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鴻鵠の君(あるいは「大きな鳥と王子様」)
王子様、出発する。
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何分にもご自分も王子様なものですから、歌の中に出てくる「王子」という言葉が大変に気になったのです。
そして、お姉さんのお姫様たちがすっかり大きくなって、鞠突きなどいう子供の遊びには目もくれなくなったころ、つまりは王子様もすっかり大きくなって、そろそろお嫁さんをもらわなければならなくなったころになっても、王子様はずっと歌のことを気に掛けていました。
王子様は、お城や神殿に付属している立派な図書館に行っては、棚の手の届く範囲にある本を読読み尽くして、手鞠歌のことを調べました。
ですが、そういうご本に載っているのは、偉大な王様の偉大な業績を讃えたり、美しいお姫様の美しさを褒めたり、有難い神様の有難いお告げを喜んだりする歌ばかりです。
この小さな国の人々は、正しい大人の正しい行いを記録することには熱心でしたが、手鞠歌などという子供を喜ばすだけの俗謡を残すことには、関心がなかったのでありましょう。
そこで王子様は、お城の学者とお城の外の学者を呼んで、手鞠歌のことを訊ねました。
でも、学者達の知る範囲のご本にもそれを書いた記録がなかったものですから、王子様がお求めになるような答えは、出すことができませんでした。
王子様は大変に落胆しました。
それでも調べたり訊ねたりしたことが、全く無駄であったということではなかったのです。
王子様の手の届く所にあったご本に、
『大昔に壊れて、今では誰も訪れない遺跡になってしまったお城跡の近くに、その名も「宝箱」という土地がある』
と書いてあったのです。
学者達の知る範囲の、一番古いご本の中に
『古いお城の近くの丘に大きな洞穴があった。あるとき地面が大きく揺れて、山が崩れてしまったので、洞穴の入り口もわからなくなった』
と、書かれていたのです。
――その古いご本には、
『その地崩れで昔のお城が壊れてしまったので、その頃の王様が、新しいお城と今の場所に建てたのだ』
と、書いてあったと、年寄りの学者が申し上げたのですが、そんなことは王子様にはどうでもよいことでした。
王子様の心は「宝箱」という土地の名前がで一杯になりました。
手鞠歌のいう「箱」がその土地と関係があるとは、王子様と学者達の手の届く範囲にあるご本にはちっとも書いていなかったのですが、そんなことも王子様にはどうでもよいことでした。
王子様は土地に行くことを心に決めたのです。
王子様はお父様の王様のご機嫌がすこぶる良い時を見計らって、
「大昔、自分の先祖か築いた城の址を見学しとうございます」
と、半分は本心で半分は嘘のことを言って、お許しを頂戴しました。
何しろ、小さな国は本当に小さな国です。
古いお城の址に行くと言われて、それを許したお父様の王様とお母様の王妃様は、まるきり今のお城のお庭をちょっとお散歩するのと同じくらいの心やすいお気持ちだったのでありましょう。
お許しをもらった王子様は、早速大きな鞍袋に塩っぱい堅パンを一打詰めて、大きな皮袋水筒に甘いワインをたっぷり詰めて、大きな背嚢に松明と燧石を入れました。
出発する前の晩は心が騒いで、眠れませんでした。
夜が明けますと、わくわくとする心のままに王子様はお馬に飛び乗って、早速お尻に鞭を入れました。
お供の歩兵がどんなに走っても追いつけないほどの勢いで、お馬はご城下の外へ駆け出してしまいました。
そして、お姉さんのお姫様たちがすっかり大きくなって、鞠突きなどいう子供の遊びには目もくれなくなったころ、つまりは王子様もすっかり大きくなって、そろそろお嫁さんをもらわなければならなくなったころになっても、王子様はずっと歌のことを気に掛けていました。
王子様は、お城や神殿に付属している立派な図書館に行っては、棚の手の届く範囲にある本を読読み尽くして、手鞠歌のことを調べました。
ですが、そういうご本に載っているのは、偉大な王様の偉大な業績を讃えたり、美しいお姫様の美しさを褒めたり、有難い神様の有難いお告げを喜んだりする歌ばかりです。
この小さな国の人々は、正しい大人の正しい行いを記録することには熱心でしたが、手鞠歌などという子供を喜ばすだけの俗謡を残すことには、関心がなかったのでありましょう。
そこで王子様は、お城の学者とお城の外の学者を呼んで、手鞠歌のことを訊ねました。
でも、学者達の知る範囲のご本にもそれを書いた記録がなかったものですから、王子様がお求めになるような答えは、出すことができませんでした。
王子様は大変に落胆しました。
それでも調べたり訊ねたりしたことが、全く無駄であったということではなかったのです。
王子様の手の届く所にあったご本に、
『大昔に壊れて、今では誰も訪れない遺跡になってしまったお城跡の近くに、その名も「宝箱」という土地がある』
と書いてあったのです。
学者達の知る範囲の、一番古いご本の中に
『古いお城の近くの丘に大きな洞穴があった。あるとき地面が大きく揺れて、山が崩れてしまったので、洞穴の入り口もわからなくなった』
と、書かれていたのです。
――その古いご本には、
『その地崩れで昔のお城が壊れてしまったので、その頃の王様が、新しいお城と今の場所に建てたのだ』
と、書いてあったと、年寄りの学者が申し上げたのですが、そんなことは王子様にはどうでもよいことでした。
王子様の心は「宝箱」という土地の名前がで一杯になりました。
手鞠歌のいう「箱」がその土地と関係があるとは、王子様と学者達の手の届く範囲にあるご本にはちっとも書いていなかったのですが、そんなことも王子様にはどうでもよいことでした。
王子様は土地に行くことを心に決めたのです。
王子様はお父様の王様のご機嫌がすこぶる良い時を見計らって、
「大昔、自分の先祖か築いた城の址を見学しとうございます」
と、半分は本心で半分は嘘のことを言って、お許しを頂戴しました。
何しろ、小さな国は本当に小さな国です。
古いお城の址に行くと言われて、それを許したお父様の王様とお母様の王妃様は、まるきり今のお城のお庭をちょっとお散歩するのと同じくらいの心やすいお気持ちだったのでありましょう。
お許しをもらった王子様は、早速大きな鞍袋に塩っぱい堅パンを一打詰めて、大きな皮袋水筒に甘いワインをたっぷり詰めて、大きな背嚢に松明と燧石を入れました。
出発する前の晩は心が騒いで、眠れませんでした。
夜が明けますと、わくわくとする心のままに王子様はお馬に飛び乗って、早速お尻に鞭を入れました。
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