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If_初めての…
揺らぎ
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こちらは【はじめて】より続くIfルート、番外編となっております。
後編の最後、事後から少し空いて年配の刑事に出会いますが事後に、もし、違う選択をしていたら…。
ということで、ビッチ君のはじめてを奪った男との関係に変化が起こる様をぜひ読んでやって下さい。
一応繋がりが分かりやすいように繋ぎ目に《✐☡ ⋆*》これ置いときます。
楽しくなって長くなっちゃいました。
ちなみに、最新話でなくとも、誰との話が好きだとか、どのシーンが良いだとか、一言でも良いので気軽な感想、心よりお待ちしております。
それでは番外編をお楽しみください。
☆───☆───☆───☆───☆───☆───☆───☆
✐☡ ⋆*
男がお風呂に入っている間にと辺りを見回してみた。特にこれといってどうにか出来そうなものはパソコン以外にはない。そう言えば服や鞄が見当たらない。
仕方なく、モニターとして使われているらしいテレビに繋がれたパソコンに目を遣る。ボクがお風呂から出た時、男が触っていたからか画面に何か映っていた。
悩んだ末、再生を押した。【If】
すると男曰く前にここに連れてこられた時の録画らしい物が流れ始めた。先程目に入ったキスシーンとは少し違うアングルの映像が中央に映し出されている。
「ゎわっ。」
慌てて止めようとした所で自分の腕が男の首に巻き付き頭を抱き寄せたシーンが映し出された。
(な、なんでボク…こんなこと…。)
怖くてたまらないはずの相手に、触られたくないはずの相手に、どうして自分がキスを強請るような仕草をしているのか、自分の事なのに訳が分からなかった。
舌を絡ませ恍惚とした表情をする自分から目が離せない。男の精悍な顔立ちが嬉しそうに崩れているのがチラチラ見えて顔に熱が集まった。
混乱し動けないまま、男の動きに合わせてビクビクと跳ねる自分の身体を呆然と眺めてしまい、お尻がキュンとした。
ハッとして目を逸らしても、気になって見てしまう。中央の映像がキスシーンの最後のアングルのままだったため、2人の全身を映した映像は右下の端にあって少し見辛かった。それでも、イッたのを見届け、ふぅと息を吐いて動画を止めようとしたら男がボクを抱き上げた。続きがある事に驚いてそのまま見続けていると、浴室に入って行ったので少し早送りし、出てきた所まで飛ばした。
バスローブを纏ったボクを抱えた男が浴室から出てきたところから再生を再開する。
男はベッドにボクを下ろすと、浴室に戻ってバスローブを羽織って、手にはバスタオルを持って出てきた。そのバスタオルでボクを丁寧に拭いた後、自分をササッと拭いた男は寝ているボクの隣に寝転び、ボクの寝顔を眺めて微笑んだ。
中央に映し出される映像が2人の頭から胸辺りまでを捉えていて、ボクの寝顔と男の微笑む姿がバッチリ映っていた。そんなシーンを見てしまったボクの心臓は煩いくらいドクドクと言っていて首から上がとても熱かった。
映像はまだ続き、男はそっとボクを撫で、優しくチュッチュッと顔や耳、首、鎖骨、唇へ何度もキスをしていた。
そして突然起き上がり何処かに行くとボクの服や鞄を持って戻り、サイドテーブルに置くとまた隣に寝転んだ。頭の下に腕を入れられ何をするのかと見ていたらあっという間に男に抱き締められ、男も眠った様だった。数分眠っているシーンが続き映像はそこで終了した。
見始めた辺りにカーソルを動かしパソコンを元の状態に戻すとベッドに移動して天井を仰ぐように寝転がった。
正直自分の感情がよく分からなかった。
意識のある所では常に嫌がっていたはずの自分が無意識にしている行動だと正反対なのが何故なのか理解できない。
意地悪な事ばかり言ったりしたりする男が何故あんな風に微笑んで大事そうに触れるのか分からない。
男が浴室から出てきて心臓の音が一段と大きく速くなり、目が前以上に合わせられない。それなのにどうしても男のことを目で追ってしまっていた。
自分のことなのに答えが出ないことにモヤモヤを抱えたままその日は帰宅した。
モヤモヤの正体が分からないまま3日が経った帰り道に、いつもの駐車場を確認すると男の車があった。
見つけた途端、ドキドキと心臓がなり始め、友達との会話も頭から抜け落ちてしまった。
何人かで話していたので気づかれずに済んだことにホッとし、いつもの場所で別れると、自分の家の方向に行く振りをして男の待つ駐車場へと早足に向かった。
誰にも見つからないようにサッと乗り込むと男が少し驚いた顔でこちらを見ていた。
「なに?」
「お前…いや。」
男が直ぐに車を出した直後、知ってる顔を見かけた。咄嗟に隠れてしまったが年配の刑事だった。
「ボクの写真…刑事さんに見せたの?」
「いや?なんでだ?」
「今さっきあの公園の近くにいたから…。」
「…俺が接近禁止命令を無視してお前に会いに来てないか監視するためにきたんだろ。たぶん。俺に会いたくなきゃアイツにチクれば良い。そうなればもう来られなくなるだろう。言っとくが俺は会いに来るのを自主的に止める気はない。」
ボクは何も言えなかった。
今日は目隠しも眠ったりもなかったおかげで連れてこられた場所を初めて見ることができた。外観は普通のビルだった。車でビルの地下に入っていくと駐車場になっていて、男がリモコンでシャッターを閉めていた。
車から降りて男について行った。
帰りも毎回目隠しをされていて知らなかったが中は複雑というか、扉が多かったり変な小部屋を通ったり迷子になりそうだと思った。
ベッドのある部屋に到着すると先に部屋に1人で入るよう言われた。中に入ると上着を脱いで床に置いた鞄に掛けベッドに転がった。
モヤモヤをどうにかしたい。
そうは思っていても、車の中で新たにモヤモヤが発生してしまった。うーんとベッドに突っ伏しながら唸っていると男が部屋に入ってきた。
振り向こうとした時にはもう既に後ろから覆いかぶさってきていた。仰向けに転がされ、唇を重ねられ舌が入って来るともう意識は口に集中してしまう。
「んっふぅ。はぁァっ。んむぅ。ん。ぅ。」
チュッジュッと水音が耳に響き、舌が痺れる。男の熱い吐息を感じ、流し込まれる唾液を飲んだ。
気持ちイイ。
いつも逃げようと、嫌だと拒否していたのにそれを止めただけで、いや、受け入れて見るといつにも増して気持ちが良かった。
唇を離した男は眉根を寄せて目尻を下げて困ったように笑っていた。今までに見た事のない表情だった。
「俺は…。どうしたら良いんだろうな。」
そう独り言ちると男はゆっくりとボクの服を脱がせ始めた。ボクはいつもとは違って見える男を拒否る気にはなれず、何故なのかを考えた。モヤモヤの正体を知りたかった。
脱がす手つきがゆっくり過ぎて反抗されるのを待っているのかと男の様子を伺うと、手が僅かに震えていることに気がついた。いつもの余裕な態度が嘘のようで男の手を握ってしまう。咄嗟にしてしまったが何故そうしたのか自分でも分からない。
男は一瞬手を止めたが、今度は震えることなくボクを裸にした。
「何故抵抗しない?」
「して欲しいの?」
「いや、いつも途中まではするだろう?」
「いつも…途中まで…。ボクはもうモヤモヤしたくないんだ。」
「モヤモヤ?…俺を試しているのか?」
「試す?何を?」
「いや。忘れてくれ。また勝手な妄想をするところだった。」
勝手な妄想とは何か聞こうとしたが、もう話は終わりだとでも言うように唇を塞がれ口内と陰茎への愛撫に思考は掻き消えてしまった。
1度高められイク寸前で止められた後、いつものような激しさはなく、ゆっくりじわじわと、じっくり時間をかけて追い詰められた。強い刺激は挿入時くらいで、後はずっともどかしいのに気持ちいい、足りないのに満たされる、そんな状態が続いた。
「ぁ、ァァ、ぁ。ぁんぅ、んっんっ。ぁぁ、ぁ、ぁっぁ。ふぁっ、はー、ひんっ。んっんっぁぁぁっ、ぁっ。ぁは、ぁ、ぁっ。」
ずっと声が止まらない。今回はまだ一度もイっていないのに何故かいつも以上に気持ちいい。頭は働かないのにたまに見せる男の穏やかな笑顔を見ることは出来た。その笑顔がボクの心臓をうるさくする。
脳が溶けてしまいそう。
乳首も陰茎も後孔も、ゆっくりゆったりと与えられる刺激に、快感と期待が折り重なっていくように、固く尖りヒクつき、男の接触を悦んだ。もっと触れて欲しい。近づきたい。キスしたい。
「ぁ、ぁぁ…ィ、クッ…。」
イッたのに出ていない。前のような中イキでもない。イッた感覚はあるのにどこでイッたのか分からない。全身をビクつかせながら、未だ続くゆったりとした愛撫に身を任せる。
「ぁっぁぁっ。」
直ぐにもう一度くる波に、またビクビクと全身が痙攣する。
気持ちいい。気持ちい。気持ちぃ。
合わない焦点を必死に男へ向けると男は堪えているような表情をしていた。お尻がキュンとして中がビクりと動き、男の存在を意識してしまい勝手に締め付けてしまったらしい。
男が吐精した。その感覚をモロに実感して中が余計に痙攣する。
「んんんっふ、ぅ…。」
「っ…、すまない。」
男は小さな声でそう言うと、抜かずにボクの頭や頬を撫でた。
余韻のままに、触れられた場所を気持ちよく感じていると中で男のモノが大きくなった。
「ぁ、ぁぁ、はぁっ、ん。」
中を押し広げられる感覚にゾクゾクとしながら、痺れるような溶けるようなキスに夢中になった。
もっと触って欲しい。
気がつけば男の首に腕を回していた。抱きしめるように男を引き寄せ夢中になってキスに応えている。もはや完全に自覚のある行動だった。何故そうしたいと思うのかは分からないが、自分がしたくてしている行動なのだとようやく自覚できた。
自分の身体を這い回る男の手が熱く、その熱が移るように身体が火照っていくようだった。男に触られる箇所が熱く疼く。
ドクンドクンと心臓の音がうるさく、それに呼応するように後孔がヒクヒクと戦慄いた。それによって男の存在感が増し、より息が乱れた。
「は…ぁ、ぁっあっ、も、ァ…ぁぁ、もぉ、っふっうぅ…ぁ、ぁぁぁ、ぁっはァっァっ、も、もっ、ぁあっ。」
「もうイクか?いくらでもイッて良いからな。」
「ぁっぁっ、も、ィッて、る、ちがァっ、ぁあっ。」
「ならもう嫌か?」
「ち、がっ…ぁっあんっ、も、…もっ、と。」
「…もっと?」
男は固まってしまい、その間にと息を整えて、もう一度言い直そうとしたが、男がまた動き出してしまい言うのも、息を整えるのすら叶わなかった。
「…か…………て……、ほんとに…。」
男の小さな呟きはほとんど聞こえなかった。それでもボクが言おうとした、もっとキスしたい、もっと触って欲しい、そんな気持ちは通じたらしく、キスも愛撫もたくさんしてくれた。空イキの回数ももちろん増えてしまったがとにかくずっと気持ちよかった。
事後、飛ばしていた意識が僅かに浮上した時には男と湯船に浸かっている状態で、後ろから包まれる感覚に頬が緩んだのが自分でもわかった。そのまままた意識を飛ばして、次に気がついたのはベッドで男の腕の中にいた時だった。抱きしめられて眠るなんて非日常的でドキドキした。それと同時に人肌の心地良さを感じてもう一度目を閉じた。
週末、母と2人になった際思い切って聞いてみることにした。
「少し前まで嫌いだと思ってた人に、自分が取ってる行動が変で、それに気づいてからおかしくて。」
「どうおかしいの?」
真剣な相談だと分かってくれたのか、母は見ていたドラマを止めてこちらに向き直ってくれた。
L字ソファの少し突き出ているところに座って1度深呼吸をして話し始めた。
「目が合うと逸らしたくなるんだけど気がついたら目で追ってたり、もっと近づきたいとか考えたり、会えなくなると思うとモヤモヤしたり…。笑顔を見るとドキドキするんだけど。」
「それは好きな相手ができたのかもね。初恋じゃない?」
母は嬉しそうに微笑んだ。理解が追いつかないボクの言葉を待ってくれている。ゆっくりと反芻し、ようやく恋という言葉を飲み込めた。
「恋?…そっか…なんで気づかなかったんだろ。」
「嫌いだと思ってたんでしょ?認めたくなかったのかも知れないね。相手はどんな人?」
「…うーん、まだ言いたくない。」
母の言葉に納得した。あんな事があったから確かに認めたくなかったのかもしれない。相手があの人だと知ったら母はどう思うだろう。そう考えると言えないなと思った。今の関係だってよくわからないし。
「そのうち教えてね?どっちかなー。」
「どっちって?」
「ぁ…。えーと、相手は女性かな?男性かな?って考えてたの。嫌だったらごめんね。」
母はあんなことがあったのに男性も有り得ると思ったことを、申し訳なさそうに言ったようだった。もしかしたら辛い記憶を思い出させたかもと心配したのかもしれない。それでも、ボクの恋愛対象が母の中で女性に限られていなくてホッとした。伝えにくく思っていた理由の一つだったから。
「うんん。大丈夫。」
「もしかして…ううん、教えてくれるのを待ってる。」
「うん。」
母は何か言おうとしてやめたけれど何となく深掘りしない方が良い気がした。あの人との関係をハッキリさせてから伝えよう。そもそもあの人はボクのことを好きなのかも聞いてない。ボクも気持ちを伝えないと。
そう考えると胸が苦しくなった。
後編の最後、事後から少し空いて年配の刑事に出会いますが事後に、もし、違う選択をしていたら…。
ということで、ビッチ君のはじめてを奪った男との関係に変化が起こる様をぜひ読んでやって下さい。
一応繋がりが分かりやすいように繋ぎ目に《✐☡ ⋆*》これ置いときます。
楽しくなって長くなっちゃいました。
ちなみに、最新話でなくとも、誰との話が好きだとか、どのシーンが良いだとか、一言でも良いので気軽な感想、心よりお待ちしております。
それでは番外編をお楽しみください。
☆───☆───☆───☆───☆───☆───☆───☆
✐☡ ⋆*
男がお風呂に入っている間にと辺りを見回してみた。特にこれといってどうにか出来そうなものはパソコン以外にはない。そう言えば服や鞄が見当たらない。
仕方なく、モニターとして使われているらしいテレビに繋がれたパソコンに目を遣る。ボクがお風呂から出た時、男が触っていたからか画面に何か映っていた。
悩んだ末、再生を押した。【If】
すると男曰く前にここに連れてこられた時の録画らしい物が流れ始めた。先程目に入ったキスシーンとは少し違うアングルの映像が中央に映し出されている。
「ゎわっ。」
慌てて止めようとした所で自分の腕が男の首に巻き付き頭を抱き寄せたシーンが映し出された。
(な、なんでボク…こんなこと…。)
怖くてたまらないはずの相手に、触られたくないはずの相手に、どうして自分がキスを強請るような仕草をしているのか、自分の事なのに訳が分からなかった。
舌を絡ませ恍惚とした表情をする自分から目が離せない。男の精悍な顔立ちが嬉しそうに崩れているのがチラチラ見えて顔に熱が集まった。
混乱し動けないまま、男の動きに合わせてビクビクと跳ねる自分の身体を呆然と眺めてしまい、お尻がキュンとした。
ハッとして目を逸らしても、気になって見てしまう。中央の映像がキスシーンの最後のアングルのままだったため、2人の全身を映した映像は右下の端にあって少し見辛かった。それでも、イッたのを見届け、ふぅと息を吐いて動画を止めようとしたら男がボクを抱き上げた。続きがある事に驚いてそのまま見続けていると、浴室に入って行ったので少し早送りし、出てきた所まで飛ばした。
バスローブを纏ったボクを抱えた男が浴室から出てきたところから再生を再開する。
男はベッドにボクを下ろすと、浴室に戻ってバスローブを羽織って、手にはバスタオルを持って出てきた。そのバスタオルでボクを丁寧に拭いた後、自分をササッと拭いた男は寝ているボクの隣に寝転び、ボクの寝顔を眺めて微笑んだ。
中央に映し出される映像が2人の頭から胸辺りまでを捉えていて、ボクの寝顔と男の微笑む姿がバッチリ映っていた。そんなシーンを見てしまったボクの心臓は煩いくらいドクドクと言っていて首から上がとても熱かった。
映像はまだ続き、男はそっとボクを撫で、優しくチュッチュッと顔や耳、首、鎖骨、唇へ何度もキスをしていた。
そして突然起き上がり何処かに行くとボクの服や鞄を持って戻り、サイドテーブルに置くとまた隣に寝転んだ。頭の下に腕を入れられ何をするのかと見ていたらあっという間に男に抱き締められ、男も眠った様だった。数分眠っているシーンが続き映像はそこで終了した。
見始めた辺りにカーソルを動かしパソコンを元の状態に戻すとベッドに移動して天井を仰ぐように寝転がった。
正直自分の感情がよく分からなかった。
意識のある所では常に嫌がっていたはずの自分が無意識にしている行動だと正反対なのが何故なのか理解できない。
意地悪な事ばかり言ったりしたりする男が何故あんな風に微笑んで大事そうに触れるのか分からない。
男が浴室から出てきて心臓の音が一段と大きく速くなり、目が前以上に合わせられない。それなのにどうしても男のことを目で追ってしまっていた。
自分のことなのに答えが出ないことにモヤモヤを抱えたままその日は帰宅した。
モヤモヤの正体が分からないまま3日が経った帰り道に、いつもの駐車場を確認すると男の車があった。
見つけた途端、ドキドキと心臓がなり始め、友達との会話も頭から抜け落ちてしまった。
何人かで話していたので気づかれずに済んだことにホッとし、いつもの場所で別れると、自分の家の方向に行く振りをして男の待つ駐車場へと早足に向かった。
誰にも見つからないようにサッと乗り込むと男が少し驚いた顔でこちらを見ていた。
「なに?」
「お前…いや。」
男が直ぐに車を出した直後、知ってる顔を見かけた。咄嗟に隠れてしまったが年配の刑事だった。
「ボクの写真…刑事さんに見せたの?」
「いや?なんでだ?」
「今さっきあの公園の近くにいたから…。」
「…俺が接近禁止命令を無視してお前に会いに来てないか監視するためにきたんだろ。たぶん。俺に会いたくなきゃアイツにチクれば良い。そうなればもう来られなくなるだろう。言っとくが俺は会いに来るのを自主的に止める気はない。」
ボクは何も言えなかった。
今日は目隠しも眠ったりもなかったおかげで連れてこられた場所を初めて見ることができた。外観は普通のビルだった。車でビルの地下に入っていくと駐車場になっていて、男がリモコンでシャッターを閉めていた。
車から降りて男について行った。
帰りも毎回目隠しをされていて知らなかったが中は複雑というか、扉が多かったり変な小部屋を通ったり迷子になりそうだと思った。
ベッドのある部屋に到着すると先に部屋に1人で入るよう言われた。中に入ると上着を脱いで床に置いた鞄に掛けベッドに転がった。
モヤモヤをどうにかしたい。
そうは思っていても、車の中で新たにモヤモヤが発生してしまった。うーんとベッドに突っ伏しながら唸っていると男が部屋に入ってきた。
振り向こうとした時にはもう既に後ろから覆いかぶさってきていた。仰向けに転がされ、唇を重ねられ舌が入って来るともう意識は口に集中してしまう。
「んっふぅ。はぁァっ。んむぅ。ん。ぅ。」
チュッジュッと水音が耳に響き、舌が痺れる。男の熱い吐息を感じ、流し込まれる唾液を飲んだ。
気持ちイイ。
いつも逃げようと、嫌だと拒否していたのにそれを止めただけで、いや、受け入れて見るといつにも増して気持ちが良かった。
唇を離した男は眉根を寄せて目尻を下げて困ったように笑っていた。今までに見た事のない表情だった。
「俺は…。どうしたら良いんだろうな。」
そう独り言ちると男はゆっくりとボクの服を脱がせ始めた。ボクはいつもとは違って見える男を拒否る気にはなれず、何故なのかを考えた。モヤモヤの正体を知りたかった。
脱がす手つきがゆっくり過ぎて反抗されるのを待っているのかと男の様子を伺うと、手が僅かに震えていることに気がついた。いつもの余裕な態度が嘘のようで男の手を握ってしまう。咄嗟にしてしまったが何故そうしたのか自分でも分からない。
男は一瞬手を止めたが、今度は震えることなくボクを裸にした。
「何故抵抗しない?」
「して欲しいの?」
「いや、いつも途中まではするだろう?」
「いつも…途中まで…。ボクはもうモヤモヤしたくないんだ。」
「モヤモヤ?…俺を試しているのか?」
「試す?何を?」
「いや。忘れてくれ。また勝手な妄想をするところだった。」
勝手な妄想とは何か聞こうとしたが、もう話は終わりだとでも言うように唇を塞がれ口内と陰茎への愛撫に思考は掻き消えてしまった。
1度高められイク寸前で止められた後、いつものような激しさはなく、ゆっくりじわじわと、じっくり時間をかけて追い詰められた。強い刺激は挿入時くらいで、後はずっともどかしいのに気持ちいい、足りないのに満たされる、そんな状態が続いた。
「ぁ、ァァ、ぁ。ぁんぅ、んっんっ。ぁぁ、ぁ、ぁっぁ。ふぁっ、はー、ひんっ。んっんっぁぁぁっ、ぁっ。ぁは、ぁ、ぁっ。」
ずっと声が止まらない。今回はまだ一度もイっていないのに何故かいつも以上に気持ちいい。頭は働かないのにたまに見せる男の穏やかな笑顔を見ることは出来た。その笑顔がボクの心臓をうるさくする。
脳が溶けてしまいそう。
乳首も陰茎も後孔も、ゆっくりゆったりと与えられる刺激に、快感と期待が折り重なっていくように、固く尖りヒクつき、男の接触を悦んだ。もっと触れて欲しい。近づきたい。キスしたい。
「ぁ、ぁぁ…ィ、クッ…。」
イッたのに出ていない。前のような中イキでもない。イッた感覚はあるのにどこでイッたのか分からない。全身をビクつかせながら、未だ続くゆったりとした愛撫に身を任せる。
「ぁっぁぁっ。」
直ぐにもう一度くる波に、またビクビクと全身が痙攣する。
気持ちいい。気持ちい。気持ちぃ。
合わない焦点を必死に男へ向けると男は堪えているような表情をしていた。お尻がキュンとして中がビクりと動き、男の存在を意識してしまい勝手に締め付けてしまったらしい。
男が吐精した。その感覚をモロに実感して中が余計に痙攣する。
「んんんっふ、ぅ…。」
「っ…、すまない。」
男は小さな声でそう言うと、抜かずにボクの頭や頬を撫でた。
余韻のままに、触れられた場所を気持ちよく感じていると中で男のモノが大きくなった。
「ぁ、ぁぁ、はぁっ、ん。」
中を押し広げられる感覚にゾクゾクとしながら、痺れるような溶けるようなキスに夢中になった。
もっと触って欲しい。
気がつけば男の首に腕を回していた。抱きしめるように男を引き寄せ夢中になってキスに応えている。もはや完全に自覚のある行動だった。何故そうしたいと思うのかは分からないが、自分がしたくてしている行動なのだとようやく自覚できた。
自分の身体を這い回る男の手が熱く、その熱が移るように身体が火照っていくようだった。男に触られる箇所が熱く疼く。
ドクンドクンと心臓の音がうるさく、それに呼応するように後孔がヒクヒクと戦慄いた。それによって男の存在感が増し、より息が乱れた。
「は…ぁ、ぁっあっ、も、ァ…ぁぁ、もぉ、っふっうぅ…ぁ、ぁぁぁ、ぁっはァっァっ、も、もっ、ぁあっ。」
「もうイクか?いくらでもイッて良いからな。」
「ぁっぁっ、も、ィッて、る、ちがァっ、ぁあっ。」
「ならもう嫌か?」
「ち、がっ…ぁっあんっ、も、…もっ、と。」
「…もっと?」
男は固まってしまい、その間にと息を整えて、もう一度言い直そうとしたが、男がまた動き出してしまい言うのも、息を整えるのすら叶わなかった。
「…か…………て……、ほんとに…。」
男の小さな呟きはほとんど聞こえなかった。それでもボクが言おうとした、もっとキスしたい、もっと触って欲しい、そんな気持ちは通じたらしく、キスも愛撫もたくさんしてくれた。空イキの回数ももちろん増えてしまったがとにかくずっと気持ちよかった。
事後、飛ばしていた意識が僅かに浮上した時には男と湯船に浸かっている状態で、後ろから包まれる感覚に頬が緩んだのが自分でもわかった。そのまままた意識を飛ばして、次に気がついたのはベッドで男の腕の中にいた時だった。抱きしめられて眠るなんて非日常的でドキドキした。それと同時に人肌の心地良さを感じてもう一度目を閉じた。
週末、母と2人になった際思い切って聞いてみることにした。
「少し前まで嫌いだと思ってた人に、自分が取ってる行動が変で、それに気づいてからおかしくて。」
「どうおかしいの?」
真剣な相談だと分かってくれたのか、母は見ていたドラマを止めてこちらに向き直ってくれた。
L字ソファの少し突き出ているところに座って1度深呼吸をして話し始めた。
「目が合うと逸らしたくなるんだけど気がついたら目で追ってたり、もっと近づきたいとか考えたり、会えなくなると思うとモヤモヤしたり…。笑顔を見るとドキドキするんだけど。」
「それは好きな相手ができたのかもね。初恋じゃない?」
母は嬉しそうに微笑んだ。理解が追いつかないボクの言葉を待ってくれている。ゆっくりと反芻し、ようやく恋という言葉を飲み込めた。
「恋?…そっか…なんで気づかなかったんだろ。」
「嫌いだと思ってたんでしょ?認めたくなかったのかも知れないね。相手はどんな人?」
「…うーん、まだ言いたくない。」
母の言葉に納得した。あんな事があったから確かに認めたくなかったのかもしれない。相手があの人だと知ったら母はどう思うだろう。そう考えると言えないなと思った。今の関係だってよくわからないし。
「そのうち教えてね?どっちかなー。」
「どっちって?」
「ぁ…。えーと、相手は女性かな?男性かな?って考えてたの。嫌だったらごめんね。」
母はあんなことがあったのに男性も有り得ると思ったことを、申し訳なさそうに言ったようだった。もしかしたら辛い記憶を思い出させたかもと心配したのかもしれない。それでも、ボクの恋愛対象が母の中で女性に限られていなくてホッとした。伝えにくく思っていた理由の一つだったから。
「うんん。大丈夫。」
「もしかして…ううん、教えてくれるのを待ってる。」
「うん。」
母は何か言おうとしてやめたけれど何となく深掘りしない方が良い気がした。あの人との関係をハッキリさせてから伝えよう。そもそもあの人はボクのことを好きなのかも聞いてない。ボクも気持ちを伝えないと。
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