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龍とお姫様
ペリーヌ姫ご婚礼の宴、賑々しく開かれる。
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長い間、人前に出なかったペリーヌ姫が、急に公に姿を現されるようになったので、人々は大変に驚きました。しかも、その髪の色が、肌の色が、顔貌が、お姿全部が、国を守るために龍に捧げられたベリーヌ姫によく似ていることにはもっと驚きました。
ですが、ペリーヌ姫とベリーヌ姫とは従姉妹同士でありますから、
「お姿が似ているのは当然だ」
という者がそこかしこに現れましたので、皆、
「そういうこともあるだろう」
と納得させられたのでした。
それにしても、その輝くような美しさは、あらゆる国々から何百という求婚者を誘うに充分のものでした。
ペリーヌ姫は、その中から「一番よさそうな王子様」を選び、婿に迎えることになったのです。
ベリーヌ姫が龍の生け贄になったという哀しみは、王太女ペリーヌ姫の婚礼という喜びに、あっという間にかき消されたといえましょう。
城の中も、城の外も、お祭り騒ぎとなりました。
盛大華麗な結婚式が賑々しく行われ、絢爛豪華な披露宴を兼ねる舞踏会が開かれました。
楽しく喜ばしく嬉しい夜がすっかりと暮れ、騒がしくて退屈な踊りの輪に、そろそろ皆が飽きてきた頃のことでした。
お城の大広間の扉が、誰の手も触れていないのに静かに開いたのです。
その外側には、二人の人が立っていました。
美しくたくましい紳士と、気品ある面立ちの淑女ででありました。
二人がこの国の人でないことは、お召し物でわかりました。
ゆったりとした古い時代の筒型衣のようなドレスに、髪の毛一筋も逃さずに覆っているターバンは、この国の人々が今までに見たことのない意匠だったのです。
二人は手を携えて、ゆっくりと広間の中に入って行きます。
人々は、お二人が目の前を通った時に、ようやっとそのお召し物が大変に壮麗であることに気付きました。
型は古くさいほどに単純で、色も墨色ただ一色に見えました。
しかし目をこらせば、布地には手の込んだ蕾絲や刺繍が施されているのが解ります。
お召し物ばかりではありません。
指輪や耳飾りの細工は、国中の細工師の誰に頼んでもその形にはならないであろうほどに緻密でした。
首飾りに繋がれた大きな宝石も、国中の研磨師の誰に頼んでもその輝きは発しないあろうほどに精巧に磨かれていました。
何よりも、それらを身につけているこの二人の姿が、国中のどの夫婦と比べても天地ほどの違いを見せつけられるだけであろう事が間違いが無いほどに、美麗なのであります。
人波は、そうすることが当前のように二つに割れました。ご自身達のために作られた道を、お二人の貴人がゆっくりと歩きます。
道の先の壇上には、四つの玉座がありました。
英雄王、英雄王妃、ペリーヌと呼ばれている姫、その婿殿。
二人は四つ並んだ玉座の前で恭しく礼をしました。
人々はこのお二人と、英雄王のご一家の驚いた顔を見比べて、
「この貴人は誰だろう? 国王ご一家が呼んだ客ではなさそうだが」
と首を傾げました。
事実、英雄王が招待した客の中に、この二人の貴人に当たる人物はおりませんでした。
従って、英雄王夫妻も、その姪である王太女とその新婿殿下の夫妻も、彼らが何者であるのか解りません。
楽隊は円舞曲を奏でるのを止めてしまいました。誰も踊ってくれないからです。
人々は口を閉ざしました。誰も聞いては暮れないからです。
広間は静寂に包まれました。
咳払い一つ無い静けさの中に、一つの美しい声が響きました。
「ご成婚、おめでとうございます、ペリーヌ姫様」
淑女がにっこりと笑っています。
あたりは、一瞬ざわめきましたが、それはすぐに止みました。淑女が、二言目を発したからです。
「お久しぶりですお父様」
王様の顔色が煤けた紙のようになった時、広間の隅で、誰かがぽつりと言いました。
「ベリーヌ姫様だ」
それを聞いた別の誰かが言いました。
「ああ、そうだ。龍への生け贄にされた、ベリーヌ様に違いない」
声は声を呼び、言葉は言葉を呼びます。
たちまち、広間は再びの喧噪に包まれました。
言葉が音の渦となって、広間をかき回す中、王様とお后様とお姫様は、真っ青な唇を噛み、声も出せずに、その紳士と淑女を見つめていました。いいえ、睨みつけていたと言っても良いでしょう。
そして、英雄王と王妃、それからペリーヌ姫と呼ばれていた娘は、理解しました。
この上品な淑女が誰であるのかを……です。
ですが、ペリーヌ姫とベリーヌ姫とは従姉妹同士でありますから、
「お姿が似ているのは当然だ」
という者がそこかしこに現れましたので、皆、
「そういうこともあるだろう」
と納得させられたのでした。
それにしても、その輝くような美しさは、あらゆる国々から何百という求婚者を誘うに充分のものでした。
ペリーヌ姫は、その中から「一番よさそうな王子様」を選び、婿に迎えることになったのです。
ベリーヌ姫が龍の生け贄になったという哀しみは、王太女ペリーヌ姫の婚礼という喜びに、あっという間にかき消されたといえましょう。
城の中も、城の外も、お祭り騒ぎとなりました。
盛大華麗な結婚式が賑々しく行われ、絢爛豪華な披露宴を兼ねる舞踏会が開かれました。
楽しく喜ばしく嬉しい夜がすっかりと暮れ、騒がしくて退屈な踊りの輪に、そろそろ皆が飽きてきた頃のことでした。
お城の大広間の扉が、誰の手も触れていないのに静かに開いたのです。
その外側には、二人の人が立っていました。
美しくたくましい紳士と、気品ある面立ちの淑女ででありました。
二人がこの国の人でないことは、お召し物でわかりました。
ゆったりとした古い時代の筒型衣のようなドレスに、髪の毛一筋も逃さずに覆っているターバンは、この国の人々が今までに見たことのない意匠だったのです。
二人は手を携えて、ゆっくりと広間の中に入って行きます。
人々は、お二人が目の前を通った時に、ようやっとそのお召し物が大変に壮麗であることに気付きました。
型は古くさいほどに単純で、色も墨色ただ一色に見えました。
しかし目をこらせば、布地には手の込んだ蕾絲や刺繍が施されているのが解ります。
お召し物ばかりではありません。
指輪や耳飾りの細工は、国中の細工師の誰に頼んでもその形にはならないであろうほどに緻密でした。
首飾りに繋がれた大きな宝石も、国中の研磨師の誰に頼んでもその輝きは発しないあろうほどに精巧に磨かれていました。
何よりも、それらを身につけているこの二人の姿が、国中のどの夫婦と比べても天地ほどの違いを見せつけられるだけであろう事が間違いが無いほどに、美麗なのであります。
人波は、そうすることが当前のように二つに割れました。ご自身達のために作られた道を、お二人の貴人がゆっくりと歩きます。
道の先の壇上には、四つの玉座がありました。
英雄王、英雄王妃、ペリーヌと呼ばれている姫、その婿殿。
二人は四つ並んだ玉座の前で恭しく礼をしました。
人々はこのお二人と、英雄王のご一家の驚いた顔を見比べて、
「この貴人は誰だろう? 国王ご一家が呼んだ客ではなさそうだが」
と首を傾げました。
事実、英雄王が招待した客の中に、この二人の貴人に当たる人物はおりませんでした。
従って、英雄王夫妻も、その姪である王太女とその新婿殿下の夫妻も、彼らが何者であるのか解りません。
楽隊は円舞曲を奏でるのを止めてしまいました。誰も踊ってくれないからです。
人々は口を閉ざしました。誰も聞いては暮れないからです。
広間は静寂に包まれました。
咳払い一つ無い静けさの中に、一つの美しい声が響きました。
「ご成婚、おめでとうございます、ペリーヌ姫様」
淑女がにっこりと笑っています。
あたりは、一瞬ざわめきましたが、それはすぐに止みました。淑女が、二言目を発したからです。
「お久しぶりですお父様」
王様の顔色が煤けた紙のようになった時、広間の隅で、誰かがぽつりと言いました。
「ベリーヌ姫様だ」
それを聞いた別の誰かが言いました。
「ああ、そうだ。龍への生け贄にされた、ベリーヌ様に違いない」
声は声を呼び、言葉は言葉を呼びます。
たちまち、広間は再びの喧噪に包まれました。
言葉が音の渦となって、広間をかき回す中、王様とお后様とお姫様は、真っ青な唇を噛み、声も出せずに、その紳士と淑女を見つめていました。いいえ、睨みつけていたと言っても良いでしょう。
そして、英雄王と王妃、それからペリーヌ姫と呼ばれていた娘は、理解しました。
この上品な淑女が誰であるのかを……です。
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