合わして聴衆はメリナの方を向いて、拍手で彼女を祝福した。
 しかし、メリナにとってそのことは耐えられないことであり、すぐさま反論した。
 「私はアンタたちなんかの同士じゃない! 私はエレイス王国の兵士よ!勝手に私をアナタたちの仲間に加えないで!!」
 ノラはメリナがエレイス王国の兵士だと知って顔色が変わった。
 「何だただの隷属民か…… おい、誰かそこの奴を放り出せ」
 すると、脇にいたスタッフがメリナの所に近づいてきてメリナの腕を掴んで場外に追い出そうとした。
 「ちょっと何するのよ!! 放して!!」
 メリナは必死に抵抗しようとするが、周りの聴衆からも帰れと連呼され、ゴミなどが投げつけられた。
 そうして、腫れものを扱いになったメリナを救ったのはアレスだった。
 アレスはメリナの腕を掴んでいたスタッフの腕を払いのけると、ノラに対してこう言った。
 「よく出来た原稿だったぜ、俺も少し納得しちまったからな。だが、俺の大切な仲間であるメリナを侮辱したことは許せねえな。それに、お前ら混血のありがたみってのを分かってない、混血がいなきゃこんな国確実に滅んでいるぞ。そして、お前たちは避難民としてお前たちが言う隷属民に飯を食べさせてもらうんだ。ハハハハハ!!」
 ひとしきり言いたいことを言い終えたアレスはリードの方を見て目で合図すると、メリナの手を取って一緒に退場していった。
 ノラは何か吠えていたが、二人には届かない。
 聴衆がいくら二人を罵倒し、ゴミを投げようとも二人の心には届かない。
 言いたいことをはっきりと言い、自身の意見を述べる二人の姿はこの他者の意見を弾圧する場において限りなく自由な意思の表れだった。
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