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二人の王子様と一人のお姫様
助勢《ホワイトナイト》
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闇の中に立っていたのはフレイア様でした。
足下に手燭が落ちていました。蝋燭の小さな炎は、まだ消えずに揺れています。その幽かな明かりがフレイア様の真っ青な顔を下から照らしていました。
フレイア様は身をすくめて震えながら、フレイ様とゲオルグ王子を見つめておられます。それがフレイ様とゲオルグ王子にも確かに見えました。
ですが、ゲオルグ王子はご自分が振り回している勢いの付いた剣先を止めることができませんでした。
切っ先がフレイ様の鼻の頭をかすめ、ゆったりとしたシャツの前側をまっすぐに引き裂いてしまいました。
はらりと切り開かれた亜麻布の下には、絹の帯に支えられた、二つの丸い丘がありました。
ゲオルグ王子は目を見開きました。
その丘が何であるのかを、一度に十四人も恋人を作るようなゲオルグ王子が知らない筈がありません。ですからそれが何を意味するのかを、ゲオルグ王子が知っているのは当然です。
一瞬言葉に詰まり、息を飲み込んで、瞬きをして、ようやっとゲオルグ王子の口から音が出ました。
「何ぃー!?」
ですが、ゲオルグ王子の耳には自分の声ではなく、自分の脳漿で鳴っている「サーっ」という血の気の引く音が聞こえています。
それと同時に別の音が別の方角から聞こえました。
それは、
「ぶつん!」
というような紐が千切れたような音です。
音はフレイア様のいらっしゃる方向の、フレイア様の背中の辺りから、続けざまに五つほど鳴りました。
次に聞こえたのは、
「ビリビリっ!」
という、布の裂ける音でした。
この音もフレイア様の方から聞こえましたが、鳴っているのは背中の方ではなくて、肩や腕や胸のあたりだったようです。
ゲオルグ王子が血の気の引いた青黒い顔を、フレイア様のほうへ向けたとき、フレイ様の口から、
「君、逃げたまえ!」
という声が出ました。
誰に言ったのかと言えば、ゲオルグ王子にです。
声に吊られて、ゲオルグ王子はフレイ様の方を観て、その驚いたお顔の、視線の先を追いかけるようにして、フレイア様の方へ向き直りました。
フレイア様の姿は、元の場所にはありませんでした。
フレイア様は、ゲオルグ王子の鼻先におられたのです。
朱鷺色のドレスの肩や腕や腰の縫い目が、中から突き破られたように裂けています。
破れたドレスの下で胴を絞めていたコルセットの結び紐が、内からの力で引き千切られています。
ビリビリの布きれになったドレスと、ブツブツに紐が切れたコルセットが、フレイア様の足下に落ちました。
そして、ドレスの中から現れたのは……。
細いけれど隆とした筋肉の付いた、厚い胸板でした。
「見ましたね? フレイ姫の肌をっ!」
「フっ、フレイ……『姫』ぇ!?」
ゲオルグ王子の膝が、その大きなお体を支えることを辞めてしまいました。王子はその場に尻餅をついたのです。
その情けなさい格好を、フレイア様は燃えるような瞳で見下ろします。
これを怒髪天を衝くというのでしょう。あるいは眦を決するというのでしょう。
ギュッと音を立てて握り締められた堅固な拳が、
「許しません!! この無礼者っっ!」
泣き叫ぶ王子様の顔面めがけて振り下ろされました。
足下に手燭が落ちていました。蝋燭の小さな炎は、まだ消えずに揺れています。その幽かな明かりがフレイア様の真っ青な顔を下から照らしていました。
フレイア様は身をすくめて震えながら、フレイ様とゲオルグ王子を見つめておられます。それがフレイ様とゲオルグ王子にも確かに見えました。
ですが、ゲオルグ王子はご自分が振り回している勢いの付いた剣先を止めることができませんでした。
切っ先がフレイ様の鼻の頭をかすめ、ゆったりとしたシャツの前側をまっすぐに引き裂いてしまいました。
はらりと切り開かれた亜麻布の下には、絹の帯に支えられた、二つの丸い丘がありました。
ゲオルグ王子は目を見開きました。
その丘が何であるのかを、一度に十四人も恋人を作るようなゲオルグ王子が知らない筈がありません。ですからそれが何を意味するのかを、ゲオルグ王子が知っているのは当然です。
一瞬言葉に詰まり、息を飲み込んで、瞬きをして、ようやっとゲオルグ王子の口から音が出ました。
「何ぃー!?」
ですが、ゲオルグ王子の耳には自分の声ではなく、自分の脳漿で鳴っている「サーっ」という血の気の引く音が聞こえています。
それと同時に別の音が別の方角から聞こえました。
それは、
「ぶつん!」
というような紐が千切れたような音です。
音はフレイア様のいらっしゃる方向の、フレイア様の背中の辺りから、続けざまに五つほど鳴りました。
次に聞こえたのは、
「ビリビリっ!」
という、布の裂ける音でした。
この音もフレイア様の方から聞こえましたが、鳴っているのは背中の方ではなくて、肩や腕や胸のあたりだったようです。
ゲオルグ王子が血の気の引いた青黒い顔を、フレイア様のほうへ向けたとき、フレイ様の口から、
「君、逃げたまえ!」
という声が出ました。
誰に言ったのかと言えば、ゲオルグ王子にです。
声に吊られて、ゲオルグ王子はフレイ様の方を観て、その驚いたお顔の、視線の先を追いかけるようにして、フレイア様の方へ向き直りました。
フレイア様の姿は、元の場所にはありませんでした。
フレイア様は、ゲオルグ王子の鼻先におられたのです。
朱鷺色のドレスの肩や腕や腰の縫い目が、中から突き破られたように裂けています。
破れたドレスの下で胴を絞めていたコルセットの結び紐が、内からの力で引き千切られています。
ビリビリの布きれになったドレスと、ブツブツに紐が切れたコルセットが、フレイア様の足下に落ちました。
そして、ドレスの中から現れたのは……。
細いけれど隆とした筋肉の付いた、厚い胸板でした。
「見ましたね? フレイ姫の肌をっ!」
「フっ、フレイ……『姫』ぇ!?」
ゲオルグ王子の膝が、その大きなお体を支えることを辞めてしまいました。王子はその場に尻餅をついたのです。
その情けなさい格好を、フレイア様は燃えるような瞳で見下ろします。
これを怒髪天を衝くというのでしょう。あるいは眦を決するというのでしょう。
ギュッと音を立てて握り締められた堅固な拳が、
「許しません!! この無礼者っっ!」
泣き叫ぶ王子様の顔面めがけて振り下ろされました。
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