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しおりを挟む来栖が言っていたことは本当だった。耀士は休み時間の度に一Aの教室へやってきて二葉に声をかけてくる。
彼は人気者で、男女問わず多くの生徒から声をかけられていた。それを厭わず自然と明るい笑顔で応対する姿を見ると、友だちはいらないと思っている自分とは、あまりにも住む世界が違う人だと思ってしまう。
耀士は絶対に周りに注目される。
だから、相手にしたら自分まで悪目立ちしてしまうことが怖い。誰かと面と向かって話すことも怖い。結局曖昧な対応になってしまって耀士は食い下がってしまう。
それを面白がって見る来栖にむっとするし、耀士が来る度に藤木の尖った視線がぐさぐさと突き刺さって痛い。
ノートに書いている文字が二重に見えて、そこで初めて目眩がしていることに気づいた。自分が思っている以上に限界らしい。まずい。
四限目のチャイムが鳴ってすぐ、二葉は荷物をまとめて急いで教室から飛び出した。
(もう時間を奪われるのは嫌だ……!)
四十五分の昼休みを耀士のせいで台無しにされたくない。誰からも注目されたくない。落ち着いて勉強したい。
目眩で揺れる視界を気力でどうにかしながら足早に図書室へ向かう。いつの間にか目元が湿っている。慌てて目を擦った。前髪が長くてよかった。
図書室なら耀士と距離を取れるに違いないと思っていたが、二葉の淡い期待はカミナリ司書と顔を合わせた途端、叶うかどうか怪しいものだと分かってしまった。
彼女は二葉を見るなり「あんた……」と今まで見たことがないようなしかめっ面をする。
「あの北見とかいう生徒はどうすんのよ」
「し、知らないです……」
「知らないじゃないわよ。話しかけられてたじゃない。あの子、窓から入ってくるわ声はうるさいわ、ほんっと利用マナーがなってなくてうんざりするわ」
「ご、ごめん、なさい……」
なんで自分が謝るのかと心の中でもやもやするが、カミナリ司書の勢いに押されてつい口から溢れてしまった。
朝から万全とは言えない体調のせいなのか目眩が強くなった。図書カウンターに乗せた手にぐっと力を込めながら、あくまで平静を装えるように努力していると、聞きたくもない声が図書室の扉の方から聞こえてくる。
「佐藤くんいますかー!」
全く悪気のない明るくてよく通る声だ。血の気が引いて身震いがする。寒い。ふらふらする。
カミナリ司書がさっと顔色を変えた。
「出たわね北見耀士……入ってこないで! そこで立ってなさい! 動くんじゃないわよ」
カミナリ司書の顔色など全く気にしていないのか、耀士は「佐藤くんと話がしたいんです」と呑気に話し、二葉に向かって夏の空みたいに突き抜けた笑顔を見せてきた。
これは一波乱ありそうだ、と二葉は他人事のように思う。二人が揉めている間に逃げて、少し休んだら英単語でも暗記しようかと思っていた矢先、鬼の形相のカミナリ司書は、あろうことか二葉の方を向いたのだ。
「佐藤二葉っ!」
びく、と体が跳ねる。今日で何回目だ。心臓に悪いから本当にやめてほしい。
反射的に出てきたのは「は、はい……っ」と裏返って震えるか細い声だ。
「この子黙らせるまで、図書室利用禁止!」
耳を疑った。言葉を失う。
そうこうしているうちに、二葉は図書室を追い出されてしまった。
無慈悲に閉まる扉に、信じられない光景を見ているような気持ちになる。すぐ隣では人の気も知らない耀士がにこにこ笑っていた。
「……はぁ……」
ため息を吐いたら一気に体から力が抜けた。一歩でも動こうものなら、脚から崩れて倒れてしまいそうなくらい力が入らない。
どうしてこうなる?
『ヨージに目つけられるとか、終わったな。逃げてると一生追いかけられるぞ』
二葉を嘲笑う来栖の顔が頭を過ぎった。
全くもってその通りだった。
「佐藤くん? 具合悪いのか?」
目眩は耀士に苛立つ余裕もないほど酷くなり、視界が白み始めている。息が喉に引っかかった途端、苦しいほどに咳が出て前屈みになると、床のタイルが視界一面に広がった。
倒れる。顔、打つ。
どうしようもないか。落ち着くまで床に転がっておこう……。
と、諦めたら地面に打ち付けられる寸前で体が止まった。
「しっかりしろ。保健室行こう」
耀士に抱きとめられているのだと分かるまでに時間がかかったが、慌てる力もない。
視界は真っ白で、もうなにも見えない。
掠れる声をなんとか絞り出す。
「歩けない、から」
ほっといて、と続けようとしたが声がでない。口が重くて思考が淀む。
体が浮き上がった気がした。目眩のせいかと思ったけれど、耀士の息遣いが間近に聞こえてきてこそばゆい。抱き上げられたみたいだ。
「軽っ。腕に力は……入らないよな。体預けて」
耀士の腕は力強い。
考える余力もなく、素直に体を預けた。
身体が耀士の大きな歩幅のリズムに合わせて揺れる。
「俺が連れて行くよ。任せろ。頑張れ」
二葉の長い前髪が、勢いよく風を切った。
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