カオスの遺子

浜口耕平

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第二部 自由国ダグラス

第八十五話 ネメシスの町

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 一方場面は変わってロード達は別々の分かれて行動していた。
 ロード、メリナ、エルフリーデの三人は帽子などを身につけて変装し、テラス席のカフェで一服していた。
 そして、メリナは後で来ると言ったアレスがいつまで現れなかったことを憂いていた。
 「はあ~アレスは一体何をしているのかしら」
 「なあに~アナタ、恋人が心配になっちゃった?」
 「いや、ただ私との約束を破ったのが気にいらなくて」
 「案外ドライなのね……」
 エルフリーデは二人が付き合いだしてからラブラブな関係になったと思っていたが、意外と常にイチャイチャしている関係ではないと分かり、からかおうとしていた彼女は少しがっかりした。
 「ねえねえ早く行こうよ!! 隠密!諜報!ひっそりと~、悪を暴いて~敵を討つ~」
 「ウフフ、なにその歌? 楽しんでるの?この状況を」
 エルフリーデは楽しそうに歌うロードに微笑みながら尋ねた。
 「うん! 『草原の黄金郷』に出てくるロビン見たいでカッコいいじゃん!!」
 「貧しい村の人々のために悪い金持ちから金を奪って、その人たちに分け与えるっていうストーリーだっけ?」
 「そう! ロビンは悪い金持ちから人々を救おうと影で行動したってところ、今の僕たちにそっくりだし、カッコいいじゃん!」
 ロードはおとぎ話に出てくる義賊を自分自身に投影して行動しようとすることにワクワクして、体をそわそわと動かしていた。
 そんなロードにメリナが、「でも、どんな理由があろうとも人のものを勝手に盗んでいくのはダメよ。ロビンみたいに物じゃなくて情報を盗むのよ、わかった?」とロードが過激な行動に出る前に自制が効くように注意した。
 メリナに言われてロードも分かったと言って了承すると、三人は店を後にして行動を開始した。

 三人はまず観光客になりすまして町の情報を集めた。
 ディーンの神眼を使って簡単に情報を集めることもできるが、そんな簡単なことはしたくないというロードの意向により地道に足を使って情報を集めることになった。
 まずはおもちゃ屋さん、普通こんなところよりもっと多くの人が集まる公園などの公共施設で集めた方が効率がよいが、エルフリーデが将来生まれてくる赤ちゃんのためのおもちゃを買いたいということでやって来た。
 エルフリーデは目を輝かせて一面に広がるおもちゃを物見していた。
 「子供もいないのに買うなんてお金の無駄じゃないの」
 「もうそんな夢のないこと言わないでよ~。これはある種の投資なの、アナタもアレスとの子供ができた時に備えて買って置いたら?」
 「その時はアレスと一緒に考えるわ」
 そう言うと、メリナは店主から情報を貰おうとそっちに足を向けた。
 「ママ、これいいんじゃない? この魚の人形。歯がギザギザでカッコいいよ」
 「そうねえ…… うーん、ロードが言うのならこれにしましょうかね」
 エルフリーデはロードが選んだ人形を持って支払いを済ませるためにカウンターに向かった。
 すると、そこには女店主と口論をしているメリナの姿があった。
 「は? 馬鹿じゃないの!?何言ってるのか分かってるの?」
 「アナタこそ自分自身の考えをもう一度深く考えてみなさい。いかに自分が間違っているか分かるはずよ」
 「分かるわけないでしょ!そんなこと!!」
 互いに自分の主張を一歩も譲らずに、平行線を保ったままでいる状況を見かねてエルフリーデが間に入った。
 すると、店主はいかにも嫌そうな顔をして、「抑圧者の言うことなんか聞きたくないわ、私の店から出てって!」とエルフリーデに正面から言った。
 それを聞いたエルフリーデは悲しくて持っていた人形が手から零れ落ちた。
 「コラーッ!! ママに意地悪するな!!」
 ロードは手で顔を覆って悲しんでいるエルフリーデを見て激しい怒りを店主に向けた。
 「意地悪って何よ、あのポスターを見なさい。私は真実を知る者トゥルーライトの活動を支持しているの。混血の暴力的な支配から私たち純血を守るためにね」
 「そんな言い訳なんか僕に通じないぞ!! 悪口を言ったのだからママに謝れ!!」
 「謝れって何を? 謝るのはそこの彼女の方じゃないの?私たちを何百年もいじめてきて、我慢してたのは私たちのほうよ」
 「ママは何にも悪いことしてないじゃん!!」
 ロードは鬼神迫る顔で言うが、店主は何のそのという顔だ。
 すると、店にいた一人の男性客が間に入ってきた。
 「彼女の言う通りだ、謝るのはそっちの方だろ」
 どうやら男性客は店主の味方をするために近づいてきたようだ。
 「ほらやっぱり私の方が正しいじゃない、いいから謝りなさい」
 そして、二人から圧をかけられたエルフリーデは脅しに屈して謝ろうとした時、メリナが二人の手を引っ張って店の外に連れて行った。
 店の外に出たエルフリーデはロードを抱えて彼の顔に自身の顔を摺り寄せた。
 「ごめんね二人とも年長者なのに、私が言い返さなかったから二人に悪い気分をさせてしまって……」
 泣き顔を見せずにすすり泣くエルフリーデを見て、二人は何とも言い難い感情に支配されて頭を撫でることしかできなかった。
 「決めたわ!絶対にこの組織を壊滅させましょう!!」
 「僕も頑張るよ!だから、もう泣かないでママ」
 「そうね、私も泣いていられないわ! 頑張りましょう、まずはネロを倒しましょう」
 そうして三人は真実を知る者トゥルーライトを壊滅させるための誓いを立てた。
 まずロードはネロがいる場所を神眼で割り出した。
 ネロの住居は町の中央にある一番大きく高い城だと分かると、「じゃあ次はみんなの場所を見よう、最初はいなくなったアレスだね」と言って神眼であれすの捜索を開始した。
 すると、眼に映ってきたのは暗い場所に囚われているカルマとアレスの姿だった。
 「あれ、アレスの隣に知らない人がいる。それに、アレスは服を脱がされて、、うん?もう一人裸の人がいて、その人とじゃれ合って、、靄がかかってよく見えないや」
 「おい…」
 裸で何かしていると聞いたメリナがどすを聞かせた声でロードに迫った。
 「ロードもう一回ちゃんと見なさい! どこの女と裸で遊んでいるのかを!!」
 メリナは勢い余ってロードの服を強く握りすぎて息苦しそうになっていた。
 「く、苦しい、、」
 「早く答えなさい!! どんな女といるのか!」
 「裸の人は男の人だよー!!」
 その言葉を聞いて二人は絶句して長い沈黙が続いた。
 そして、叫ぶようにメリナが沈黙を破り声を出した。
 「それってヤバいじゃない!! 早くアレスを救出しに行きましょう!!」
 メリナは事の重大さに初めてアレスの身を心配して、一早くアレスを助けに向かおうと走り出した。

 かたやリードとギャバンは以前ノラから貰った真実を知る者トゥルーライトの会員プレートを使ってネメシスにある真実を知る者トゥルーライトの本部で情報を集めていた。
 一通り情報を集めた二人は客間の部屋でくつろいでいた。
 「だいぶ分かってきたな、この組織の実態が」
 「そうだな、まさかネロが女だったなんてな…… アイツら、ちゃんと仕事してるのかな?」
 「あまり期待はできないが、こればかりは祈るしかない」
 二人が会話していると、中にこの町の本部長ガニメデが部屋に入ってきて挨拶してきた。
 「君たちが見学者の二人だね。ようこそ我らの施設へ」
 ガニメデはニヤニヤしながら右手を差し出して二人とがっちり握手を交わした。
 「団体のことをもっと知りたいんだろ? それなら、もっといい所に案内しよう!ついてきてくれ!」
 「ああ、よろしく頼む!」とリードが言うと、ガニメデの後を二人で追った。
 そして、本部内をしばらく歩いていたが、一向にガニメデは足を止める気配はない。
 そんな中、ギャバンはガニメデに、「どこへ向かってるんだ?」と聞いたが、もう少しだと言うだけで目的地を教える気配はない。
 不審に思いながら歩いていると、ガニメデは地下に繋がる階段に向かって足を進ませる。
 しかし、さすがにこれはヤバいと確信した二人は、階段の前で足を止めた。
 「ん? どうした?何でついてこない?」
 下から見上げるようにガニメデが言った。
 「……いや、何でもない。少し考え事をしていてな」とリードが言葉を濁すと、ガニメデもただ、「そうか、なら早く行こう」と言って再び足を下へと動かした。
 下りている最中、二人は小さい声でガニメデに気づかれないように密談をした。
 「どうするリード? これは確実に悪い予感がする……俺たちの目的がバレたか」
 「ここまで来たらどうでもいい、向かってくるなら叩き潰すだけだ」
 そうして、三人は長く蝋燭で照らされている階段を下りていくと、扉が見えてきた。
 「さあ、着いたぞ。ここが本部で一番重要な情報が集められている場所だ。普段はどんな人間でも見られないが、今日は君たちのために特別に見せてやろう!」
 そう言うと、ガニメデは扉を開けて中に入り二人も彼に続いて入っていく。
 「見てくれ、あれがお前たちの友達だ!」
 ガニメデが指さした方向を見ると、両手を上から鎖でつながれ裸の状態でいるアレスの姿があった。
 「アレス!」
 二人はその無様な姿に一瞬怯んだ瞬間、ガニメデの「やれ!」という合図と共に暗闇から三人の私兵が現れて二人に襲い掛かった。
 
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