マミルとマモル(改稿版)

舟津湊

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マモル in 相談室

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 次の日もマミちゃんは学校を休んだ。いい意味でお節介焼きなレイは、友だちとお見舞いに行こうかと話し合っている。給食を早く切り上げ、ぼくは職員室に向かう。ドアをノックし、数歩、中に入る。「高松先生はいらっしゃいますか」と誰にでもなく声をかけると、「おう」と事務机の奥の方でこっち向きに座っている先生が手を挙げた。お弁当を食べているようだ。また出直そうかどうか迷っていると、弁当箱のフタを閉め、「ちょっと待ってくれ」と声をかけてくれた。
「すみません、お昼時間中に。」
「いや、ちょうど食い終わったところだ。」
 高松先生は歩きながら、廊下を指し示す。それに従い、廊下に出る。後から職員室を出てきた先生はぼくの前を歩き、隣にある「相談室」とプレートのかかった部屋に入り、手招きする。
 「相談室」と表示されているが、生徒の間では別名「説教部屋」と呼ばれ、何か問題を起こすとここで「カウンセリング」を受ける。幸い、入学して以来ここでカウンセリングを受けたことはないが、入るのに躊躇する。
「まあ怖がるな。文字通り、ここは相談に乗る部屋だからな。」
「・・・はい、失礼します。」
 高松先生は、グレーのパイプ椅子にぼくを座らせ、事務机を挟んで向き合って座った。
「町村君だね。昨日、野々川沿いで見かけたね。そろそろ来る頃かなと思っていたよ。」
 白髪頭で黒縁メガネの風貌の高松先生は、一見大学の教授のようにも見える。実際、区内にある農業の専門大学の先生と共同研究をしていると聞いたこともある。
「林田真美瑠さん達のことだね。彼女の叔母さんからもよく聞いているよ。」
「は、はい。村長・・・じゃなくて林田さんと叔母さんから聞きました。近々ここにいるタヌキが移住してしまうって。」
「ははは、ここでは隠さなくてもいいよ。そうか、村長にも会ったのか。」
 高松先生は胸元で印を結び、変身する真似をした。
「あの、高松先生がタヌキたちの運搬を手配をしてくれたって聞きましたが、先生は移住には賛成なんですか?」
「うーん、難しいところだが、自分たちで決めたことだし、彼らの意思は尊重したいと思う。」
「ボクは正直、そこまで割り切れません。」
「どうしてだい? 林田さんと別れるのが辛いか?」
「も、もちろんそれもあります・・・でも、ここでなら、ヒトとタヌキがもっとうまく暮らすことができると思うんです。たった一匹のアライグマのせいで・・・こんなことになるなんて。マミちゃんの努力が台無しじゃないですか。」
 ボクは教頭先生と話したことはあまりない。失礼とわかっていても、言わずにはいられない。
「町村君の言うこともよくわかる。でも、今回の件で住民の人々の理解が得にくくなったことも確かだ。」
「何か、タヌキ達を助ける方法はないんでしょうか?」

 教頭先生は、しばらく腕組みをして考えていたが、その「何か」を思いついたらしく、「ここで待っていてくれ」と言い残して出て行った。

 数分して相談室のドアがガラッと開き、教頭先生が戻ってきた。手には、何か印刷物が入ったクリアファイルを持っている。
「もうすぐ締め切り間近なんだが、田瀬谷区では、こんな催しをやっている。」
 先生はクリアファイルからリーフレットを一枚取り出し、テーブルの上に置いてボクの方にくるりと回して向ける。それにはこう書かれていた。

“区民が考える、野々川緑地活用コンテスト”

「野々川沿いに、区が所有する、そこそこ広い遊休地があり、これを有効活用するためのアイデアコンテストだ。締め切りは来週。一次選考通過者は来年一月上旬の、区長を審査委員長とした本選会に進める。プレゼンテーションして直接アピールできるチャンスだ。グランプリを獲ったら、緑地活用に反映される。どうだ、挑戦してみないか?」
 このコンテストで何かタヌキたちの役にたつことができるのだろうか? 今ひとつピンとこなかったが、教頭先生は、ぼくに真剣に問いかけている。
 とにかく今はできることは何でもやりたい。
「わかりました、精一杯考えてみます。」
「ああ。林田君に、君の本気を見せてやれ。」
「あの、教頭先生、最後にひとつだけ教えてください。先生はタヌキではないですよね?」
「ハハハ、残念ながら違うよ。『あのタヌキ親父め』とはよく言われるがな。」
 文字通りのベタな親父ギャグは聞かなかったことにして、ぼくはリーフレットを受け取り、相談室を後にした。
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