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07 忍び寄る悪意
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目が覚めると見慣れない部屋だった。
「・・・・・?」
状況把握が出来なくて小首をかしげていると、ドアを細く開けて覗いている侍女のアニーと目が合う。
「どうしたの、アニー?」
声を掛けるとアニーは眉間に皺を寄せた。
「ガルガン卿ですか?」
聞かれて思わず笑ってしまう。
「ふふふ。アニーったら」
だが同時に昨日、私が気持ちを爆発させてしまった出来事を思い出す。
「ああ! そうでしたわ! 皆無事だった!?」
私が大声を出すと、侍女たちが部屋に駆け込んできた。
「お嬢様、お静かに」
「落ち着いて、深呼吸です」
いつのも対応だ。私が少しでも興奮すると、皆が飛んで来て落ち着くように諭すのだ。
だが、今日はいつもより緊張した顔をしている。
昨日、ガルガンの気を発動してしまい、恐怖を植え付けてしまったようだ。
「大丈夫です。部屋と家具はまるっと破壊されましたが、人的被害はありませんでした。ルイーズお嬢様がお倒れになられたので、勝手ながらこちらの部屋に移動いたしました」
アニーの説明に私は胸を撫で下ろし納得した。
「ああ良かった。皆、怖い目に合わせてしまってごめんなさい」
私が謝ると皆の動きがビシッと止まる。そして叫び出した。
「お嬢様のせいではございません!」
「殿下が! エルミナ令嬢が! 悪いのです!!」
「信じられません! ルイーズお嬢様を蔑ろにするなんて!!」
私のために皆が叫んでくれる。
これもいつもの事だ。
そうやって私の感情を代わって発散してくれるので、私は心を落ち着ける事ができるのだ。
「ルイーズお嬢様、昨日の事は覚えていますか?」
アニーが確信に触れてくる。
「もちろんよ、全部覚えているわ。大丈夫よ」
私は涙の跡でカピカピになった目尻を擦った。
侍女たちが大騒ぎして、その手を止める。「お嬢様の真珠の肌が!!」と蒸しタオルが用意された。
タオルを瞼に乗せて寝転がり、私は最近のテオドリックとの関係を振り返る。
良好、とは言えないまでもいつもと変わらない関係を保っていた。
テオドリックには婚約当初から思いを寄せる相手がいるのだが、それを知っても、私にはテオドリックを振り向かせようという気概は無かった。
疲れるし倒れるから。
だが、政略結婚だ。
お互いの立場を考えるに、一番の良縁談だということは、テオドリックも理解していたはずだ。
だからこそ、私は良い第二王妃になるための努力を惜しまなかったし、テオドリックと恋は出来ずとも、情で結ばれようとする努力も欠かさなかった。
テオドリックもそれに応えてくれていた。
デビュタントで一番に名前が呼ばれると決まった時は、あの美しい青い瞳を輝かせて喜んでくれたではないか。
デビュタントの一位を勝ち得たのは二ヶ月前。
デビューしたら直ぐに婚姻式の予定が立てられ、私は王妃となるべく準備に取りかからねばならなかった。
だから、王妃教育も終えたこのデビュタント舞踏会までの二ヶ月前は、実家で両親とゆっくり過ごすといい。
そう言ったテオドリックの美しい笑顔を思い出す。
この二ヶ月は、手紙のやり取りだけで、直接顔を会わせることはほとんど無かった。
それまでは毎日宮廷の王子宮へ通い、教育を受け、帰りにテオドリックとお茶を頂いて帰るのが日課となっていた。
お互いを気遣いつつ、お互いを知ろうと努力した。
だからこそ、恋はしていなくてもお互いを大事にしようという気持ちが育ったのだ。
育っていたはずだ。
「この二ヶ月に何かがあったのだわ」
ほんの少しだけ生じた隙に、迷い無くつけ込んでくる悪意の存在に、私は背筋を凍らせた。
「・・・・・?」
状況把握が出来なくて小首をかしげていると、ドアを細く開けて覗いている侍女のアニーと目が合う。
「どうしたの、アニー?」
声を掛けるとアニーは眉間に皺を寄せた。
「ガルガン卿ですか?」
聞かれて思わず笑ってしまう。
「ふふふ。アニーったら」
だが同時に昨日、私が気持ちを爆発させてしまった出来事を思い出す。
「ああ! そうでしたわ! 皆無事だった!?」
私が大声を出すと、侍女たちが部屋に駆け込んできた。
「お嬢様、お静かに」
「落ち着いて、深呼吸です」
いつのも対応だ。私が少しでも興奮すると、皆が飛んで来て落ち着くように諭すのだ。
だが、今日はいつもより緊張した顔をしている。
昨日、ガルガンの気を発動してしまい、恐怖を植え付けてしまったようだ。
「大丈夫です。部屋と家具はまるっと破壊されましたが、人的被害はありませんでした。ルイーズお嬢様がお倒れになられたので、勝手ながらこちらの部屋に移動いたしました」
アニーの説明に私は胸を撫で下ろし納得した。
「ああ良かった。皆、怖い目に合わせてしまってごめんなさい」
私が謝ると皆の動きがビシッと止まる。そして叫び出した。
「お嬢様のせいではございません!」
「殿下が! エルミナ令嬢が! 悪いのです!!」
「信じられません! ルイーズお嬢様を蔑ろにするなんて!!」
私のために皆が叫んでくれる。
これもいつもの事だ。
そうやって私の感情を代わって発散してくれるので、私は心を落ち着ける事ができるのだ。
「ルイーズお嬢様、昨日の事は覚えていますか?」
アニーが確信に触れてくる。
「もちろんよ、全部覚えているわ。大丈夫よ」
私は涙の跡でカピカピになった目尻を擦った。
侍女たちが大騒ぎして、その手を止める。「お嬢様の真珠の肌が!!」と蒸しタオルが用意された。
タオルを瞼に乗せて寝転がり、私は最近のテオドリックとの関係を振り返る。
良好、とは言えないまでもいつもと変わらない関係を保っていた。
テオドリックには婚約当初から思いを寄せる相手がいるのだが、それを知っても、私にはテオドリックを振り向かせようという気概は無かった。
疲れるし倒れるから。
だが、政略結婚だ。
お互いの立場を考えるに、一番の良縁談だということは、テオドリックも理解していたはずだ。
だからこそ、私は良い第二王妃になるための努力を惜しまなかったし、テオドリックと恋は出来ずとも、情で結ばれようとする努力も欠かさなかった。
テオドリックもそれに応えてくれていた。
デビュタントで一番に名前が呼ばれると決まった時は、あの美しい青い瞳を輝かせて喜んでくれたではないか。
デビュタントの一位を勝ち得たのは二ヶ月前。
デビューしたら直ぐに婚姻式の予定が立てられ、私は王妃となるべく準備に取りかからねばならなかった。
だから、王妃教育も終えたこのデビュタント舞踏会までの二ヶ月前は、実家で両親とゆっくり過ごすといい。
そう言ったテオドリックの美しい笑顔を思い出す。
この二ヶ月は、手紙のやり取りだけで、直接顔を会わせることはほとんど無かった。
それまでは毎日宮廷の王子宮へ通い、教育を受け、帰りにテオドリックとお茶を頂いて帰るのが日課となっていた。
お互いを気遣いつつ、お互いを知ろうと努力した。
だからこそ、恋はしていなくてもお互いを大事にしようという気持ちが育ったのだ。
育っていたはずだ。
「この二ヶ月に何かがあったのだわ」
ほんの少しだけ生じた隙に、迷い無くつけ込んでくる悪意の存在に、私は背筋を凍らせた。
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