フレキ=ゲー編ガップ民話集

神光寺かをり

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龍とお姫様

人身御供の姫君、夫君を伴って王城に帰還する。

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 嗚呼ああ、なんということでありましょうや!

 この異国の淑女レディは、英雄王が「大切な実の娘ベリーヌ姫」を奪われないために、そして実の娘ベリーヌ姫を正当な王位継承者とするために、一石二鳥の策略を持って龍を騙し、身代わりの人身御供とした、あの姫君ではありませんか。

 本物のペリーヌ姫・・・・・その人が、王城に戻ってきたのです。
 英雄王は愕然がくぜんとしました。愕然としながら、

『そうであれば、そのかたわらにいる男は一体誰なのか』

 考えましたが、答えは一つより他に思い当たりません。

 龍です。黒い龍です。
 龍ガ森で英雄王にたぶらかされ、王の寝室で英雄王に誤魔化ごまかされ、お城の中庭で英雄王にだまされた、あの龍です。

 英雄王は気付きました。お妃様も察しました。ペリーヌ姫・・・・・と呼ばれているベリーヌ姫も勘付いたようです。

 他の人々は紳士の正体には気付いていませんでしたが、ベリーヌ姫の登場には大変驚いていました。
 広間は、もはや誰が何を言っているのか解らないくらい、やかましく、騒がしくなっていました。
 その喧噪けんそうの中で、淑女は言いました。

「私には従妹であり、姉妹のようにして育った『ペリーヌ姫・・・・・』様のご成婚を、遠い異郷で聞き及び、矢もたてもたまらない思いで胸が一杯になったので、些少さしょうながらお祝いの品を持って参上しました。
 幸せな姫様にとっては、取るに足らぬ物ではありましょうが、私と、私の夫の、心からの贈り物です。
 どうか、こころよくお納め下さい」

 耳をふさぎぎたくなる騒がしさであるというのに、この淑女の透き通るような声はかき消されることなく、英雄王の耳にしっかりと聞こえました。
 淑女の口上こうじょうが終わる頃、かたわらにいた紳士が。飾り箱を一つ差し出して『ペリーヌ姫・・・・・』の鼻先に掲げ、パックリとふたを開けました。

 箱の中身は首飾りネックレスでした。
 頂点トップには、にわとりの卵ほどの大きさの、青みがかった金剛石ダイヤモンドが光っています。
 その左右は黄金ゴールドの輪飾りをつないだもので、その輪の一つ一つに、黄色い金剛石ダイヤモンドがはめ込まれています。
 鎖の装飾は一番後ろの留め具にまで及び、ああ、なんとそこにも、赤みを帯びた金剛石ダイヤモンドが輝いていいるではありませんか。

 なんと手の込んだ逸品でしょうか!
 広間を照らす燭台の灯を弾いてキラキラと輝くその首飾りの、あまりも美しい光に、ペリーヌ姫・・・・・と呼ばれている花嫁の眼差しは釘付けとなりました。
 花嫁の頬は白くなって引きれ、唇は青紫に変じて震え、目は虹彩こうさいを黒く埋め尽くすほど瞳孔どうこうが開いております。

 紳士が言いました。

「我が妻の姉妹に等しいペリーヌ姫・・・・・よ。お幸せな今宵の主役よ。美しい花嫁よ。
 これは我ら夫婦から御身へのほんの些細ささいな贈り物です。どうか、お受け取りを」

 ペリーヌ姫・・・・・と呼ばれているベリーヌ姫は、白かった頬を薔薇色ばらいろに染め、唇を噛み、喉の奥に歓声を押し込めて、紳士の手からその箱を奪い取りました。

 そのあとは、お礼を言うこともできないほどの感激にに打ち震えたのでありましょう。
 奥歯をガチガチと鳴らしながら箱をしっかりと掴み、手の中の首飾りをじっと見つめました。
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