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鴻鵠の君(あるいは「大きな鳥と王子様」)
王子様、「宝箱」を見付ける。
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馬は、ほんの一駆けしただけで、古いお城まで王子様を運ぶ仕事を終えました。
古いお城と申しましても、そこにわかりやすい何かがあるわけではありません。
昔々に崩れてしまったお城の址には、雑草と灌木があるばかりでした。
その草木の間をよくよく見れば、割れた切石と砕けた煉瓦が見つかりますので、そういった「人の手に成された物」の残骸が、僅かな名残といえましょう。
それでも王子様は一応は一通り遺跡を回って、
「ここは謁見室、ここは厨房、ここは監獄塔……」
と、わずかに見える部屋割りの跡らしきものなどを見物しました。
そうして、お父様の゚王様に言い訳めいた報告をするに十分な見物を終えると、王子様は用意の堅パンやワインに手も付けず、馬に打ち跨がりました。
すこし盛り上がった丘の方の森へ、本当の目的である「宝箱」という土地と、そこにあるらしい洞穴を探しに行くためです。
ところで、探すと申しましても、山が崩れたのはもう何百年も前のことでありました。
それだけ時間が過ぎておりますと、崩れた山肌もすっかり木々で覆われてしまっています。
小さな丘の小さな森に入った王子様ですが、どこが山が崩れる前からの森で、どこが洞穴を塞いだ土塊なのか、さっぱり見分けがつきませんでした。
王子様は、馬に乗ったり、降りたりしながら、うろうろと歩き回って、日が傾き始める時分になりました。
すっかりお腹がすいている事に気が付いた王子様は、どこかで休むことにしました。
王子様は、森の中の大きな木の根と根の間に、座るのにちょうど良い高さの白くて平らな石を見付けました。
そうしてそれに腰掛けて、用意の食事を摂りました。
あっというまに一打の堅パンを食べ尽くし、二本のワインを飲み尽くして、満腹になった王子様は、少し休みたい気分になりました。
座るのにちょうど良い石の側に、枕にするのにちょうど良い高さの白くて平らな石があるのに気が付いた王子様は、そのちょうど良い石に頭を置いて、ごろりと横になりました。
王子様が目を閉じようとしたときです。
背の低い草がわずかばかり生えている石ころだらけの地面で、なにかが、暮れかけた太陽の光をキラキラと弾いた、その眩しい輝きが瞳の中に飛び込んできたのです。
驚いた王子様は、すぐに起き上がって、そこに駆け寄って、草を掻き分けて、地面を見ました。
光っていたのは、土の中から顔を出していた、大きな水晶の尖った先っぽでした。
尖った先っぽを引っ張ると、土の中から整った六角柱の形を綺麗に残した水晶が出てきました。
大きさは王子様の掌ほどもあったでしょうか。土を拭きとると、水を固めたように透き通っています。
王子様はそれを拾い上げますと、辺りをキョロキョロと見回しました。
水晶やそのほかの宝石は、だいたいごく近い場所にかたまって見つかるものだと、勉強熱心な王子様はご存じでした。
ですから、このあたりの地面の中には、このほかにも綺麗な水晶が隠れているかも知れないと予想なさったのです。
すると思った通り、土や埃や枯葉にまみれて、陽の光を弾くことができない水晶が、ごろり、ころりと落ちているではありませんか。
ある物は水よりも透明に、別の物は水草のような内包物を孕んでいました。
また薔薇のような薄紅のもの、春の山のような緑のもの、ミルクのように白いもの、熟したお酒のような琥珀色のもの、焚き火の煙を透かして見た空のような灰褐色のもの、それからお父様の王様のマントよりも濃い紫のものもみつかりました。
王子様は思いました。
『この美しい石こそが、その土地が「宝箱」と呼ばれた所以なのではなかろうか』
残念なことに、水晶のほとんどは小さな欠片に割れていて、最初の一つのように整った結晶の形をとどめているものはありませんでした。それでも、その色とりどりの輝きは王子様の心を虜にするには十分な力を持っていたのです。
古いお城と申しましても、そこにわかりやすい何かがあるわけではありません。
昔々に崩れてしまったお城の址には、雑草と灌木があるばかりでした。
その草木の間をよくよく見れば、割れた切石と砕けた煉瓦が見つかりますので、そういった「人の手に成された物」の残骸が、僅かな名残といえましょう。
それでも王子様は一応は一通り遺跡を回って、
「ここは謁見室、ここは厨房、ここは監獄塔……」
と、わずかに見える部屋割りの跡らしきものなどを見物しました。
そうして、お父様の゚王様に言い訳めいた報告をするに十分な見物を終えると、王子様は用意の堅パンやワインに手も付けず、馬に打ち跨がりました。
すこし盛り上がった丘の方の森へ、本当の目的である「宝箱」という土地と、そこにあるらしい洞穴を探しに行くためです。
ところで、探すと申しましても、山が崩れたのはもう何百年も前のことでありました。
それだけ時間が過ぎておりますと、崩れた山肌もすっかり木々で覆われてしまっています。
小さな丘の小さな森に入った王子様ですが、どこが山が崩れる前からの森で、どこが洞穴を塞いだ土塊なのか、さっぱり見分けがつきませんでした。
王子様は、馬に乗ったり、降りたりしながら、うろうろと歩き回って、日が傾き始める時分になりました。
すっかりお腹がすいている事に気が付いた王子様は、どこかで休むことにしました。
王子様は、森の中の大きな木の根と根の間に、座るのにちょうど良い高さの白くて平らな石を見付けました。
そうしてそれに腰掛けて、用意の食事を摂りました。
あっというまに一打の堅パンを食べ尽くし、二本のワインを飲み尽くして、満腹になった王子様は、少し休みたい気分になりました。
座るのにちょうど良い石の側に、枕にするのにちょうど良い高さの白くて平らな石があるのに気が付いた王子様は、そのちょうど良い石に頭を置いて、ごろりと横になりました。
王子様が目を閉じようとしたときです。
背の低い草がわずかばかり生えている石ころだらけの地面で、なにかが、暮れかけた太陽の光をキラキラと弾いた、その眩しい輝きが瞳の中に飛び込んできたのです。
驚いた王子様は、すぐに起き上がって、そこに駆け寄って、草を掻き分けて、地面を見ました。
光っていたのは、土の中から顔を出していた、大きな水晶の尖った先っぽでした。
尖った先っぽを引っ張ると、土の中から整った六角柱の形を綺麗に残した水晶が出てきました。
大きさは王子様の掌ほどもあったでしょうか。土を拭きとると、水を固めたように透き通っています。
王子様はそれを拾い上げますと、辺りをキョロキョロと見回しました。
水晶やそのほかの宝石は、だいたいごく近い場所にかたまって見つかるものだと、勉強熱心な王子様はご存じでした。
ですから、このあたりの地面の中には、このほかにも綺麗な水晶が隠れているかも知れないと予想なさったのです。
すると思った通り、土や埃や枯葉にまみれて、陽の光を弾くことができない水晶が、ごろり、ころりと落ちているではありませんか。
ある物は水よりも透明に、別の物は水草のような内包物を孕んでいました。
また薔薇のような薄紅のもの、春の山のような緑のもの、ミルクのように白いもの、熟したお酒のような琥珀色のもの、焚き火の煙を透かして見た空のような灰褐色のもの、それからお父様の王様のマントよりも濃い紫のものもみつかりました。
王子様は思いました。
『この美しい石こそが、その土地が「宝箱」と呼ばれた所以なのではなかろうか』
残念なことに、水晶のほとんどは小さな欠片に割れていて、最初の一つのように整った結晶の形をとどめているものはありませんでした。それでも、その色とりどりの輝きは王子様の心を虜にするには十分な力を持っていたのです。
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