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小さな坊やと小さなおじいさんのお話

おおそうじ

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 よく遊んでたくさんご飯を食べたその日。
 坊やは予定通り一回夢を見たトコロで目を覚ましました。
 今夜は三日月。早寝早起きなこのお月様と、南向きの窓からお話しするには、ちょうど良い時間です。
 ところが! 

「大変だ、お月さまがいない!」

 空は真っ黒でした。ほっそり月の柔らかい明かりは、どこを見ても見つかりません。
 空いっぱいに広がっているはずの、きらきら星の光も、一粒だってありません。
 不思議なことに、月も星もないのに、外はいつも通り、いえ、いつもより明るいのです。
 窓から首を出すと、坊やの眠たさが、パンとはじけ飛びました。
 普段は空にいる星が、庭の芝生の上で、空にいるのと同じように、きらきら楽しく輝いていたのです。
 そしてそのきらきらの間を、おじいさんと犬のシロが、ふんわりと歩いていました。
 坊やは大急ぎで庭に出ました。

「おじいさん、おじいさん、いったいどうしたの?」

「可愛い坊や。お星様達はみんな、雑巾ぞうきんがけが終わるのを待ってるのさ」

 おじいさんは空を指さしました。いくつもの白や灰色の雲が、真っ黒けの空を、行ったり来たりしていました。
 尖った星や丸い星が、坊やの周りにそっと寄ってキラキラ光を放ちます。
 それはとても美しい景色でした。でも、坊やの心は心配に満ちていました。

「お星様はみんなお庭にいるのに、お月さまはどこにもいないよ?」

 するとおじいさんは、今度上の方を指さしました。ただし、指先はさっきよりも低い、斜め上に向いています。
 坊やがおじいさんの指が指している方を見ると、坊やの目は高い高い木の枝の上ににたどり着きました。
 そして、そこにはほっそり月が腰掛けていたのです。
 お月様はいつもよりずっと近いところから、坊やの顔を見下ろしています。

 そうしてこの夜は――。
 ほっそりお月さまとたくさんのお星さま達は、雑巾がけが終わって、お掃除係がお迎えに来ても、空には帰りませんでした。
 みんなは、お日様に叱られるまで、坊やのそばで優しく輝いていました。
 
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