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プロローグ お花畑
まっ黒ばたけ
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『実はね、僕も死にかけているんだ』
言葉の意味を理解してゴクリと喉を鳴らし、ようやく俺は、声を発することができた。
「神様なのに、死にかけて……?」
『神様? はは。いいや違う。僕は神様じゃあ、ない。
だけどそうだね。提案することはできる。――君、転生してみないかい?』
「転生?」
『と言っても、生まれ変われるわけじゃない。
知識はそのままに、君の魂だけを転生させたいんだ。
体は僕のをあげるから、心配しなくていいよ』
…………それは、死者への冒涜だ。人は死んだら、それで終わりなはずだ。
『有効活用だろ?』
どうやら思考まで読まれているらしい。
ますます死者への冒涜だ。最大の侮辱だ。
心の中は、唯一の避難所なのに……。
『どうかな? 転生してみない?』
その言葉に、摩耗していた感情が蘇っていく。
話すら聞かないか。
ああ。なんだか腹がたってきたよ。これはまさしく、怒りの感情だ。
そもそも、だ……。
「転生だって? ……それはお前にとって、どんな得があるっていうんだ?」
俺のため、ってわけじゃないだろ?
利益が無けりゃ、だれも動かない。なにか裏があるんだろ?
話しが分かるヤツだ。
そんな雰囲気を帯びながら、『声』は言葉に重みをさらに乗せて、こう言った。
『殺して欲しいヤツがいるんだ』
真っ暗闇が一層ドス黒く、深みを増して見えたような気がした。
一瞬だけたじろいでから、言葉を返す。
「嫌だね」
人殺しなんてできるか。生前では善人で通ってきたんだ。
少なくとも、中学生の頃までの記憶ではな。
殺しなんて、できるわけがない。
そもそも転生で蘇ったところで、人を殺せば肩身が狭いだろうが。
んなもん、生きた心地がしねぇよ。
『大丈夫さ。アイツを殺したところで、誰も君を罰しない。
僕が殺して欲しいのは、全世界の敵、悪のトップさ。
君は正義をもって、悪を討てばいい。うまくいけば、英雄になれるんだよ?』
そりゃ、すごい。
善悪って言葉は、本当に便利だよな。いつの時代だって、勝てば正義さ。
『んー。どうして君は、なんだってそんなにケンカ腰なのさ』
「殺人を頼むヤツなんかと親しくなれるか」
『そりゃもっともだね。だけど信じてくれよ。アイツだけは別なんだ。
アイツを殺さないと、僕たちは皆殺しにされる。
僕の母だって、アイツに殺されたんだ』
なんだ? 今度は情に訴えようってのか?
残念だけど、悪に耳は貸さない。
『悪? 僕が?』
ああ。他人に人殺しを命じておいて、自分は高みの見物だろ?
んなもん、極悪人決定じゃねえか。
『……確かに、君からしてみれば、そうかもしれないね。
だけど僕だって、リスクを背負って君に話しかけているんだ。引き下がれない。
君には悪いけど、絶対に転生してもらう』
へー。決死の覚悟ってやつか? んで、お前の言うリスクってのはなんだ?
嫌いな野菜を食べないといけないのか?
大変だな。
『僕の命さ。僕は、命を捨てて君に話しかけているんだ。
そうさ。まさしく、決死の覚悟ってやつだね』
ふーん。
だけど、それを真実だと照明する物的証拠はあんのか?
俺は嫌だからな、人殺しなんて。
『まったく、君は頑固だね。どうしてそんなに拒絶するかな……。考えてもみなよ。
知らない世界とは言え、君は生き返られるんだよ?
1人殺すだけで、君は第2の人生を歩める。世界は救われる!
いいことだらけじゃないか!
人殺しが嫌なら、なにも君が直接やらなくても良い。大事なのは過程じゃなくて、結果だからね! 君は仲間を募って、その仲間に殺してもらえばいい!』
それじゃお前と変わらないだろ。
悪いけど、他を当たってくれ。俺は極悪人にはなれない。
別に、俺じゃなくてもいいんだろ?
『それは許さない。僕には君しかいないんだ。この魔術を使うのに、僕の命は軽すぎた。候補者が君しかいないんだ。お願いだ。騙されたと思って、転生してくれよ』
騙されたと思って頷いて、それから騙されても遅いんだよ。
『はぁ……こんなことなら、転生じゃなくて乗っ取りにすれば良かったよ、本当に。
そうすれば君の精神を頂いて、僕が動けたのに』
残念だったな。
さあ。俺はもう死んだんだ。
これ以上、死者を弄ぶのは止してくれ。
『だから、言っただろう? 僕は引き下がれない。
君が分かったと頷くまで、僕は君を離さない。解放しない。
僕と永遠にお喋りを続けるか、世界を救うか。正しい答えを択べよ』
なんなんだお前は。
気っ持ち悪ぃな。そんなに俺を転生させたいのかよ。
『言っただろう。世界を救うためさ。僕だって必死なんだ』
必死にしては、説得材料が少なすぎないか?
俺だったら、話が本当であることを証明するための証拠を提示して、外堀を埋めてから、説得に入るけどな。
『ここは精神世界だよ? 物を持ち込められるわけがない。そういう魔法や魔術は、存在しないんだ』
こっちはお前と違って、来たくて来たわけじゃないからな。おい。
当たり前だろ? みたいな感じに言われても知らねーよ。
ん?
「ていうかお前、いま魔法がどうのて言ってたか?」
『言った! 言ったとも! なんだい? 興味が出てきたのかい?』
あーいや……失言だ。
忘れてくれ。
『うん。魂を見るに、君は魔法がないどころか、争いが少ない世界から来たんだね。
損傷の少ない、綺麗な魂だ! 羨ましいよ。
僕たちの世界には魔法がある。争いも、勿論ある』
剣と魔法の世界ってか? ゲームや遊びは好きだけど、その中に入りたいとは思わないな。
……なあ、いい加減、解放しれくれよ。
このままじゃ本当に、永遠にお喋りだぞ。
『剣と魔法が好きなのかい? その他にも、槍や盾、兜もあるよ!
それに、君が転生する先は、遊びの世界じゃない。現実世界だ。
死ねばおそらくそれっきりだし、君が思っている以上に、僕たちの世界は殺伐としている』
おいおい。押してダメなら引いてみようってか?
デメリット言ってどうすんだよ。
『転生したあとに、話が違う! て言われても嫌だしね。
僕が話を持ちかけて、君が一瞬で頷いていたとしても、僕はちゃんと、注意すべき点は伝えたさ』
はッ。どうだかな。
『……やれやれ。そんなに僕が悪者に見えるのかい?』
うん。
『………………分かった、分かったよ』
なんだ? 解放してくれるのか?
『解放はしない。質問を変えるよ。君、前世には満足しているのかい?
やり遺したしたことはないのかい?
もう1度、人生を生きてみたいとは、思わないかい?』
そりゃ、思うよ。やり遺してきたこと、やっておけば良かったこと、やってみたかったこと。そんなのはいっぱいあるさ。
記憶喪失の15歳なめんなよ……だけど、だからって、人を殺していいかって話になったら、そりゃ駄目だ。
『動物は殺して食べているのに? 生きるために殺すんだ。同じだろ?
生存競争さ。自然界のルールだ。禁忌なわけがない』
んなもんは、個人の屁理屈だ。
それじゃー社会は成り立たないんだよ。って、社会に出た記憶がねー俺が言うのも変だけどよ。
『そうだね。で、君に提案なんだけど、転生しないかい?』
だから――。
『殺人はしなくていい。勿論、それに関与する事柄からも、全力で回避してもらって構わない。
どちらにせよ、この魔術は1度切りなんだ。なにせ、代償は術者の命だからね。
……君は殺人をしたくない。僕はアイツを殺してほしい。
これじゃあ、本当に平行線だ。永遠に問答が続いちゃう。
だから、妥協案を取ろう』
妥協案?
『君は転生して、好きに生きてくれれば良い。僕の命と体を使ってね。
それで、もし、僕らのために戦ってくれるなら、そんなに嬉しいことはない。
けれど君が戦わないっていうなら、それでもいいさ。
結婚して子どもを作るも良し。独り身で自由気ままに生きるも良し。
どうだい。悪い話じゃないだろう?』
ああ。確かに、悪い話じゃないな。
その分、裏を探りたくなるけど……。
要するにこの状況って、俺専用の蘇生アイテムが売りに出されてるって感じだろ?
俺にとっちゃ、買うか止めるかの2択だけど、俺が買うには値段が高すぎる。
俺は買うのを止めたけど、蘇生アイテムは俺専用。
俺が使わなきゃ、ただのゴミに成り下がる。
どうせなら、低価格で譲ってやろう。
そんな感じだろ?
『……僕の命は軽かったけど、決してゴミじゃないし、君の例えは分かり辛かったけど……まあ、そんなところだよ』
んで、そのアイテムを使ったあとは、好きにしていいんだな? 本当だな?
『うん。僕の体を使って、善になろうが悪になろうがコウモリになろうが、構わない。ただ、精神世界で話しかけてきたヤツが、そんなことを言っていたな程度には、覚えていてほしいかな』
……お前にメリットがねーけど、いいんだな?
『うん』
俺にデメリットは、ねーんだな?
『強いて言うなら、過酷な世界ってことかな。でも、僕が君に、直接与える不利益はないよ』
転生する前に、他に言っておくべきことはねーか?
つーかお前『僕も死にかけているんだ』とか言ってたけど、転生して即死ってことはねーよな?
『この体に、僕の魂は弱すぎたんだ。僕の場合、容量が見合わなくて衰弱してったんだけど、君なら大丈夫だよ。なにせ、魂が無傷に近いからね』
それで、俺が転生するのは、どんな場所なんだ?
『町の名前は、ゼニア。人間の村だ。
君は、村の郊外で目を覚ますことになる。目覚めた場所を南下していけば、すぐゼニアに着くはずさ。
食糧は、家の中に備蓄してある。頭を使えば3日はもつはずだよ。
もしも家に帰りたければ、ゼニアから西に行くと良い』
なるほど。
ご丁寧に、どうもな。
『村では君は………。テオって呼ばれてる。本名は、オルド・レインチェンバーだ。
もっともこれは、僕の名前だ。なんだったら、好きに名乗ってくれて構わないよ』
本名は、オルド・レインチェンバー。
くどいな。まあ、覚えとくよ。
『それじゃ転生させるけど、いいかい?』
嫌だっつっても、最終的にさせるんだろ。
いいよ。どうせなら、楽しんでやる。
『やっと、同意を得られた……。……うん、良し。魔術が動き出したみたいだ。
楽しむのはいいけど、僕の命を捧げたんだ。無駄にはしないでくれよ』
……殺人はしねえけどな。っと、そうだ。
お前の言うアイツの名前、教えろよ。
お前が殺したいヤツの名前。
『殺してくれるのかい?』
人の話を聞いてろよ。
極力、近づかないようにするためだ。
『はぁ……。まあ、しょうがないね。教えるよ。
僕が殺して欲しい男の名前――アイツの名前は――ハース。
ハース・レインチェンバーさ』
ハース……レインチェンバー……?
それって――。
『そう。僕の父親さ』
その言葉を最後に、暗闇がグ二ャリと笑って、俺を喰らった。
闇が俺に纏わりつき、不可視の圧力に、全身が押しつぶされる。
『それじゃあ、頑張って』
最後に『声』が、ほくそ笑むようにして言った。
ああ。やっぱり俺は、騙されたんだ。
最期の意識が刈り取られる寸前。俺は自嘲気に、そう呟いた。
言葉の意味を理解してゴクリと喉を鳴らし、ようやく俺は、声を発することができた。
「神様なのに、死にかけて……?」
『神様? はは。いいや違う。僕は神様じゃあ、ない。
だけどそうだね。提案することはできる。――君、転生してみないかい?』
「転生?」
『と言っても、生まれ変われるわけじゃない。
知識はそのままに、君の魂だけを転生させたいんだ。
体は僕のをあげるから、心配しなくていいよ』
…………それは、死者への冒涜だ。人は死んだら、それで終わりなはずだ。
『有効活用だろ?』
どうやら思考まで読まれているらしい。
ますます死者への冒涜だ。最大の侮辱だ。
心の中は、唯一の避難所なのに……。
『どうかな? 転生してみない?』
その言葉に、摩耗していた感情が蘇っていく。
話すら聞かないか。
ああ。なんだか腹がたってきたよ。これはまさしく、怒りの感情だ。
そもそも、だ……。
「転生だって? ……それはお前にとって、どんな得があるっていうんだ?」
俺のため、ってわけじゃないだろ?
利益が無けりゃ、だれも動かない。なにか裏があるんだろ?
話しが分かるヤツだ。
そんな雰囲気を帯びながら、『声』は言葉に重みをさらに乗せて、こう言った。
『殺して欲しいヤツがいるんだ』
真っ暗闇が一層ドス黒く、深みを増して見えたような気がした。
一瞬だけたじろいでから、言葉を返す。
「嫌だね」
人殺しなんてできるか。生前では善人で通ってきたんだ。
少なくとも、中学生の頃までの記憶ではな。
殺しなんて、できるわけがない。
そもそも転生で蘇ったところで、人を殺せば肩身が狭いだろうが。
んなもん、生きた心地がしねぇよ。
『大丈夫さ。アイツを殺したところで、誰も君を罰しない。
僕が殺して欲しいのは、全世界の敵、悪のトップさ。
君は正義をもって、悪を討てばいい。うまくいけば、英雄になれるんだよ?』
そりゃ、すごい。
善悪って言葉は、本当に便利だよな。いつの時代だって、勝てば正義さ。
『んー。どうして君は、なんだってそんなにケンカ腰なのさ』
「殺人を頼むヤツなんかと親しくなれるか」
『そりゃもっともだね。だけど信じてくれよ。アイツだけは別なんだ。
アイツを殺さないと、僕たちは皆殺しにされる。
僕の母だって、アイツに殺されたんだ』
なんだ? 今度は情に訴えようってのか?
残念だけど、悪に耳は貸さない。
『悪? 僕が?』
ああ。他人に人殺しを命じておいて、自分は高みの見物だろ?
んなもん、極悪人決定じゃねえか。
『……確かに、君からしてみれば、そうかもしれないね。
だけど僕だって、リスクを背負って君に話しかけているんだ。引き下がれない。
君には悪いけど、絶対に転生してもらう』
へー。決死の覚悟ってやつか? んで、お前の言うリスクってのはなんだ?
嫌いな野菜を食べないといけないのか?
大変だな。
『僕の命さ。僕は、命を捨てて君に話しかけているんだ。
そうさ。まさしく、決死の覚悟ってやつだね』
ふーん。
だけど、それを真実だと照明する物的証拠はあんのか?
俺は嫌だからな、人殺しなんて。
『まったく、君は頑固だね。どうしてそんなに拒絶するかな……。考えてもみなよ。
知らない世界とは言え、君は生き返られるんだよ?
1人殺すだけで、君は第2の人生を歩める。世界は救われる!
いいことだらけじゃないか!
人殺しが嫌なら、なにも君が直接やらなくても良い。大事なのは過程じゃなくて、結果だからね! 君は仲間を募って、その仲間に殺してもらえばいい!』
それじゃお前と変わらないだろ。
悪いけど、他を当たってくれ。俺は極悪人にはなれない。
別に、俺じゃなくてもいいんだろ?
『それは許さない。僕には君しかいないんだ。この魔術を使うのに、僕の命は軽すぎた。候補者が君しかいないんだ。お願いだ。騙されたと思って、転生してくれよ』
騙されたと思って頷いて、それから騙されても遅いんだよ。
『はぁ……こんなことなら、転生じゃなくて乗っ取りにすれば良かったよ、本当に。
そうすれば君の精神を頂いて、僕が動けたのに』
残念だったな。
さあ。俺はもう死んだんだ。
これ以上、死者を弄ぶのは止してくれ。
『だから、言っただろう? 僕は引き下がれない。
君が分かったと頷くまで、僕は君を離さない。解放しない。
僕と永遠にお喋りを続けるか、世界を救うか。正しい答えを択べよ』
なんなんだお前は。
気っ持ち悪ぃな。そんなに俺を転生させたいのかよ。
『言っただろう。世界を救うためさ。僕だって必死なんだ』
必死にしては、説得材料が少なすぎないか?
俺だったら、話が本当であることを証明するための証拠を提示して、外堀を埋めてから、説得に入るけどな。
『ここは精神世界だよ? 物を持ち込められるわけがない。そういう魔法や魔術は、存在しないんだ』
こっちはお前と違って、来たくて来たわけじゃないからな。おい。
当たり前だろ? みたいな感じに言われても知らねーよ。
ん?
「ていうかお前、いま魔法がどうのて言ってたか?」
『言った! 言ったとも! なんだい? 興味が出てきたのかい?』
あーいや……失言だ。
忘れてくれ。
『うん。魂を見るに、君は魔法がないどころか、争いが少ない世界から来たんだね。
損傷の少ない、綺麗な魂だ! 羨ましいよ。
僕たちの世界には魔法がある。争いも、勿論ある』
剣と魔法の世界ってか? ゲームや遊びは好きだけど、その中に入りたいとは思わないな。
……なあ、いい加減、解放しれくれよ。
このままじゃ本当に、永遠にお喋りだぞ。
『剣と魔法が好きなのかい? その他にも、槍や盾、兜もあるよ!
それに、君が転生する先は、遊びの世界じゃない。現実世界だ。
死ねばおそらくそれっきりだし、君が思っている以上に、僕たちの世界は殺伐としている』
おいおい。押してダメなら引いてみようってか?
デメリット言ってどうすんだよ。
『転生したあとに、話が違う! て言われても嫌だしね。
僕が話を持ちかけて、君が一瞬で頷いていたとしても、僕はちゃんと、注意すべき点は伝えたさ』
はッ。どうだかな。
『……やれやれ。そんなに僕が悪者に見えるのかい?』
うん。
『………………分かった、分かったよ』
なんだ? 解放してくれるのか?
『解放はしない。質問を変えるよ。君、前世には満足しているのかい?
やり遺したしたことはないのかい?
もう1度、人生を生きてみたいとは、思わないかい?』
そりゃ、思うよ。やり遺してきたこと、やっておけば良かったこと、やってみたかったこと。そんなのはいっぱいあるさ。
記憶喪失の15歳なめんなよ……だけど、だからって、人を殺していいかって話になったら、そりゃ駄目だ。
『動物は殺して食べているのに? 生きるために殺すんだ。同じだろ?
生存競争さ。自然界のルールだ。禁忌なわけがない』
んなもんは、個人の屁理屈だ。
それじゃー社会は成り立たないんだよ。って、社会に出た記憶がねー俺が言うのも変だけどよ。
『そうだね。で、君に提案なんだけど、転生しないかい?』
だから――。
『殺人はしなくていい。勿論、それに関与する事柄からも、全力で回避してもらって構わない。
どちらにせよ、この魔術は1度切りなんだ。なにせ、代償は術者の命だからね。
……君は殺人をしたくない。僕はアイツを殺してほしい。
これじゃあ、本当に平行線だ。永遠に問答が続いちゃう。
だから、妥協案を取ろう』
妥協案?
『君は転生して、好きに生きてくれれば良い。僕の命と体を使ってね。
それで、もし、僕らのために戦ってくれるなら、そんなに嬉しいことはない。
けれど君が戦わないっていうなら、それでもいいさ。
結婚して子どもを作るも良し。独り身で自由気ままに生きるも良し。
どうだい。悪い話じゃないだろう?』
ああ。確かに、悪い話じゃないな。
その分、裏を探りたくなるけど……。
要するにこの状況って、俺専用の蘇生アイテムが売りに出されてるって感じだろ?
俺にとっちゃ、買うか止めるかの2択だけど、俺が買うには値段が高すぎる。
俺は買うのを止めたけど、蘇生アイテムは俺専用。
俺が使わなきゃ、ただのゴミに成り下がる。
どうせなら、低価格で譲ってやろう。
そんな感じだろ?
『……僕の命は軽かったけど、決してゴミじゃないし、君の例えは分かり辛かったけど……まあ、そんなところだよ』
んで、そのアイテムを使ったあとは、好きにしていいんだな? 本当だな?
『うん。僕の体を使って、善になろうが悪になろうがコウモリになろうが、構わない。ただ、精神世界で話しかけてきたヤツが、そんなことを言っていたな程度には、覚えていてほしいかな』
……お前にメリットがねーけど、いいんだな?
『うん』
俺にデメリットは、ねーんだな?
『強いて言うなら、過酷な世界ってことかな。でも、僕が君に、直接与える不利益はないよ』
転生する前に、他に言っておくべきことはねーか?
つーかお前『僕も死にかけているんだ』とか言ってたけど、転生して即死ってことはねーよな?
『この体に、僕の魂は弱すぎたんだ。僕の場合、容量が見合わなくて衰弱してったんだけど、君なら大丈夫だよ。なにせ、魂が無傷に近いからね』
それで、俺が転生するのは、どんな場所なんだ?
『町の名前は、ゼニア。人間の村だ。
君は、村の郊外で目を覚ますことになる。目覚めた場所を南下していけば、すぐゼニアに着くはずさ。
食糧は、家の中に備蓄してある。頭を使えば3日はもつはずだよ。
もしも家に帰りたければ、ゼニアから西に行くと良い』
なるほど。
ご丁寧に、どうもな。
『村では君は………。テオって呼ばれてる。本名は、オルド・レインチェンバーだ。
もっともこれは、僕の名前だ。なんだったら、好きに名乗ってくれて構わないよ』
本名は、オルド・レインチェンバー。
くどいな。まあ、覚えとくよ。
『それじゃ転生させるけど、いいかい?』
嫌だっつっても、最終的にさせるんだろ。
いいよ。どうせなら、楽しんでやる。
『やっと、同意を得られた……。……うん、良し。魔術が動き出したみたいだ。
楽しむのはいいけど、僕の命を捧げたんだ。無駄にはしないでくれよ』
……殺人はしねえけどな。っと、そうだ。
お前の言うアイツの名前、教えろよ。
お前が殺したいヤツの名前。
『殺してくれるのかい?』
人の話を聞いてろよ。
極力、近づかないようにするためだ。
『はぁ……。まあ、しょうがないね。教えるよ。
僕が殺して欲しい男の名前――アイツの名前は――ハース。
ハース・レインチェンバーさ』
ハース……レインチェンバー……?
それって――。
『そう。僕の父親さ』
その言葉を最後に、暗闇がグ二ャリと笑って、俺を喰らった。
闇が俺に纏わりつき、不可視の圧力に、全身が押しつぶされる。
『それじゃあ、頑張って』
最後に『声』が、ほくそ笑むようにして言った。
ああ。やっぱり俺は、騙されたんだ。
最期の意識が刈り取られる寸前。俺は自嘲気に、そう呟いた。
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