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08 味方は公女ビクトリア
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舞踏会翌日のブルージュ公爵邸は、来客が出たり入ったりの大騒ぎだった。
昨日の舞踏会での騒動を知った貴族たちは、あの手この手で様子を伺ってくる。
父は王弟、大公将軍の近衛騎士団長だ。
その父が第二王子を支持するのは、王を支える立場である大公に仕える身としては、最もバランスの取れた選択であった。
それが、今回の件で崩れる。
大公将軍がブルージュ側に付けば、第二王子は大きな後ろ楯を失うことになる。
「難しいことはお父様にまかせます」
私は傍観に徹して我が家の方針が決まるのを待った。
昼が過ぎ、泣き過ぎて腫れた瞼が少しまともになった頃、来客が告げられた。
朝からすべての来客を断っていたが、訪れたのは王の弟である大公将軍の娘で、ルイーズと一緒に王宮関連の教育を受けた公女ビクトリアだった。
二つ年下だが学友であり、父の上司の娘であり、王族である。
さすがに断れない。
「ルイーズ! 聞いたわ! 第二王子にしてやられたって!?」
部屋に入ってくるなりルイーズの華奢な体を抱き締めて、公女ビクトリアはテオドリックを口汚く非難した。
「ああ! こんな事なら私も今年デビューしておくのだったわ! 私がいればテオドリックの好きにさせなかったのに!!」
「ふふふ、ビクトリア様はまだ教育が終わっていないじゃないの」
ビクトリアは普段、人を非難することなどない。私の代わりに言ってくれているのだとわかって、思わず笑いが込み上げる。
そんな私を痛々しく見つめるビクトリア。
「ルイーズ、可哀想に。まだ目が腫れているわ。泣いたのね」
年下なのにその言葉には公女の慈愛が込められていて、私は泣きたくないのに再び涙を流してしまう。
「もう大丈夫なのに。涙腺が壊れちゃったみたいだわ。」
一晩かけて落ち着けた気持ちが、再び動揺してしまい、私は大きく深呼吸した。
「座りましょう、ルイーズ」
興奮したり、高揚したりすることが一番ルイーズの体に悪いと知っているビクトリアは、慌ててソファーを勧める。
「今、お父様がブルージュ公爵家に良いように取り図っているわ。我が家は味方よ。むしろブルージュ公爵一門を敵に回したらとんでもないことになるわ。あのクソ王子、本当に何を考えているのかしら」
温かい紅茶を飲みながら、ビクトリアの罵りは止まらない。
「ねえ、ルイーズ」
そのビクトリアが口調を変えて、敢えて名前を呼ぶので、私はティーカップを静かにソーサーに戻して、身を正した。
「婚約破棄は、無くならないわ。公式の記録には婚約破棄ではなく、解消となるようにするでしょうけど、どちらにしてもあれだけ大衆の前で啖呵を切られてしまったら、王家の面目上、無かったことには出来ないわ」
さすがにビクトリアは事態をよく解っている。
だからこそ、わざわざ出向いて慰めに来てくれたのだ。
「解っているわ。そしてこれはただの婚約破棄ではない。ただの色恋問題ではない。私の未来を丸ごと潰す策略を感じるわ」
先程蒸しタイルを受けながら散々考えた事を改めて口にする。
「気付いているのね。でも、テオドリックにはそこまでする必要は全く無いのよ。むしろ彼の状況も悪くしているわ。そこが解らない」
ビクトリアも私と同じ所で考えがまとまらないらしい。
「エルミナ嬢を絡んで考えたとしても納得いかないわ。テオドリックが彼女に好意を持っていたのは知っているけど、彼女は側妃への立候補もしなかったし、今更恋愛感情が再燃したとは考えにくいわね」
ビクトリアの分析は流石である。
大きな悪意を感じるのに、その確信が見えてこない。
「宰相様と我が家を断絶させたかったのかしら? それとも第二王子と我が家を? どちらにしてもあり得ないし、そこで得する人物が思い当たらないわ」
私は用意された紅茶を飲んで、ざわめく心を落ち着けるために深呼吸する。
情報を待つしかない。
そう二人で結論づけたとき、執事が再びの来客を告げる。
わざわざ執事が来たということはそれなりの人物だ。
「ルイーズお嬢様、ヴァレリー王太子がご来臨です」
昨日の舞踏会での騒動を知った貴族たちは、あの手この手で様子を伺ってくる。
父は王弟、大公将軍の近衛騎士団長だ。
その父が第二王子を支持するのは、王を支える立場である大公に仕える身としては、最もバランスの取れた選択であった。
それが、今回の件で崩れる。
大公将軍がブルージュ側に付けば、第二王子は大きな後ろ楯を失うことになる。
「難しいことはお父様にまかせます」
私は傍観に徹して我が家の方針が決まるのを待った。
昼が過ぎ、泣き過ぎて腫れた瞼が少しまともになった頃、来客が告げられた。
朝からすべての来客を断っていたが、訪れたのは王の弟である大公将軍の娘で、ルイーズと一緒に王宮関連の教育を受けた公女ビクトリアだった。
二つ年下だが学友であり、父の上司の娘であり、王族である。
さすがに断れない。
「ルイーズ! 聞いたわ! 第二王子にしてやられたって!?」
部屋に入ってくるなりルイーズの華奢な体を抱き締めて、公女ビクトリアはテオドリックを口汚く非難した。
「ああ! こんな事なら私も今年デビューしておくのだったわ! 私がいればテオドリックの好きにさせなかったのに!!」
「ふふふ、ビクトリア様はまだ教育が終わっていないじゃないの」
ビクトリアは普段、人を非難することなどない。私の代わりに言ってくれているのだとわかって、思わず笑いが込み上げる。
そんな私を痛々しく見つめるビクトリア。
「ルイーズ、可哀想に。まだ目が腫れているわ。泣いたのね」
年下なのにその言葉には公女の慈愛が込められていて、私は泣きたくないのに再び涙を流してしまう。
「もう大丈夫なのに。涙腺が壊れちゃったみたいだわ。」
一晩かけて落ち着けた気持ちが、再び動揺してしまい、私は大きく深呼吸した。
「座りましょう、ルイーズ」
興奮したり、高揚したりすることが一番ルイーズの体に悪いと知っているビクトリアは、慌ててソファーを勧める。
「今、お父様がブルージュ公爵家に良いように取り図っているわ。我が家は味方よ。むしろブルージュ公爵一門を敵に回したらとんでもないことになるわ。あのクソ王子、本当に何を考えているのかしら」
温かい紅茶を飲みながら、ビクトリアの罵りは止まらない。
「ねえ、ルイーズ」
そのビクトリアが口調を変えて、敢えて名前を呼ぶので、私はティーカップを静かにソーサーに戻して、身を正した。
「婚約破棄は、無くならないわ。公式の記録には婚約破棄ではなく、解消となるようにするでしょうけど、どちらにしてもあれだけ大衆の前で啖呵を切られてしまったら、王家の面目上、無かったことには出来ないわ」
さすがにビクトリアは事態をよく解っている。
だからこそ、わざわざ出向いて慰めに来てくれたのだ。
「解っているわ。そしてこれはただの婚約破棄ではない。ただの色恋問題ではない。私の未来を丸ごと潰す策略を感じるわ」
先程蒸しタイルを受けながら散々考えた事を改めて口にする。
「気付いているのね。でも、テオドリックにはそこまでする必要は全く無いのよ。むしろ彼の状況も悪くしているわ。そこが解らない」
ビクトリアも私と同じ所で考えがまとまらないらしい。
「エルミナ嬢を絡んで考えたとしても納得いかないわ。テオドリックが彼女に好意を持っていたのは知っているけど、彼女は側妃への立候補もしなかったし、今更恋愛感情が再燃したとは考えにくいわね」
ビクトリアの分析は流石である。
大きな悪意を感じるのに、その確信が見えてこない。
「宰相様と我が家を断絶させたかったのかしら? それとも第二王子と我が家を? どちらにしてもあり得ないし、そこで得する人物が思い当たらないわ」
私は用意された紅茶を飲んで、ざわめく心を落ち着けるために深呼吸する。
情報を待つしかない。
そう二人で結論づけたとき、執事が再びの来客を告げる。
わざわざ執事が来たということはそれなりの人物だ。
「ルイーズお嬢様、ヴァレリー王太子がご来臨です」
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