子檀嶺城始末―こまゆみじょうしまつ―

神光寺かをり

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年寄りにも女衆にも

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 選ばれた連中は勇んで山を下りていった。

「我らは徳川様にお身方するものぞ。逆賊・真田を討ち滅ぼさん!」

 彼らはあらん限りの声で叫び回りながら、米・味噌、そしてついでに酒を「徴収」した。
 食い物はいくらか集まった。しかし刀や槍は中々集められなかった。
 人々は食い物よりも武器を手放すことを惜しんだ。
 世の中は物騒だ。現に、千曲川右岸川の向こう戦支度いくさじたくがされているではないか。
 その戦火が、千曲川左岸こちら側に飛んでこないとも限らない。若い者の中には立身出世の足がかりになるとばかりに、川を渡った者がいないではない。
 それに、戦という騒ぎに乗じてやってくる、 

お前等おいだれのようなはぐれ者ごったくを追い返すのには、が要るんじゃぁ!」

 そう言って年寄りたちが刀を振り上げ、槍を突き出し、かまやらなたやらくわやらを振り回す。
 やせっぽちな杉原一党は命がけの年寄り達に勝てなかった。勝てないなら、そこからは逃げ出すより他に手段はない。
 別の者は、女という「」をさらおうと挑みかかった。その愚か者は女に殴り倒された。結局そいつは何も得ないまま、やはり逃げ出した。

 こういった幾分かの不手際はあったものの、四郎兵衛の城の「蔵」には、少しばかりの兵糧の蓄えができた。ただし誰の目にも、とても長期の籠城戦をするのに十分な量には見えない。
 だが四郎兵衛は、

「これだけあれば十分だ」

 と胸を張って言った。

「良くやった。お前達おいだれは少し休んでいい」

 とも言った。
「家来」達は喜んだ。そもそも人から褒められることなど、滅多になかった連中だった。
 嬉しかった。
 嬉しすぎて、自分たちを褒めてくれた四郎兵衛が「立派な大将」に見えてきた。
 その立派な大将から命じられて、貧しい人々から食物を巻き上げてきた自分たちの行いを、武功として誇りさえした。
 そんな誇らしい仕事を命じた立派な大将が「これで十分だ」というのだから、

「備えは十分なのだ」

 と、彼らは思うことにした。

 さて、山伏・悟円坊ごえんぼうは、山頂までの道案内をするだけの約束であったのに、何故か城普請も手伝わされた。
 その作事は終わった。また「兵糧」の確保もできた。そうなれば、四郎兵衛が自分に頼むようなことはもうないものと思える。

「では、拙僧せっそうはこれにておいとまを……」

 と言い出して、急いで「城」から出ようとするその背中へ、四郎兵衛が、

「まて、クソ坊主!」

 大声で呼びかけた。

 山伏の驚きようは、大げさの一語に尽きる。体中の手足や背中の筋肉が急激に縮こまって体の中心に寄るように曲がった。飛び上がった足の裏が一寸三センチメートルばかり地べたから離れていた。
 小心な山伏の破れ鈴懸すずかけ後襟うしろえりを、四郎兵衛がひっつかみ、引き倒した。

「何をする、何をする、この罰当ばちあたり者が! 放せ放せ!」 

 悟円坊はバタバタと手足を振って暴れた。暴れたが、痩せ坊主の力では痩せ侍には叶わない。悟円坊は「城」から引きずり出され、山頂に元からあった石積みの塚の前へ連れて来られた。
 おびえた目で己を見上げた悟円坊へ、四郎兵衛は、

いくさの時には、坊主ら神職やらが必勝の祈願をするのが習わしだ。
 いいあんべぇにそこに社がある。そいつが神だか仏だか知らないが、きょうなりさいなり唱えてやれ」
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