病弱を理由に婚約破棄されました ~私、前世は狂戦士だったのです~

呉マチス

文字の大きさ
51 / 53

51 判決

しおりを挟む
何だか妙にエレガントな装いになった。
白いシフォンが重なった美しいラインのドレスには、金糸の見事な刺繍が施されている。飾りや宝石は全て青。
未婚女性の象徴である結い上げない長い髪は、サイドを綺麗に編み込まれ、後ろの髪は美しく波を打って背中に下ろされている。

ビクトリア様は珍しく黒と金の将軍カラーを纏っている。
何でビクトリア様はシックなドレス?
装いのテーマが全く掴めない。
何か趣向があるのかもしれないので、「テーマは何?」などと無粋な質問はしないのが社交のマナーだ。



執務室でお話を伺うのかと思ったら、豪奢なサロンに案内された。
柱の意匠、壁紙の模様、シャンデリアの輝き、何をとっても素晴らしい夢のようなサロンだ。
大公様ご夫婦と私の両親は、既にソファーで歓談している。
私とビクトリア様が向かうと、紳士淑女の礼が交わされた。

「さて、裁判の結果だがな」

皆が席に座ると、早速大公様が言う。
私は背筋を正す。

「元宰相は、第二王妃を利用しルルヴァル兵を国内に引き入れ、王室を乗っ取ろうとした罪で、死刑となった」

いざ、大公様の硬い口調で判決を聞くと、背筋に汗が落ちる。
一気に喉が渇くのに、何も飲む気になれない。
死刑か。
当然だ。

「それに伴い元宰相の計画に関わった文官たちも、相応の罰を受ける。そして爵位はく奪、バルリ家は解体される。エルミナは必然的に平民に落ちる。つながりのある貴族も相当のダメージを負うから、誰かが身元を引き受けるのも難しい。彼女の今後は過酷だな」

私を気遣って、大公様はエルミナ様の情報もくれた。
隣のお母様が私の肩を抱いて慰めるように撫でる。
高位貴族令嬢であり、一時期は王太子の婚約者候補として若手社交界に君臨していたエルミナ様だ。
生きていけないかもしれない。

「第二王妃は、バルリ元宰相に利用され、結果としてルルヴァル兵を国内に引き入れたとして、王家と離縁、国外退去となった」

離縁すれば身分がなくなる。
公女、王妃として過ごして来た彼女にどうやって生きろというのか。

「だが、二十年に渡るリリア妃の不遇は多くが知るところであり、王からの嘆願もあって、彼女はルルヴァル王国に帰国する事となったよ」

「ルルヴァル王国での待遇は?」

公女とはいえ、ルルヴァル王国を出てもう二十数年も経つ。
ルルヴァル王国の勢力も変わっているだろうし、むしろ不名誉な扱いを受ける事が十分考えられる。

「まぁ、そこはな。こちらには干渉できない所だ。ご自分でなんとかなさるしかない。ヴァレリー王太子の婚約も解消となり、現公女に泥を塗った立場だ。ラマティア国内に派遣されたルルヴァル兵は全面撤収となる運びだし、あちらも食糧支援してくれる国の当てを無くしたわけだ。彼女も相当な厳しい状況に立つ事になる」

ルルヴァル王国への帰国は彼女が自ら望んだものらしい。
前国王の娘という立場は正直微妙だ。
好待遇はあり得ない。
が、元宰相を鞭打つ彼女の姿を思い出す。
以外に逞しい所があるし、まぁ、なんとかやって行くでしょう。
もう私には関係の無い人だ。

「テオドリック第二王子に関しては、うん。とにかくラマティアに留まる意向を示したから、リリア妃とは縁切りだ。それでも王の実子だだからと言って王宮に留まる事は出来ない。よって王位継承権返却の後、騎士団で預かる事になった。あいつの取柄は武力しかねぇからなぁ。半分ルルヴァルの血を引いてるから、武人としては使えそうなんだよな。因みに辺境に配属だ」

うーん。テオドリック様に関しては何とも言えない。
ルルヴァル兵が撤収すれば今後の辺境は危険地帯だ。
頑張ってくださいね。

「ということだ。つまるところ、国境がやばい。だが、ラマティアには秘策がある。上手く事が運べば、全て解決する秘策がな」

大公様は碧眼を意地悪く輝かせた。

「秘策とは?」

聞いて欲しそうだったので聞く。
別に聞かないで放っておく手もあったのだが、お世話になっている手前そうはいかない。
パチンと指を鳴らした大公様。
従者使用人たちがサロンの扉に向かい、お出迎えの態勢を取る。

「どなたかいらっしゃるの?」

私は小声で両隣の両親に尋ねた。
お父様は渋い顔。
お母様はにこやか。
ええ?
誰?

「王太子ヴァレリー殿下がお越しです」

執事の声で扉が開かれる。
衛兵を従えたヴァレリー王太子が、白と金の衣装で無駄な輝きを放って入室してくる。
私たちは一斉に立ち上がり、臣下の礼を取る。

「ルイーズ令嬢」

真っ先に私の名を呼ぶ王太子。
何々何事ですかまさかまさか!!

ヴァレリー王太子は硬直する私の手を取り、膝をついて晴れやかな笑顔で言った。

「正式に婚約を申し込みます。私の妻になって下さい」

やっぱりそう来たかーーー!!!
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...