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二人の王子様と一人のお姫様

大団円

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 キルハの国の王宮の、日当たりの良い陽光部屋サンラウンジで、二人の貴婦人がお茶の時間を楽しんでおられました。

「ああそれにしましても、私の子ばかりかお義姉ねえさまのお子までも、逆子さかごで産まれてきたときには、本当にきもが冷えましたわ」

 そう仰って、ウーファの国のおきさき様は、レモンの香りがするクッキーをお食べになりました。

「ええ、産婆さんばから、
『二人とも、十歳に成らずに死ぬかも知れない』
 と言われた時は、私も心臓が止まるかと思いましたわ」

 そう仰ると、キルハの国のお后様は、オレンジの香りがするお茶を静かにお飲みになりました。

「あの時、賢者の言葉を受け入れて、ほんとうによろしゅうございました」

「ええ。
『逆子に生まれた赤子は、生まれ持った性と逆の身なりで育てると、丈夫に成人する』
 という言い伝えは、本当だったのですね」

 ウーファの王妃様とキルハのお妃さまは、お茶の時間を心の底から楽しんでいらっしゃいます。

「だからといって、名前まで男女逆に付けたのは、失敗だったでしょうか?」

「いいえ、私はそれで良かったと信じておりますわ。我ながら良い名前を付けたと思っていますもの」

「あら、お義姉さま、そろそろ時間のようですわ」

「本当に。教会の鐘の音が聞こえますわね」

「私、フレイア王子の新しい礼服、早く見てみたいですわ」

「私も楽しみです。フレイ姫のウエディングドレス姿は、さぞ美しいのでしょうね」

「ああ、これで私に『本当の息子』ができますのね」

「まあ、それを言うなら、私にこそ『本当の娘』ができる、ですわよ」

「うふふふふ」

「おほほほほ」



 今日はキルハの国の王太子フレイア様と、ウーファの国の第六王女フレイ様の結婚式です。
 お二人はとてもよく似ていました。
 内から輝くような髪の色も、澄み渡る湖のような瞳の色も同じでした。
 ふっくらとした頬も、つややかな唇もそっくりです。
 鼻の高さも、背の丈も、見分けが付きません。
 まるで、双子か鏡のようにうりふたつだったのです。

 兄妹のように育ったいとこ同士は、この日、仲のよい夫婦となりました。

 ああ、そういえば――。
 この婚礼の儀の招待状は、ロウの国のゲオルグ王子にも届けられました。
 なのに、確かにそれを受け取ったはずの王子は、出席するためにご自分のお国のお城から出ようとなさらなかったというのです。
 いいえ、この時ばかりではありません。
 あの日、筋の通っていた鼻柱がぽきりと折れて曲がってしまったゲオルグ王子は、それ以来ずっと、ロウのお城のご自分の部屋に閉じこもりきりだったといいます。


 このお話は、これでおしまい。
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