地味で根暗で残念ですが、直視できないくらいイケメンで高スペックな憧れの先輩に溺愛されそうなので、全力で逃げています。

藤 慶

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第2章 人の人生を変えるなら、人に人生変えられるかくご位してやがれ

CROWNは、その日開店5周年を迎えました。中編<107>

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駅から200メートル程離れたところで、私のスマホの着信が鳴った。



相手は、冬野さんだった。



何だろ?




取り敢えず、私は電話に出た。




「セイ。今、どこにいるの?」

「えっと、残業で今帰りですけど」

「セイ、うちに来るんだよね?」

「いいえ、もう家に帰るところですけど」

「さっき、センちゃんが駅で、君とマキさん達が一緒に居るところ見かけたって心配して電話してきたんだけど?」

「偶然一緒になっただけです。家に帰るところで」

「なんで、俺の店の最寄駅にいるのに、今自宅に帰ってるのか、さっぱり見当つかないんだけど。俺の玄関のポストに鍵入ってるから、歩いて帰らず、俺の家に帰ろうか?」



何ですと!!



「いや、あの、もう時間も遅くて、明日、朝一で伺いますから」

「何の業者のセリフだよ。今、一人で店まわしてるから、もう切るよ。こんな時間に女の子が一人で歩いて帰るとか、狂気の沙汰だよ。俺にマキさん達叩きだして迎えに来いって言ってる様なもんだから」



うわぁ、そんな後でマキさん達になにされるか分からない。



「返事は?」

「はい」



私は結局冬野さんの店に向かって引き返し、店の裏手から2階の冬野さんの自宅へ入った。



電気の消えた部屋。

もう勝手知ったるで、電気をつけて、バッグをソファーに置いて、手を洗い、空腹に身もだえしながら、どっと来る疲れにソファーにもたれかかって眠りについた。

冬野さんの家でしかしない匂いと気持ちの良い雰囲気に包まれて、それはそれで幸福だと思った。




「セイ」



どれくらい時間が経ったのか、驚いた顔で私を見下ろす冬野さんの前で私は目を覚ました。

壁時計に目をやると、とっくに閉店時刻を過ぎた午前2時半だった。



「すみません、今日ちょっと忙しくて」

「だからって、風邪ひくよ。ベッドで寝てればよかったのに」

「すみません」



起き上がろうとして、体をねじると、空腹感満載のメロディーがぐぅーと腹から静かな部屋に響き渡った。



「まさか、夕飯食べてないの?」

「……イエ~ス」

「何、なんちゃって外国人の真似なんて、よくこの状況でやってのけるもんだ」

「お腹空いてます」

「分かってるよ」



冬野さんはあきれ顔で、前の日の夕食の残りのロールキャベツとレンジのご飯を用意してくれた。



「冬野さん、ロールキャベツなんて作れるんですね」

「前の同居人の得意料理だったんだよ。簡単だろ、ひき肉に具を混ぜて、ふやかしたキャベツで包んでコンソメスープで茹でるだけなんだから」

「いや茹でるんじゃなくて、煮込むんじゃないですか?」

「うるさい、黙って食べなよ」

「すみません」

「謝るなよ。無理言って、来させて俺こそごめん」

「へ?」

「マキさんに仕事おしつけられたんだろ?」

「いや、月末だったんで」

「彼女たちが好き放題取った案件を月末だったから、全部整理したんだろ? 俺が気づかないと思った。俺、見積もり作ってただけじゃないからね」

「……冬野さんの馬鹿」

「どういう意味」

「冬野さんがずっと会社に居てくれたら、こんなに大変じゃなかった」

「……それ、本気で言ってるの?」



本気だと悪いのだろうか?

でも、冬野さんが会社を辞めたのは冬野さんの事情で私には関係ない。

私がどれだけ大変だったとしても。



「ごめんなさい。八つ当たり……です」

「迷惑なら、ちゃんと、その原因を作った本人に言いなよ。都合の悪い事から逃げるの、君の良くない癖だよ。諸悪の根源を絶たないのは君の決断だと思ってた。ごめん、買い被りだった」



原因?

それって、私が原因だと思ってるのは、それなら、はっきり言って、冬野さんだ。

冬野さんのノウハウの良いところだけを実践して力を付けた、営業一課の今のやり方があるのは、一重に冬野さんの実力が原因だ。

だったら、その原因で、諸悪の根源って、冬野さんなんですけど。



それを断てと。



「諸悪の根源、断ち難いです」

「課長が言ってたよ。君がおとなしくしてるから、つけあがるって」

「大暴れしろって事ですか?」

「……ごめん、仕事の話は、止めよう。えっと、あ、そうだ。先に謝っとくね。ごめん」

「え、何ですか?」

「セイ、ごめん。本当、何でもするから。怒らないで」

「な、なにをですか?」



冬野さんは、心底まずいと言う顔で懇願の目で私を見つめた。



「そのうち分かるけど、千波に君の事くれぐれも宜しくて言っといたし、千波も君なら大丈夫って言ってたから」

「ですから、何がですか?」

「セイ、来月から営業一課だって」




私は、その日持っていたスプーンをくの字に曲げた。

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