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鴻鵠の君(あるいは「大きな鳥と王子様」)

手鞠歌

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 小さな国がありました。
 森と山と畑があるだけの、本当に小さな国です。
 この国には、いつの頃からかこんな手鞠歌てまりうたが伝わっています。


 瑠璃色るりいろ鳥がふくろうを呼んだ。

「わたしゃ羽折れ飛べやせぬ
  手紙を運んでくださいな」


 瑠璃色鳥が王子を呼んだ。

「わたしゃ羽折れ飛べやせぬ
  包帯巻いてくださいな」


 瑠璃色鳥に小鳩こばとが言った。

「羽が治って飛べたなら
  おうちに帰って来てください」


 瑠璃色鳥が王子に言った。

「傷は治ってお空が飛べる
  今日のこの日限りでお別れです」


 瑠璃色鳥に王子が言った。

「お前がいないと寂しいよ
  ずぅっとここに居ておくれ」


 王子様は瑠璃色鳥を宝箱に入れた。

   
 最後の「宝箱に入れた」のところで、まりを強くいて、それが高く跳ね上がって落ちてくる前に、片足でくるりとターンをして、それから落ちてきた鞠を身体の前でちゃんと受け止めるというのが、この歌で鞠突まりつききをするときのルールです。

 鞠突きというのは、大体が女の子供がこのむ遊びですから、この歌とそれに合わせた鞠突きの遊び方とは、大抵たいていしか知らないと、相場が決まっております。
 ですが、この王子様は、歌も遊び方もよく知っていました。

 その訳を申しますと、この王子様には三人のお姉さんのお姫様がいて、そのお姉さんのお姫様たちは三人とも揃って鞠突きが大好きだったためでした。
 三人のお姉さんのお姫様たちが、どれほど鞠突きがお好きだったかといいますと、ちょっとお時間があればすぐに、ゼンマイ綿わたを綺麗な糸でぎゅっと巻き締めた「お姫様用の特別な鞠」を持ち出して、お城のお庭でもお部屋の中でもかまわずに、大きなお声で歌いながら遊ぶくらいお好きだったのです。
 時々、鞠がお庭の花壇に飛び込んだのを取りに行って、王妃様が愛して止まない可憐な花々を踏みつぶしてしまったり、大きくはねねた鞠を受け止めそこなって、王様が厳選なさったお部屋の調度ちょうどの数々をこわしてしまったりして、ご両親にそれはそれは大変に怒られてしまっても、まだその次の日には、所構わずに歌って鞠を突くぐらいには、大好きだったのです。

 そんなわけですから、王子様は、小さな頃からこの歌をよく聞かされておりました。
 それで、王子様はご自分は鞠突きをしないのに、歌はそらで歌える程しっかりと覚えてしまったのでした。
 そしていつも不思議に思っていたのです。

「歌の中の王子って誰だろう。箱に入れられた瑠璃色鳥はどうなったのだろう」
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